第四話
王立レイズ学園は、貴族の通うとてもきらびやかな学園であり、オーレリアはその美しい建造物に心を震わせた。
帝国では、学園に通うことは許されず、厳しい家庭教師を充てがわれていた。だからこそ、こうやって学園に通えることがオーレリアは嬉しかった。
そして、オーレリアにとってもう一つ嬉しいことがあった。
『キミがオーレリア?』
『ふふ。お人形みたい。』
『仲良くしてね。』
このレイズ王国には昔から妖精というものがいると文献に載っていたので楽しみにしていたのだが、可愛らしい妖精達がふわふわと飛んで挨拶をしに来てくれたのだ。
帝国には聖獣というものがいると文献には載っていたが、出会ったことがなかったので、妖精に出会えてオーレリアは朝から笑みを浮かべていた。
「朝から貴方の笑顔が見れるとは、今日はついているな。」
学園の案内役を買って出たヨハンはオーレリアの美しい姿に見惚れながらも様々なところを案内してくれた。
オーレリアは、こちらの国の人にとっては妖精は当たり前の日常なのだろうなぁとしみじみ思いながら回っていると、一際妖精の集まる所を見つけた。
「あの、殿下。あちらの方はどなたでしょうか?」
中庭のベンチに腰掛ける少女は、たくさんの妖精に囲まれていた。
「あぁ。あれは、、、マリア男爵令嬢ですね。そして、その横にいるのが公爵令息のレスター殿だな。」
「え?」
「ほら、男爵令嬢の横にいるのがレスター殿です。」
「え?は、、、はい。」
はっきり言って、オーレリアにはレスターの姿が見えなかった。何故なら、レスターの周りにはひしめくかの如く妖精が集まっているのである。
マリアを妖精が取り囲んでいるのかと思ったが、どうやら違うらしく、マリアの横にいるレスターに妖精が群がっているようだ。
妖精に好かれているのだなと思っていると、妖精達が口々に呟く。
『レスターは当て馬令息!』
『可愛そうなレスター!』
『こんなに素敵なのに!』
『マリアは見る目がなぁい。』
『ねー!!』
その様子から、レスター様はマリア様の事をお慕いしているのかしらと、オーレリアは考えながら少し頬を赤らめた。
どちらかと言うと血なまぐさい事の方が多いオーレリアにとって、こんな身近に色恋事があるのは初めてでドキドキとしてしまう。
そんな様子を見ていたヨハンは少し不機嫌になりオーレリアの顔を覗き込んできた。
「貴方はレスター殿が好みなのか?」
その言葉にオーレリアはきょとんとした顔を浮かべると、ヨハンは、顔を赤らめた。
「えっと、、、いえ、その、色恋事など見たことが無かったものですから。」
オーレリアのその言葉にヨハンは顔を引き締めると小さく「そうですか。」と返して案内を再開した。
オーレリアはその場を離れる時、なんだかレスターの顔を見てみたいような気がしたが、あの妖精だかりを見る限りは無理だろうなと笑みを浮かべ、その場を後にした。
オーレリアを案内し終えたヨハンは、そのまま国王の執務室へと足を向けた。
部屋に入ると、国王は忙しそうに書類に目を通していたが、顔を一度上げヨハンに尋ねた。
「オーレリア皇女の様子は?」
「とても落ち着いていてさすが皇女と言った様子ですよ。」
「どうだ?お前に落とせそうか?」
その言葉に、ヨハンは不機嫌に顔を歪めた。その様子に、国王は少し驚いたような顔をした。
「百戦錬磨と言われるお前がそんな顔をするとはな?」
「甘いセリフを吐いても社交辞令とばかりに流される。かなりガードが硬いですよ。」
「そうか。まぁ三年あるからな、誰かしらがオーレリア皇女を射止めれば問題ない。」
「あ、そう言えば。」
「なんだ?」
「公爵令息のレスターを見ていましたね。まぁ、その時マリア男爵令嬢と共に甘い雰囲気でしたので頬を赤らめだけかもしれませんが。」
国王はその言葉に、唸り声を上げた。
「レスターか。あいつは頭が硬いからなぁ。まぁ、オーレリア皇女が気に入ったわけではなかろう。ヨハン。頼んだぞ。」
「、、、はい。」
「なんだ。お前にしてはやる気がないな。」
ヨハンは大きくため息をつくと言った。
「あの方は、私には無理かもしれません。あまりに、美しすぎる。父上も、明日謁見されるのでしょう?会えば私のこのなんとも言い難い気持ちがわかりますよ。では、失礼します。」
言いたい事だけ言ってその場を後にした息子の背を見送りながら、国王は溜息をついた。
女性事に関しては自信に溢れていたヨハンが一日でやる気を削がれるとは、一体どんな聖女なのか。
国王は小さくまた溜息を漏らした。