プロローグ【不適合者の独白】
「どうしてこうなったのか?」
それが重要だと男は考える。
物事は思った通りには進まず、同時に願った通りにも行かない。難儀なものだと男は頭を捻る。
一定の軌道修正は必要なレベルとか。何やら大幅な方向転換とか。そういう次元でもない。
考えることは昔から苦手。そしてあまり考えなしの突飛で本能に任せた行動ばかりしてきたツケが今になって回ってきたのだろう。
本来ならば辺境の農地を一生耕すだけの命だったのだが知人の頼みを一つ聞いたらいつの間にか都市のど真ん中、この帝都にて最も巨大なギルドの長になるとは。
『マスター聞いていますか?』
どうしたらそうなると予想できるというのか。いやできないと男は断言する。確かに昔から腕っぷしには自覚があり冒険者としてもそれなりの成績を残した。しかしながらそれも二十年以上前の話でギルドの長——ギルドマスターとギルドの所属する冒険者では求められている能力そのものが違うというものだ。そんなものを未だかつて磨いたことなどない、そしてそれを発揮したこともない。
『先ほどの発言に関してお聞きしたいのですが』
この場、この地位、この席に座っているのは単なる偶然なのだろう。故に男は大声で「マスターに向いてないから帰るねー」と故郷へ帰ることも許されないのだ。そもそも前任者が全てを押し付けて隠居したので後任を探さなければならないという大変な手間もかかる。
『マスターが答えてくれるまで私は聞き続ける所存です』
まだしばらくはこの居心地の悪さ——生活レベルは高い——と部下とも言える者達の熱い視線と羨望と、またあるいは期待の眼差し——マスターはどんな偉業を成してくれるのかというあまりにも過大な期待——に耐える他ない。
「スゥー」
とりあえず咥えた煙草に火を着けて煙を吸った。独特な、それでいて濃厚な葉の香りが口や鼻、そして肺いっぱいに広がるとそれを吐き出す。先端がジリジリと焼けていき灰になる様を眺めている間にもその煙を取り込むことはやめない。
(ここの良いところは室内で吸ってても誰も文句を言わないことだな)
『どういう意味でしょうか? まだ過去に未練があるとでも?』
さてもう一度考える。今度は煙草を片手に少しは覚醒した脳みそを使ってだ。
「どうしてこうなった?」
もはや帝国最高と謳われる冒険者ギルド【オーディン】その長たる二代目ギルドマスターとなった男。その革新的な手腕により老衰したと言われたギルドに全盛期以上の力をもたらしたと噂された。その名をアーサー・クラウズ。元は辺境村で畑仕事に精を出す中年だったという話はきっと今では誰も信じない。
『良い加減お答えください!』
色々なことを考えながらアーサーは三度目の思考に耽り、自分がどんな偉業を成してこんなところへやってきたのかを思い出すのだった。
いや何もしていないだろう。なぜならこうして部下の一人すら制御できていないのだから。しかしこれは自分の不用意な発言のせいだと知っている。
「マスター!」
やっぱり向いてない。アーサーはそう思うのだった。




