第四十二話
帝王オランドは病状の悪化を理由としてオーレリアに帝王位を譲ることに決まり、その後すぐにオランドは療養の為に僻地へと送られる事となった。
出立の朝、オーレリアの顔を見たオランドは以前のような威厳など全く感じさせないほど憔悴し、目を血走らせていた。
「魔女の娘が。この国を乗っとるとはな。」
ボソボソとした声が響いた。
オーレリアは拳を強く握りその言葉に耐えていると、レスターが横に立ち、その肩を支えた。
そっと触れられ、一瞬驚いたオーレリアであったが、そこからまるで勇気を分けてもらったかのように、オランドを見て尋ねた。
「母は本当に魔女だったのですか?」
その言葉にオランドは苦笑を浮かべて言った。
「魔女でないなら、お前を殺せなかった理由がわからん。俺はお前の母に呪われたのだ。お前を殺せないようにな。この手で何度もお前を殺そうとした。だが、殺せなかった。」
憎々しげに言い放たれた言葉にオーレリアは唇を噛んだ。
父と母の間に何があったのかはオーレリアは知らないし、知りたくもなかった。
殺されそうになる度に恐怖にさらされてきた。
その度に、ベッドの上で震えて泣いてきた。
何故自分がこんなにも厭われなければならないのか。
やはり、自分も魔女だからなのか。
だが、その言葉を否定するように聖獣が言った。
『呪いではない。あれは、オーレリアを守るための力だ。それにオーレリアの母は魔女ではない。』
「っは!ならばなんだという!」
『母の血をオーレリアは色濃く継いでいる。聖獣を癒す力を持ち、妖精を見る目を持つものを、人が何と呼ぶのか。だが、我らの間ではこう呼ぶぞ。聖女とな。』
「嘘だ。」
『真実だ。』
オーレリアは目を丸くすると、聖獣は高らかに吠えた。
その瞬間に空からは光が降り注ぐ。
するとオーレリアの目には妖精達が楽しそうに踊ったり歌ったりする姿が見えた。
『この国の民には、以前からそれが分かってたようだ。だが、今では民からはオーレリアは聖女から女神へと格上げされたようだがな!』
『オーレリアは聖女!』
『女神!』
『僕たちはどっちでも大好き!』
聖獣は嬉しげに尻尾を揺らし、妖精達は舞い踊る。
その姿を見て、オーレリアは小さく息をついた。
オランドはその言葉に力を失い、ぶつぶつと何かをいっているが、もう、オーレリアの方を見なかった。
馬車にのせられていく父を見送り、遠くなっていく姿にオーレリアの瞳からは一筋の涙が落ちた。
悲しいのか、悔しいのか、よくわからない感情が胸の中を渦巻く。
だが肩に触れる手が温かくてそれだけで救われるような気がした。
「レスター様、、、ありがとうございます。」
「何も出来ずすみません。」
「いいえ。側に居てくれて、、、ありがとう。」
オーレリアの瞳から溢れる涙をレスターは見ないふりをしてその横にただ寄り添った。




