第二話 龍の恋人 その三
四月になり、高校三年生に上がった。学校で辰麿と婚約している噂が出ても、一蹴しているが、学校が休みの日は必ず、平日は夜遅くまで予備校がない日は放課後、龍神社に行って辰麿と逢っている。兄弟の居ない自分には辰麿と話すと安心するのだ。だが龍神社の近所には高校の同級生が多く住んでいて、同じクラスで一番話の合う男子馬場君の家は、数少ない龍神社の氏子だった。後に結婚式で世話役をしてくれて、人間の区役所に婚姻届けを提出する大役をしてくれた。
大学の天文学科を卒業した辰麿は予定通り、神主の養成所に入った。
龍神社は明治元年に寺から、諸々面倒臭いので神社になった。前身の寺はここにあった旗本屋敷にあった、プライベートな持仏堂だった。表には決して出せない面倒なことで、青龍の保護者が徳川政権から明治政府の宮内庁に変わって、神社に建て替えさせられたのだった。神社になったところで、地域の鎮守になるわけでもなく、元あった武家屋敷内の龍眼寺という小さなお堂が廃仏毀釈で神社になったので、プライベート神社の体で、政府の管理外の神社となり、今もって神社本庁に属していない。水神辰麿は神主の叔父に教わっているということで、神主の仕事を人間体が中学生の時からしていた。養成所に行くのは現世で生活するためのアリバイみたいなものだった。
青龍こと辰麿の元に、内閣官房の笠原と人間に化けた鬼、野守の息子の寺田曼珠が逢いに来た。こいつは女神とのハイブリッドで角は生えていない鬼だ。社務所の座敷で、定期的な面談だった。お守り売り場の後ろの土間に続く、十畳程の広い畳敷きの和室に通す。部屋の中央にある、やたらと彫刻の多い座卓を挟んで話す。二人は恐れ多くも神獣様の煎れた茶を頂いた。スーパーで買った安い煎茶である。
青龍が
「教授に誘われたので、ハワイの天文台見学に行くから、パスポート頂戴」
「水神様、パスポートはマイナンバーカードがありますので、パスポートセンターで普通に手続きをとって大丈夫です。龍なのでご自分で飛べばよろしいでしょう」
「そんなことしたら、教授が驚くんで飛行機に乗って行くよ」
「水神様の花嫁、宮前様はお元気ですか。薬学部へ進学とのことで、先日の模擬試験では国立大学を希望されていました。どうされますか」
相変わらずこの笠原というノンキャリアの官僚は不愉快な、品がないというのか。僕の担当になることは、特別待遇を受けられるって、分っているのかな。小手毬に何かしたら、野守さんに言って、地獄行きにするよ。
「代々木の予備校の模試のこと、先週だよね、相変わらずよく調べて来るんだ。小手毬が何処の大学に行くかは自由なんだ」
この二人と入れ違いに、小手毬が社務所に遊びに来た。出ていく笠原の姿を見て何処かで遭った気がした。
「龍君、また遊びに来ちゃった。夏休みは補講ばっかりになりそう」
神獣様自ら、煎茶を煎れて差し上げる。彼女は生贄なので、茶葉を変え丁寧に煎れる。
「あら美味しい。龍君がお茶を煎れてくれるなんて珍しい。」
「小手毬、薬学部に落ちたらお嫁さんにしてあげる」
「ありがとう龍君。ちょっと大学に落ちたらどうなるのかなと思って、少し凹んでいたの、
ちゃんと勉強して、国立の薬学部に入るわ。今晩も勉強を頑張ろっと」
「ちゃんと付き合おうよ、小手毬」
辰麿の結婚という言葉を、ぶった切って小手毬が反論する。
「何で私が辰麿の嫁にならんといけないの。もう神社に来ないから」
小手毬にとって辰麿は、心やすい幼馴染だ、付き合うとか恋愛、ましてや結婚を考える男ではない。小さな神社の冴えない神主なのだ。薬学部に入学して、イケメンの彼氏と付き合うのだ。十八歳でそこそこの美人の私なら、いける。
