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第六話

 数日後、国王であるラオックは大きくため息をついた。


「またか。」


「はい。またでございます。」


 宰相のダンテは、額の汗をハンカチで拭いながら、書類に書かれていることを報告していく。


「本日のオーレリア皇女の暗殺未遂は四件。朝食にて毒物の混入。学園にて弓矢で射られ、机の中に毒針、寝室に毒蛇。ですがどれも未然にオーレリア様自身が気付かれ事無きを得ております。ただし、犯人は依然として捕まってはおりません。」


 学園にいる者については皆調査されており、オーレリアに反感を持つものに関しては、厳しく監視がついている。


 そもそも敵国の皇女である。恨みを持つ者は少なくない。だが、今回の和平には必要な存在だという事は殆どのものが理解し、皆には友好的に接するようにと王命が下っている。


 それなのにも関わらず、これだけの暗殺未遂である。


 しかも犯人が見つからないという事もおかしい。


 オーレリアの周りにはかなりの数の護衛がついている。なのにも関わらず、それを掻い潜って暗殺未遂が行われるのである。


「オーレリア皇女は何と?」


「ええっと、こうした事態は想定内なので、事を荒立てないでほしいとの事です。」


「聖女か。女神様か。」


 だが、その言葉にダンテは表情を曇らせた。それにラオックは眉間にシワを寄せる。


「何だその顔は。」


 ダンテは、ラオックを見て静かに言った。

 

「むしろ、これだけ暗殺未遂が起きてなお、生き延びられているのは不可解ではないでしょうか。」


 ラオックはその言葉に腕を組み唸り声を上げた。


「自作自演と言いたいのか?」


「はい。」


 ラオックはその言葉に苦笑を浮かべ、そしてダンテの前に先程読んでいた資料を投げて渡した。


 ダンテはそれを受け取ると、パラパラと目を通していき、そして息を呑む。


「これは、、、、。」


「人とは本当に恐ろしい生き物だ。そんな中で生きているのに、あそこまで美しく生きられるのは何故なのかむしろ不思議でならないな。」


 ダンテは自分の浅はかな考えに溜息をつき、ラオックに頭を下げた。


「失言申し訳ございません。」


「いや、いい。普通ならばそう考えるのが当たり前だ。引き続き護衛を頼む。」


「はい。」


 


 オーレリアは、妖精達に囲まれて過ごす毎日に楽しさを見出していた。


『オーレリア。はい、右にずれて。』


『はーい。次は左。』


『はい、そこで、一歩後ろに下がって~。』


『そこでまた前に、三歩。』


 まるでダンスを踊るように歩いていくと、あら不思議。地面には透明の針が刺さっておりオーレリアを容赦なく狙っている。


『あ、居なくなったから普通に歩いて大丈夫だよ。』


『良かったねぇ。』


 オーレリアはふわふわと笑いながらそういう妖精達に感謝しながら、なんて素敵なお友達かしらと笑みを深めた。


 オーレリアは自分の周りにいる為に侍女が怪我をしてはいけないと、行き帰りなどの暗殺に狙われそうな場所には侍女を伴わない事にしていた。


 一人で歩くのは危ないと言われたが、一人でないほうが危険性が増すので侍女を説き伏せた。


 オーレリアはレスターにハンカチを返そうとするのだが、いつもマリアが先にレスターを連れて行ってしまう為ずっと返しそびれていた。


 一応、追いかけるのだが、いつもマリアに相談を受けていたり、慰めていたり、応援していたり、なんだか話しかけられない雰囲気でなんとも言えず、ずっとそのままになっていた。


 中庭を通り、妖精達に連れられて進んでいくと一際妖精の群がるところを見つけ、オーレリアは周りを見回した。


 どうやらマリアはいないらしく、一人のようである。


『レスター落ち込んでる。』


『はぁ。早くマリアから離れればいいのに。』


『なんでなのかなぁ。』


 その言葉に、オーレリアはどうしようかと悩んだが、ゆっくりとレスターに歩み寄っていった。


「あの、レスター様?今よろしいでしょうか?」


「はい。皇女殿下。どうかされましたか?」


 優しい声だな、と、オーレリアは感じながらハンカチを取り出すとレスターに差し出した。


「先日はハンカチをありがとうございました。」


 妖精の間から手が出てきてハンカチを受け取ってもらえてオーレリアはホッとした。


「返すのが遅くなり、申し訳ありませんでした。」


「いや、、、むしろわざわざありがとうございます。あの、皇女殿下は、失礼ですが一人でここへ?」


 レスターが少し訝しんでいるのが解り、オーレリアは首を横に振った。


「遠巻きながら騎士様方も一緒です。」


 その事にレスターはほっとした様子であった。オーレリアはそんなレスターに笑みを浮かべた。


「お優しいですね。」


 オーレリアの言葉が以外だったのか、レスターは不思議そうに言った。


「いえ、普通だと思いますが。」


「そんなこと無いですよ。」


 少なくとも、オーレリアが見てきた数日間は、マリアにとても真摯に接し、優しくて、オーレリアは少し羨ましかった。


 すると、またハンカチを差し出され、オーレリアは驚いてレスターを見た。


「また、寂しそうな顔をしてらっしゃいますよ。大丈夫ですか?」


 その言葉にオーレリアはドキリとした。


「れ、、、レスター様はよく見えますね。」


 そんなに妖精に群がられているのに、オーレリアの顔がよく見えたものだと驚いてしまう。


「?、、、まぁ、目の前ですから。見えますよ。」


「え?本当にですか?では、これは、何本ですか?」


 オーレリアは驚いて思わず指をピースサインにしてレスターに向けた。


「えっと、2本ですね。皇女殿下は私をバカにしていらっしゃいますか?こんなに間近なのに見えないわけがないでしょう?」


「そんなに囲まれているのに凄いですね。慣れですか?」


「は?何を、、、。」


「レスター!!」


 その時、突然大きな声が聞こえたかと思うと、マリアがレスターの元へと駆けて来た。


「マリア?どうしたんだ?」


「聞いて!アレク様ったら酷いのよ!」


 突然現れ、会話の最中なのにも関わらず自分の話を始めたマリアにオーレリアは驚いた。


「マリア、今は皇女殿下と話をしている最中だから。」


「え?あー。敵国の人ね。」


 オーレリアはその言葉に目を丸くした。ここまではっきりと言われるとむしろ清々しく感じるから不思議だ。


 レスターは焦り、マリアを自分の背に隠すとオーレリアに頭を下げた。


「申し訳ございません。」


「いえ、お忙しそうですし、話はまた。失礼いたします。」


 オーレリアは軽く会釈するとその場を後にした。遠目から振り返ってみると、マリアはまたレスターに何かを相談しているようであった。


『嫌な子。』


『僕たちあの子嫌い。』


『オーレリアは好き!』


「私も好きよ。ありがとう。」


 そう返事を返しつつも、もう少し話してみたかったなと思うオーレリアであった。



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