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友達、買います  作者: 焼きだるま
4/5

第二話 友だち、かいます(3/4)

 あなたは「友達」を買いますか?


 翌日、桜からの依頼はいつも通りだったが、内容は少し違った。


「風邪引いたみたい。うさぎの散歩、お願いしてもいいかな?」


 久しぶりの外出で体調を崩したか、流石に脆すぎないかと思ったが仕方ない。


 家に着くと、うさぎは家の前で待機していた。そこに桜の姿はない。


「ワン!」


 いつも通り舌を出して、僕に向かって挨拶代わりのように鳴いてきた。その横には、うんち袋とトングが置かれていた。


「行くぞ、うさぎ」


 固定されていた紐を外し、しっかりと手に持った。すると、うさぎは僕の前を歩き出した。うさぎの歩くスピードは、丁度僕と同じくらいだった。いや、合わせてくれているのかもしれない。それくらいの躾がされている。


 手もかからず、散歩中に何か問題が起きることはなかった。


「ポテポテ歩く後ろ姿だけを見るなら、兎にも見えなくはないな。いや、兎なら歩き方が違うか」

「ワン!」


 二〇分くらい経って、僕は桜の家に戻った。


「散歩終わったぞ〜」


 すると、スマホにメッセージが届く。


「行きと同じような感じにしといて〜! 感染るとよくないから」


 聞く限りじゃ、桜は一人と一匹で暮らしている。正直、僕の心配はしないでほしいと思う。


「……」


 しかし、僕の仕事は友達だ。友だちではない。


「……これは、業務時間内の経費」


 気が付けば、コンビニでアイスや食べ物をカゴに入れていた。レジに行くと、男の店員が話しかけてきた。


「田中さんっすか?」

「はい?」


 どうして名前を知っているのだろう。もしかして、あの時の写真が他の人にも……。


「俺のこと知らない?」

「すみませんが……」

羽島(はじま)だよ、同じクラスだろ?」


 そう言われると、そんな人が居たような気がする。


「あんま、気にしたことなかったから気付かなかったわ……はは……すみません」

「そんな畏まらなくてもいいだろ、転校してきたんだから仕方ねえって。まだ一週間だろ? 仲良くいこうぜ」


 羽島はそう言うと、バーコードを読み取っては次々と袋の中に入れていった。


「これ」


 羽島はボールペンを取り出すと、レシートに何かを書いてから渡してきた。


「その内どっかで遊ぼうぜ」


 羽島はフランクに、そして笑顔でそう言った。


 コンビニを出て、レシートを見てみる。そこには、電話番号がかかれていた。


「……友だち……か――」


 まだ、友だちになったわけではないだろう。しかし、友達と友だち。複雑な気持ちに変わりはなかった。


 桜の家の前に袋を置くと、メッセージでそのことを伝えた。桜は金を払うと言ったが、そのメッセージには無視を決め込んであげた。


 ◇◆


 翌日も、その翌日も。僕はうさぎとの散歩の日々を過ごした。桜の風邪は治りそうにない。心配になっても、桜は家に入れようとはしなかった。友だちではない以上、下手に踏み入るのもよくないと思い、仕方なく散歩をしてはたまに買い物をするだけに留めた――。


 また、一週間が経った頃。その日は珍しく、桜が家に上がってほしいと言ってきた。体調も回復したのだろう。鍵は空いていたのでそのまま家に入り、桜の部屋がある二階へ向かう。


