四章 【軍神馬は大蛇を下す】 一
アドワ・ゲドラフ伯爵。彼はアガルガ樹海における生体調査の第一人者であり、特に樹海でしか発生しない幻の生物であるミズガルズオルムの研究を行っていた。
ミズガルズオルムは普通のモンスターと違い交配などをして生まれるわけではない。樹海深部ミッドガルという湖。その水源を中心にする樹海は一つの生命体と言える存在だった。樹海にあるあらゆる生命は動物や樹木に至るまで微弱な魔力を帯びている。それだけで強力な個体になるということはない。
しかしながら樹海の生命体は一つの本能を持つ。それは共食いだ。樹海に生息する生命体は同じ魔力を持つ存在を取り込まないと死亡する。逆に取り込めば取り込むほどに魔力は増大する。やがてそれは巨大な木となり、樹海を形成する存在となる。樹木は死亡した生命が持つ魔力が土壌に流れ込んで常に魔力の取り合いを続けている。
本来ならばこの樹木が吸収する魔力のバランスは崩れない。しかし動物が同じ場所などで集団で死亡したりして魔力量のバランスが崩れると一本の木に魔力が集中。増大した魔力はやがて周囲の木々の魔力すら奪い尽くして一つの木の実をつけ、そして枯れるのだ。
その実から生み出される生命体こそが樹海蛇——ミズガルズオルムの正体だ。
ミズガルズオルムの持つ共食いの習性も樹海内で生み出される生物の本能に従ってのことだ。
アドワはこの研究からミズガルズオルムを樹海の魔力バランスを乱して人工的に生み出す実験を行い。十年という歳月を経て成功させた。
アドワという人間がなぜこんなことに月日を費やしのか。それは野望のためだ。
ゲドラフ伯爵として皇帝に協力的な顔をしておきながら実際にはその権力を欲していた。だがアドワの求めるものは皇帝などという危険な立場ではなくその側近、皇帝に最も近い元老という地位を得ることだった。
元老になり皇帝という一番の立場ではなく、二番手に甘んじながらも実質的に帝国の支配権を得る。裏で操る存在となることがアドワの主たる目的だった。
そのためには現在の元老である幾つかの貴族が邪魔だ。アドワは秘密裏に闇ギルド【ヨトゥン】を私兵とし、ミズガルズオルムの量産と支配下に置く実験をさらに五年かけて実用化させた。
さらには切り札となる存在。ミズガルズオルムの特殊個体であるヨルムンガンドをその手中に収めたアドワは五十という年齢で帝国を切り崩しにかかる態勢を完全に整えたのだ。
アドワは闇ギルドのリーダーであるペッシェをして天才と称される存在であり、確かに頭脳や交渉術、知謀は計り知れないものがあった。
全てがアドワの思い通りに進んでいく。そしてこれからもそうなると彼は信じて疑うことはなかった。
しかしアドワは現在、宮廷の地下深くにある牢獄へと幽閉されている。
「バカな」
アドワは苛立ちを顕にして吐き捨てる。
暗くて冷たいこの場所は地下水路が近いせいか酷い匂いだった。しかしそんなことにも慣れた鼻は馬鹿になり、今後どんな高級料理を食べてもドブの味しかしないかもと思わせるほどだった。
特に潔癖症の気があるアドワにとって牢獄での生活は地獄だと言える。
彼がなぜこんな状況に追い込まれたのか。話は一ヶ月ほど前に遡る。
ミズガルズオルムの量産よる軍隊よりも究極なな個であるヨルムンガンドを生み出す計画。その判断に間違いはなかった。
上位に位置するモンスターを使役することに特化したテイマーのジョブを持つ人間が十名集まってかろうじて二つの命令を言い聞かせることのできる怪物の中の怪物。ヨルムンガンドは帝国内において最強だと言えた。
事前に収集した情報を加味してもヨルムンガンドを倒せる者など存在しない。流石に御三家のギルド、その全ての虹の冒険者が連合を組めば怪しいところではあったがそんな事態にはしないという自信がアドワにはあった。
