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マスター不適合者  作者: やmだ
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二章 【ギルドマスターの憂鬱】 一

アルシス帝国の首都、ランドマスは帝国領の最南端にある。世界地図で見ても南方に位置する帝国領の中でも最も南の位置。そこが通称、帝都と呼ばれる人間種で最も巨大な都市だった。

 帝都は巨大な水源から流れる水路が流れる水の都とも呼ばれる都市で、中央には皇帝が住む宮廷があり、広大な城下町は東西南北に区画分けがされている。その内、南地区には闘技場と呼ばれる場所があり、闘士らが常にその力を競い合っている。その他の東、西、北はそれぞれが御三家と呼ばれる冒険者ギルドの拠点が存在し、まるで縄張りのような図式が出来上がっている。実際にそこまでの敵対関係ではなく、協力関係にあるが各ギルドは商売敵とは言える関係性だった。

 ギルド【オーディン】は東区画に拠点を構えている。歩く者は皆裕福そうで辺境であるシャクティスなどと比べては失礼だが、その生活レベルの高さが窺える。実際に自領ではなく冒険者による防衛能力を見込んでここへ住居を持つ貴族もいるくらいだ。

 そんな中をアーサーは一般人に紛れて歩く。別に変装とかをしている訳ではなく普通に出回っている服を着て、普通に歩いているだけだがアーサーの平凡な容姿では目立たないのも当然だ。

 数十年ぶりにやってきた帝都はアーサーの知る場所とあまり変わってなかった。当時より人の数が多いくらいか。人の顔は明るく、祭りでもないのにはしゃいでいるように見えた。

 ギルドマスターになるにあたって、これまでのような見窄らしいものではいけないと思い、アーサーは数年ぶりに散髪し髭も整えていた。

 服装は当初サリアから貴族のような豪勢なものを幾つか渡されたのだが、流石に似合わないとそこらの露店で売っているもので済ませた。結果、アーサーは普通かそれ以下の帝国民のような容姿になっている。

(まあ、元々容姿が優れてる訳でもないしこんなもんか)

 というのが鏡で全身を確認したアーサーの感想だった。しかし老けたというのは感じる。

 アーサーは東地区を一通り見て回ってからギルドの拠点へと帰還する。

 そこは見上げるほどの巨大な建造物で看板には大きくその名前とかの神様の像が鎮座している。これほどに目立つ存在も早々ないがここへ入るのがアーサーは毎回億劫だった。裏口とかないのかと数百回は思った。

 大きな金属製かつ両開き、如何にも重厚そうな扉を開いてアーサーはギルド【オーディン】の拠点へ帰還した。

 拠点の内部は一階が巨大な広間で幾つかの休憩スペースがある。ここは酒場も併設されており、端にはそれらを提供する者の姿がある。扉を開いて中央には巨大な木製の板——クエストボードと呼ばれる依頼書を貼り付ける掲示板——があり、さらに奥には報酬の受け渡しや手続きをする受付が存在した。

 流石は大手ギルドというべきか、拠点内部には多くの冒険者の姿があり、アーサーが入るなりその視線が一気に彼へ集中した。しかしそれが歓迎や尊敬ではなく、敵意——余所者に対するものだとアーサーでも分かる。だがアーサーは別にそれはそれほど嫌ではなかった。

(これが普通の反応だよなぁ)

 むしろ落ち着く。生命は未知のものに対し警戒心を抱くものだ。シャクティスの村人ともきっと最後まで打ち解けることはできなかった。それはアーサーが余所者だからだ。

 ギルドマスターの突然の交代。こういう反応は普通であり当然だった。刺さる視線が当然なものだとアーサーという変人はむしろ落ち着いていた。しかしいつまでも立ち止まっているわけにもいかないので二階にある執務室を目指す。

 この拠点の二階部分はそれなりの身分ある人間しか立ち入りを許されない聖域とも呼べる場所だ。マスターが使用する執務室を始め、応接室、会議室などがあり重要な書類などもあるために通常の冒険者は入ることすらもできない。