「ワン!」


 扉を開けての一発目はうさぎの飛び付きだ。


「はいはい、お元気なことで」

「ありがとうね、うさぎの面倒見てくれて」


 顔を塞ぐように抱きつくうさぎを離し、桜を見る。あの時と同じように、テーブルの前に座っていた。違うのは、掛け布団を足にかけていることだ。


「体調は良くなった?」

「うん、まだ少しだけぼーっとするけど。大丈夫」

「ほんとに?」

「うん」


 少しだけ、元気がなさそうに見えたのだ。いつもの明るさは、不安になりそうな明るさに変わっていた。いや、落ち着いているのだろうか。


「ならよかった」

「クバの方は最近どうだった?」

「ん〜、友だちができた……かな?」

「おや、遂に本物ができたのですか」

「前まで居なかったみたいに言うな、居るには居たから。引っ越してからは居なかっただけでな」

「そっか〜」


 桜は安心したようにそう言って、うさぎのことを撫でていた。


「……私さ、友だち……一人も居ないんだ」


 突然、そんな話を始めた。


「あぁ、うさぎが居たね。……うん、人の友だちがね。居ないの」

「外に出れば、自然と関わることになるよ」

「そうだね」


 前より、少し痩せたのだろうか? 体が細く見える。


「ちゃんと飯食ってるか?」

「うん、がんばって食べたよ」

「……それならいいけど」


 今日は少しだけ、会話が繋がりづらく感じた。


「……クバはさ、友だちってなんだと思う?」

「急に深い話になってきたね」

「……私は、うさぎ以外の友だちを知らないから。一人くらい、誰か居てほしいなぁって」


 なんとなく、予想はついた。


「ようは、僕に友達ではなく――友だちになってほしいと?」

「そう」


 それは、お金で繋がる関係ではなくなるということだ。いや、今までの方が本来はおかしいのだろう。


「……いいけど」

「やった」

「どうして急に?」

「いやさ、安心できる人が欲しいなって思って」


 今日の桜は不思議だった。いつもと雰囲気が違う。


「……何か、あった?」


 友だちなら、事情を聞いてあげたい。そんな気持ちだった。


「……お母さんが、明日帰ってくるみたいなんだ」


 うさぎを撫でる桜は、少し悲しそうな、寂しそうにも見えた。


「そっか、よかったじゃん」

「……うん、嬉しい。でも、クバに居てほしいなって」

「お母さんのこと、嫌いなんだ」

「……どうだろう。嫌いではないよ、むしろそばに居てほしい。でも、今はもうそうじゃない。友だちに、そばに居てほしい」


 不安そうに、いつもの明るさはなく、震えに近いような声でそう話した。


「……明日、ズル休みでもして来ようか?」

「ううん、そんなことはしなくていいよ。ありがとう」


 カーテンの隙間からは、雨雲が見えた。


「……降りそうだね」

「やべ、傘持ってきてねえ」

「うちの貸そうか?」

「いや、もう帰るよ。先生からサボった分の課題渡されててさ、やんないと怒られる」

「……そっか」

「それに、明日羽島に課題渡してズル休みすればいい。そしたら、どんな遊びでも付き合ってやるよ。あぁ、そっか。お母さんの許可が必要なのか」


 友達ではなく、友だちとしてなら、なんでもできる気がした。踏み入って話すことも、行動することもできると。


「……私がお母さんにお願いしとくよ。大丈夫だったら、メッセージを送るね。ほら、帰らないと降ってくるよ」


 そう言われ、僕は頷いて立ち上がった。


「また明日」

「うん」


 玄関に行くと、うさぎが僕を出迎えた。


「ワン!」

「また明日な」


 そう言って、僕は玄関のドアに手をかけた。まだ夕方だと言うのに、夜にも感じれる暗い曇り街を歩いた。


 家まではもう少し。夏はまだ続いている。夏休みも近付く中、心の中に違和感があった。夏休みの終わりのような、何かぽかりと穴が空くような感覚。


「……」


 後ろを振り返ると、街の向こうから雷雲が近付いているのが分かった。


 ◇◆


 ――ポツポツと、雨が降り始めた。少しすると、遠目に雷も鳴り始める。


 毛のフサフサとした感触と、あたたかさを感じながらベッドに寝転ぶ。布団をかけて、遠目に窓の外を見た。


 雨の雫が窓を伝っている。


「ワン!」


 私はがんばって腕に力を入れ、うさぎの頭を優しく撫でた。

 あとがき

 どうも、焼きだるまです。

 長かった第二話も次でラストです。最後まで是非、お読みになってくださいな。では、また次回お会いしましょう。

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