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何もかもがバレていた



 頭が追い付かない一日だった。

 自室のベッドに呆然と寝転びながら、リディアは天井を見上げていた。


(憎まれてなかったことは、すごく嬉しいけど……)


 脳裏にぼわんと、真剣なラスターの表情が浮かんでくる。

 再び頭がぐるぐると混乱しのたうち回りたくなるのを抑えながら、リディアは両頬を叩いた。それよりも、もっと考えなければならないことはある。


(そう。それに、もっと衝撃的なことはたくさんあったもの)


 あの後戻ってきたアレクサンドラが、ラスターを実験体にしディアナを殺した犯人像について話し始めた時だ。


 先ほどは流してしまったが、ラスターには自身が原因でディアナが殺されたと思われては困る。

 動揺は残りつつも、平常心を装ったリディアは「犯人が一緒とは限らないでしょう」と言った。


 しかしその瞬間ラスターはリディアに冷めた目を向けた。往生際の悪い愚かな人間を見る眼差しだった。


「……あいつから、全てを聞いている」

「え、誰から何を?」

「マクシミリアンだ」

「え……」


 その瞬間、脳裏に『お前との約束で守れなかったことがある』と言っていたマクシミリアンが頭をよぎった。


 生前、ディアナが彼とした約束は片手で足りる。その約束はほぼ全てラスター絡みだ。その全てを守ってくれているようだったマクシミリアンが、守れなかった約束は何だったのだろうと、少し気にかかってはいたのだが。


「全て知っている。……お前が俺を助けるときに保護膜を使ったことも。俺を実験に使った犯人がいつか俺を奪いにくるかもしれないから、もしも自分に何かあったら俺が生活に困らないよう、誰にも害されないよう守ってやってくれと頼んでいたことも」


 全てを知られていることに、リディアは愕然とした。


(マクシミリアンの馬鹿……!)


 友人の裏切りにリディアは思わずこぶしを握る。

 ディアナを亡くしたばかりのラスターを守ってくれたことはありがたいが、これだけは知られたくなかったのに。

 ラスターは勘が良いから、あのマクシミリアンでも隠し切れなかっただけかもしれないが。


(……きっと、傷ついたでしょうね)


 しゅんとする。自分を好きだと言ったラスターと、最期に泣いてた時のラスターの姿が交互に思い出されて胸が痛くなった。


(おそらく犯人はミラー公爵だもの。何とかして捕まえて、ギタギタにしないと気が済まないわ)


 しかしリディアがそう思って口を開こうとした時、アレクサンドラが「早く犯人を捕まえたいところだろうが」と言った。


「ラスター殿の話では、ミラー公爵の体には主への叛逆の痣はなかったのだろう?」

「ああ」

「えっ」


 主への叛逆のことも知っていたことに些か驚きつつも、それ以上にミラー公爵の体に何もなかった、ということに衝撃を受けた。

 そんなリディアに目を向けて、ラスターが淡々と説明をする。


「……古龍討伐の際。古龍に吹っ飛ばされて気絶していたその場の人間を、全員ひん剥いた。こんな馬鹿げた実験を考え実行する権力者は、国王かそれに近い公爵が一番怪しいだろう」


「あなた国王陛下を裸にひん剥いたの!?」


「命を助けてやったんだ。それくらい良いだろう」


 良いわけがないと思ったが、しかしラスターはその場で国王に公爵位を賜っている。

 ――国王が良いと言ってるみたいだし、まあいいのだろう。リディアがそう流そうとした時、アレクサンドラがくつくつと笑った。


「ふふ。そういうところが面白くて、つい手を貸したくなる。人間の陰謀やその成れ果てには飽きているが、ラスター殿のそういったところは面白い。偏執的なところもなかなかに良い」


 そう言いながらアレクサンドラは「わたしはミラー公爵が携わっていることに間違いはないと思う」と言った。


「彼は黒幕で、協力者が他にいるのかもしれぬ。十六年の歳月を経て、主への叛逆の痣が消えたのかもしれぬ。あるいは神事に出向いていたミラー公爵は仮の姿……色々、考えようはあるだろう」


「ディアの術の効果が切れることはないが……他の可能性は、充分にあるだろうな」


「まあどちらにせよ、そのうち犯人は接触してくるのではないかな。これはわたしの勘なのだが。……そこでそなたがリディア殿を守れれば、その妄執も少しは楽になろうだろうて」


 話はそこで終わり、謎を多く残したまま。混乱する頭のままで、サラヴァン辺境伯城を後にした。


 その一日を思い返して、リディアは深くため息を吐く。


(――今日は、色々なことがありすぎたわ)


 眠れればすべてを忘れるリディアでも、さすがに今日は眠れそうにない。


(温かい飲み物でも飲んで――夜風に当たりましょう)


 ベッドから起き上がって、リディアは部屋から出た。






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