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もう1人の魔術師

● 3話 エリー(仮)の来訪と依頼●


レインの説明が大まかに終わったころ、

ふと建物の外のからチリンと鈴が鳴り、入口近くに置いてある鑑賞植物が蠢きだした。


ざわざわざわ…


「おや、誰か来たのかなぁ?今日は来客の多い日だなぁ。」

のんきに呟くレインのつぶやきを聞きながら、時雨はツタや葉が変な動きをする鑑賞植物に引いていた。


コンコン…


「いるか?邪魔するぞ?」

言いながら入り口の扉を開けて入ってきたのは、金髪金眼の中世的な顔立ちの、《派遣型何でも屋》をしているエリー(仮)だった。


「ああ、いらっしゃい。エリー(仮)さん。」

「今日も黒氏の使いで来たんだが、いつものヤツを頼む。」


「ちょっとお待ち下さいね。」

といって、奥にある棚から小包を取ってきた。


殆どホームから出ようとしない引きこもり魔女のお使いと、ちょっとした気休めも兼ねて、たまにこうしてレインの元へ必要な薬を受け取りにくるエリー(仮)。

けれど今回な先客が居て、はソファの高い背もたれに埋もれていた小さな女の子、時雨を見つけると、レインに聞いた。

「誰だその娘?」


「彼女は“外からの来訪者”だよ。詳しい経緯は不明だけど、どうやら迷い人らしい。」

「…お前が引きずり込んだわけでは無いんだな?」


エリー(仮)はレインに疑惑の目を向けていた。


「ち、違うって!!」

さすがにレインは慌てて否定する。





● 4話 レーゲン、いのちの実験●


バタン!

「入るぞ!!」


突然扉を開けると同時に、元気に入ってきたのは長身の青年だった。


「レイン!おい、レイン!!」


その声を聞いた途端、優しそうな人が、ムッとあからさまに嫌そうな顔になった。


「レイン!ここにいたのか!?」

猛々しくレインに詰め寄る金髪の青年に対して、

「…何しに来た?あっちいけ」


嫌そーな空気を隠しもせず、レインは、どこからか現れた青年に一瞥した。

「はるばる来てやった兄に対して、何だその態度は?!」


あとから来たその男は、レインの兄に当たるらしかった。


その男は長身で、外ハネする金髪の後ろ髪をひとまとめにして鮮やかな模様が描いてあるローブを着ており、つり目でどこか怖そうな感じがあるが、レインと同じように額に三つ目の眼があり、尖った耳をしていた。

つっけんどんなレインの態度にも、全く引く気配はない。


「…?!きみは!」

つり目の男は時雨を見ると、驚いたが、暫く時雨を見ていたと思ったら、少しだけ笑ったような気がした。

「…戻ってきたのか、レイ?」

レインと同じような勘違いをしてくる。


「え、わたし、時雨っていいます。」

「ハァ?おまっ…」

「兄さんにも見えたのか?彼女、レイに」


「まあ、改めて見ると…レイの精神を持ったガキンチョってところか…。」

まじまじと時雨を見つめるレインの兄。


「ボクにもレイが戻ってきたかと思ったよ。時雨さん、こちらはレーゲン—ボクの兄さ。」

「はじめまして」


「よろしく。まあ彼女のことは置いといて、今日は見せたいものがあるから来たんだった!

エリー(仮)もいる事だし、丁度いいな。どうだ!見てくれ!新しく成功した実験があるんだ!」


と言いながら、レーゲンは入口の陰から時雨と同じくらいの年頃の女の子を連れて来た。


その娘は、碧眼黒髪を腰まで伸ばし、レインやレーゲンの様に、第三の目と尖った耳をしていた。

しかし顔色は悪く、どことなく不自然に見えた…


「その子は誰だい?」

「ここで新生する子なんていないはずだが?」

「そうさ!数年前にここに来た女、“ツユ”って覚えてるか?」


「…ああ、あの人か」

レーゲンの言葉に、固い返事を返すレイン。

「そいつの置き土産—“魂”—とオレの持っていたモンをつなぎ合わせてみたんだ。そうしたら、コイツが出来たって訳さ!!」

「魂?あの女、“際の盟約”でもしていたのか?」


——“きわの盟約”—とは、レインとレーゲンたちヴィジュヒラム種族の呪術の一つであり、死ぬ前に魂・肉体・精神の譲渡契約をする魔術のひとつである。

直訳するとドナー登録のようなものだ、とここにいない知人の魔女から訊いていたエリー(仮)はその名前を聞いて眉をひそめた。

主にレーゲンが得意とする魔術研究の一つで、死霊術や生物合成だ。


「あぁ、そうさ!オレとツユは死人になった際の魂の譲渡の盟約をしていたからな!!」


得意気に自慢してくるレーゲン。


「先日、元の世界でランの死の確定通告がされたから、こちら側に魂だけを通したのだよ。その時にこちら側で作っていた肉体—器—にうつしたのだ!」


「肉体?そんなものの素材なんて、どこにあったんだ?」

とエリー(仮)。


「素材…ゴレムが造れるような土も手に入りにくいと思うんだけと…まさかとは思うが…」

「レイのだよ。」


『ーなっ!?』


「正確には、レイの髪を培養してそこから造られた肉体ってことになるんだがな。」

「ーっ!お前、レイを…彼女を侮辱するようのも大概にしろよ!」


さすがにこれにはカチンとして、怒りを表すレイン。


「おー怖い怖い。オレは傷心の弟のことを想っているってのに…そんな怖い顔しないでくれよ。」

ハハハと笑っているレーゲンは殴り掛かろうとするレインをひらりと躱すと、

「じゃあ、今日の所は帰るぜー!」


バタン!


