第二十八話
オーレリアはレスターにきょとんとした表情を浮かべていたのだが、ラオックが口を開いた。
「少し、待ってくれ。整理がしたい。」
その言葉に皆が同意し、休憩がてら紅茶が振る舞われた時であった。
突如として妖精達が騒ぎ始め、ランドルフも警戒するように立つ。
オーレリアはその様子に何かがあったのだと悟ると妖精達の声に耳を傾けた。
『ご乱心だよ。』
『オランドの息子のグレッグがご乱心!』
『警告!警告!』
『グレッグが軍隊を引き連れて進行中!』
『オーレリアを連れ戻しに来るよ!』
『オーレリア逃げて!』
その言葉を聞いたオーレリアは眉間にシワを寄せるとを頭の中で様々なことを考える。
そんな様子に、ランドルフは言った。
『戦うか。我が王。我の力を持ってすれば、グレッグ程度の小物、すぐに打ち取れる。』
オーレリアは、その言葉に唇をかんだ。
いずれは対峙しなければならないが、争い事を生みたかったわけではない。
その時、聖者アンサムが口を開いた。
「妖精がざわついていますね。声が小さくて、聞こえませんが、、、。」
オーレリアはこんなにも大きな声で言っているのに、アンサムは耳が悪いのだろうかと一瞬そう思う。
その時であった。
オーレリアの目の前に妖精が現れて言った。
『アルバスが国王に捕らえられた。謀反の罪に、牢へいれられちゃったよ。』
事態がいよいよ動き始めた。
オーレリアは、小さく息を吐くと自分の覚悟を決める。
時が来たのだ。
思ったよりも早かったが、今が動くべきときなのであろう。
オーレリアは立ち上がると恭しく国王ラオックに頭を下げた。
「国王陛下、お願いがございます。」
突然のオーレリアの言葉に、ラオックが首を傾げると、オーレリアはハッキリとした口調で言った。
「我が兄グレッグがこちらに進軍中との事。目的は私の帰国でしょう。」
良くしてもらっているとは言え、ここは本来は敵国。帝王が床に付していることはあえて言わず、オーレリアは優雅に笑みを浮かべると言った。
「どうやら、私の顔を父が見たくなったようで迎えに来たのですわ。どうか、一時帰国をお許しいただけませんか?」
ラオックはその言葉に眉間にシワを寄せるとを首を横に振った。
「我が姫がオフィリア帝国にいる。まして三年は帰れない約束。それは出来ない。」
その言葉に、オーレリアは奥歯を噛みしめるが、ラオックはいたずらを思いついたかの様に言った。
「だが、どうやらオーレリア皇女は体調が優れないようだ。室内に下がり安静にしている間は、誰もそれを妨げはしないだろう。」
オーレリアはラオックの言葉に驚いた後、ゆっくりと頭を下げた。
「ご配慮頂きありがとうございます。では、本日は申し訳ございませんが失礼いたします。」
「レスター。オーレリア皇女についていってやりなさい。」
ラオックの言葉に、レスターは驚きながらも頷き、立ち上がるとオーレリアと共に部屋を後にした。
ラオックはすぐに情報の収集を図るようにと命じた。
オーレリア皇女は我が国の妖精を使い、情報すらもいとも容易く手に入れているようだ。これは付き合い方を考えなければならない。
聖獣も妖精も味方につけている相手を、敵には回したくない。
時代が動く時が来たのだ。
「念の為に軍の準備を整えよ。」
「はっ!」
帝国の王が変わるときが来た。
気になることは山程あるが今はそれどころではない。
国を守る事が一番、次は帝国と巧く付き合っていけるようにどう動くかである。
「さぁ、どうなることか。」
ラオックは、オーレリアの異質ながらも真っ直ぐにこちらを見つめる瞳を思いだし苦笑を浮かべた。




