第三十六話
レスターはオーレリアの後を追い、馬を走らせると、追いついたところでグレッグとオーレリアが騎士らの前で向かい合い、話をする姿を見た。
背筋を伸ばし、真っ直ぐに兄に対峙する姿に、レスターは目がそらせなかった。
きっと、本当は兄に立ち向かうことに恐怖もあるはずだ。
だが、そんな事など感じさせないくらいにオーレリアは堂々としている。
レスターにはその姿が眩しく、だが、それでもその横に立ちたいと望んでしまう。
それならば、自分はここで立ち止まるべきではないのではないかと思う。
もし、本当にオーレリアの力になりたいと言うのであれば、ここでオーレリアと共に行動するのではなく別行動するべきだろう。
本当は、駆け寄りたい。
その背を支え、共にいたい。
けれど。
レスターはオーレリアの周りを見た。
暗部であった、敵であった者達がオーレリアの事を主と定め、味方についた。
聖獣もオーレリアを王と定めた。
ここにはオーレリアを守る者達がいる。
それならば、自分が迷うのは筋違いである。
自分には、今出来ることがある。
オーレリアの横に並びたいのであればそれくらい出来る男にならなければいけない。
「オーレリア。」
小さくそう名を呼び、レスターは馬を走らせた。
森の中を駆け抜けていく。
そんなレスターを森は優しく見守り、道を開けるようにして木々を揺らす。
妖精達はそんなレスターを見て頬を赤く染めながら囁きあう。
『レスターが気づいたぁ。』
『当て馬令息脱却かぁ?!』
『なんだかきゅんきゅんするー。』
クスクスと笑いながらそう言う妖精の言葉は誰に届くでもなく、森の中をこだました。