 二階へ続く階段を登っていくまでその視線は鋭く刺さったままだった。気にすることなくアーサーは執務室の扉を開ける。

 やたらと豪華な装飾の施された扉を潜ると同じように絨毯を引かれた貴族が暮らすような一室がアーサーの視界に入る。広さはそこまでだが執務室ということを考えれば異常な豪華さだろう。自分の手に余る財産を投じて作られた空間に、アーサーはいつも他人の家にいるような居心地の悪さで豪華な椅子に腰掛けるのだ。

「よっこらせ」

 椅子に座って心地良いと思うのはアーサーの人生で始めだった。安物とは思えない生地は程よく反発し、アーサーの臀部を包み込んで背もたれも同じ材質であらゆる負荷を軽減してくれそうな気さえする。実際に長時間の執務を行うならば通常の木製の椅子を使った場合と比較して、集中できる時間には天と地の差が生まれるだろう。ただしアーサーにはあまり関係ない。

 なぜなら執務室でアーサーが執務をしたことなどない。彼は基本的にここにいるだけの存在。置物状態だった。

 ギルドマスターになってから一週間が経過した。アーサーの仕事といえばこのギルドへ持ち込まれた依頼のチェック程度だ。それもほとんどがギルドリーダーであるサリアが精査した上でやってくるので、アーサーは微妙な顔をしながらそれに判子を押すだけの存在に成り果てていた。

 どうやらギルドマスターの仕事はこんなものらしい。マスターはギルドの方針などを決めたり、重要な依頼の派遣を決定したりと、ここ一番の決定を下すのが仕事であり、基本的には何もしないというのがサリアの説明だった。それが正しいことなのか間違っているのかは、組織運営をしたことのないアーサーにはサッパリだった。

「さて」

 アーサーは机の引き出しから無数の書類を取り出し、それに目を通す。これは彼の仕事に直接的に関与しないが重要なことだ。

 書類に書かれているのはギルド内のメンバーのリスト。プロフィールである。人数、特技、ジョブ、どんなチームに所属しているのか、これまでの経歴、そういったことをまとめたもので、今後必要になるだろうとアーサーは暇な時間があればこれに目を通し、メンバーの情報を入手し頭に入れていた。

 意外かもしれないがアーサー・クラウズという男は仕事熱心なのだ。これはギルドマスターになったからではなく、元からやると言ったからにはやり通すというのがアーサーの主義、というよりかは性分だった。

 恩人であるリーシュの頼みなのでアーサーは一切の手を抜かない——抜けない。コツコツ自分にできることをするというのは嫌いではないのだ。

 現在オーディンに所属する冒険者の総数は九十六名。これは帝国内のギルドでは最高の数だ。

 冒険者はその実力に応じて等級が与えられ、それによってプレートの材質と色が変わる。プレートを見れば一目瞭然なのだ。下から銅、銀、金、白金、虹と分けられておりオーディンの冒険者は銅等級四十二名、銀等級二十四名、金等級十四名、白金等級九名、虹七名が所属している。

 元の数が多いだけに銅や銀の人間が多いがその分、上級者と言える金以上の冒険者も十分におり、特に最高位の虹が七名も所属するのはこのオーディンだけだろう。巷では老衰したギルドなど言われているらしいがアーサーはそんな感想を抱かなった。

(せめてもう少し小規模ならなんとかなる気がするが。俺がこんな大規模な組織を運営できるイメージが一ミリたりも沸かない)

 アーサーの抱える問題はまず二つある。問題というならば無数にある、だがそれはアーサーの上に立つ存在としての圧倒的な能力不足によるものなので数えないとする。

 まずは一つ、それは信頼関係だ。

 余所から来たギルドマスター。その不信感をアーサーは当然として受け入れているがずっと不信感を抱えたままでは組織としていつか瓦解するだろう。それは避けねばならない。

(人ってどうやって仲良くなるんだっけ?)