樹海内に潜ませておいたヨルムンガンドは転移の魔法によって帝国中に即座に召喚可能で戦力として完成した。
その存在を最初に嗅ぎつけたのはギルド【オーディン】だった。そこは褒めるべきなのだろうが愚かなことに奴らが掴んだのは偽装の情報。ミズガルズオルムの発生の方だった。
ギルドマスターのリーシュ・マグスとギルドリーダーのサリア・グラスナー二人のみでシャクティス領へ向かったことをアドワは笑ったものだ。
結果。ヨルムンガンドは暴走し滅ぼされた。
樹海に潜ませた斥候とテイマーの遺体からヨトゥンは摘発。そこからアドワとの関係性が発覚し瞬く間にアドワは牢へぶちまれた。
アドワが最も理解できないのはヨルムンガンドが二人だけで滅ぼされたという事実だ。
確かにサリア・グラスナーは聖遺物の所有者。虹の冒険者に相応しい実力を持った者だがそれでもヨルムンガンドはそれを凌駕していた。アドワの推定では虹の冒険者十名以上の戦力がたった二人で滅ぼされるはずもない。
だとすればアドワは人工的に生み出されたミズガルズオルムには何かしらの欠点があるのかもしれないと予測するも、それを実際に試して解決に導くことはもはや不可能だろう。
今のアドワには帝国での居場所などない。しかし彼は諦めてはいない。今はただその時を持だけだ。
既に手は打ってある。想定外であることは間違いないが最悪の場合を見越して策は用意していたのだ。
アドワは自らが牢に入ることすらも計算に入れていた。
「ようやくお出ましですか」
鉄格子の向こう側に二人の男が並ぶ。風貌から帝国の兵士ではなく、牢獄の監視でもない。それを確信したからこそアドワはそんなセリフを吐いた。
「お待たせしました伯爵」
「いえ、お気になさらず」
男らは闇ギルド【ヨトゥン】でも選りすぐりの強者。戦士ブラウと暗殺者ニグル。二人がここに来たということは脱出の目処は立ったということだろう。
ブラウは手に持ったロングソードで鉄格子を切断する。見事な腕前で同時にアドワを縛っていた鋼鉄の手錠を切断してみせた。これでようやくアドワは自由の身——というわけではないが一応は不自由から解放されたようだ。
「経路は把握してますね?」
「ええ、少し不衛生で伯爵にはしんどいかもしれませんが」
「今更ですよ」
先頭をニグル。その後をアドワとブラウが進む。簡易的な陣形であるが実力的には申し分ない。
この地下牢獄は地下水路と繋がっている。実際に繋がっている訳ではないが同じ高さにあることから壁一つ破壊すれば水路に出る場合もある。アドワはこんな場合を想定し、水路から帝都の外へ繋がる脱出経路を確保していた。
壁一つ破壊と簡単に言うがそれもアドワの計算により崩落しないように、尚且つ目立たないように行われている。
帝都は鉄壁の守りを誇る。文字通りネズミ一匹だろうと障壁に阻まれ、魔法はもちろん、帝都内への転移すら不可能だ。しかしながら帝都への侵入は困難であれど帝都からの脱出となるとその難易度は激減する。
なぜなら帝都を覆う魔法障壁は内側から外へ出る場合には発動しないためだ。その障害は八割が消えたと言っても過言ではなく、水路は衛生観念さえ抜きにすれば安全な経路と言えるだろう。
わざわざ地下水路にも警備を配置していることはない。だからこそこの脱出経路は時間の勝負であり、追跡者さえ振り切れば勝ちだと言える。
ブラウとニグルの侵入からかなり時間が経過している。追っ手がやってくるのも時間の問題だろう。無駄な会話をアドワは好まず、先行するニグルへ続く。
これまで感じていた異臭よりも遥かに強い激臭が鼻を突く。アドワは顔を歪めながらも暗闇へ足を運ぶ。
ニグルは暗視というスキルでどんな暗闇だろうと昼間と同じくらいの視野を確保できる。アドワは手渡されたランプによりなんとか真っ直ぐ歩くことができる。
