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第二話 混乱

 次の瞬間、俺達は全く見たことの無い場所にいた。


 石レンガが積み重なって出来ている壁には、ヒビが入っていて、今すぐ壊れそうな状態。薄暗い空間の中に点々と光る松明が、俺らをゆっくり照らしていた。


 真っ直ぐ前には木で作られた扉がある。横幅2メートルくらいあるそれは、部屋のサイズに比べあまりに大きく、その場所だけ違和感を発していた。


「ここどこ?」


「なんか埃っぽい。」


 突如全く知らない場所に飛ばされてしまったクラスメイト達。


 流石に静かにはしていられないのか数人が喋り出す。


「おい、何が起きたんだよ。」


「なぁ、この建物こわれそうじゃね?」


「暗いし怖い。」


 当たりがざわつき初め、次第に騒ぎに変わっていった。


 一番最初に来る感情は恐怖。次に不安。


 そりゃそうだ。


 突然こんなわけも分からない現象が起きれば、普通にホラーだ。


 理解を超える現象に、誰一人動揺を隠せていなかった。


「なぁ亮平、何が起きたんだ? 俺さっき地面に魔法陣のような物が見えたんだが。」


「魔法陣? お前ついに厨二病こじらせたか? って突っ込みてぇとこだけど、俺も見た。魔法陣みたいなもんが出現した瞬間に、こんな湿気った場所に移動した。俺、夢でも見てんのか?」


 夢か...


 俺もそう思いたいが、あまりにも現実感がありすぎる気がする。


 夢特有の、ふわぁーっとした感じが全くしない。


 状況から考えて、もしかして、《異世界召喚》か?と隠れオタクの血がちょっぴり反応するが、即座に否定する。


 いやいや異世界とか、現実にある訳ないだろ!!


 でも、さっきの魔法陣も現実ではありえない代物だ。


 まさか、こんな訳の分からないことが現実でおこるなんて、予想もしていなかった。


 実際に、先程地面に魔法陣が浮かんでいたのは俺だけでなく、クラス全員がみていたはずだ。


 あれは一体何なのだろうか?


 少し考えていると、1つ重大なことに気づく。


「ッ!? 亮平! そういえば海斗はどこだ?」


「海斗? 確かに、見当たらねぇな。」


 周りを見渡せば、見慣れた顔ばかりだが、海斗の姿が見つからない。


 魔法陣が出現した際、海斗は教室にはいなかった。


 今もこの場にいない。


 これは、ここにいる人が、あの瞬間に教室にいた人と同一であるということを示している。


 オタク風に考えるならば、あの魔法陣は召喚陣で、俺達は異世界へと転移したといった所だろうか?


 いや納得できるかァアア!!!


 今、俺の中には未知の場所に来たというわくわく感も、異世界に来たかもしれないということに対する期待も、何も無い。


 ・・・フィクションがリアルになるというのは、こういうことなのか...?


 ただあるのは怖いという2文字の感情のみだった。


「皆!一旦落ち着け。」


 パニックになりつつあるクラスメイト達に、大声で言ったのは、我らが先生、音里だった。


 彼の一声で、クラスメイト達は静かになる。


「とりあえず、今起こっている状況を把握する。それまでは黙ってここにいるんだ。」


 さすがだ、と俺は感心する。


 こんな訳の分からない時でも、先生は頼りになる。


 音里先生は、何があってもみんなの先生であった。






 うちのクラスの人数は30人である。


 世間一般では多いのか少ないのか分からないが、メンツに関してはとても濃い方だと俺は思っている。


 2大派閥が出来るくらいには、強いキャラを持つ人がいるし、皆、性格は点で違う。大体の人が部活にも所属しているし、休日は、仲の良いグループで遊んでいることもしばしば。


 いわゆる陰キャと呼ばれる属性の人は、片手で数えられるくらいしかいないし、そういう人も全く喋らない訳では無いので、二つに分かれてさえいなければ雰囲気の良いクラスになったのではないか。


 今、この場には27人の生徒がいる。


 いないのは海斗を含めて3人。


 2人はどうしたのかというと、片方はそもそも不登校で、もう片方は遅刻の常連。


 犬崎というのだが、こいつはいつも2時間目の授業が始まった直後に来る。だから朝のホームルームで魔法陣が展開された時に、あいつは教室にいなかったのだ。


 よって27人。


 遅刻したくせに、未だ現世にいる犬崎が恨めしい。1人だけ逃げやがって。俺達は真面目に学校に来て、こんな不幸な目にあっているというのに...


 もし元の世界に帰れたら1発殴ろう。特にこれといった怨みはないが。


「じゃあ、俺は今から扉の向こうへ行くが、決してここを動くなよ。」


 音里先生は現状の確認のため、1度外へ出るらしい。


 何があるかも分からないのにその勇気はすごいと思った。みんなから好かれるのも納得だ。


 生徒達は誰一人声を出さずに、彼を見ている。


 尊敬の眼差しを向ける人、不安の眼差しを向ける人。

 人それぞれ見てる理由は違うと思うが、誰もが彼を信頼しているのは、一目瞭然だ。


 先生は1度深呼吸をする。


 そしてよし、と一言呟いてからドアノブに手を伸ばした。


 部屋の中は、不思議なくらい静かだ。


 別に向こう側に何かがある訳でもなかろうに、この場にいる全員の視線は目の前の大きな扉に釘付けになっていた。


 チラッと亮平を見ると、彼はスマホを横持ちにゲームをしている。


 ・・・いやちょっと待て、こいつ危機感無さすぎだろ...!普通、こんな状況でゲームするか!?


