第二十一話
城下街の散策からしばらく経った休日ある朝、オーレリアは一人花に水やりをしながら笑みを浮かべていた。
花畑の花々は、オーレリアにたっぷりと水をもらいきらきらと輝いている。
『キレイだねぇ!』
『この庭は最高だよ!』
『あー。癒やされる~。』
妖精達は賑やかに話をしながら、まるで花の蜜を集める鉢のように、忙しなく飛び回っている。
妖精が匂いを嗅いだ花は、不思議と少し光って見えて、オーレリアは妖精の魔法のようだと笑みを深めた。
「おはようございます。オーレリア嬢。」
レスターに後ろから声をかけられたオーレリアは、振り返ると、クスリと笑いを漏らして挨拶を返した。
「おはようございます。レスター様。」
あの下街を散策して以来、妖精達はオーレリアに気を使ってくれているのか、近くに来るとレスターから少し離れて飛び回ってくれるようになったのだ。
そのおかげで、オーレリアはレスターの顔が毎日見れるようになってとても嬉しく感じている。
だが、レスターはそうとは知らず何故自分が今笑われたのか首を傾げた。
「どうしたのですか?」
「いえ、気を使ってもらいありがたいなと思いまして。」
「気を使う?」
「ええ。」
レスターはオーレリアが自分がここに来るのは気を使っているからだと思われている事に、少しショックを受けた。
自分はそんなつもりではない。
ただ、オーレリアに会いたくて、、、、。
そうふと思い、レスターは目を丸くすると顔が一気に熱くなるのを感じた。
「レスター様?お顔が真っ赤ですわ。どうかしましたの?」
オーレリアの白魚のような細い手が伸び、レスターの頬に触れた。
その瞬間、心臓が煩いくらいに脈打ち始めてレスターは、胸を抑えた。
「え?」
頬の熱さにオーレリアは目を丸くした。
「大変。お熱ですわ。レスター様。今日はもうお部屋でお休みになられて下さいませ。ほら、こんなに熱く、、、え?」
頬に伸びた手を、レスターに掴まれてオーレリアは小さく息を飲んだ。
レスターは赤く染まった真剣な表情でオーレリアに言った。
「容易く、、、男に触れてはいけません。」
「ふえ?」
なんとも情けない声が出たオーレリアは、レスターと同じく顔を真っ赤に染めた。
するとその瞬間に妖精達が歓喜の声を上げ始める。
『きやぁぁ?』
『純愛!』
『むずがゆいよぉ。』
『でも、二人なら応援するー!』
『うん!応援する!』
『それー!!!』
オーレリアは目を丸くして空を見上げた。
突然空に虹がかかり、そして二人の頭上に花びらが美しく舞いあがる。
「キレイ!」
オーレリアが思わずそう声を上げ、空を見上げた時、レスターはオーレリアを見つめ、小さく呟いた。
「あぁ。、、、キレイだ。」
レスターの瞳は真っ直ぐにオーレリアに向かい、その熱い視線な気付いたオーレリアは、頬を赤く染めたまま頷いた。
「キレイですね?」
純粋なオーレリアの言葉に、レスターはオーレリアを引き寄せて抱きしめたくなる衝動を抑えると、握っていたオーレリアの手を離して頷いた。
手を離されてしまったオーレリアは、自分が寂しいと思っている事に驚いた。
あぁまた自分は期待してしまっている。
駄目だと、オーレリアは頭を振る。
胸の中に広がる暖かな想いに無理やり蓋をして、オーレリアはこの胸の高鳴りはこの美しい光景のせいだと自分には言い聞かせた。
今はまだ、その時ではない。
そう思い、オーレリアは小さくまた呟いた。
「本当にキレイ。」