その歩みは警戒しながらも警備がないので早い。水路はあらゆる壁などを貫通していくので地上を進むよりも遥かに早い速度で帝都外へ出れる。
しかし想定外のことが起こった。
「っ!? 伯爵」
ニグルは足を止め、さらにアドワへランプの光を消すように手話をする。アドワはゆっくりとその明かりを消すと三人は近くへ寄る。
「複数の人間がこちらに向かって走ってきます」
ニグルの探知能力からそれらが理解できた。ここは地下水路であり足音はかなり響く。ニグルの探知範囲からしてかなりの距離だと推測できる。
「何が起こっている」
この水路は基本的に解放されてない。出入り口は厳重に施錠され一般人が侵入できるような場所ではない。つまり普通の人間ではない。そしてタイミング的に
「追手か」
それしか考えられない。しかしそれでも疑問は幾つか残る。最初に浮かぶ疑問はその速度だ。あまりにも早い。
(まさか私の脱走が想定されていたのか)
皇帝は油断ならない相手。その能力はアドワも認めており、奴らならばこれくらいの策を張り巡らせることができるだろう。
深く考える時間を相手は与えてくれない。アドワの耳にも奥から足音が聞こえた。バタバタと慌ただしくこちらへ向かってくる。
間違いない追手だ。それをアドワは確信した。トンと暗闇の中で掴んだニグルの肩を叩く。
先手を取る必要がある。楽観的にも思えるかもしれない、だがこちらの姿は確認されていないとアドワは考える。
アドワの手からニグルの肩を持った感覚がスッと消えた。足音もなくニグルは先行したようだ。
複数人の悲鳴が水路中に響き渡った。
ニグルはノープレートであれ、その実力は冒険者にして金等級に匹敵する。潜伏能力と暗殺技術は突出して高く。ブラウは単純な戦闘能力だけならニグルよりも高い。二人にはアドワが多く高価な装備、アイテムを提供したことで白金等級であろうとも相手取れるはずだ。
アドワにはその姿は見えない。わずかにカキンと金属同士がぶつかる音が鳴るがそれもすぐに静まる。今回はニグルだけで十分なのだろう。背後から感じる濃密な気配が消えてないことからブラウは護衛を継続している。
「終わったようですな」
流石に早いなとアドワは心の中でニグルを褒めた。
アドワが安全を確保したことで再びランプに火を灯す。ようやく明かりを確保し、背後に注意を払い、歩みを進めた。
しばらく歩いた先に四つほど光るものが転がっていた。それはアドワの持つランプと同種のものだろう。そしてその場には八人の冒険者らしき風貌の男女が倒れている。ニグルはその中で浮き出た影のように立っていた。
「冒険者か」
「そのようです」
アドワは追手の姿を確認する。プレートを下げている、等級はバラバラだが最高でも金が一人程度。依頼を受けた冒険者という線が濃厚だが、しかしその依頼者はアドワでも推測は難しい。
「殺したのか?」
「いえ、麻痺させているだけです。情報を引き出すか、場合によっては人質にできるとも思いまして」
「しかし、なぜこんなにも早く追手が?」
「それは考えても仕方ないだろう」
追手がこれだけとも考えられない。アドワはこの冒険者らの正体よりも脱出を優先する。
「ですね。今は脱出を優先。さっさと処分しましょう」
アドワは蟻を踏み潰すかのような感覚で言った。その瞳には転がる冒険者の命など映っておらず、同時にそれを人としても見てなかった。自らの敵は排除する。アドワには戦闘経験などほとんどないが人殺しに対し今更なんの感情も湧きはしない。
「どうしました?」
ニグルの視線が水路の先——脱出経路を向いた。その表情は若干の焦り、そして新たな敵の登場を予感させた。
「新手か」
「そのようですね」