 そんな人間として一度は考えるようなことをアーサーは数十年ぶりに考えた。

 これまでアーサーは自分と馬が合う人間とだけと交友関係を築いてきた。その選択を間違いとは思わないが、上に立つ者としてこれからはそうはいかない。性別、性格、主義主張、信仰、生まれや種族などそれぞれ違う者をまとめ上げなければ組織とは言えないだろう。

 こんなことならば組織運営のイロハをリーシュから聞いておくべきだと後悔するアーサーだった。しかしあの老人はそんなことをいちいち決めているタイプではない。恐らくは組織が肥大化し過ぎて管理できなくなってきたことを機に、自分にそれらを押し付けたのだろうとアーサーは不遜な推測をする。

(問題はもう一つの方か)

 もう一つの問題は【オーディン】にある一つの掟が原因だ。

 一般的には知られてないがこのギルドに入団するには一つの条件があった。このギルドにはサリアのようなハーフエルフなど通常の人間種以外しか入ることはできないのだ。

 リーシュがこのギルドを立ち上げた理由として彼は迫害などをされる傾向にある異種族を保護し教育していたことが始まりだった。それらの迫害は今となっては減少したが当時は大きな問題だった。リーシュはそれら異種族、亜人種の力を保護し人間種との対立を防ぐた目にオーディンを設立した。過去は通常の人間も居たが、現在は全員が純粋な人間とは言えない者ばかりだ。リーシュが今更ながらにギルドマスターに指名したのもそれが原因だろうとアーサーは予測している。

 アーサーも今では純粋な人間とは言えない。とはいえ価値観は人間そのものだ。

(みんなサリアのようにチョロ……素直に俺に従ってくれればいいんだけどな。いや、あれはやり過ぎだな。もっと普通に接する……のは無理か)

 サリアのアーサーに対する態度は信頼なんて生ぬるいものではなく心酔に近い。強者はそれだけ認められるものだが、何が彼女をそこまで認めさせたのかはアーサー自身理解していない。ギルドマスターらしい振る舞いなんてあの樹海でやった記憶はない。

(俺自身が前線に出れば力で納得させることは可能だろう。しかしそれはギルドマスタ―のあるべき姿ではない気がする。指揮官に必要なのは純粋な力ではなく、やはり組織を導く知性だろう)

 過去のアーサーならば力で色んなことを解決しただろうが今回はそうはいかない。

(どちらにせよ槍の使用許可は早々降りないし。さっきの案は無しだ)

 アーサーの持つ魔槍グングニルには皇帝による使用許可が降りなければその顕現すら許されない禁忌の武器。樹海の有り様を見れば分かるようにそうポンポン使っていい代物ではない。アーサーの槍はもうしばらく使う機会は訪れないだろう。

「なんか良い方法ねえかな〜」

 言いながらアーサーは目の前の問題から目を逸らすように煙草に火をつけた。


 ・


 アーサー・クラウズのギルドマスター就任から数日前の出来事。

 ギルド【オーディン】における定例会議はマスターを除いた虹等級の冒険者七名によって開かれる。本来ならばマスターも参加するのだが前マスターのリーシュは自由度、自主性を優先させ自らを除外した。結果としてこの会議は最高位の冒険者らによって情報共有や方針の確認などを行う場であり、場合によってギルドマスターよりも優先的な決定権を持っている。

 拠点二階部分、会議室には既にギルドの中だけでなく帝国全体から見ても一線を画す能力を有する者たちが集っていた。

 縦長のテーブルに置かれた席は六つ。そのうち三つは埋まっていた。今回一人は依頼の都合上で参加できず、残った六名での会議となる。残るはギルドリーダーであるサリアを待つだけになっていた。誰もが首から虹色に輝くオリハルコンと呼ばれる材質でできたプレートを下げている。

 威圧感に満たされたこの空間は常人が入ればそれだけで嘔吐しそうだ。サリアはそこを平然と扉を開けて入っていき、一番奥にある自身の席へ腰掛けた。

「すみません。遅れました」

 その謝罪に対し、この空間で最も目立つ純白の鎧に身を包んだ男アンドレア・ガイズは「気にする必要はない」と淡々とした口調で告げた。

 新たなマスターを迎えることで、色々とサリアが忙しくしているのは誰もが知るところであり、彼女の遅刻を責めることはしない。しかしただ一人だけが苛立ちの中で沈黙をしていた。赤い短髪に耳にピアスをしており、仏頂面のせいかその印象は悪く見える。これでも優秀かつ誠実な騎士なのだが、現在は虫の居所が悪いらしく非常に柄が悪い。

