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あんないの日

 体育館に向かっていると、その直前で七海さまに出逢いました。授業はもう始まっている時間のように思えますが、どちらに行かれるのでしょう?


「ああ、よかった。来てたんだ」

「まあ、わたくしのお迎えに来てくださったのですか?」

「そ。先生に頼まれたんだよ。見学だしね」


 どうやらわたくしが居ないことにお気付きになられた先生が、七海さまにわたくしを探すよう依頼してくださったようですわね。わたくしがもう少し早くこちらにたどり着ければお手を煩わせることもありませんでしたのに。

 七海さまと一緒に体育館の中に入ると、皆さまは体育館の中をただひたすらに走っておりました。体育館の壁から壁まで、壇上にも登って壁に一度触れ、折り返して反対側の壁を目指し走っています。あら? 水泳の授業とお伺いしましたが?


「本日は水泳の授業ではございませんでしたの?」

「そうだよ。あれは準備運動。終わったらプールに移動して泳ぐよ」

「そう、なんですのね」


 わたくしが思い描いていた水泳の授業とは異なりますが、学校、先生によって内容は異なりますものね。独自の文化というものもございますし。

 皆さまが壇上にまで登って走られているので、走らないわたくしたちに居場所がなく、二人で壁際にぴったりとくっついていることしか出来ません。他に出来ることも無いので七海さまと少々閑談しておりますと、先生がわたくしたちに気付いてこちらに歩いてこられました。走っている皆さまの進路を気にすることなく、壇上からまっすぐと。


「思ってたより来るの早かったな。んじゃ、七海、今日は月ヶ瀬に校内案内してやってくれ。授業が終わるぐらいの時間には教室に居ればいいから」


 朗らかな表情を見せながら、先生はそうおっしゃりました。授業の時間を全て使って校内の案内なんて、わたくしの為だけに良いのでしょうか。


「今日だけな。ああ、先に着替えてもいいぞ」


 良いそうです。わたくしが転校初日だから特別待遇していただけるようですわね。授業が終わる前にお着替えをしても良い、という情報はもう少し早く頂けると大変嬉しかったですわね。などと、贅沢を言っていては罰が当たりますね。

 お礼を申し上げると、わたくしたちは先生のお言葉に甘えてまずはお着替えさせていただくことにいたしました。


「月ヶ瀬さんは教室で着替えた?」

「ええ、そうさせていただきましたわ」

「そっか。んじゃ着替え終わったら教室まで迎えに行くよ」

「七海さまはどちらで?」

「別の場所。色々あってね」


 これ以上は立ち入りすぎですわね。わたくしは「そうでしたの」とだけお答えして、七海さまと一度お別れしました。

 七海さまにも特別な事情がおありのようですわね。わたくし程ではないかもしれませんけれど、少々親近感がわきますわ。それに、お着替えする為に別のお部屋を使用させていただけるという前例があるのは嬉しい情報でしたわ。前例があるならば、わたくしも別のお部屋を使わせていただけるかもしれませんもの。

 七海さまがお迎えに来て下さる前に、わたくしは手早く着替えを済ませ、教室の前でお待ちすることにいたしました。ほどなくして七海さまが来られ、校内のご案内が始まります。うふふ、探検みたいで心が躍りますわ。


「とりあえず……よく使うところからかな。移動教室で使うのは、ほとんどあっちの棟」


 そう言って七海さまは教室の方を指さされました。教室があるのでその先のものはわたくしの目には映りませんが、確かにそちらの方角には渡り廊下でつながった建物があったと記憶しておりますわ。

 外観では渡り廊下はニ階部分のみを繋いでいるように見えましたから、これからニ階に向かえばよろしいのですわね。


「ちなみに上の階は一年の教室。多分使うことは無いけど」

「承知いたしましたわ。それでは、三年生の教室は下の階にございますのね?」

「そういうこと」


 職員室は正面玄関から入ってすぐ右、一階にございましたからさらにもう一つ下ということになりますわね。

 中央階段から二階に降り、東側へ進みます。渡り廊下は階段のすぐ近くにございましたわ。

 渡り廊下よりさらに奥にもお部屋があるようですわね。ええと……『社会科準備室』に、『資料室』。それから『進路指導室』と書かれておりますわね。こちらに伺うことは少ないかもしれませんわ。

 渡り廊下の壁には窓が等間隔で設置されており、外の光が差し込んでいますわ。それと、風の通り道なのかしら。爽やかな風が吹き抜けて、やや涼しいですわね。真夏の太陽が隠れてしまっていたらもう少し涼しかったかもしれませんわ。


「こっちが実験室。むこうは視聴覚室と情報処理室だよ」


 渡り廊下の先にあったのは七つの教室。実験室が第一から第三まであり、視聴覚室と情報処理室はそれぞれ第一と第二がありますわ。どの教室も今は鍵がかかっているようで、扉の窓から少しだけ中を拝見させていただくに留めますわ。


「授業によって教室が変わりますの?」

「視聴覚室と情報処理室は基本第一だけかな。埋まってるときは第二になる。実験室は第一が化学で第二が物理、第三が生物って感じだけどその時次第かな。どの教室を使うかは事前に言われるよ」

「そうでしたの。かしこまりましたわ」


 教室同士は遠くありませんし、移動教室だということさえ聞き逃さなければお部屋を間違えてしまうことは無さそうですわね。それに、皆さまとご一緒に移動すれば大丈夫ですわよね」

