第二十七話
皆が目を丸くし、固まっている姿を見たオーレリアは、ただの犬か何かだと皆が思っていたのにと驚いているのだなと勝手に解釈すると言った。
「とても優しい子です。」
『はは!そう言えるのは我が王くらいだろう。人間よ。我の姿、見えるようにしたが、ちゃんと見えているか?』
ラオックは、ゆっくりと頷くと、何も言わずにアンサムに視線を移した。
アンサムは頷き、ランドルフに尋ねる。
「聖獣様。貴方様は、オフィリア帝国を守護すると言う、聖獣様でしょうか?」
『そうだが、今はオーレリアが我が王だ。国はまぁ、オマケのようなものだ。』
その言葉に、皆の表情に緊張が走る。
だが、そんな中オーレリアはにこやかに笑いながら言った。
「ふふ。ラルフ。冗談が上手いわねぇ。」
いや、絶対に冗談ではないと皆が思った。
聖獣の力は姿を突如として現した瞬間から肌で感じている。
明らかにこちらを威嚇しており、オーレリアに手を出すとどうなるか分かっているだろうなとばかりに殺気が飛んでくる。
そんな中でもほわほわとした様子で微笑んでいるオーレリアは異質ながらも美しく凛として見える。
その様子に聖者アンサムは、女神の様だと心の中で思った。
ラオックは何という事であろうかと冷や汗をかく。
オフィリア帝国にいるアルバスから、帝王位をオーレリアが継ぐ算段について話を受け、こちらもそれに賛同はしたが、聖獣を味方につけているとは。
だが、聖獣は言った。
帝国はオマケだと。
ならば、このままこちらにオーレリアを招き入れればその聖獣の力も手に入れる事が出来るのではないかと考えてしまう。
それを見越して聖獣はこちらを威嚇しているのだ。
王の意思を惑わせるなと。
どうするべきかと悩んでいると、レスターが口を開いた。
「オーレリア嬢。もう一つ確認をしたいのだが、貴方は、妖精にも好かれているのではないか?」
その言葉に、オーレリアは首を傾げると、クスクスと笑い声を上げた。
その姿を見た皆が返答を静かに待つ。
オーレリアは言った。
「好かれているのはレスター様でしょう?おかしなレスター様。」
レスターは何を言われたのか分からず、目を丸くするとオーレリアは言った。
「でも、レスター様に聞いてみたかったのですが、あの、いつもどうやって前を見ていたのです?」
「は?」
「だって、見えませんでしょう?それとも何かコツがあるのでしょうか?」
「え?」
皆が目を丸くし、オーレリアの言葉の意味を考えるが予想がつかない。
聖者アンサムは、言った。
「あの、それはどういう。」
「ああ。アンサム様はごらんになった事がないのですよね。ほら、皆?いつもみたいにして見せて。」
するとどこから現れたのか妖精達がわらわらと集まってくるといつものようにレスターを取り囲んだ。
「レスター様は本当に好かれていますわねぇ。」
クスクスと笑うとオーレリアに、その光景を見たアンサムは眉間にシワを寄せるとレスターに歩み寄り、そしてその姿をじっと見つめた。
そして、ゆっくりと状況を説明するように口を開く。
「レスター様が、妖精に群がられています。」
「え?」
レスターは困惑し、アンサムは妖精に尋ねた。
「妖精達よ。何故、彼に群がるのだ?」
『レスターは当て馬ー!』
『変な力に吸い寄せられて可愛そうだから。』
『力を貸してあげているの。』
アンサムはその言葉に、レスターの方へと手をかざすと、ふむ、と小さく息を漏らした。
「呪い、、とは言いませんが、何かよく分からない力にレスター様は流されそうになっていたようです。妖精達のおかげでだいぶ和らいでいるようですが。」
その言葉にオーレリアは驚いた。
「そ、そうだったのですか?レスター様は、大丈夫なのでしょうか?」
「ええ。多分大丈夫ですよ。」
「良かった。」
ほっとした様子のオーレリアであったが、レスターは自分の状況が分からずに戸惑った。
「あの、一体どういう事なのでしょうか?」
アンサムは、妖精に群がられるレスターに苦笑を浮かべると言った。
「貴方はかなりの数の妖精に群がられているのですよ。姿が見えないほどにね。ですがまぁ、大丈夫そうですよ。」
レスターはその言葉に驚いた後に、オーレリアに向き直ると言った。
「もしや、貴方には私の姿が見えていないのですか?」
「え?いえ、見えていますわ。」
レスターがオーレリアの方を見た瞬間に妖精達が散らばって姿を消した。いつもの様に、ポケットに一人だけ残っている。
「え?それは、どうして。」
妖精達のオーレリアとレスターの仲を取り持とうという優しさから、変な行き違いが生まれていた。
その様子に、聖者アンサムは見えないものと見えるものが一緒になるとだから厄介なのだと、小さくため息を漏らした。




