第三話
レイズ王国の一室で国王ラオックは宰相ダンテと共に頭を抱えていた。
「まさか、オフィリアの聖女が来るとはな。」
「こちらで死なせてしまった場合、レイズ王国が悪者となり帝国軍が攻めてくると、最悪ですね。」
「あぁ。とにかくオーレリア皇女には無事にお帰り願いたいね。だが、密偵によるとオランド帝王はオーレリア皇女を酷く疎んでいるらしい。」
「そうなのですか?」
「オーレリア皇女は戦争に反対しているようでね。実の父親に命を狙われるとは哀れだな。」
「帝国でのオーレリア皇女人気はかなりのものだと聞き及んでいますが。」
「あぁ。だが帝王の事だ。良い戦争の火種としか思ってなさそうだな。こちらとしてはオーレリア皇女を懐柔しこちらへ引き入れたい所だ。」
「そうですね。学園で共にする中で懐柔する為に何人かには協力を頂けることになっています。」
「そうか。だが、一筋縄で行くかどうか。ヨハンにも声をかけてある。」
「ヨハン殿下であればオーレリア皇女も無下にはできませんしね。それに愛を知らぬ皇女とも言われていますし、案外、コロリとは行きませんかね?」
「どうだろうなぁ。」
だが、なんと言ってもまだたかだか十六の小娘。色恋沙汰には疎いだろうし、免疫もないはずだ。見目麗しい者に愛を囁かれればどうなるかは普通は目に見えている。
「まぁ、オーレリア皇女にとっても悪い話ではないだろうしな。よし。ではその方向で進めてくれ。」
「かしこまりました。」
出来ることならば三年は戦争はしたくない。民も平穏を願っているし、帝国と戦争をしても利益がない。それよりは和平していたほうがいくぶんかましだ。
「頑張ってオーレリア皇女には生き延びてもらわねばならないな。」
「第一王女殿下は心配ではないのですか?」
そういった途端、ラオックの表情は曇る。
「あれは、、、どうにも手がつけられない。帝国で問題を起こさないかが心配だ。」
「そう、、でございますねぇ。」
「あちらでは死なせないだろう。メリットがないからな。殺せば分が悪い事くらい帝国もわからない訳がない。」
「第一王女殿下も、殺されるような女性ではありませんしね。」
「あぁ。」
出来ることならば、三年の後に帝国にそのまま嫁入りさせて和平を継続させたいところだが、それは時期尚早だろう。
まずは三年。
オーレリアは、レイズ王国へと入場し、三年の時を過ごす部屋へと案内された。案内をしてくれたのは第二王子であるヨハン・フェンダー・レイズであり、これから通う学園では同級生になるとの事であった。
ヨハンは、オーレリアを見た時、これは本当に生きているのだろうかと目を見張った。
白く透けるような肌に、銀色のさらさらとした髪。凛とした瞳はエメラルドの輝きを放ち、宝石のようにきらびやかである。
しかもオフィリア帝国の聖女とうたわれるオーレリアはここに案内する中でもとても謙虚でありヨハンはなんと美しい姫君かと驚いた。
これは、出来ることならば手に入れたい。
オーレリアを手中に収めることが出来れば、和平の継続も叶うだろう。
そんな考えが頭の中をめぐり、ヨハンは笑みを崩さないようにしながらもオーレリアに見惚れてしまう。
「困った事があれば、すぐに教えてくださいね。」
「はい。ありがとうございます。」
「では、今日は貴方もお疲れでしょうからこれで。あなた付きの従女は三名部屋の外に控えていますから何かあればそちらに命じて下さい。」
「何から何まで、ありがとうございます。」
「いえ。では。」
ヨハンが部屋を後にし、オーレリアはやっと肩から力を抜くとソファにポスっと大きく息を吐きながら座った。
長旅などした事のなかったオーレリアは今はとにかく疲れて何もしたくない。
こんなに疲労困憊になるのは初めてで、大きなため息が出てしまう。
帝国から付けられたメイドや護衛騎士などはむしろ自分には害にしかならないだろうとオーレリアは判断し、帝国に置いてきた。なのでこの城には見知っているものは誰もいない。
自分は人質なのだ。
オーレリアは、深呼吸するとこれからの事に思いを馳せる。
自分の体を抱き、小さな声で、自分を言い含める。
「大丈夫。元々味方はいない。ここも、オフィリア帝国も場所は違えど状況は同じ。」
そう考え、オーレリアは小さく息を吐いた。
どこにいても自分は厄介者でしかないのだ。それがひどく悲しくて、オーレリアはしばらくその場から動かずにじっとしていた。
その後、お茶を入れに来てくれたメイドが入れたお茶に微量ながら毒が入っていることに気付いたオーレリアは、ここでも自分でお茶をいれるしかなさそうだとまたため息をつくのであった。