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友達、買います  作者: 焼きだるま
3/5

第二話 友だち、かいます(2/4)

 あなたは「友達」を買いますか?


「お待たせ〜……お?」


 桜が部屋に戻ってきた頃には、うさぎに撫でろを要求され僕の体は床へと倒されていた。


「仲良しだね?」

「ネーミングセンスどうなってんの」

「何か問題でも?」

「頭が混乱しない? この名前」

「ワン!」


 うさぎは嬉しそうに、僕に向かってかまってくれアピールをし続けている。


「いや〜兎飼いたかったからさ〜」

「じゃあ、なんで犬を飼ってるのさ」

「お母さんが連れてきた」

「……そういうことね」

「ワン!」


 桜はタンスから犬用のボールを取り出し、うさぎと名前を呼んでボールを投げた。


「ワン!」

「おーよしよし、偉いねえ」


 ボールを咥えて戻ってくるうさぎに、桜は頭を撫でてもう一度ボールを投げた。


「母が連れてきて、名前を付けたのは桜……さん? なんだな」

「無理にさん付けしなくていいよ。友達の意味がない」

「……桜」

「何?」

「何って、だから名前」

「あぁ、うん。まぁ、お母さんが付けてほしいって言ってきたから」


 尻尾を振って甘えるうさぎに、桜は両手で鷲掴みにするように撫でまわした。


「不思議な母だな」

「うん、とっても不思議。ねぇ、クバのお母さんはどんな感じ?」


 体を起こし、出されたお茶を一口飲む。


「……優しかったよ」

「優しかった?」

「一年前に――」


 その言葉で、桜は聞くのをやめてくれた。


「そっか……実はね、私も父親が居ないんだ」


 そういえば、この家には今のところ一人と一匹しか居ない。共働きかと思ったが――。


「お母さんは金を稼がなきゃって、海外に行っちゃった」

「娘を置いて?」

「そうするしかなかったんだって。私のためだって」


 極端な母親だと思った。


「お陰でこっちは暇で仕方ない。代わりに金はあるけどね〜」

「だからこの依頼か」

「そういうこと」

「……わざわざ友達を買わなくてもさ、学校とか行って友達と遊べばいいじゃん」

「人間みんなに友達が居ると思うなよ?」

「言ってて悲しくならんか、それ」

「だいぶ悲しい」


 まぁ、実際その通りだろう。友達が居ればこんなことはしていない。だが、しかし。本当に居ないのかが気になる。大抵友達の居ないやつは、それなりの理由や雰囲気がある。だけど、桜にそういったものは見当たらないのだ。


「友だち、作ったら?」

「ぐぬぬ〜、クバはどうやって友だちを作ってるのさ」


 そう聞かれると、僕もまた返答に困るのだ。


「どうって……僕もそんなに友だちなんて居ないから……」

「ほう……ならまず、うさぎと友だちになってみてよ」

「はい……?」

「ほら!」


 うさぎを両手で掴み、僕に手渡してくる。


「ワン!」

「ほらって……」

「ほらっ、受け取れ」


 半端強引に押し付けられ、僕はまたうさぎの世話をすることになってしまった。


「ワン!」

「……遊べってか」


 なんとなく、うさぎの目がそう訴えているように見えた。


「ボール貸して」

「ほい」


 ボールを受け取ると、手のひらに乗せた状態でうさぎに見せる。


「よーく見とけようさぎ、今からこのボールにハンカチを被せる」


 幸い、学校に行く準備をしていたからポケットにはハンカチが入っていた。僕はそのハンカチをボールに被せると、うさぎに魔法をかけさせる。


「ワンと言え」

「ワン!」


 その直後に、ハンカチを離す。手のひらに、ボールは残っていない。


「ワン! ワンワン!」

「え!」


 うさぎは不思議そうに、そして楽しそうに跳ね回ってボールを探し出そうとしている。桜もまた、今のマジックに驚いて目を輝かせていた。


「うさぎよ、ボールを返して欲しいか」

「ワン!」

「じゃあ、くるっと回ってからワンと言え」


 すると、うさぎは本当にくるっと回ってからワンと鳴いた。訓練でもされているのだろうか。それとも、中におっさんでも入っているのだろうか。人の言葉を理解しているようにしか見えない。


