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第三話 異世界

 話は1時間くらい続いた。


 教室だと飽きて寝始めるやつが出てくるくらいの時間だが、こんな状況に陥ってはそうはいかない。皆びっくりするほど集中して聞いていた。


「そういう訳で、どうか我々に力を貸してくれないでしょうか?」


 全ての説明を終えた女騎士は、俺達に頭を下げる。


 とりあえず先程までイーゼの言っていたことを要約しよう。


 ・俺達は、地球からイグジオンという世界へと召喚された。

 召喚陣を描いたのは、三百年前魔神を倒したという異界の英雄イズキ。彼は、『再び魔神が復活した時、私と同じ世界に住む地球人がここへ来てやつを倒してくれるだろう。』と言い伝えを残して自身のいた世界へと帰って行った。


 ・ここ近年魔神誕生の兆候が見られ、それと共に召喚陣が作動した。


 ・異界より来た地球人は天職を授かった時、イグジオンの住人より強力な力を得る。この力により英雄イズキは魔神討伐を成し遂げた。


 ・最近魔物が活発化しており、人間社会がだんだん侵食されている。だから俺達の力を貸りたい。


 あとは、この世界の社会構図や、一体どんな天職が存在するのか、俺達の衣食住についてを軽く話された。


「1つ、質問をいいか?」


 数十秒間頭を下げ続ける彼女に対し最初に言葉を放ったのは、クラス内で俺とは正反対の派閥に属するあつしだった。


「はい、構いません。」


「俺達は元の世界に帰れるのか?」


 誰もが思っていた事を言った嫌われ者に、クラスメイトのうち数人はいい顔をしなかった。


 心境としては、なんでお前なんかが喋ってるんだ、という感じだろう。


 別にあつし何か悪いことをしている訳では無いが、自分の嫌いな人が目立っているのは何だかムカつくというのが、学生というものだ。この反応もいた仕方ない。


 あつしの質問にイーゼは苦虫を噛み潰したような顔をして返す。


「あの召喚陣はそもそも我々が作ったものではないし、今回の召喚も我々が意図して行ったものではありません。残念ながら、あなた達が元の世界に帰る手段を我々は持ち合わせていないのが現状です。」


「つまり、俺たちは元の世界には戻れないということじゃないか!」


 俺と同じ海斗派閥のうちの一人である瑛人が叫んだ。


 眉間にはしわが浮かんでおり、とても険しい表情をしている。


 彼だけではない、ここにいるほぼ全員が家に帰れないという事実に絶望していた。


 あつしなんかは立ったまま呆然としている。


 どうやら俺達は、現実世界から完全に隔離されてしまったらしい。


「おい、俺もう親にも会えねえのかな?」

「俺彼女いたのに...」

「私いやだよ?家に帰りたい。」


 各々精神状態が不安定になりつつあった。まあ無理もない。遭難や誘拐でさえ恐怖だというのに、今回は異世界転移だ。ファンタジーと同時にリアルの怖さが襲ってくるというのは、混乱も相まって恐ろしい。


 俺も含めて平気な顔をしている人は誰一人といない。


 あの楽観主義の亮平でさえ、スマホゲームをやめて少し焦っていた。


 みんな落ち着きを無くし、慌てふためく。


 その様子に一人の男が口を挟む。


「確かに今の我々には、そなたたちを元の世界に送り返す事はできない。」


 そう言ったのは、一番最初に俺たちを迎えに来たエドワード団長だった。


 そういやこいつまだいたのか。


 一応団長はずっとイーゼの隣にいたが、一時間の間一度も喋ってなかったので、ぶっちゃけ存在自体忘れていた。


「──今の我々にはできないが、魔神にならできるかもしれない。」


 その一言に、クラスメイト達の目つきが変わった。


「伝承によれば、魔神は時空を歪めるすべを保有しているらしい。もしそれを手に入れることが出来ればソナタらは元いた世界に帰れるかもしれない。」


「ちょっとエド!? それは言っちゃダメでしょ。もし彼らに魔神側に付かれたらどうするの?」


 イーゼが焦りながら口止めしようとする。


 秘密だったんだろうなぁ。


 魔神なら俺達を現世に戻せるかもしれない。ならば、俺達は魔神側に付いて、見返りとして現世に帰して貰う。確かに、こっちの方が現実味はあるしな。


「それならそれで致し方ないだろう。そもそもこれは我々の戦い。この者達はよそ者だ。私は持っている情報を全て明かした上で協力を求めたい。でなければ、私の騎士道に反する。」


「あんたの騎士精神には感服するけど、たまにただの脳筋なのか分からなくなるわ。これじゃあ、国王陛下の命令に背く形になるわよ。」


 勝手に色々言ってしまうエドワード団長に、イーゼは頭痛そうにする。


 正直ただの脳筋だと思うが、口には出さない。


「別に構わない。そもそも俺にとって命令違反は日常茶飯事だしな!!」


 ハーッハッハと笑う騎士団長のわき腹に、イーゼは肘を入れる。


「痛ッ。」


「自慢げに言うことじゃない。馬鹿...」


 腰を殴られてもなおヘラヘラしている団長だが、一つため息をつくと真剣な眼差しを向けた。


「ソナタ達はただでさえ強力な力を持っているし、我々に従う義理はない。だから、これは我々の勝手な願い事になる。だが、できれば聞いてほしい。

 異界より召喚されし勇者たちよ、どうか、ソナタ達の力を我々に貸してくれないだろうか。今の私達にはその力が必要だ。」


 そのあまりにもひたむきな姿勢に、生徒たちは、困ったような表情を見せた。


 互いに顔を見合わせるが、答えは一向に出てこない。


 シーンとした雰囲気の中、一言喋りだしたのは、やはりあつしだった。


「もし俺達が、魔神側についたら、あなた方はどうしますか?」


「俺はどうもしない。」


「悪いけど殺すわ。これでも国に忠誠を誓う騎士なの。もしあなた達の刃がエスカール王国に向くというなら、私は容赦しない。というかエド、何もしないって何‼︎あんたそれでも騎士団長?」


