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第一話 召喚

『チャリリリリリリン』


 目覚まし時計の音が鳴る。


 窓から入り込んでくる日光の日差しをゆっくり浴びながら、俺は目を覚ます。


 今さっき、夢を見ていた。


 俺が、別の世界で何かと戦っている夢だ。


 敵はとても強大で、その戦争で、俺は大切な何かを失ってしまった。


 何故かは分からないが懐かしい気持ちになり、目からは涙が溢れる。


 絶望感...悲しみ...虚しさ。


 心当たりのない感情が、俺の精神をおそってくる。


「...ったく。Web小説の読みすぎだな...」


 涙を拭き取ると、窓から聞こえてきたのは聞きなれた親友の声だった。


「いぶきぃぃい! 学校行こうぜ!」


 直後、ピンポンラッシュが始まる。


 今、俺の家のチャイムを鳴らしながら玄関前に待機してるのは亮平、俺の幼なじみでありクラスメイトでもあり、部活仲間だ。


 ちな、部活はサッカー部。


「あの野郎っ...! 来んのが早すぎなんだよ。まだ7時だぞ!!!」


 とりあえず、慌てて階段をおり、玄関を開けて、亮平を家に入れる。扉を開けた先にいる彼は、変にニヤニヤして、ちょっぴりウザかった。


「お邪魔しマース。」


「いつもいつも来んのが早すぎなんだよ。こっちの迷惑も考えろ!」


「今親は出張でいないんだろ? ならいいじゃねぇか。」


 そう言って、亮平はさっさと家の中に入っていった。


 そんな彼を軽く睨むと、笑顔で手を振ってきた。


 うぜぇ。


 とりあえずリビングへと案内する。


「それにしても、ほんとに質素な家だな。なんもねぇじゃねぇか。」


「親はあまりこっちに戻って来れねぇんだ。必要最低限の物しかねぇよ。上の部屋には入るなよ。」


「入らねぇよ。俺がそんなことするやつだと思うか?」


「あれ? 半年前母さんの部屋に入って荒らしまくったのは誰だっけ? あん時俺めっちゃ怒られたんだけど? 忘れたとは言わせんぞ?」


「悪ぃw、俺そういうことするやつだったわw。」


 そんな軽いやり取りを交わしながら、俺はパンを焼いた。


 亮平は、親友の俺から見ても糞みたいな性格をしている。イタズラ好きで、他人に迷惑をかけまくり。正直こいつには何度も苦労をかけさせられたが、根は良い奴なので、なんだかんだ言っても10年以上仲良くしている。


 寝癖をとき、歯を磨き、朝の身支度を終え、リビングに戻ると、亮平はゲームをしていた。画面を見ると、サッカーのゲームに見える。


「亮平、また《ぶいいレ》やってんのかよ。」


 《ぶいいにんぐイレブン》ここ最近定番のサッカーゲームだ。そのスマホゲームとは思えない操作性と完成度で、圧倒的な人気を誇っている。


「いいだろー。昨日、《デッシ》手に入れて、調子いいんだよ。」


「え? 手に入れたの? まじ? 確かそいつって今のガチャの目玉だよな? いいなぁ。」


「めっちゃ強いぜ。手に入れてからレート300も上がったもん。」


「すごいな。てかお前やりすぎだろ!! レート300って単純計算でも3時間はかけないと上がんなくね?」


「8時間やってた。ついでに言うと眠い。」


「馬鹿だなお前...」

 