 少し動揺するが、いつもの事なのでとりあえずスルー。


 視線を先生に戻す。


 先生がドアノブを握りしめた瞬間、バタンと扉がこっち向きに勢いよく開いた。


 あまりの威力に先生が吹き飛ばされる。


「うぉッ!」


 え?


 と誰もが固まる。


 開いた扉の向こう側には、巨体の騎士が立っていた。


 黄金に輝く鎧の外からでもその力強さが感じられ、腰には神秘を感じさせる青色の剣を装備している。年齢はいかにも40は超えていそうで、髪は短め、熱意の籠った目の迫力は、まるで獅子のような気圧を放っていた。


「我は、エスカール王国、金翼騎士団団長、エドワード・スティール! 異界より召喚されし貴殿らを迎えに来た!」


 鼓膜が破れそうなほどの声で放たれたその大迫力の挨拶に、クラスメイト達はドン引きしていた。


 着ている鎧と言い、喋り方と言い、率直に浮かぶ感想は何こいつって感じだ。


 見た感じ脳筋そうだし、普通に頭悪そう。


 突然の大声にびっくりしたのか、亮平はスマホを地面に落としていた。


「いてててて...」


 吹き飛ばされた先生が立ち上がる。


 捻挫でもしたのか、若干足を引きづっていた。


「あ...」


 その様子に気づいたのか、騎士は申し訳なさげに頭を下げ、謝った。


「す...すまない。そなたが扉の前にいるなんて気付かず、勢いよく開けてしまった...」


 先程まで、物凄い威厳を持っていた騎士は、唐突に弱々しくなり、手をオロオロさせていた。


「いえいえ大丈夫です。私の不注意もありますから、気にしないでください。」


 あんなに派手に吹っ飛ばされたのにこの対応。


 さすが音里先生! なんて紳士的なのだろうか! ・・・ん? でもよく見たら先生頭から血が出てないか? あれ? これ結構重症じゃね?


 バタン!


 先生は地面に倒れ込んだきり、ピクリとも動かなくなった。





 ☆






「気を取り直して、貴殿らに説明をさせて頂きたい。」


 金翼騎士団のエドワード団長とやらはごほんと咳払いをしてから、そう言った。


 倒れた先生はというと、エドワード団長が部下を呼んで、今治療に当たっている。


 中々に重症らしく、騎士団の治療班が緊急で総動員しているらしい。


 扉を開けただけで殺しかけるとか、このおっさん、とんでもねぇな。


 ちなみに今、俺達は王宮内にあるという金翼騎士団の修練場にいる。


 地面には全体凸凹に石のタイルが敷き詰められていて、円形状に壁が立っている。質素なつくりなのに対し損傷はなく、こんな場所で修練なんか出来るのかと思ってしまうほどの足元の起伏に、俺はうんざりする。歩きずらい。


 いやてか、王宮内に修練場ってどういうことやねんと正直思う。


 どうやら話を聞くと、金翼騎士団とは、数ある騎士団の中でも最上位に位置していて、国王陛下から直接の信頼を得ている者にしか入団が許されない最精鋭の騎士団らしい。役割的には、近衛騎士団と同じようなものだった。


 主な任務は王家の護衛と国の最重要極秘任務で、その関係で彼らは、直接王宮に住んでいる。騎士団としての施設も全てこの王宮の中に備わっているらしい。


 そういう訳で、修練場も王宮の中にあるということなのだが、やはり話を聞いても納得出来ん。


 言っとくが、王宮って、王の住処やぞ。一応高貴な場所でなければならない場所やぞ。こんな【高貴】とは正反対の空間があったら雰囲気ぶち壊しじゃん。


 俺が修錬場に対する愚痴を心の中で呟いていると、エドワード団長は突然頭を下げた。


「まず我々は謝らなければならない。貴殿らを全く関係のない世界へと呼び出してすまなかった。そしてお願いしたい。どうか、我々人間を救ってくれないだろうか?」


 あまりにもすっ飛びすぎた内容に、生徒一同、何一つ理解できなかった。周囲を見渡しても、皆頭の上にハテナマークを浮かべている。とりあえず、だれでもいいから説明する人を変えてくれないだろうか? この人はだめだ。バカすぎて言っている内容が理解できん。


 クラスメイト達が困惑する中、突如として、後ろから声が聞こえた。


「エド!あんた言ってる事がちぐはぐすぎ。まずは彼らに今置かれている状況を説明しなさいよ。皆困惑してるわよ。突然ここに呼び出されたの。そんな言葉足らずの説明で理解できるわけないじゃない。」


 高い声と喋り方から女性である事はわかるが、図太くしっかりとした言葉は決してか弱くない。


 何より、後ろにいたというのに全く気づかなかった。


 物音ひとつ立てず、そこに居るということすら感じさせない彼女は相当な手練と見える。


「みんな、うちのアホ団長がごめんね。

 私の名はイーゼル・エグリック。金翼騎士団の団員で別名《最速の剣士》。イーゼと呼んでくれるとありがたいわ。」


 イーゼもまた、エドワード団長と同じように黄金の鎧を体に装備していた。緑色の目と青色の髪は宝石のように美しく、顔はかなりの美形。ただ立っているだけだと言うのに物凄いオーラを放っていた。


「なぁ、あの女騎士めっちゃ可愛くね?」


 亮平がふざけた事を言っているのでとりあえず背中をはたく。


 パン


「痛ッ。何すんだ。」


「なんかムカついたから叩いた。」


「んな理不尽な。」


 俺達がじゃれていると、イーゼは今俺達が置かれている状況を分かりやすく説明し始めた。



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