短い物語
「助けて!助けて!」
――ああ神様。
「死にたくない!死にたくないよ!」
何故人間は、同じ人間に、これほど残酷なことができるのだろうか。
「ああああああああああああああああ!!!!」
目の前で、少年が獣に喰われている。腹を引き裂かれ、内臓を喰いちぎる魔獣。
すぐそばから聞こえる絶叫は耳の奥に、こびりついて取れない。
この国にはありがちな、だけどどこまでも美しい蔦色の瞳が、こちらを見ている。
お前だけ助かるなんて許さないとでもいうように。手をぴくぴくと動かしながらこちらへ伸ばしていた。
やがて少年の瞳は輝きを失う。
「…っひ!…っひっ…はっ…!」
呼吸が上手くできない。つい昨日まで共に飯を食っていた友が、目の前で魔獣に喰われたのだ。
遠くから、とてつもない歓声が聞こえてくる。大勢の民が、この光景を楽しんでいるのだ。この残酷なショーを娯楽として見ているのだ。拳を突き上げ、笑顔で「殺せ!殺せ!」と叫んでいる。
奴隷がすべての労働を請け負い、暇になった民衆の唯一の娯楽が、奴隷を使った命のショーなのだ。
少年たちは奴隷の親を持つ、生まれながらの奴隷だった。使い潰され、捨てられる、モノ以下の価値である存在。
上を向けば、一等見やすい席に座る、誰よりも着飾った者の姿が見えた。中には自分と同じ年頃の少年もいる。その少年は明らかにこの状況を楽しんでおり、口に笑みを浮かべてこちらを見ていた。
(生まれてくる場所が違うだけで、こんなにも立場が違う。)
ずっと分かっていたことだが、心の奥底に、何か重苦しいものが沈み込んできて、呼吸もできない。
そうして動けずにいると、食事を終えた魔獣が、次の獲物を見据えてこちらに歩みだしてきた。
(ああ…僕は死ぬんだ…。)
最初から最期までろくなことがない人生だった。いつ死んでもおかしくない日々の中で、いざその時が来れば、やはり予想通りの結末だった。でもこれでようやく…。
(僕も一緒に逝くよ。さみしくないだろ…。)
楽になれる…。
……はずだった。