「彼らはまだ子供で、被害者だ。今も見知らぬ世界に来て、不安で仕方ないはずだ。そんな相手と敵対など、できるはずがないだろう!」


「信じられない…。あんたなんで騎士なんてやってるの?」


 騎士としては、イーゼのほうが圧倒的に正しい。このエドワードって人、なんでこれで騎士団長なんて職業につけたんだ?しかも金翼騎士団って、国の最精鋭の騎士団だろ?まじで謎だわ。まあ俺達の立場からは友好的に見れるけど。


 見ると、あつしは足元を見つめて何か考え事をしていた。


 普段はいけ好かない奴だけど、こういう時の行動力だけは素直に尊敬している。学級委員長なだけあって非常時には役に立つ。


 ほかの生徒は何とも言えない表情を見せていた。


 遠回しに協力しなければ殺すと言われているのだ。


 そりゃこんな顔にもなる。


 俺も心境としては複雑なくらいだしな。


「まぁ、別に今すぐ決めんでもいいだろう。俺の立場的には早い内に答えを出して欲しいが、状況が状況だ。召喚陣の作動も突然だった故、我々もソナタらを迎える準備が整っていないし、まだ魔神勢力も拡大している最中だ。猶予はある。それよりも今は・・・。

 イーゼ、あれを持ってこい。」


「あれって何?」


「石版だ。」


「あ〜、なるほど。今やっちゃうのね。」


「早い方がいいだろう。」


 そう会話をした後、イーゼは王宮へ行って何かを取りに行った。


 帰ってくると、手には巨大な石の塊を担いでいる。


 石の真ん中には魔法陣が書かれていてそれを囲むように四方に宝石が埋められている。


 いやこれ石と言うよりは岩だな。


 あれは魔法でも使っているのだろうか?それとも単純な力で持ち上げているのだろうか?


 直径1mくらいあるそれを軽々と担ぐ彼女を見て、この世界の底知れなさを実感した。


「これは『示の石版』と呼ばれるアーティファクト、いわゆる魔力を宿した道具だ。この魔法陣の中心に手をかざすと、その者の天職とスキルを確認できる。全世界の教会に置かれているから、自分のスキルを確認したければ、教会へ行く事をおすすめする。金は取られるがな。」


 天職の確認。


 確かに、彼らにとって今知りたいのは俺達のステータスだ。


「あの、スキルというのは何ですか?」


 そう団長に聞いたのは、海斗派閥の1人、伊沢みおん。栗色の髪を下ろしていて、顔立ちはアイドル級。彼女に告白して振られた人の数は計り知れない。


 別にみおんはスキルの意味を知らない訳では無い。


 生きて行く内に必ず接する言葉だ。知らない訳がない。


 問題は、この世界におけるスキルの定義だ。


 今のスキルという言葉の使い方は、地球と比べて違和感があった。強いて言うなら、ロールプレイングゲームに出てくるスキルの言い回しだ。


 現世ではありえない。


 だから、その言葉の意味を明確にする必要があった。


 みおんの質問に、エドワード団長はきょとんとした顔で返す。


「スキルを知らない?

 もしかしなくても無いのか?ソナタ達の世界では。」


 これがいわゆるカルチャーショックというものだろうか。住む世界によって常識は異なる。俺達とイグジオンに住む人々で認識の違いがあるのは当たり前だ。


 常識のない俺達に、イーゼが分かりやすく説明する。


「スキルっていうのは恩恵の事よ。自分の天職を真面目にこなしていると、その人の天職に見合った『スキル』という力を神が授けてくれるの。例えば私の天職は《暗殺者(アサシン)》。持っているスキルは《隠蔽》《短剣術》《気配遮断》等、他13個。金翼騎士団とは言うけど、実際のところ陛下直属の暗殺者なのよ。他にもエドの天職は《黄金聖騎士》。世界に1人しか持っていないユニークジョブで、スキルは、《超絶突破》《光一点》《金の鎧体》等、他21個。こんな感じで、職を極めると神から得られる恩恵。それがスキルよ。」


 彼女の説明に皆あ〜、と頷く。


 やはりロールプレイングゲームの感覚で合っていたようだ。


 能力がスキルという名前で理論化されてしまうのには思うところがあるが、それと共にわくわくしている自分がいる。


 まるでアニメでよく見る設定その物だ。


 いつも見ているだけの世界に自分がいるというのは中々に感慨深い。


「話が脱線してしまったが、今からソナタらには、この石版に手をかざして自身の天職と、1番初めに与えられたスキルを確認して欲しい。最初にやりたいやつはいるか?」


 エドワード団長がそういうと、あつしが真っ先に手を挙げた。


「俺がやります。」


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