第三十話
オーレリアはレスターの背を見送ると、息を吐いてから扉を開けようとした。
『中に誰かいるぞ。』
「え？誰かしら。」
自室へ行くには、この隣接する客間を通って行かなければならない。
オーレリアはゆっくりと扉を開けて、その光景を見て目を見開いた。そして、ゆっくりと一度扉を閉めた。
『何故閉める。』
「えっと、そうね。でも、どういう事かわからないわ。」
『敵意はない。好意は感じる。』
「なら、大丈夫なの、、かしら。」
オーレリアはもう一度扉を開けると中に入り、皆を見つめた。
すると、エドモンドが顔を上げ口を開く。
「オーレリア皇女殿下。我らはオーレリア皇女殿下に忠誠を誓う決意をしたものです。マッドマスター家は、これから生涯オーレリア皇女殿下に仕える所存です。」
続いてエルザが口を開いた。
「我らは影より生まれでた貴方様に忠誠を誓った者達です。穢れた我らですが、貴方様に忠誠を誓わせていただきたい。そして、我らを手足と思い、使って頂きとうございます。」
その様子にしばらくの間思案したオーレリアであったが、ゆっくりと口を開いた。
「状況は、把握しているのですね？」
「はい。グレッグが動き出したと。」
「ですので、出立の準備は整っております。」
エドモンドを見、エルザを見、そして、皆を見回したオーレリアは手を強く握りしめて口を開いた。
「私は、帝王である父、オランドから帝王位を引き継ぐ所存です。これは、茨の道。本来であれば兄グレッグが継ぐべきです。ですが、平和の為、私は父と兄を裏切るのです。綺麗事ではありません。それでも、そんな修羅の道を歩もうとする私についてこようと言うのですか？」
エルザが口を開いた。
「この国にいる暗部、そして帝国にいる仲間もオーレリア皇女殿下に忠誠を誓うと申しております。アルバス様からの最後の通達では、帝国に残る正当なる貴族らからもオーレリア皇女殿下を支持すると、そして、何より、民が望んでおります。」
その言葉に、オーレリアは目を丸くした。
「民の殆どが、オーレリア皇女殿下のご即位を望んでおります。どうか。オーレリア皇女殿下。ご命令を。」
「我らに貴方様と共に戦う、ご命令を。」
その眼差しに、オーレリアは表情を固くする。
だが、足元にランドルフが体を擦り寄せて力を抜けとばからりに鼻を鳴らした。
『そもそも、我に選ばれた時点で、そなたが王だ。』
輝く聖獣の姿を皆が目にして目を見開く。
あえてその姿をさらし、そしてランドルフは吠えた。
『我、オフィリア帝国を守護する聖獣なり。オーレリアは我が王である！』
その言葉に、皆の心が震える。
やはり、この方が、この方こそが本当のオフィリア帝国の王なのだと歓喜が心を震わせる。
オーレリアは一度まぶたを閉じるとゆっくりと開いて言った。
「戦うのではなく、話し合いに行きます。私についてきてくれますか？」
皆の声がこだました。
オーレリアは、オフィリア帝国の帝王位を掴むため、レイズ王国から出立した。