「撤回するから、また神社に遊びに来てよね」
「また来て上げるから、絶対にこういうことは、言わないようにしてね」
辰麿は時々、自分の事を恋人婚約者と人前で言う、子供の時ならいざ知らず、高校生ともなると冗談ではない。あと数年で結婚適齢期だ、事実でもないのに、止めてくれと小手毬は思った。こういうやり取りは、何十回もしたが、結局水神辰麿の妻になってしまうのだった。
昼下がりの日比谷公園、寺田曼珠は父の野守と待ち合わせをしている。明るい春の日差しが花壇の花々を鮮やかに照らす。天国の花園と同じくらい鮮やかなチューリップだな、この時期だけだけど天国そっくりだ、お母さんはこういうの好きだよなと、曼珠沙華は思った。
寺田曼珠こと曼珠沙華は現在、十六歳の地獄の高校生でありながら、東大法学部とダブルスクールをして、さらに内閣官房のアルバイトをしている。傍目にはスーツを着ているのか若い官僚にしか見えなかった。
木々の茂る森のような場所は、冥界=あの世に通じ、特に地獄と通じている。現世に来る時には、龍神社の裏の竹林のような幽世を通る妖怪も多いが、現世で亡者の捕獲や、十王庁での裁判の調査のため現世に頻繁に行く鬼は、人目につかぬ深い木陰を利用していた。
人間とすると長身な体に黒い着物、何処の織なのか矢鱈と光る黒い羽織を纏った野守が現れた。羽織紐はごつく瑕のついた翡翠の管玉を数個連ねたもので、現世では見かけない。野守は細面の女顏で一見細身に見えるが騙される、近くで見ると、大柄で筋肉質だ。獄卒として亡者を責めることは無くなったが、拷問の腕は地獄一と囁かれている。顏は不老不死故に若くも見えるし壮年にも見え、立ち姿が何処か冷たい艶のある男だ。鬼も龍程ではないが術が使える、不審がられないように、術で額の一本角と指の鉤爪を隠していた。
欠伸をするサラリーマンがいるベンチの隣で、曼珠沙華に風呂敷包みを渡しながら、
「これお母さんから、野菜の地獄煮と脳吸鶏の唐揚げ」
「土曜日になったら直ぐ帰るのに」
「お母さんは心配しているんだよ」
親が一人暮らしを心配するのは、人間も鬼も同ようだ。
「例のお嬢さんの様子はどうだ」
「宮前小手毬のこと、あの子頑張り屋さんだ。受験勉強で予備校に通ってる。この間の代々木の予備校の模試で、国立の薬学部の合格ラインを超えていたよ。これ極秘に情報を出させたやつでさ。高校もきちんと通っているし、目白の雅楽師さんの元にも週一で稽古している。真面目でメンタルが強いそうな子だ」
「男関係はどうだ」
「高校の男子に人気がある。さっぱりした性格で、少々男前でそこそこ美人何で、狙っている男子は多いと思う。
可哀そうに悉く青龍に邪魔されているのになー。当人は龍神社にほぼ毎日青龍に逢いに行っているが、青龍に口説かれても抵抗している。本心は青龍とは付き合いたくないようだよ」
「ほほう、それは面白い。術に掛けられてるとも知らずに、お嬢さんも大変だ。八千万年前奴は身体を子供に戻す前は、人間でいうところの二十代の、イケメンのモテ男だったんだよ。美青年といわれ女が山のように寄って来て、やりたい放題だったのだ。再度大人になったら今度は大した容姿ではなくなっていたとは、面白いものだ。奴のセルフイメージが昔と変わらないのは、滑稽だな」
「口説いても口説いても、振られる青龍はなかなかのものです。私なら諦めるなー。時間的には後二年あるので、如何にかする積り何でしょう」
「龍は秘密主義で何を考えているかは、口を割らないので分からん。龍珠と言われる配偶者の実態は皆目分からない。ただ個体数が少ないながら、その神の身体での生活を見ると、我々神・妖と差して変わりはないのだが」