レーゲンはヘラヘラ笑いながら、嵐のように去っていった。

「二度とくるな!!」


一方的に叫んでレーゲンが扉から出ていくと、しばしシンとした空気になった。


「うるさくてごめんね。あれが僕の兄だと言うことが未だ納得いかないよ。」

「相変わらずだな…」

「随分と……元気な方…なんですね」




————————————————



「あの、さっきの子の、“ツユ”ってひとは、知ってる人なんですか?」

レインは兄に対する怒りを落ち着けると、


「取り乱してすまなかったね。ツユはレイが居なくなる少し前に、君と同じ様に《リール界》から来た女性でね。すぐに外に戻りたがらなくて、どうやらアイツに好意を抱いていたみたいで、しばらくアイツの研究をよく手伝っていたんだよ。」

と厚めの手帳から、一枚の写真を取り出して時雨に見せながら、説明をするレイン。


「すごく仕事が出来る人で、とても頼りになる女性だったよ。」

と云いながら、書棚の中から一冊の手帳を取り出し、挟まっていた写真一枚を時雨に見せてよこす。

つり目でちょっと怖いけど、かっこいい見た目のスーツを来たOLだと時雨は思った。


「でも、ある時、—レイが居なくなってからかな、《リール界》に行くって云って、戻っていったんだ。

死んだら、魂はアイツの許にいるって契約を結んで。」


「じゃあ、あの女の子、死んでるんですか?」

レーゲンの言葉が軽すぎて、レインに言われるまで信用は出来なかったが、このひとの口から聞くと、何となく信じられるような気がした。


「そういう事になるね。彼女の肉体はそのまま“外の世界”(あっち)にあるはずだよ。こっちにあるのは魂だけ。」

「こんな事言うのも変かもしれないですけど、元の世界に戻れないんですか?」


時雨の質問にレインは暫し考え、


「やった事はないけれど、多分そこは彼女次第…になるのかな。さっきの肉体から出たいと本人が思わなければ、そのままに…ってことになるね。」



————————————————




「あの子、時雨だっけか?ついでで良いなら、元の世界に帰せるが?」

室内に飾られたいくつかの写真を眺めている時雨を遠目に、エリー(仮)はレインに提案した。

「ありがとう。霧とボクの魔術だけでは少し心許ないと思っていたところだったから。…確実に元の世界に戻せた方がいいよね?」


そりゃーそーだろとのツッコミはあえてしなかった。

かつてここに来た迷い人のうち、元の場所に帰りたい人とそうでない人、違うところがいいと言った人などもいたため一概には言えなかった。


「ついでにちょっと彼女の事やさっきアイツが言っていた事で調べてもらいたい事があって…それもお願いしてもいいかな?」

「…ツユって女の方は構わないが、彼女の方は…同意は得ているんだろうな?」


「勿論これからさ。でも気に入ってくれると思うよ」

「これからって…」

爽やかな笑顔を向けるレインに思わず脱力するエリー(仮)に不安が過る。


(思い込みの激しいヤツだって事、忘れてたよ。何も無ければ良いんだが…)

心配性になるエリー(仮)。



「時雨さん、帰る前に、一つキミにはコレをあげるよ。」

そういってレインが時雨に渡したのは、金色の軸に蒼い宝石の付いたペンサイズの杖の様な物だった。

「わぁ、きれい。」


「それを持って、鏡に文字書いてくれれば、鏡越しにまた会えるよ。」

「文字?」

「ボクの魔術がかけてあるから、こんな感じで書いてくれれば」

そういいながら、空中に指文字を作り、説明するレイン。


「こんな感じかな?これがあればあっちの世界に戻っても連絡が取れるね」

嬉しそうに笑う時雨を見てレインはどこかほっとしたようだった。


「そーゆーのはオレ達の仕事の領分なんだが…仕事取るつもりか?レイン」

「あはは。そんなつもりはありませんよエリー(仮)さん。あくまで鏡越しに会えるってだけですから。」

今のところ、肉体の移動転送は出来ないと補足するレイン。


(ほんとうなんだろうな?)


なんとなく引っかかる気持ちを押し殺してレインが時雨に魔術具を渡すのを確認すると、エリー(仮)は時雨を元の世界に送るための扉を開けたのだったー。





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