アドワがそれに釣られるようにそちらを見る。ランプとは違う小さな灯火——魔法石による小さな炎はゆらゆらと奇妙に揺れる。足音は一定の感覚で迫ってくる。ここらで転がる者よりも強者と考えるべきだろう。
「こいつらの指揮官?」
ブラウの推測は妥当だ。アドワもそれには賛成だがそれも後だ。これ以上の足止めは挟撃の危険性を高める。
「やはり情報は漏れてますね」
「とにかくこいつを殺しましょう。時間がありません」
「そうですね」
ニグルとブラウは視線を交差させる。そして二人は武器を構え、目の前の存在を見据える。
こちらの姿を捉え警戒したのか、唯一あちらの姿を確認できた火がフッと消える。アドワの足元には冒険者の所持していたランプが転がっており、先ほどのように暗闇に身を隠すことはもうできない。
厄介だと思う反面、それは無意味だとアドワは思う。ニグルの暗視は確実に相手の姿を捉えているだろう。
アドワの隣からニグルの姿が消えた。特殊な歩行方法と気配を遮断することにより、一息で彼は数メートルを詰めることができる。初見では回避することは不可能。
「だぁあ!?」
男の情けない声が響き、ザボンと水路に何かが落ちる音がアドワの耳にハッキリと聞こえた。
(終わったか)
一歩踏み出した瞬間にアドワは不自然さに気がついた。
なぜニグルは水に落とした? 彼ならば一撃で仕留める。声も出さずに殺すことは簡単だ。
「あのさぁ、話し合えば分かり合えると思うんだけど」
声の主は聞いたことのないものだ。しかも声音には随分と余裕があり、命を狙われた者とは思えないほどの気軽さがあった。
(ニグルがやられたというのか?)
コツンと足音が鳴る。それは正面からだ。
敵は健在だ。静かにアドワの方へ歩いてくる。
「伯爵下がってください」
ブラウが前に立つ。手には剣が握られており、これまで感じたことのないほどに殺気立っている。
只者ではないと察知したのだ。まるでモンスターと対峙するかのような緊張感を走らせたブラウ。彼のこんな姿をアドワは見たことがない。
そんな謎の存在が姿を現す。帝都を普通に歩いていても気が付かないような平凡な容姿をした男。見た目だけではなんの覇気も感じない。だからこそニグルを恐らく一撃で倒したという事実が受け入れられない。
ニグルは未だなおその姿を現さないということは本当に彼は水路に落ちたのだろう。その命は諦めるしかないかもしれない。
男はどういう訳か敵意を感じない。武装すらしていない丸腰だ。無造作に煙草を取り出した男はそれに火をつけた。先ほどの魔法石の炎はこのためか。
(読めない)
先ほどの言葉から男には一応の対話が通じると判断できる。しかしそれが罠ではないという可能性は否定できない。
何を考えているのかサッパリ読めない。
これまで多くの人間と出会い、その思考を読んで行動してきたアドワにとって人の行動を予測することは容易かった。それはどんなタイプでもだ。しかし目の前の男に限ってはそれができない。
(いや、時間を掛けるのはやはり愚行か)
時間稼ぎが目的か。何か暗殺者に対する用意をしており、ニグルはそれに敗北した。だが戦士であるブラウへの対策はない。それは護衛が複数という可能性を失念していたからだろう。
(つまり本命は援軍の到着までの時間稼ぎか)
武装をしていないのはこちらを警戒させるためか。余程の度胸があると見える。プレートすらも下げずにこちらの冷静さを欠如させ、判断を遅らせた。
この男には戦士に対する手段を持たない。本来ならば先ほどの冒険者らでの消耗を狙ったのだろうが失敗。目の前の男が時間を稼ぐために賭けに出たというところか。
(この土壇場で知恵の回る男だ。しかし相手が悪かったな)
知謀においてアドワに敗北はあり得ない。少ない情報からでも即座に真実を見つけ出す能力は幼少期から突出しており、誰にも敗北したことはない。