二人は総理大臣官邸に向かって、歩き出す。矢鱈と艶っぽい和服姿の野守を見て、道行く人が不審と感じないのは、術を掛けているからだ。
「お父さん現世の大学、詰まらないよー。お父さんの作った地獄の高校の方が、レベルが高くて刺激的だよ。この間のグループ学習の叫喚地獄運営は、大変だったけれど実践が出来て良い授業だった。地獄省獄立の一般レベルの高校と比べると、人間の最高学府って、刺激的じゃないというか、学べるものがないよ」
空恐ろしい話をしながら、親子は官邸近くで別れた。近くの公園の木陰より野守は地獄に戻って行った。
学校が終わった夕方、いつものように小手毬が社務所にやって来た。座敷で寛ぎながら話し込む。
「龍君は昔は賢そうだったのに、今は馬鹿っぽいよ。特に私の名前を呼ぶとき、舌足らずで馬鹿に見えるよ」
「小手毬、どこが馬鹿っぽいの」
「それ」
「話ていることも幼い、本当に五つ年上なのかな」
そのことについては辰麿は分っている。話せないことが多いのだ。龍は他人に説明したり理解されたりすることに、価値を置かない。龍は本能が多く占める神獣だ、同族の龍以外に共感されなくても、事を成せるからだ。
昨年の卒論作成で、馬鹿っぽく見えるせいなのか、研究室で院生や助手に、内容が飛び過ぎていて纏められるかと、ぼこぼこにされていた。秋の卒論発表会で形になりそうだと解わかった時に、周囲の目が変わった。まあ中学も高校もそんな様なものだった。
小手毬の彼氏になれないのも分る、小手毬は身長百八十センチ台の長身スレンダーが好き、辰麿の身長は百七十センチに達していない。今現在は並ぶと小手毬の方が身長は低いが、超えてしまうかも知れない。そういうときのための和装だ神主だ。流行りじゃないけど二枚歯の高下駄を履こう。顏もお公家さん顔で、男性アイドルでも野生的なのが好みの小手毬のお気に召さない。今の基準ではイケメンじゃないのも知っている。以前神の身体を大人にしていた時も今と同じ容姿だったが、瓜実顔が、高雅で美青年と云われていた。
今でも青龍は美男子だと思っている。素直で劣等感がない、いい性格だと辰麿は感じている。
制服姿で座敷に転がっている小手毬が、鞄から写真を取り出した。
「お稚児さんの行事って、今年もやるの」
「お稚児さんって。何んのこと」
「狐とかろくろ首とか馬に変身する、コスプレも祭りも龍神社でやってなかった」
「えー、うちの神社は八月のお祭りの他は、そんな行事はないよ」
辰麿は小手毬が何を言っているのか分からなかった。取り出した写真には幼い辰麿と小手毬が、金襴の煌びやかな水干を纏い、ところどころ宝石が埋め込まれた瓔珞を長く垂らした金の冠をかぶった写真だった。
「これお祭りで、お稚児さんになったときの写真でしょう、私が引っ越しちゃう前くらいのときの」
辰麿は写真を嘗め回すようにじっくり見てから、
「大事にしてくれてありがとう。僕と小手毬が婚約した時の写真だよ。この後僕の仲間たちと盛大な宴会をしたんだよ」
「婚約。何なのそれ」
水神辰麿と婚約していること知り、小手毬は絶句した。何か特別な神社のお祭りだと思っていた、幼い思い出が実は婚約式だったという。
「私、覚えてないよ」
「いつも『お兄ちゃんのお嫁さんになりたい』って小手毬は言っていたじゃないか」
「えーそんなこと、あー言っていたかも。うちは両親が不仲で、不安な気持ちになって龍君のお嫁さんになりたいって言ったんだと思う。小さい子供のいうことを真に受けるなんて。第一お父さんお母さん保護者の許可は取っていたの。どうかしてるよ龍君」
「僕が十二歳、小手毬が七歳で、合意の上で婚約したんだよ。お引越しするんで別れたくないというので正式に婚約したんだ。君の気持を無視して無理矢理じゃないんだ。
いいかい、僕のお嫁さんになることは特別なこと何だ」
