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第二話

オーレリアは、毎週かかさずにスラムへと足を向けて炊き出しや、孤児院の手伝いなどを行っていた。


 自分が使える金額などたかがしれてはいたが、少しでもとオーレリアは民の為に働き続けていた。


 孤児院の子ども達はオーレリアを取り囲み、次々に一緒に遊ぼうとねだっている。


 オーレリアはにこりと笑みを浮かべた。


「今日は絵本を持ってきたの。皆で一緒に読みましょう。」


 子ども達はにこにこと頷き、オーレリアの読む本を食い入るように見つめている。


 どの子も戦争や病気で家族を失いながらも頑張って生きている。今、また戦争になればこの子達は生きていけないだろう。


 絵本を読み終わり、炊き出しの手伝いをしていると町の人々がオーレリアから貰いたいと列をなす。


 オーレリアは一人一人に声をかけながら励ましていく。


 そんなオーレリアの姿から、オフィリア王国では密かに聖女オーレリアと呼ばれていた。そして皆がオーレリアが必死に帝王を諌めようとしていたことを知っており、手酷い仕打ちを受けながらも民の為に、奮闘してくれている事を知っていた。


 そして、今回人質のように敵国へ行く事を反対する者も少なくない。


「オーレリア様。どうか、行かないでください。」


「行けば殺されてしまいます。」


「どうか、この国に居てください。」


 オーレリアはそう言われるたびに笑みを浮かべ感謝する。


「そう言ってくれてありがとう。大丈夫。この平和が続くように、勤めを果たすだけよ。」


 民はその輝くような笑みに、皆が心を打たれる。


 オーレリア様は女神様だ。


 民の間で、オーレリアは聖女のような女神様だという話がどんどんと広がっていった。




 オーレリアは荷物をまとめ、出立の準備が整うと大きく息を吐いた。


 ガランとした部屋には、然程思い入れもないが、ここに帰ってこれるとしたら、三年後である。


 オーレリアは、また大きく息を吐いた。


 帝王も兄もオーレリアの話など聞かない。


 この国の貴族達もほとんどが腐りかけている。


 どうすればいいのだろうか。どうすればこの国は救えるのだろうか。


 オーレリアは祈りを捧げながらこの国を憂う。だが、思っているだけではどうにもならない事をオーレリアは知っていた。


 だからこそ、何度打たれようが、帝王の所へも通った。


 だが、国を離れるとなればもう進言する事さえ出来ないのだ。しかも、三年生き延びられる確証はない。


 オーレリアは立ち上がると、ストールで顔を隠し秘密の通路を通り帝国軍団長であるアルバスの執務室へと足を向けた。


 アルバスの執務室はかなり奥まった所にあり、日中でも人はあまり来ない。


 部屋をノックするとアルバスの返事があり、オーレリアは部屋へと入った。


 ストールで顔を隠したオーレリアが部屋に入ると、アルバスは机から顔をあげ訝しげな表情を浮かべた。


「ここはレディが来るような場所ではないが。部屋を間違えてはいないか?」


 四十手前のアルバスの低い声にオーレリアは父を思い出し一瞬怯みそうになるが、どうにか堪えるとストールを取った。


 アルバスはその姿に目を丸くすると机からガタリと立ち上がりオーレリアの前に跪いた。


「皇女殿下。お呼びくだされば私が行きましたものを。どうなさったのですか?」


「話があるのです。そちらに座っても?」


「え?えぇ。どうぞ。お茶は?」


「いりません。貴方もそちらへ。」


 促されるままにアルバスはオーレリアの前に腰を下ろした。


 オーレリアはアルバスを見ると、凛とした声で尋ねた。


「アルバス。貴方の目から見て、この国は今後どうなりますか?」


 その問はとても残酷なものであり、アルバスは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべると、静かに返した。


「近い未来、滅亡の一途をたどるかと。」


 オーレリアはその言葉に満足したように頷いた。


「ですが、オーレリア皇女殿下がこの国に立たれれば、国は持ち直すでしょう。」


 希望の籠もった瞳に、オーレリアは現実を突きつけた。


「私は、三年のうちに暗殺されるでしょう。」


「っ!?そうはさせません。」


「帝王は、私を火蓋としようとしています。なので私も簡単には死にません。ですが、このままではいずれこの国は絶え、民が苦しむ。私はそんな未来は嫌なのです。」


 オーレリアの瞳をアルバスは見つめ返した。そしてその意を悟り、頷く。


「アルバス、準備を整えなさい。国のため。」


「はい。皇女オーレリア様の意、確かにアルバスは受け取りました。ですが、この国には皇女様が必要でございます。」


 オーレリアはニコリと笑った。


 その微笑みは美しく、アルバスは息を呑む。


「もちろん。私も足掻いてみせましょう。」


 



 オーレリアの出立の日、王城からは特になにも無かったが、町に出ればそれは一変した。


 沿道には人々が押し寄せ、オーレリアの出立を悲しむ。


 その声に答えるようにオーレリアは手を振り、そして笑顔を向けた。


 この国はまだやり直せるはずだ。


 オーレリアは拳を強く握りしめた。


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