第八話
学園内に花畑を作ることは思った以上にすんなりと通すことが出来た。元々中庭に花などを植えるスペースはあったのだが、前年度まではあった園芸部が廃部になった為にそのままにされており、むしろ歓迎される形となった。
オーレリアは皇女とは思えない簡素な服に着替えると注文していた花々を受け取り、植える準備をしていった。
『あ、レスターだ!』
妖精達が騒ぎ、くるくると回り、オーレリアもそちらを見た。
「レスター、、、いつもありがとう。貴方がいてくれて良かったわ。」
「いや、いいんだ。辛くなったらいつでも来てくれ。」
「うん!じゃあアレク様の所へ行ってくるわ!」
「頑張って。」
そんな会話が聞こえてきてしまい、オーレリアは眉間にシワを寄せた。
マリアは、レスターに失礼ではないだろうか?レスターは公爵家でマリアは男爵家だ。目上のものに対して、友達だからで済まされない気がするのだが、こちらの国では違うのだろうか。
そんなことを思ってレスターを見つめていると、妖精の群れがこちらに近づいてきている事に気がついた。
顔が見えないから気づかなかったが、こちらに向かってきている。
しまった。不躾に見つめてしまったのだとオーレリアは気づくと途端に顔が赤くなるのが分かった。これではマリアに文句は言えない。いや、言う必要もないのだが。
「皇女殿下。何をなさっているのです?また、一人で、、いや、護衛は見守っているのですね。」
オーレリアは恥ずかしくなり目を背けると、髪を耳にかけて、どうにか落ち着こうとすると、レスターの「うっ。」という声が聞こえ思わず顔を上げる。
『レスター照れてる。』
『オーレリアの首筋が色っぽい!』
『きゃはは!』
その言葉にオーレリアは顔を真っ赤に染めると、何か会話をしなければと口を開いた。
「あの。」
「そういえば。」
お互いに声が重なり、また沈黙が訪れる。
「どうぞ。」
「すまない。」
二人はまた声が重なり、思わず笑った。
オーレリアは、レスターと一緒にいると心が温かくなるから不思議だなと感じながら笑った。
そんな様子に、レスターは顔を赤らめるのだが、オーレリアからはもちろん妖精が群がっているようにしか見えない。
「皇女殿下は何をされているのです?」
「妖精さんのお花畑を作ろうと思いまして。」
「妖精のお花畑、ですか?」
「ええ。ここのスペースが空いていると聞きまして、妖精さん達が喜んでくれればと思いまして。」
その言葉に、レスターは頷き、笑みを浮かべると言った。
「素敵な考えですね。私の母も同じような事を言って庭を作っているんですよ。」
その言葉に、オーレリアはだからレスターにはこんなに妖精が群がっているのだろうかと思った。もしそうなら、さぞや美しい庭なのだろう。
「どのようなお庭なのか見てみたいですわ。」
「そんなに大したものではありません。ですが、皇女殿下お一人で作られるのですか?」
「ええ。、、、、はしたないかしら。」
思わず不安になったオーレリアだったが、妖精達に約束してしまった以上やめるつもりはない。
「いえ、いいのではないですか?ですが、力仕事もあるでしょう。よければ私も手伝わせて下さい。」
「え?」
「庭仕事は、結構好きなのです。」
その言葉に妖精達が盛大に騒いだ。
『昔から庭造りしてたよ!』
『レスターの育てる花はキレイ!』
『やったぁ!またレスターが花を育ててくれる!』
その喜びように、オーレリアは断れないなと感じ、申し訳ないながらにレスターに言った。
「お手伝い頂けるなら、とても嬉しいです。」
「では、よろしくお願いします。」
二人はその後、土作りから始めていった。かなりの時間かかるだろうと思っていたが、レスターが力を貸してくれたおかげでだいぶ進めることが出来た。
「今日はこのくらいにしましょう。明日学園が終ってから続きをしましょう。」
「え?よろしいのですか?」
「もちろん。途中で投げ出したりしません。では送っていきましょう。」
オーレリアはレスターにエスコートされて自室まで戻った。
よくよく考えてみると自分は見すぼらしい格好だし、きっとはしたないと思われただろうなと考えると顔から火が出そうなほど、恥ずかしくなった。それでも、レスターと明日また準備を一緒に出来ることが嬉しい。
「あら、、、なんでこんなに嬉しいのかしら。」
オーレリアは不思議に思いながらも、その日はとても気分よく眠る事が出来た。
その頃、オフィリア帝国の一室で突如として手紙が目の前に現れたアルバスは小さな悲鳴を上げて驚いたとか。驚かなかったとか。その真実を知るものはいない。(妖精以外。)