 そんなくだらない会話を繰り広げながら、俺は身支度を整える。


 ポロシャツを着て、ブレザーを羽織る。


 本当は校則違反だが、ワックスを手に取り、頭に染み込ませる。


 黙々と準備をしていると、友人から意外なニュースが耳に飛び込んできた。


「そういや三島のやつ、ついに彼女出来たらしいぜ。」


「え? まじ? あいつ今年だけで46回振られてるよな? 付き合ってくれる女子がいたのか。誰だ?」


「隣のクラスの吉沢だ。」


「あー...あのビッチか。三島、乙。」


 三島は俺らと同じサッカー部の部員だ。


 46回も違う女子を好きになり告る猛者だが、根は純粋で部活の中じゃあ、若干浮いていた。


 かと言って良い奴ではあるので、いじられキャラとして、みんなから愛されている男だった。


 一方、吉沢という女子は別名くそビッチで、3日で別の男と付き合うとんでもない女だ。


「せっかく出来た彼女が、あの女だもんなぁ。あいつも馬鹿なことをしたもんだ。」


「何故そんな恋をしてしまったんだ...」


 グッバイ三島。


 お前の恋を、俺は忘れないよ!


 お互いしんみりした雰囲気の中、時間はやって来る。


「あっ、てかもう8時じゃん、学校行かないと。」


 そう言って俺達は家を出た。


 学校へ向かっていると、同じ制服を着た人がちらほら見られる。


 今日は月曜日なのもあって、皆面倒くさそうな表情をしていた。


 俺と亮平は、世間話をしながら歩く。


 サッカーの話、映画の話、昨日やってたテレビ番組の話。


 亮平は、俺が隠れオタクである事を唯一知っている相手なので、俺にとっても話しやすい相手であった。


「そういやお前、朝どうしたんだよ。泣いてただろ?」


 亮平の質問の意味がよく分からず、俺は困り果てる。


「? 泣いてた? 俺が?」


「ああ。鼻もちょっと赤かったし、明らかに泣いた後の顔してたぞ? 別にお前花粉症でもないし。」


 それを聞いて、朝に夢を見ながら涙を流したことを思い出す。


 一そういや確かに泣いてたかも...?


