表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

少年の目覚め

 そこは暖かい空間だった。穏やかで、柔らかくて、優しい。少年は微睡みながら、その時を待っている。時折外から聞こえてくる誰かの歌声は、少年に聴かせるためのもののようだ。感覚的に少年は、ここが死後の世界だと思った。だとすればなんて幸せな世界なのだろう。


「愛しい私の子…早く会いたい。」


 誰かの声が聞こえるが、これが世にいう神の声だろうか。


「私は貴方を愛するから、健やかに生まれてきてね。」


 誰かが”壁”を撫でた気がする。誰か分からないが、決して不快ではないものである。


(僕は…求められているの?)


 今までの人生で、求められる経験は少なかった。親とは幼少期に別れ、同じ奴隷の少年たちとともに来る日も来る日も仕事をさせられた。栄養失調で弱ると、同じく折檻のせいで上手く動けなくなった仲間と共にショーに出させられた。そのショーには、同じように貴族に使い捨てにされた奴隷が集まっていた。平民の家にも奴隷は仕えているが、平民は奴隷を簡単に捨てられるほど余裕がない。しかし貴族の場合は違う。その日の気分で貴族に殺されることだって少なくないのだ。


(僕を求めてくれているんだ…嬉しい。嬉しい…早く会いたい。)


 こんな自分にも、優しくしてくれる人がいるのだとすれば、その人のためになんだってやろうと思える。それほどに愛情に飢えていた少年は、何んとかその場所から出ようと暴れだした。


「い…痛いっ!」

「エメ様!陣痛が始まりましたか?誰か、医者を!」


 暴れれば暴れるほど周囲が騒がしくなる。しかし少年は外に出ようと必死で、そんなことには気づかない。ひとしきり暴れ続け、何時間も経ち、疲れ果てた頃に、思いもよらずすぽんと外に出された。”産婆の手によって”。


「おぎゃあーっ!おぎゃあーっ!」


「なんと目出度い。男の子ですよ。」

「エメ様、男の子です。エメ様に似ている男の子です。」

「オーブ、まだ赤ん坊でしわくちゃよ…。でもほんと…似ている気がするわ…。」


 感覚が明確になり、先ほどいた場所よりも強く他人の気配を感じる。未だに周囲は見渡せないが、先ほどまでいた場所と異なることは少年も…いや、赤ん坊でも分かった。


「無事に生まれたか。」

「旦那様!」

「美しい男の子です。」


 また新たな存在が来たらしい。俄かに騒がしくなり、大勢の人に囲まれている気がする。


(誰?誰?あなたたちは…。)


 先ほどまで感じていた安心感はどこへ行ったのか、恐怖が勝り、身体を精一杯動かして暴れた。


「元気な子ですね。」

「男の子は元気なほうがいいだろう。」

「名前は何にされますか?」

「…今日この日に生まれたんだ。リュシアという名前はどうだ?」

「リュシア…素敵な名前…。」


 この時、まだ少年は、自分の第二の人生が始まったことを知らずにいた。そしてその人生が数奇なものになることも…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