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第四話 スキル授与

 あつしが石板に向かって手をかざすと、そこに描かれた魔法陣が淡い黄色の光を放ち始めた。


 光は時間がたつごとに勢いを増し、どんどん濃くなっていく。


「これは、エクストラジョブ!」


 不意に、エドワード団長は、驚いた表情を見せる。


「エクストラジョブ?」


 あつしが聞き返すと、イーゼが補足する。


「強力かつ貴重な天職のことよ。中には100年に一度しか出現しないものもあるといわれているわ。ユニークジョブとの違いは、唯一無二でないけど、桁違いに有能なことね。もしこのような職が出ると、石板は黄色に光り、皆に祝福されるわ。ちなみにユニークだと緑色、レアジョブと呼ばれる、年に数百人しかでないような職業なら青色、その他の一般職なら白色に石板は光るわ。」


 あつしは、目の前の黄色に光り輝く石板を見る。そして、少しうれしそうに口角を上げる。


 次の瞬間、どういう仕組みなのか、あつしの前の空中に巨大な文字が浮かび上がった。


≪勇者≫


 文字は、確かにそう書いてあった。


「勇者だと!?すばらしい!」


 エドワード団長は、見るからに興奮していた。


 そんな脳筋男に、あつしは質問する。


「すごいんですか?」


「すごいなんて物じゃない。勇者が出たのは、実に60年ぶりだ。人類に脅威が来たときのみ出現するといわれていて、他のどんな天職よりも秀でた性能を持っている。もしかすると、お前が将来魔神を倒すことになるのかもしれないな。」


 そういわれると、あつしはガッツポーズを決める。


「おー。」

「さすがあつし。」

「すげー!」


「はあ?あいつが勇者?」

「ないわー。魔神の間違いだろ。」


 あつし派閥は歓喜する一方で、海斗派閥の生徒は冷たい表情を浮かべる。


 現時点での最強の天職が敵対派閥のリーダーであるあつしに出てしまったのだ。


 いい気分がしないのは当たり前だし、もしかしたら、今まで互いに牽制しあってた力関係が崩れるかもしれない。


 そう考えると、俺にとってもあつしが勇者の称号を得たのはあまりよろしくないな。


「早速勇者が出たのはいいことね。裏を返せば、それだけ我々人類が緊迫した状況にあるということだけど…」


 イーゼのセリフに、あつしは息をのむ。


 遠まわしにかける言葉の圧に、俺は目の前にいる女騎士の技量を感じた。あんなことを言われて裏切れる人間というのは、はそう多くはいないだろう。そもそも敵であるならまだしも、俺たちは第三者だ。しかも、あつしは普段学級委員をやっているだけあって、性格はさておき正義感は強い。あいつが魔神側につくことは今後一切ないだろうなと思いながら俺はこの状況をみていた。


 エドワード団長は満足した表情を見せながらあつしに聞く。


「スキルは何が手に入った?」


「えっと、≪限界突破≫と≪勇者魂≫と≪光一点≫っす。」


「何?最初から3つも持っているのか。凄いな。≪限界突破≫は俺の持つ≪超絶突破≫の下位互換。ステータスを一時的に2倍に上げるスキルだ。≪勇者魂≫はわからないが、≪光一点≫は我も持っている。実戦では大いに役に立つし、使い勝手がいい。」


 その言葉に、あつしは満足した顔で頷いた。


「英雄イズキの伝承ではソナタ達の世界は平和で争いがないと聞く。だから正直、この者達に人類の存亡をかけて良いのかと疑問に思っていたが、どうやらそれはいらぬ心配だったようだな。

 次、天職を確認したい者はいるか?」


 エドワードの言葉には誰も反応しなかった。


 どうやらまだ緊張がほどけていないらしい。


 あつしがおかしかっただけで、こういう状況で率先して動けるやつはそう多くない。


 現に俺も黙って様子を窺っている。


 あまりにも誰も動こうとしない事に、エドワード団長は困った表情を浮かべた。


「誰もいかねえんだったら、俺が行く。」


 そう言って立ち上がったのは、意外にも、おれの親友の亮平だった。


「よし!じゃあ前にこい。」


 さっきまではずっとスマホをいじってた割に、どういう心の変化だ?


 そう思ってこいつが地面に置いて行ったスマホを触ってみると、何も反応しなかった。


「いや充電切れかよ…。」


 亮平は、石板に向かって手をかざした。


 海斗派閥の人間は期待の眼差しで、あつし派閥の人間は冷めた眼差しで様子を見る。


 数秒経つと、石板は黄色に光始める。


 またエクストラジョブだ。


 俺達異世界人は天職を授かった時強力な力を得るという話だったが、どうやらそれは間違った情報らしい。


 そもそも得られる天職が強い。


 しばらく時間がたつと、あつしの時と同じように、亮平の前に文字が浮かび上がってくる。


≪勇者≫







 ん?


 そこに表示された文字に、みんな言葉を失う。


 勇者?


 いや今さっきその職業でなかったっけ?