「お前の観察眼すげぇな。別に会った時は泣いてなかったろ? よくわかるもんだな。」


「これでも10年以上の付き合いだからな。お前の異変にはいち早く気づけるぜ。・・・で、何かあったのか?」


「何かあった...か。わかんねぇや。なんか長い夢でも見てた気がするだよなぁ。どんな夢だったかは分からないけど、なんか悲しくて、でも嬉しくて...」


「厨二病乙!」


「厨二病言うなや!ちょっと虚しくなるだろ!!」


 これだからこいつは困る。一緒にいるとノリが分からなくなるのだ。


 俺がジト目を向けると、亮平はさっき以上にニヤニヤしてこっちを見てくる。


 やっぱこいつうぜぇ〜。


 そう思いながら、俺は頭をかく。



 ☆



「おはよ! いぶき、亮平!」


「おは〜」

「朝から元気だな。」


 学校に着くと、海斗が話しかけてきた。


 彼は俺らと同じサッカー部で、仲がいい。一般的にイケメンと呼ばれる種族で、少し腹黒い所もあれど、内面の良さから男女共に人気がある。


 俺、亮平、海斗は、部活内でもよく一緒にいる、いわゆるいつメンってやつだ。


「なぁ海斗、聞いて。こいつ昨日、《デッシ》手に入れやがった。」


「いぇーい。すげぇだろー。」


「え? ほんと? いいなぁ、俺も欲しい。何回目で出たの?」


「1発。」


「ゆうまのやつとか1万課金しても出なかったって言ってたのにな。」


 会ったらまずは《デイイレ》の話。


 サッカー部で起こる話の大体の話題がプロサッカーチームとデイイレだ。


 それは勿論部活をやっている時だけでなく教室でも変わらない。


 朝のホームルームが始まるまでの暇な時間、俺達はくだらない会話を永遠と繰り返していた。


「お前らまたデイイレの話かよ。好きすぎだろ。」


 話に熱中していると、ふと別の人間が3人来た。


 陸、瑛人、空だ。


 この3人はそれぞれ別の体育会系の部活に入っていて、俺ら3人とも仲が良い。


 大体この6人が、いつも教室で一緒に喋っている派閥だ。


 いつもなら女子が4・5人いるが、今回は省いておく。


「そうそう聞いたか? あの三島に彼女が出来たらしいぞ。」


「知ってる。相手は吉沢だろ。朝亮平から聞いた。」


「なんだもう知ってたのか。情報が回るのは速いなぁ。まぁ、あの三島だしなー。」


「てかよく吉沢に凸ったよな。俺なら絶対に無理だわ。」


「俺、吉沢とは仲良いけど、恋愛関係で言うとちょっと...」


「最大8股だろ? 逆によくそんなに付き合おうと思うよな。」


「ほんとそれ。」


 くだらない会話を続ける。


 三島がビッチと付き合うというあまりのビックニュースに、話題が尽きることは無かった。


 俺達がゲラゲラ笑って喋っていると、クラスの委員長が、やって来る。


「おい、海斗、先生が呼んでたぞ。」


 そう言ったのは山本あつし。今言ったが、クラスの委員長を務めていて、野球部に属している。いつもは真面目な反面、時々乱暴な所があり、俺達の派閥で彼を嫌いでない人は一人もいない。俺も大っ嫌いだ。


「だれお前。お呼びじゃない。」


 海斗が冷たく返事をすると、あつしは舌打ちをして去っていく。


 いつもはイケメンで紳士的な彼をここまで嫌な奴にさせられるのはあいつ以外見たことが無い。


 あつしは俺達とは正反対の派閥のリーダー的な存在である。


 あつし派閥は、男4人と女子5人のグループで、俺たちと比べると若干人数が少ない。ちなみにお互いの派閥の仲は最悪だ。クラス内はこの2グループの対立で常にギスギスしている。


 なぜこんな対立が起こったのかは俺もよく知らないが、どうやら海斗とあつしの間で何かトラブルがあったらしい。


 内容は聞いていないが、海斗があまりにもあいつを嫌うものだから、いつも仲良くしているメンツも自然と嫌いになっていった。


 結果クラスは分裂して、アニメでしかみないような関係になってしまった。正直、本当にこういう状況って有り得るんだなぁ、と俺は現在進行形で驚愕している。


「あー、呼び出しかぁ、面倒くさいなぁ。なんで先生、あつしに伝言頼むんだろ。」


「いや普通に学級委員だからじゃねぇの?」


「確かに。」


 そんなやり取りを一旦交わしてから、海斗は面倒くさそうに教室を出ていった。


 彼が去っても会話は自然と続く。


 次第に女子達も集まって、俺たちのグループは大盛り上がりとなって行った。


 特に三島のおかげで、喋るネタは無限にある。


 俺達は、朝のチャイムがなるまで騒ぎ続けた。


 キーンコーンカーンコーン


 みんなが静かになったのは、先生が教室に入った時だった。


「お前らー、席につけよー。」


 先生の名前は音里先生。いつもは緩いながら、ケジメはしっかりつける、いい先生だ。


 教え子のこともよく考えてくれているので、生徒間でも人気が高い。


 俺も、音里先生は好きな部類に入る。


 ちなみに海斗は未だに戻ってきていない。部活の先生から説教でも受けているんだろうか。


 先生の一言で、皆は着席する。


「じゃあ、朝のホームルーム始める............ん?」


 その異変は突然、前触れもなくやって来た。


 先生は自身の言葉を遮って地面へと視線を向ける。


 その様子を見て、みんなも真似をする。









 ()()()()()


 地面には魔法陣のような何かが浮かんでいて、それは強力な光を発していた。


 誰もこのような現象を知らない。


 突然リアルと切り離された俺たちは、同様のあまり声を出せなかった。


 ・・・なんだ・・・これ...?


 始まりはいつだって突然だ。


 この物語の始まりも、突然だった。


 伏線、フラグ。そんなもの、現実には存在しない。








 これは、友情の物語。


 突然異世界へと飛ばされた俺たちが紆余曲折ありながら、本物の絆を見つけるまでの物語。

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