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庭園迷路(メイズ)

まとわりつくような視線を向けていたモニタという名の黒髪の女性を追って庭園へ出たマリー・ルゥ。


「待って……待って、」


つぶやきながら必死に追いかけるも、モニタは立ち止まることなく振り返ることもなく歩き続ける。

そして庭園の中に設えられた茨の生垣の迷路の中へと消えて行った。


それに数拍遅れて、マリー・ルゥも迷路の中に足を踏み入れる。

生垣はマリー・ルゥの身長より遥かに高く、長身のアルキオでさえジャンプをしてもその高さを超えるのは不可能であろうと思えた。


至る所にランタンが掛けられてはいるが、中は仄暗く心許(こころもと)ない。

が、不思議とマリー・ルゥの視界は良好だった。


(私って夜目(やめ)が利くタイプだったかしら?もしかして昼夜逆転生活を続けて体質が変わったの?)


耳もよく聞こえるようになっている事といい、むしろ高熱を出す前より健康体になったのではないかとマリー・ルゥは思う。


だが困った。迷路の中でモニタを見失ってしまった。

彼女が道の突き当たりを右へ行ったのか左へ行ったのかもわからない。


それにパーティーが開催されている庭園とはこのように静かなものなのだろうか。

意識を集中させれば離れた位置に居る者の声もハッキリと聞こえていたのに、今は何も聞こえない。

建物からそれほど離れていないのだから、会場の喧騒がわずかでも耳に届いておかしくはないのに、さっきから怖いくらいの静寂に包まれている。

まるで、別の空間に入り込んだような……。


このまま突き進んでモニタを見つけられなかったらどうしよう。諦めて引き返した方がいいのだろうか。


(そうね。これ以上進んでも迷子になるだけだわ、戻りましょう)


そう思ったマリー・ルゥが踵を返すと、どういうわけか歩いて来たはずの道が生垣の壁で塞がっていた。


「え、なぜ?」


なぜ急に壁が?これでは引き返せない。


「まるで後戻りは許さないと言われているみたいね」


これはもう腹を括って前に進むしかない。

マリー・ルゥは観念して前へと向き直った。

そして右に行こうか左に行こうかと道を選ぶ。


「右にしましょう。なんとなくそんな気がするわ」


マリー・ルゥはそう言ってT字となっている突き当たりを右へと進んだ。

少し歩みを進めたその時、


「キャッ……!」


パニエで幾重にも膨らませたドレスの裾捌きがもたついたせいで、バランスを崩してしまう。

そのはずみで茨の生垣に手を付いてしまった。


「痛っ……」


運悪く棘の剪定がされていなかった茨の小枝に引っ掛けて、薄いレースの手袋(グローブ)が破れ、指先を切ってしまう。

小さな傷だが血が滲み、短く硬い芝の上へとポタリと落ちた。

だが、


「え?あら?」


傷は見る間に塞がって、傷跡すら残らないほどに完治した。


「たしかに怪我をして血も出ていたのに……ど、どうして?」


マリー・ルゥはそうつぶやいて足元に目を遣る。

そこにはたしかに、一滴だけ滴り落ちた血液が芝に付着していた。


その途端に、生垣がガサリと揺れる。


隙間なく生い茂る茨の隙間を縫うようにして一匹の……変な生き物が現れた。


「突然現れたから驚いたわ……あなたはだぁれ?」


ネズミのような顔つきに子ども体を持つ、初めて見る珍妙な生き物だ。

だがどこかで見覚えがあるような……。


「あ、あなたはトロール?本で読んだことがあるわ。挿絵で描かていたものに、とても容姿が似ているわ」


マリー・ルゥがそのトロールかな?と思う珍妙な生き物に尋ねるも、相手はそれに構わず一心不乱に血痕ばかりを見ている。


「チ、血ダ……高貴ナ血ノ香リガスル……オマエ、強イノカ……?」


「ま。質問に質問で返すのはよくないわ?でもあなたの質問に答えると私は強くはないわ。非力なへなちょこよ」


マリー・ルゥがそう答えると、トロールかな?と思う生き物は芝に落ちたマリー・ルゥの血の雫を凝視して言った。


「嘘ダ……コノ血ハ強イ……怖イ……デモ欲シイ……!」


そうは言うものの、トロールかな?と思う生き物はへなちょこマリー・ルゥの何をそんなに警戒するのか近付いては来ない。


だけど進みたい方向に立ち塞がったままで、マリー・ルゥもどうすることも出来ずに困ってしまう。

いっそのこと隣をするりと抜けて立ち去ってしまおうかと思ったその時、ふいに誰かに肩を抱かれて引き寄せられた。


「え?」


頬が男性の硬い胸元に当たる。

そして鼻腔を擽る香り。


よく馴染んだ……とは言えないが、マリー・ルゥはその香りの主を知っていた。


アルキオ様だわ。

と思ったマリー・ルゥの頭上から声が落ちてくる。


「下がれ。下郎」


そして次の瞬間には、トロールかな?と思われた生き物は蒸発するように姿を消した。


(ど、どこに消えたのかしら?)

と目を丸くするマリー・ルゥにアルキオが言った。


「マリー、大丈夫?かわいそうに怖かっただろう」


いいえ?どちらかというと今あなたが何をしたのかと聞く方が怖いわ?という意味を込めてアルキオを見上げる。

だけどアルキオは前方に視線を向けていた。

そして前を見据えたままで声を発する。


「勝手にマリーを連れ出すとは。おい“見届ける者”これは契約違反なのではないか?」


「?」


アルキオは誰に向けて話しているのだろう。

というか体が密着して恥ずかしいからそろそろ私のことも離して欲しい。

とマリー・ルゥがのん気に考えていると、前方から静かな声が聞こえた。


「お前が過保護に囲いすぎていつまで経っても確かめようとしないから、私が代わりに確認することにしたのだ」


生垣を通り抜けながら、あの黒髪のモニタが現れたのであった。





◇───────────────────◇




お待たせしました。

これから解答編に入ります。




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