「ば...馬鹿な。勇者が二人だと?前代未聞だぞ!スキルは…。スキルは何だ?」


 動揺しているのか、エドワード団長が亮平の体を揺すぶりながら聞く。


「えっと、≪超限界突破≫と≪閃光弾≫の二つっすね。」


「はん。俺のほうが一つ多い。」


 なんか関係ないやつが口をはさむが、気にしない。


「なんということだ…。一つの時代に複数の勇者がいるなど前代未聞だぞ。」


 信じられないといった表情を浮かべるエドワードに対し、ふん、と鼻の下を伸ばす亮平があまりにもらしくなく少し笑ってしまう。


 驚いているのは団長だけではない。イーゼもまた言葉を詰まらせていた。


「嘘…」


 この世界の常識だと、本来勇者は一世代につき一人までのようだ。しかしうちのクラスメートは空気を読まず常識をぶち壊した。


 またもやカルチャーショック。いやこれは別に違うか。


 クラスメイト達は、あつしの時とは逆で、海斗派閥が歓喜の声を上げ、あつし派閥は冷たい視線を向けた。


 とりあえず、お互いの派閥からトップの職業が出たということで、派閥間のパワーバランスが変わることはないだろう。


 ひとまず安心。


「まあ、勇者が二人というのには違和感があるが、どっちも協力してくれれば莫大な戦力になるから良しとしよう。それよりも、今は早く皆の天職が見たい。次天職を確認したいやつはいるか?」






 それからは、皆慣れたのか早かった。


 次々に様々な人が立候補し、自身の職業とスキルを確認する。


 流石に勇者はもういなかったが、≪大賢者≫≪大聖女≫など考えられる限り良い天職が次々に発現した。


 エドワード団長とイーゼは、それを嬉しそうに見る。


 まるでソーシャルゲームのガチャを見ているような感覚だ。


 現在確認を終えたのが18人。うち、エクストラジョブが5人。ユニークジョブが10人。レアジョブが3人。


 普通の天職は、未だに誰も出していない。


 びっくりだった。


 異世界チートなど、そんな都合のいいことがあるかと今まで馬鹿にしていたが、今現状俺は目の当たりにしている。


 俺も何か、すごい天職を得られるのかな?


 そう思った俺は、次、名乗り出ることにした。


「ほう、≪錬金王≫か。これはすごい。次、だれが出る。」


「俺が行く。」


 そう言って、エドワード団長の前へ出る。


「じゃあ、手をかざしてくれ。」


 頷いてから、言うとおりにした。


 緊張の糸が緩んできたのか、皆普通に喋りはじめている。


 耳をすませば、色んな声が聞こえてくる。


「いいなあ、ユニークジョブ。俺も欲しかった。」

「俺の天職すげえだろ。」


 海斗派閥は既に半分が、天職の確認を終えていた。その殆どが強力なものを授かっている。


 これはある意味派閥間争いだ。どっちの方がより有能なものを多く獲得できるか。それによって今後の立ち位置は変わってくる。だったら、俺も強い天職が出た方がいい。


 何より、成り行きで異世界に来てしまった。


 せっかく来てしまったのなら、俺も強い天職で無双したいという願望がある。


 強いスキルよ、でろ!


 俺は心の中で、そう叫んだ。


 それに反応するかのように、石板は光始める。


「あれ?」


 俺は異変を感じる。


 気…気のせいだよな。


 白色だった。


 見間違いだと思って、一度目をつぶってから石板を見直す。


 しかし色は変わらない。


 白、つまり一般職。


 ごくごく普通の職業。


 クラスメイト達が特別な天職を授かっている中、俺は、しょぼい外れ職を引いたということになる。


 呆然としていると、目の前に文字が浮かび上がってきた。


≪防人≫


「嘘だろ…。」


「一般職か。まあ、別に落ち込むことはない。異界から来たソナタ達が化け物級なだけで、天職を授かる人の大半は一般職だ。」


 見るからに気分の下がっている俺を、団長は励ます。


「あの、防人ってどんな職業なんですか?」


「ありのままを知りたいか?それとも濁してほしいか?」


「嘘はいらないです。」


「そうか。

 防人とは、戦闘職のひとつだ。主な役割はタンカー。形上、敵の攻撃を防ぐことに特化した天職なのだが、世間では不遇の扱いを受けている。いわゆる底辺職のひとつだ。理由は単純、防御特化の天職なのに防御力が極端に低い。動けるタンカーと言えば聞こえはいいが、大した攻撃力はないし、すぐにやられる。だから、冒険者だと誰もパーティーを組んではくれないし、周りからは下に見られることが大半だ。中には、最弱職という人もいるくらいだしな。」


「最弱職…。」


 俺が絶望していると、後ろから笑い声が聞こえる。


「ははは、あいつ最弱だって。雑魚やん!」

「いつも調子に乗ってるくせにww」


 言っているのは、あつし派閥の生徒達。いつも俺達を目の敵にしているため、こういう時には言いたい放題だ。






 まあ、百歩。


 百歩譲って、一般職なのはいい。


 だが、不遇職ってなんだよ。


 俺は、クラスに限らず、世間からも落ちこぼれたということになるじゃねえか。


「天職を変える方法とかは、ないんですか?」


「ないわ。」


 俺の質問に、イーゼが答える。


「天職というのは生まれた時に決まるの。例えば、あなたのその髪の色。今から変えられる?」


 俺は首を振ると、彼女は吐息と共にわずかに笑みをこぼす。


「そういうことよ。まあ、防人って、毒や呪いといった類の物が聞かなくなるスキルを得られることもあるから、どこかに需要はあるはずよ。戦闘職と言っても、探検家など戦わない仕事をしてる人が大多数だし、冒険者でソロ活動している人もいるしね。」


 目の前の女騎士の優しい言葉に泣きそうになる。


 ていうか冒険者ってなんだろう。小説に出てくるあれみたいなものか?ちょっと気になるな。


 あっ、そういえばスキルは?


 天職がしょぼいのはわかったから、スキルだけでも、何かいいものを得られていないか?


≪状態異常無効≫


 一つだけ。


 他の人はみんな2つや3つあるのに。


 しかも状態異常無効って、立派に戦える天職だったらなかなか強いが、底辺職の俺にとっては大して役にたたねえじゃん。


 後ろを振り向くと、俺は蔑みと哀れみの視線を向けられていた。

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