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夜明けと、そして

“見届ける者”


アルキオは黒髪の女性モニタをそう呼んだ。


襲爵以来側に置き、本邸で共に暮らすという女性に対し、何の感情も篭められない平坦で低い声でそう呼んだのだ。


対して“見届ける者”と呼ばれたモニタも、そこに一切の感情をのせる事なく黙ってアルキオを見据えている。


「アルキオ様?」


まるで屹立して…じゃない、対立しているかのような二人の様子が心配になり、マリー・ルゥはアルキオを見上げる。

そんなマリー・ルゥにアルキオはコロッと表情を変えて微笑んだ。


「なぁにマリー?大丈夫、心配は要らないよ」


「でも……なんだか剣呑な雰囲気だわ。お二人はその……恋仲ではないの?」


マリー・ルゥがそう尋ねると、アルキオの顔からごっそりと表情が抜け落ちた。


「冗談でもそんな事を言うのはやめてくれ。我々はどちらかというと相反する者同士なんだよ……。まぁ光と影など所詮は表裏一体だけどね」


「でも一緒に暮らしてるんでしょう?それほどの仲なのでしょう?社交界では何年も前からそう言われているわ」


「そんな事を言っていると、住み込みの使用人全員と恋仲という事になるよ。それは事実無根、全くのデタラメさ。どうせ後から全員の記憶を消せばいいと放置していたら、マリーにここまでの誤解を与えるなんてね。人間って、よくわからないな」


「どういうこと?私にはあなたの方がよっぽどわからないわ」


「それは思い出して貰えば全部わかるよ。ただ言えるのは、俺はもうずっと、マリーを()()手に入れる事だけを目的に生きている」


「どういうこと?」


「もういい加減にしてくれないか」


マリー・ルゥとアルキオの会話に業を煮やしたモニタが口を挟んだ。

二人はモニタの方へと視線を向ける。

アルキオが心底鬱陶しそうに彼女に言う。


「煩いぞモニタ」


「口煩く言いたくもなるさ。私はもういい加減、貴様から解放されたいのだ。何百年も貴様の悪党面を見せ続けられてきた私の身にもなれ。一刻も早く()()()()()と思って何が悪い」


(え?何百年?)

何やらとんでもない言葉が出てきたが、わざと大袈裟な表現を用いただけなのだろうか。

それとも聞き間違いか。

モニタという人間の人柄など全く知らないマリー・ルゥには判断がつかない。

そんなマリー・ルゥの困惑を他所に、アルキオがサラっと言い返す。


「たかだかその程度の時間で文句を言うな。そして貴様にそれを命じたのは俺ではない。文句があるなら貴様の主に言え」


「やかましい。とにかく、今ここで見届けさせてもらう。先程から様子を見ていたが、もう問題はないはずだ」


「……万が一があったらどうしてくれる。マリーに()()何かあったら、俺はこの世界を破壊してしまうかもしれない」


(え?私、どうにかなってしまうの?それに()()とは?世界を破壊?何かの韻を踏んでるの?)


また不穏な単語が飛び出し、マリー・ルゥの眉間に小さな皺が寄る。

それを目敏く見つけたアルキオが自身の指をマリー・ルゥの眉間に当てて優しくグリグリした。


「マリー。可愛いね。ここに皺が出てるよ。ごめんね、わけがわからないよね」


マリー・ルゥに対してとモニタに対しての態度が違い過ぎることにも驚いてしまう。


「……じゃあ皺を刻まなくてもいいように説明してくれる?」


マリー・ルゥがそう言うとアルキオは眉尻を下げながら「ごめんねもう少し待って」と言った。


ここにきて初めて、モニタがマリー・ルゥに話しかける。


「じきに夜が明ける。其方(そなた)の状態を見届けてから、私から全て話してやろう」


モニタのその言葉にマリー・ルゥは首を傾げる。


「じきに夜明け?それまでにはまだ数時間かかるのでは?」


途中で抜け出してしまったがまだパーティーの最中である。


「問題ない。この空間の内と外では時間の流れが違うのだ。もう既に夜明け直前の時間だ」


「え?」


それは一体どういう事なのだろう。


「じゃあパーティーは?」


マリー・ルゥがそう尋ねると、それにはアルキオが答えた。


「とっくに終わったよ。ああ、他の者にはマリーの幻影を見せておいたから大丈夫。途中で居なくなった事に誰も気付いていないよ」


「幻影?」


もう何をどうつっこんでよいのかわからない。

兎にも角にもわかる事といえば……


「私、もしかして久しぶりに朝日を見れたりする?」


それだけである。


アルキオはマリー・ルゥの体を更に引き寄せた。


「もう大丈夫だとは思うけど、少しでも陽の光が痛いと思ったら言ってね?いいね?頼んだよ?」


たかだかご来光を拝もうとするだけなのに、なぜ危険な事のように注意喚起をしてくるのか。

マリー・ルゥにはやはり夫の心がわからない。


「黙れアモン。……夜が明けるぞ」


モニタがそう言うと途端に周りを取り囲んでいたはずの迷路の生け垣が消えた。

辺りは既に仄明るく、夜明けが近いことを告げている。


「とうに捨てた名で呼ぶなと言っただろう」


アルキオがそう告げた時、庭園の木々の隙間から光が差した。

それを見たアルキオの腕にぐっと力が籠る。


「……マリー……」


マリー・ルゥを懐に抱えるアルキオの声が頭上から下りてくる。

いつもとは様子が違うアルキオの声に、マリー・ルゥは思わず顔を上げた。

その瞬間、翼が羽ばたく音が聞こえた。

大きな羽ばたき音がマリー・ルゥの耳に届く。

そして視界に広がる大きな黒い翼。

勢いよく広げられた拍子に舞散った黒い羽根がはらりはらりと宙を舞う。


子どもの頃、夢の中で見たと思っていたアルキオの翼。

その黒く大きな翼がマリー・ルゥを朝日から庇うように掲げられた。


モニタが苛立ちを込めた声でそれを非難する。


「アモン、邪魔をするな。陽の光を遮っては意味がないだろう。私はきちんと見定めなばならんのだ」


「直接当たらずとも見定められる。つべこべ言うなら首を飛ばして貴様の主に届けるぞ」


二人がそう冷たく言い争いをする間にも朝日はどんどん庭園に広がっていく。

迫り来る陽の光と黒い翼が差す影。

二つの陰影を見た瞬間、マリー・ルゥの目の前で何かが弾けた。

途端に溢れ出す、様々な記憶。

流れる水の如く、次から次へと記憶の映像が目の前を通り過ぎていく。

マリー・ルゥは声も出せずに、そして瞬きもせずにそれらをただ見つめ続けた。

その様子に気付いたアルキオがマリー・ルゥを呼ぶ。


「マリー……?」


マリー・ルゥは大きな瞳を更に大きく見開いて、やがてゆっくりとアルキオを見た。


「……思い出した……私、全部思い出したわ……」







◇───────────────────◇



ましゅろうはオモタ……


TL用語を知らない人にとっては下品でなんでもないんじゃない?と……←オイ



MerryX’mas☆










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