「さっさと始めろ」

 ラウ・マグスは不機嫌そうに口にする。サリアはその態度の意味を知りながらも表情を変えずに進行する。

「では定例会議を始めましょう」

 今回の議題は「二代目マスターについて」であり、その方針をギルド内の声を集め、これからのギルド活動を円滑にするためのものだ。

 支持率を今更気にする必要はないが、新たなマスターへ不信感はいずれ問題になる。その為にギルドの代表たるここにいるメンバーが積極的にマスターの行動を全体に宣伝する必要があった。

「まずはギルド内の調査はどうですか?」

 サリアが視線を向けた先には金髪を靡かせる好青年アルバート・フェレンシアがおり、彼は指名されたことに気がつくと「はい」とこれまた爽やかな声で返事をした。

「予想された通り、新マスターに関しては否定的な意見が多かったです。前任があのリーシュ様でしたので仕方ありませんし、いきなり現れたマスターに対しては妥当なところでしょう」

「しかし同時にリーシュ殿が指名したということだ。それなりの人物であることは確かなのだろう」

 フォローを入れたのは鎧の男アンドレア。武人のような硬い口ぶりだが彼は新マスターの受け入れに対し全面的に肯定派だった。

「どうだか。あんなおっさんがまともに組織を運営できるとは思わんな俺は」

 ラウは悪態を吐く。それはまさに新マスターへの態度であり反対派代表のような彼は就任が決まった今でもそれを認めていない。故にこのように半ば不貞腐れている。それを糾弾するようにアンドレアは「口を慎め」と注意をするが、それすらもラウは無視する。

「気にすることはありませんアンドレア卿。マスターと行動を共にすれば皆、いずれは認めざるを得ないでしょう。私はそこを心配してはいません」

 サリアの言葉には力があった。その目で裁定役を買って出た反対派筆頭であった彼女が帰るなり賛成したことから十分な説得力だったのだ。

「洗脳でもされてるのか?」

「さーちゃんを洗脳できるなら、それはそれで凄まじいと私は思うけどー?」

 ラウの意見に釘を刺したのはこんな場でも酒樽を片手に飲酒に励む女性。名をルミナ・ネイン。上半身が下着だけのように露出させている彼女は酔っ払っていても正常な会話ができた。そんな酔っ払いに正論を突きつけられればラウも黙るのは当然だ。

「全くだ」

「ですね」

 同意するのはアンドレアとアルバートの二名。

 現在この場にいる七名のうちサリアが賛成派に加わったおかげで、ラウ一人を除いて反対勢力は消えようとしていた。つまり彼が心変わりすればギルド内に蔓延する不信感などは時間と共に薄れていく。強者の言葉は誰もが納得するに値するものだ。それが虹の冒険者ともなれば。

「それで、どうだったんです? かの御仁の力は」

 アルバートが興味津々と言ったように尋ねた。彼らはサリアがアーサーという男を試し、それに応えたというかなりあやふやな情報しか得ておらず、それ以外の詳細なこと知らなかった。故にここにいる誰もがその報告を待ち望んで参加している。

 サリアは一息吐くとあの場で起こった全ての事象を丁寧に説明をした。


「バカな! それは貴様の妄想だろグラスナー!」

 最初に声を上げたのはやはりラウだった。ミズガルズオルムの特殊個体という話から徐々に額に汗を流した皆はそれを圧倒し、無傷でアーサーが勝利したという辺りで戦慄していた。

「推定レベル九十越えの化け物相手に勝利などできるわけないだろ!」

「全て事実だ。ならば樹海を見に行けばいい。まだ戦闘の痕跡が残っている」

「出鱈目……だ」

 ラウは反論の為にいつの間にか立ち上がっており、サリアの反論によりようやく席へ腰掛けた。

「しかし」

「ああ、情報を整理するだけでも二つの聖遺物所有。レベル九十越えの化け物の討伐。さらに限定解除まで可能とは……まるで神話だ」

 それらの情報に賛成派であるアルバートとアンドレアですらも言葉を失った。

「さらには樹海内で丸腰でも探索可能で潜伏させた斥候にも気が付かれていたご様子だ。我々の思惑など既に看破され、その遊戯にマスターは付き合ってくれたようだ。本当に計り知れないお方だ」