と言と辰麿は小手毬の手を取って目くらましをかけた。社務所の裏手に出たと小手毬が感じると、すぐ大きなお屋敷の大広間に連れて行かれた。
畳を一枚一枚数えてもパッと数えきれない、おそらく百畳以上はありそうな大きな座敷だった、座敷にはこれは見たことがないくらい幅のある板敷きの縁側が付き、その庭に向けて開け放たれた開口部の先は、広い竹庭になっていた。縁側まで出て庭を見ると、生い茂る竹で昼なお暗い庭には、明かりのついた古風な行灯や石塔が所々見える。竹林には藁葺き屋根の田舎風の家や、洒落た武家屋敷と江戸時代風の家が散らぱって見えた、中には大正時代風の洋館もあった。
室内に目を向けると、天井が格天井で。板に龍の絵が描かれている。この龍はよく古い絵で見る鹿の角をしてお爺さんのような皺々な顔ではなく、角は枝分かれしていない真っ直ぐな長い角で、顔には皺がない若い龍だった。欄間の彫刻も凝ったもので、高校生の小手毬でも、京都の有名寺院のような上品で高価な建材で造られた座敷だと分った。庭と反対側を向くと一段高い座敷がその上にあるようだったが、金襴の模様のついた布を貼り回した簾、神社にある御簾というものが下ろされて中が見えないようになっていた。古文の授業で習う平安文学で身分の高い人がいる場所のようだ。
「ここは何処なの」
「龍屋御殿といって、僕の住まい。結婚すると小手毬が住むお屋敷だよ」
龍神社の裏手は崖の筈だった。どうしてこんな大名屋敷が建てられているのか、小手毬は混乱して理解できなかった。御簾の内側を覗こうとしたら辰麿に、
「この中はプライベート空間で、結婚したらこの奥の部屋に住むんだよ」
「悪い冗談でしょう、私、辰麿と結婚しないわ」
「駄目だよ小手毬ー」
振り向いて竹庭をみると、小手毬は小走りに縁側の端まで行った。あれは何、もしかして、龍君と一緒に東京の街を眺めた東屋なの、背伸びをした。竹の庭の向こうの方に、瓦葺の古風な建物があった。日本の伝統工法で建てられた床の高い一階建ての建物だった。奇妙な建築で、神社の神楽殿のように高欄を回し、一四方に柱があるばかりで、扉も引き戸もなく舞台のように外から中が良く見える造りだった。神楽殿と違うのは三方から見えても、神楽殿には松羽目が描かれた壁が何処か一方につくのに、これには壁がなく四方から中が見える舞台の様な建物だった。
はじめて見た建物のはずなのに、既視感があった。竹を揺らすさらさらとした音がする。竹藪の向こうに東京の街、スカイツリーも見えた。
「あそこに行ったことがある」
小手毬はよく見ようとして、縁側で爪先立った。
「覚えていたんだね、小手毬は僕のことをお兄ちゃんと呼んで、慕っていたんだ。ある日愛おしくて愛おしくて、幽世に連れて来てしまった。
君は竹の葉が風になびく音を、『なあに』と聞いたんだ」
「何か覚えている。ふわりという感じがして目を開けると、あそこで二人だけで坐っていて、崖の下の街を見ていたの、しんみりしたかなー。あの頃の龍君は頭も良くて頼りになるお兄ちゃんだった。今の辰麿は只の馬鹿だもの。
この座敷も来たことがある気がしてきた」
「ここで婚約の宴を開いたんだよ」
お姫さんと王子様になって、多くの氏子さん達に祝福されたのは、婚約したからだというのだ。あの綺麗な着物を着せられたことは鮮明に覚えている、飛び切り可愛いピンクの着物の上に赤い金襴の水干を纏った。その模様が三角の連続模様、鱗型に吉祥紋が織られた金襴だった。龍君は丸紋の少し大人びた青い水干だった。今でも鱗型模様が好きだ。頭には辰麿とお揃いの金冠を被った。お能で使われる金冠にもっと長い瓔珞を付けたもので、金冠には、龍君は青と緑の宝石が埋め込まれて、私のは赤とピンクと緑とレモン色だった。辰麿と御簾の前の席に坐ってお祝いしてもらっのだが、今思うと和風結婚式の披露宴みたいなことになっていた。