「桜、手貸して」

「? こうかな?」


 手のひらを差し伸べてくる桜に、一枚のハンカチを見せる。


「何もないよな? ペラペラの一枚だ」

「うん」

「ワン!」

「でもな、実はさっきうさぎに魔法をかけてもらったんだ」


 一度ハンカチをクシャクシャにして、桜にそのまま手渡した。


「開いてみ」


 言われた通りに、桜はクシャクシャのハンカチを開く。


「なんで〜⁉︎」

「ワンワン‼︎」


 ハンカチの中からは、消えたはずのボールが出てきたのだ。


「うさぎと僕によるマジックショーでしたとさ、チャンチャン」

「すごい!」


 桜からは拍手喝采が送られ、うさぎからは顔面飛び付きを頂いた。


「ワンワン!」

「すごい、こんなにも息が合うなんて。これが、友だち……⁉︎」


 息が合うことなんてしていないどころか、魔法なんてものもないのだが。


「そうなのか……? うさぎ」

「ワン!」


 そうらしい。


 ◇◆


 あれから一週間が経った。


「よく来てくれた」

「毎日毎日呼んでるのは桜だけどな」

「不満?」

「いいや?」


 あの日は結局、六時間くらいは滞在していた。そして、本当に六万円を渡してきたのだ。勿論、断ろうと思った。だけど、半端強引に渡されたのだ。


「友達だもんね」

「買ってるけどな」


 それも、一週間となれば慣れてきた。最初こそ罪悪感があったが、今更そういうものもなくなったのだ。


 その日は、桜が珍しい提案をしてきた。


「カフェ行きたい!」

「行けばいいじゃん」

「も〜」

「牛が居るぞ、うさぎ」

「ワン!」


 カフェなんて行ったこともなかった。頼れる友達も居ないので、スマホで探してみる。


「どういうのがいいの?」

「チョコパフェを食べたいのだ」

「デ○ーズじゃダメ?」

「オシャレなカフェで、お願いします」

「デ○ーズの何が悪い。あそこもオシャレだろう」

「そーいうのじゃないって〜」


 今度は、ぶ〜っと豚になってしまったので探せるだけ探してやることにした。結果、良さげな場所が一つだけ見つかった。


「ここから一〇分くらい歩いたとこにあるカフェだってさ」

「一〇分かぁ……」

「自転車は?」

「ない」

「じゃあ歩いてだな」


 すると、桜は少しだけ声を低くして言った。


「歩きじゃなきゃ……ダメ?」

「どんだけ歩きたくないの、体力つけないとダメだぞ。てか、お前学校とかどうしてるんだよ」

「? 行ってないけど?」

「当たり前だよ? みたいに言わないで?」


 しかし、桜はぐだぐだ言うので僕も諦めることにした。注意されたら面倒くさいので、本当はやりたくはないのだが。


「……待ってろ、自転車持ってくる」


 ◇◆


 実を言うと僕も、運動はあまりしていない。


「ひょ〜! これは快適だ〜!」

「あんまり騒がないでね、お巡りさんに見つかると面倒くさいから。あと、桜は快適かもだが僕はそうでもないぞ」

「女の子の胸を背に感じれるというのに〜?」

「不可抗力です」


 つまらなそうに体を揺らす桜に僕は、自転車から振り落とすぞと言った。すると、簡単に揺れは止んだ。


「うさぎって、すごいくらい躾がされてるよな。人に飛び付く以外」

「お母さん曰く、お利口な子を探してきたのだとか」

「なるほどね〜」


 僕たちが外へ出る時に、うさぎは分かっているのか付いては来なかった。


「もうすぐだよ」

「おっ」


 住宅街に紛れ込んだカフェが、道の角を曲がった先に見えた。


「あそこだ」

「遠目に見てもオシャレそう」

「雑な感想どうも」


 なんとかお巡りには見つからずに済み、目的であった木漏れ陽カフェとやらに着いた。


 チャリンチャリンと優しい鈴の音と共に、店のドアが開かれる。内装は植物の緑と、木の温かみが感じれる落ち着いた雰囲気があった。


「いらっしゃいませ」


 カウンターの後ろに、数人で座れる場所が二つ。広すぎず、狭すぎない店内の装飾は、店主の拘りがあるのだろうと言うくらいに綺麗に整えられていた。


 テーブル席の方に座った桜に続き、僕も向かい合うように座った。


 店員が水を持ってくるのと同時に、桜は待っていたと言わんばかりに即座にチョコレートパフェを注文した。


「もっとメニュー見たら? せっかく来たんだから」

「いや、いいかな」


 連れてけと言った割には、桜はチョコレートパフェにしか興味を示さなかった。


「……ご注文は?」

「……チーズケーキとアイスティーで」

「私もアイスティー!」

「かしこまりました」


 女店員はそう言うと、店長に注文の内容を伝えに行った。


「いや〜夢が一つ叶ったよ〜」

「夢って、そんなに大したものでもなくない?」

「いやいや、外に出ないものからしたらカフェなんて夢だよ」

「出たくないだけでは?」

「五分歩いたら疲れる」

「うさぎの散歩はどうしてるんだよ……」

「五分歩いて帰る」


 世界よ、これが日本の誇るニートだ。


 しばらく他愛のない話をしていると、注文していたものがテーブルの上に現れる。


「ほぁ〜――!」


 キラキラと目を輝かせて、辛抱たまらんといった様子で一口目を頬張る。


「――――――‼︎」


 そして、幸せな顔をした。


「よかったね」

「――‼︎」


 もはや口も開けぬ。何度も頷いてはパフェを楽しんでいた。しかし、僕もまた驚いたのだ。見た目は普通のチーズケーキだが、その味は濃厚を極めるものだった。心の中で、この店を見つけれてよかったと思う自分が居た。


 それからしばらく、いつもみたいに他愛のない話をした。僕も桜もゲームが好きだが、桜は新作ゲームの話題をあまり好まなかった。理由を聞いても、なんとなくらしい。仕方がないので、他の話で会話を続けていた。


 その日も終わり、僕もアパートに帰る時間となった。


「またね」

「ういうい」


 桜との別れを済まして、夕暮れの街に顔を向けた。オレンジ色の世界は、どうしてだか寂しさを感じさせた。


「寂しさなんてあるもんか、これは仕事だ」


 そんな独り言を呟いた帰り道。カラスが鳴いて、地面にはセミファイナルが繰り広げられていた。

 あとがき

 どうも、焼きだるまです。

 ちゃんと投稿されたろう? ふふーんどうだ、偉いと言え。さて、投稿時間が迫っているので短く終わります。また明日もお楽しみに! では、また次回お会いしましょう。

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