第十六話
何故かその後アレクシスも手伝ってくれる形となり、三人で花を植えていると、そこへレスターがやってくる姿が見えた。
いつものように妖精に群がられている姿にも見慣れてきた。
たが、その後ろからマリア男爵令嬢が現れて思わず表情が固くなる。
いつもならここにはついてこないのに、何故だろうかと訝しんでいると、マリアはアレクシスに駆け寄った。
「アレク様!探したんですよー!?」
アレクシスは一瞬表情が曇るがすぐに笑みを作ると言った。
「あぁ、マリア嬢か。今日はオーレリア皇女殿下のお手伝いをしていたのだ。」
「え?敵国の皇女様の?」
その言葉に、その場にいたもの皆が目を丸くすると、レスターがいち早くマリアを諌めた。
「マリア嬢。失礼になります。謝ったほうがいい。」
「え?なんで?アレク様はそう思わないわよね?」
「ん?私は敵国ではないしな。そういう考え自体が分からない。」
その言い方から、マリアは慌ててオーレリアに言った。
「そうよね!アルメニア国からしたら敵国じゃなかったわ!ごめんなさい。」
「いえ、、、いいのよ。」
そう言いながらもオーレリアは少しむっとしていた。
アレクシスの言う事に素直に従うくせにレスターが先に注意してくれたのに、それには従わないなんて、と思ってしまう。
「でも、ならなんて呼べばいいの?オーレリアちゃん?」
その言葉に皆が目をまた丸くするが、同様に、オーレリアの事を違う呼び名で読んでみたいと言う気持ちからオーレリアの出方を待ちたくなる。
だが、レスターが諌めてしまう。
「その呼び方も失礼ですよ。」
オーレリアは、レスターをちらりと見て、確かにレスターは大抵、『皇女殿下』と呼ぶ。
ここは学園。
王族も貴族も平等に学ぶ場所だ。
オーレリアはレスターに向かって言った。
「ずっと皇女殿下というのも、気になっていたんです。良ければ、オーレリアと呼んでくださいませ。」
レスターは驚いたようだったが、何故か先にマリアが反応した。
「なら、無難にオーレリア様って呼ぶわ。」
「え?」
「え?何?文句あるの?」
何故そんなに喧嘩腰なのだろうかとオーレリアは思いながら、レスターに以外もここにはいたのだと思いだした。
レスターの事だけを考えていたオーレリアは恥ずかしくなり、少し俯くと頷いた。
その様子に、アレクシスもエドモンドも額に手を当てて小さく呻いた。
マリアはムッとしながら、はっきりと言う。
「文句ないなら呼ぶわよ。」
「はい。」
アレクシスとエドモンドもさりげなくそれに便乗した。
それから花畑作りは再開されたのだが、マリアもアレクが手伝うならと一緒にしてくれた。
だが、マリアはアレクにばかり話しかけて作業はあまり進まないようであった。
「ねぇ、アレク様?明日はお休みでしょう?お暇があれば、マリアと明日、お出かけして下さらない?」
その声が聞こえ、思わずオーレリアはレスターが嫌な思いになるのではないかと顔を向けた。
だが、レスターは黙々と作業をしており聞こえていない様子でほっとした。
「明日か、、昼であれば時間は作れるが。そうだ。オーレリア嬢も一緒に行かないか?」
「え?」
突然誘われたオーレリアは驚いた。マリアも目を丸くしている。
「えっと、、私は外に出ていい身ではありませんので。」
すると、レスターが口を開いた。
「私が同行しましょう。それであれば、許可は出るでしょう。まぁ、もちろん護衛はつきますが。」
「え?いや、私はアレク様と二人でお出かけをしたいなぁって。」
「それはまたの機会に。ぜひ、行こう。オーレリア嬢。」
オーレリアの心は揺らいだ。
はっきり言って、城下町の様子を見て回りたいのである。
自国との違いに気付ければ、帝国の改善すべき課題が見えてくるかもしれない。
だが、レスターは、迷惑ではないだろうか。
ちらりとレスターを見ると、レスターは言った。
「私の知る限りであれば案内しますよ。」
その優しげな声に、オーレリアは思わず微笑みを浮かべて頷いた。
その様子にアレクシスとエドモンドは少しばかり内心何故と思ったが、オーレリアが嬉しそうなので仕方がないだろう。
エドモンドは明日は仕事があり行けないことを悔やんでいた。
その後、日が暮れてきたので片付けていると、見えない位置でオーレリアの足をマリアは踏みつけて言った。
「明日は邪魔しないでよ。レスターと迷ったふりして別行動にしてね?」
「イッ、、、、?、、え?アレクシス様と二人になりたいの?」
「そうよ!分かってなかったの?」
マリアは足をどけると、オーレリアを睨みつけた。
「私は一生の恋をかけているの!」
そう言うとマリアはアレクシスの所へと駆けていった。
足は痛かったけれど、何となくマリアが真剣に恋をしていて、それ故に必死なのだという事がオーレリアには伝わってきた。
一生の恋。
思わずレスターを見つめてオーレリアは頭を振った。
自分にはそんな資格はない。
その様子を見た妖精達は、ひそひそと会議をしたのであった。