「ブラウ。お願いします」
「ああ」
ブラウは待ち焦がれたと言わんばかりに剣を持つ力を強めた。そのまま姿勢を低くすると男に向かって駆ける。
速い。疾風と称される圧倒的な機動力と剣技を持つブラウの攻撃。その最大の特徴は武器本体以外にもそれを纏う風にもダメージを負わせる効果があることだ。速すぎる剣は目視は困難で防御には相当の技量を要する。しかし防御や回避の技量が高いほどこのカラクリに混乱する。その隙をついてブラウは怒涛の連続攻撃を仕掛ける。
息も吐けない間に繰り出される剣を避けることは不可能。そうやってジリジリと相手の体力を削っていく。対人戦闘に特化した剣。丸腰の男では対応不能。
もはや勝ちは揺るがないだろう。あの男はニグルを倒すために切り札を使った。そして知恵勝負で負けたのだ。もはや相手ではない。
(しかし大事な戦力を一つ失ったのは事実だ)
脱出に際し、護衛を最小限に抑える必要があったのは確かだ。しかし予想よりも相手の動きが速い。これはアドワのミスだ。
まだ修正可能とはいえ、この先に致命的なミスをするかもしれない。そのためには一度国境を越えることも視野に入れなければならない。
皇帝はやはり一枚も二枚も上手だ。
アドワは自らの野望を諦めない。そんなつもりはない。いつか必ずこの土地に戻り、今度は皇帝——いや新たな国の主として君臨して見せると。
そんな決意を新たにしたアドワは思考をやめる。それと同時にザバーンと水路に再び何者かが落ちる音が鳴った。
(終わったか)
しかし正面にはアドワの知る戦士の姿はなく、代わりにあの男がもう目の前まで迫っていた。
「あなたは何者なのでしょう?」
はははと笑いながらアドワは言う。追い詰められているとは思えない口調は余裕に満ちており、表情も晴れやかだった。
これは彼の意地だ。貴族として生まれ育ったことによる優雅たる態度を最後まで貫こうという。
これまでの人生でアドワの計画を瓦解させた者は存在しなかった。あらゆる知恵比べで勝利してきたアドワは初めての敗北を噛み締める。悪くない気分だった。
「通りすがりの者だ」
「なるほど通りすがりの者か」
素性を見せるような真似もしない。「抜かりない」とアドワは改めて目の前の男を心の中で称賛する。
「素晴らしいよ。いつから私の脱走計画に気がついていたんだね? いや、それは君のクライアントに聞かなければ分からないか……私の予測では君が全ての主導者だとありがたい。君以上の存在がいるなんてあまり考えたくないし、私にもプライドがあるのでね」
男から返事は一切ない。
(徹底しているな。やはり彼が指導者と見て間違いないか)
アドワは考える。それはもはや脱出方法などではない。目の前の男の正体だ。それを見破ることこそがアドワ・ゲドラフ伯爵の最後の抵抗。
(これほどの存在。ポンと出るはずがない、そしてこれまで隠れていた。顔も見たことのない謎の男)
アドワは自分でもかなり用心深いと思う。だからこそ帝国内で脅威になりそうな存在は名前や能力、武装に至るまで頭に入れている。皇帝はもちろん、優秀な貴族、圧倒的能力を持つ冒険者。この男は情報にはない。帝国中の情報網を駆使したがもちろんアドワの情報にも漏れはある。
一つだけ可能性があった。
何か思考が纏まろうとしてアドワは一瞬、それを否定しようとした。しかしそれしか考えられなかった。
そうかと呟いてアドワは男を見た。額には汗がびっしりと流れている。それはこれまで出会えると思ってなかった存在にようやく辿り着いたという確信からだった。
「君は領域外冒険者だね?」
歓喜がアドワの中に溢れる。皇帝が秘匿する闇。その一端を最後の最後で垣間見ることができたのだから。




