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第4話

難産でした…。悩んでたら年を越してしまって申し訳ない。あけましておめでとうございます。

澱獣ベスティアとは、よどんだマナ溜まりと悪しき神による神呪エルカースとよばれる魔法によって生み出される、悪しき神々の眷属たる異形の魔法生物の総称である。


マナ溜まりから生まれる彼らは、体の一部に宿すマナ輝石と呼ばれる高密度のマナと、マナ輝石に刻まれた器魂刻路きこんこくろによって動いている。 このため根本的な身体構造が生物とは異なり、体もマナによって構成されている。また、体の損傷をマナ輝石に蓄えられたマナを消費して回復させることが可能だが、マナ輝石は弱点でもあり、破壊、もしくは体からの分離をすることで体は崩壊する。また澱獣ベスティアの体内にあるマナ輝石はマナを使用する度に大きさが小さくなっていくため、時間はかかるが体に大きな損傷を繰り返し与えることで、体内のマナ輝石を消滅させることも可能だ。


澱獣ベスティアは通常の獣とは異なり、個体によっては魔法を操る種も存在する。善なる神々の加護と恩寵を抱く人類種に強い殺意を持って襲いかかる天敵であるが、その知能は高くても犬程度が限界であり、他の澱獣ベスティアと連携した動きができないことから散発的に人里を襲う澱獣ベスティアに対しては、訓練された騎士による通常兵器や器魂術を利用した各個撃破が対澱獣(ベスティア)戦での定石じょうせきだった。


20年前までは(・・・・・・)


25年前、帝国北部の人類未踏領域に現れた魔王は、悪しき闇と混沌の神ラーヴィマが取り出した自らの肋骨に器魂刻路きこんこくろを刻み、神呪エルカースを流し込んで作り上げた魔王石を核として産み落とされた、史上最強最悪の澱獣ベスティアだった。


魔王の最も恐ろしかった点は、人類種と同じように食事が可能だったことだ。食事によって体内に内包するマナを増加、存在を強化させることが可能だった魔王は、自らの神呪エルカースを宿したマナと、周囲の動植物や鉱石を利用して新たな澱獣ベスティアを作り出し、膨大な数の澱獣によって魔王の軍勢を作り上げたのだった。


魔王によって生み出された澱獣ベスティア達は魔王のように捕食が可能であり、他の澱獣ベスティアを喰らうことによって急速に進化を遂げた。


魔王はこの世に顕現してからたった5年で人類未踏領域に澱獣ベスティアによって支配された魔王の土地を作り上げ、人類種に対する宣戦布告を行った。


生み出された澱獣ベスティアたちは魔王の忠実なる下僕しもべであり、共食いによって知能の上がった魔王のあらゆる命令に従った。


基本的に人類種は単独行動が基本の澱獣ベスティアに対して数的有利を取ることで対抗していたが、魔王によってまとめ上げられた魔王軍とも呼ぶべき異形の軍隊には通用せず、瞬く間に小国や砦が滅ぼされ、人類種すら澱獣ベスティアに喰らわれ、マナの糧にされてしまう光景に世界中が恐怖した。


魔王によってもたらされた破壊と混沌に対抗するため、善なる神々は人類種に恩寵を授けた。思慮深き水と知識の神オルカルディナは、悪しき軍勢に対抗するための戦術と魔法を。


勇ましきいかづちと戦の神レシェガルは強力な加護と立ち向かう勇気を。


熱き炎と鍛治の神ロヤキンドゥスは霊装と呼ばれる武具と、澱獣ベスティアの素材を利用した冶金技術を。


風と恋と狩猟の女神シナトヒクは戦場の風向きを変えて矢を飛ばし、また言の葉を飛ばして情報を伝えた。


そして慈悲深き豊穣母神ほうじょうぼしんルーテイシアは実りに祝福を与え、人々の食事によって吸収されるマナを増やした。


神々を味方につけた人類種からは、強力な器魂術きこんじゅつと霊装を操り、たった一人で戦況を変えうる英雄たちが生まれた。


水を操る器魂術きこんじゅつ神杖しんじょうアナハトを用い、千の澱獣ベスティアの大群を押し流した、知識神オルカルディナの加護あつき常人種の『賢者』。


衝撃と破壊の器魂術きこんじゅつ紫灼拳ししゃくけんペルクナスによって一切合切いっさいがっさいを破壊した、雷神レシェガルの恩寵を授かった獅子獣人レオケッティア、『拳王』。


世にも珍しい治療の器魂術きこんじゅつを極め、霊盾れいじゅんヒルドルを授けられ、15倍の兵力差で襲い来る魔王軍から砦を守り抜いた、豊穣母神ルーテイシアに祝福を受けてかの女神の娘と称された『聖女』。


遠目と演算の器魂術きこんじゅつを用い、銀熾弓ぎんしきゅうハイネンと狩猟神シナトヒクの加護たる風の権能であらゆる澱獣ベスティアの目に矢を突き立てた、笹耳族エルフの『狩人』。


鍛治神ロヤキンドゥスによって齎された澱獣の素材を利用した冶金技術と、洞人ドワーフの技術の粋を結集させて作り上げた人造霊装、魔劫戦斧まこうせんぷ払暁ふつぎょうたてを使い、澱獣ベスティアの中でも強力な個体、大型深澱獣ナラク・ベスティアを単騎で足止めし、ついには倒した洞人ドワーフの『聖騎士』


数多くの英雄と領主、騎士たちが魔王の軍勢と戦い、多くの犠牲を払いつつ、ついに魔王の喉元に正義の剣が突き立てられ、魔王は滅びた。魔王の生み出した強力な澱獣ベスティアたちも、統率を失っては烏合の衆に他ならず、時間をかけて数を減らしていった。


しかし、後に神魔大戦と呼ばれるこの戦争によって神々は善悪を問わずに力を大きく失い、強力な加護や恩寵を受けた神々の信徒が新たに生まれることも少なくなった。


戦争で失われたものは多かったが、残ったものもあった。戦争の爪痕はもちろんだが、数多あまたの英雄が使った霊装の数々は、英雄の死後に信ずる神々の教会、その総本山に収められた。また豊穣母神ルーテイシアの土地の実りとマナの祝福は消えず、豊富なマナを宿した土壌から取れる作物は、戦争で大きく数を減らした人類種を復興させる足がかりとなった。


もはや英雄たちの輝きは、遠く英雄譚の中でのみ語られて久しい。


そして、20年前の悪夢が今、かつての魔王との戦いの最前線で起ころうとしていた。


「……閣下、私が出ましょう。魔王無き澱獣ベスティアの軍勢など、」


歴代最強の酒神ソーマ、ロゥグンは、緋の眼を白い猫獣人ケットシーに向け、言い放った。


「その全てを滅ぼしてご覧にいれましょう。」

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