 二階の確認が済みましたので、次は階段を使用して三階に向かうことにいたしました。この棟の階段は渡り廊下の横にある中央階段一つだけだそうですの。混雑することもあり、外の非常用階段を使用される方もいらっしゃるそうですわ。授業の合間の時間だけでは余裕を持った行動は難しいものね。知恵を使われる方がいらっしゃるのも当然だわ。


「三階は美術室、書道室、音楽室、家庭科室、技術室があるよ。芸術選択で使うことが多いかな。どれにするかは決まってる?」

「ええ、美術にいたしましたわ」


 入学手続きの際、選択授業についてのご説明もしていただきましたわ。皆さまは四月に授業をお選びになるのだとか。芸術選択では美術、書道、音楽から希望する授業を一つ選べると伺いましたので、わたくしは美術を。その他に総合選択という選択授業があり、そちらは十数以上の授業の中から一つと言われましたわ。どれも魅力的なものばかりで大変悩ましかったですの。

 今は他のクラスの方が芸術選択の授業で教室を使われているようですわね。お邪魔するわけにもまいりませんから、静かにお暇致しましょう。

 残るは一階ですわね。どのような教室があるのかしら。


「うちの学校、ちょっと変わっててさ」


 七海さまは階段を降りながらそうおっしゃいます。わたくしはその言葉の続きを待ちながら、七海さまと一緒に階段を降りてゆきます。

 ですが、何故か七海さまはその言葉の続きを中々お声に出されず、気付けばわたくしたちは一階にやってまいりました。さて、一階の教室は──


「一階は全部調理実習室なんだよね」

「……ちょうり、じっしゅう」


 七海さまが再びお言葉を発せられるのと、わたくしが一階にある教室を確認したのはほとんど同時だったかと思いますの。わたくしは驚きのあまり七海さまにお返事をすることが出来ませんでしたから、あまり詳しいことは分からないのですが。

 調理実習室。

……お料理をする授業があるということですわよね。


「うちのクラスは金曜日にやるよ。三限目と四限目ね。月ヶ瀬さんは多分同じ班になるんじゃないかな」

「……今週の金曜日ですの?」

「そう。今週の金曜日。だから弁当は要らないよ。持ってこないようにね」

「……承知、いたしましたわ」


 お料理は作るだけでは終わりませんものね。作ったら当然、お料理を味わわなくては。

 皆さまが作られたお料理を食べるのですね。

 嗚呼、いけませんわ。七海さまの前で表情を曇らせてしまうわけにはいきませんわ。


「七海さま、わたくし、他のお部屋も拝見させていただきたいですわ」


 くるりと半回転して調理実習室に背を向けると、わたくしは七海さまへそう申し出ました。半分は本心ですもの。おそらく、七海さまに気取られることはございませんわ。


「今何時だろう? 部室棟までいけるといいんだけど……急ごっか」


 よかったですわ。

 七海さまは特に気にされる様子もなく、階段を登り始めました。わたくしもそれについて行きながら、『部室棟』とはどのようなお部屋があるのかを尋ねます。


「そのまんまの意味だよ。部活で使う部屋が全部そこにあるんだ。ああ、図書室も部室棟にあるね」


 図書室をまだお見かけしていないと思いましたら、そういうことでしたの。部活動の為に建物を用意されるだなんて、素晴らしい学校ですのね。

 部室棟は本校舎の一階から伸びる渡り廊下を利用して向かうそうですの。ですから、わたくしたちは一度二階に登って渡り廊下を使い本校舎に行き、本校舎の一階に降りてから部室棟へと向かいます。


「部室棟までが遠いんだよね。授業でたまに使うことがあるから大変なんだよ」


 七海さまは眉を下げてそうおっしゃいました。

 確かに、部室棟までは少し距離があるようですわね。先程までは移動教室で使用する棟──お名前が特に無いようですので、便宜上、南校舎とお呼びしましょう──に居たものですから、尚更そう感じるかもしれませんわ。部室棟があるのは南校舎とは反対の西側にあるそうですの。


「ああ、ちなみにここが第二体育館。球技選択で使うよ」


 歩調を速めて部室等に向かっていると、渡り廊下の途中で七海さまがそうおっしゃられました。授業で使われていた体育館よりも新しく見える建物がございますわね。二つあるうちのもう一つですわ。

 体育館についてはあらかじめもう一つあることは存じておりましたので特別記憶に留めることもございませんでしたが、七海さまが口になさった『球技選択』というお言葉は初めて伺いましたわ。体育にも選択授業があるのですわね。


「球技選択とは、どのような授業をされるのですか?」

「女子はバスケとテニスと卓球から選べるよ。一年の時がそうだったから、多分二年もそうだと思う」


 なんでも、球技選択とは十二月から三月ごろまでの間で行われる授業なのだとか。七海さまも一年生の時の情報しかご存知無いようですわ。

 わたくしが参加出来るか否かは難しいところではありますが、お話を伺ったところ、とても魅力的な内容でしたわ。是非とも、わたくしも参加させていただきたいと感じましたの。


 それにしても、こちらの学校……自由に選ばせていただける授業が豊富ですのね。いろいろとあって、大変迷ってしまいますわ。

殆ど重要なシーンは無いです。

鳴海ちゃんが学校の構造を理解するだけで一話使ってしまいました……

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