婚約祝いの宴と辰麿に言われると、引っ越しで別れる前に、辰麿との絆を求めたのは、七歳の自分自身だった。あー納得、すとんと腑に落ちた。
よく思い出すと、娘の祝いの席に、両親も祖父母も来ていない。小手毬は強烈な思い出だったが、そのことについて家族の話題に載ることもなかった。もしや辰麿が家族に内緒でやったことなのか。内の親も知らないことか。それと参加者は氏子さんと思っていたけれど、そもそも龍神社にはそんなに氏子がいるのか。
龍君が氏子が少ないと話している、がしかし、思い出ではこの広い座敷一杯に客が来ていたのだ。
男は紋付き袴が多かった、直衣に烏帽子姿もちらほらいた。女性は黒い江戸褄か振袖に、平安装束の唐織の打ち掛け姿。皆おはしょりをしないで、裾を引いていた。打ち掛けの奥女中のような女性には親切にしてもらい、お菓子ももらった。その人はのっぺらぼうだった。その他にもろくろっ首の女性に色々聞かれた気もした。日本髪を結った芸者さんかなと思った三人組の女性は、日本舞踊を踊っている最中に、狐に化けたのだった。
「龍君、見間違えかも知れないけれど、宴会に来ていた人が、妖怪に変身したのですけれど、誰なの」
「僕の眷属達」
「眷属って何に」
「眷属は僕が使役する。いや僕の家来で、楽しいことは一緒にするんだ」
「あそこにいた人たちは、妖怪だったの。龍君ももしや妖怪なの」
自分でも何を言っているか分らなくなってしまったなと、思いながら辰麿に質問した。
「僕は龍だよ、名前は青龍、伝説の東の青い龍は僕の事だよ。神々と妖怪の世界では最も位が高い、神獣なんだ。
小手毬は龍のお嫁さんになる運命なんだよ。それは君が望み、僕が決めたことだ、小手毬は僕の可愛い龍珠なんだ」
小手毬の隣に立っていた水神辰麿は、一瞬にして青い龍に身を変えた。広い座敷一杯に器用にとぐろ巻いた龍は鱗が青い宝石の様だった。群青・瑠璃・藍・水色・藤紫・青紫・・あらゆる青系統の色が煌めく鱗に覆われた青龍に、小手毬は口から
「綺麗―」
と、言葉が自然に溢れ出た。それと同時にどう受け止めたらよいか 彼女は戸惑ったのだ。一体身体が何メートルあるか見当はつかないが、頭は4メートル位あり、口は丸呑みされそうに大きい。あの辰麿の正体である、絵画の中の皺皺な老人貌の龍とは大分印象が違う。瓜実顔で目が大きい。黒い瞳がフライパンぐらいある。人間の辰麿と同じように瞳を動かしていて、人間同様愛嬌がある。
本当に辰麿何だとそれで妙に納得もしながら、理系進学クラスにいて理系人間になる自分が、現実として受け止めていいのか、それより辰麿自身も理系大学にいるのに自身が妖怪であることに矛盾を感じないのか。現代人がそもそも人間に化ける龍を信じられるのか、人間の作りだした科学の英知すら超えた事象なのか、小手毬は理論的には絶対に信じられないが、妙に納得している自分にも驚いた。
「ジーと見詰めて、僕のこと好きなんだ」
「不思議なものを見ると観察するのが、人間でしょう」
冷たく突き放してみた。辰麿は幼馴染できついことを少々言っても、関係は壊れない友人で兄のような存在だった。今の辰麿は小手毬の事を女として見ている。それは大迷惑だ。
龍なのに選挙権持っています。前回の参院選は、区役所に期日前投票に行き、区役所ご自慢の展望台に上りました。
恋人と云いうより、片思い。お互いの気持ちはすれ違っています。約一億歳の理性を持った青龍こと水神辰麿君は、今どきの女の子の気持ちも分からない訳ではありません。世界最上位の我満神獣なのでどうなるのでしょうか。