「それは本当なのですか? 彼女が看破されるなど、ここにいる者でも不可能ですよ?」

 樹海に斥候として潜入した者の中には白金等級のアイリス・マクガーデンという者がいた。彼女はオーディンでも指折りの実力者であり、その中でも潜伏と気配遮断のスキルはピカイチだ。索敵能力を全振りしても気配を少し感じる程度だと評される彼女を、一切のスキルもなしに見抜くなど常軌を逸している。

「他でもないアイリス本人が言っていた。間違いなく目があって笑みを浮かべたと」

「ただの偶然では?」

「それが一度ならば私もそう思うのだがな。曰く目で完全にその動きを追っていたそうだ」

 サリアが代弁する事実に皆は黙る。その空気を破壊したのは唯一素面でないルミナだった。彼女は「はーい」と甘ったるい声を出して挙手をするとサリアはその空気に流されることなくルミナを指名した。

「でもなんでそんな強い人が今まで隠れてたの〜?」

「そうです。事前に調べても一切情報がなかったんですよね?」

 アルバートの問いはもっともだがそれに関しては一つの明確な答えがあった。それに答えたのはこれまで黙っていた小柄な女性、ユニ・ファウストだった。

「情報が逆に少なすぎる。消されたみたいに」

「私も半信半疑だったが間違いないだろう」

 サリアの言葉にラウは「まさか」と呟く。そして再び立ち上がると「あり得ん!」と声を荒げさせた。しかしその根底にあるのは一種の恐れに近い感情だった。誰もがその答えを頭の中で想起したのだ。

「黙りなさいラウ。ここから話す内容は決して他言することは許されません。良いですね?」

 その前置きをしてサリアは淡々と続けた。

「恐らくマスターは領域外冒険者です」

 領域外——その名の通り人類の範疇を越える存在。冒険者で言えば虹のさらに上に属する能力を備えた者だ。

 帝国の歴史において何名かいるとされる生きる伝説。その者は存在を歴史から抹消されるため、その名前も人数も能力も、全てがベールに包まれたままの謎の存在。しかしながら帝国の危機的状況には必ず参陣し、その圧倒的な力を振るうとされる。帝国の人間は眉唾として受け入れているが誰もがその名を知っている。

 アーサー・クラウズの経歴は完全に消滅している。各地の村で旅を続けているとされるがほとんど足取りが掴めない。あまりにも謎が多い。

「これはあくまでも私の想像で推測の域を出ません。しかしそうでなければマスターの能力と経歴に説明がつかないのも確かです。なのでこの件は皆の心に留めておいてください。もちろん他言無用です」

 サリアはこの場にいる人間の顔をしっかりと見る。アーサーを認めさせるためとはいえ、その眼力はこれまで誰もが見たことがない程の熱量を帯びていた。

「まだ新マスター。アーサー・クラウズを認められないですか?」

 全員に投げかけたれた言葉。

「異論はない。あるはずもない」

「ですね。あなたが念を押すなら間違いない。素晴らしいマスターを得たことを喜びましょう」

「私は元から賛成だからね。異論なーし」

「種族的もセーフだし。異論なし」

 アンドレア、アルバート、ルミナ、ユニの順に肯定の言葉が聞こえるがただ一人。ラウだけは沈黙を貫く。そして彼は小さく「認めない」と呟いた。

 ラウは立ち上がるとサリアを睨む。それは一種の決意だった。

「俺がこの目で直接、アーサー・クラウズを見定める」

 真っ向から言い放ったラウに対しサリアは笑う。

「良いでしょう。あなたも直接目にすれば理解できます。マスターの偉大さを」

「上等だ」

 ラウは認めない。認めるわけにはいかない。自分が納得するまで抵抗を続ける。

(次期マスターになるのは俺だ)


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