おまけ
本編ラスト直後の話です。
周りに感想を聞くと、あった方がよい、ない方がよい。との意見が分かれました。
ということで、
せっかく書いたので「おまけ」として載せておきます。
「何のつもりじゃ?」
アパートへ戻るなり、いなくなったはずの地蔵が仁王立ちして待っていた。
「げぇっ?」
最初に遭遇した時と同じくらいか、それ以上の驚きをして見せた雅人だ。
「な、何でっ?」
「何とは、こちらの台詞じゃっ」
見れば地蔵は頭からつま先までビショ濡れになっているではないか。
「どこに地蔵にジュースをかける奴がおるかっ!」
地蔵は雅人を一喝した。
「な……それは、水掛けしてやったんだろっ? ジュースじゃなくてスポーツドリンクだっ!」
「どちらも一緒じゃ、砂糖が入っておるっ。蟻がたかったらどうしてくれるのじゃ、痒くて痛いではないかっ」
スポーツドリンクでベタベタの体を気持ち悪そうに不快な顔をする。
「な……っ、人の善行を……」
雅人は肩をふるふると震わす。
「地蔵がなじるかっ!」
もはやそのやり取りの様子は、夫婦の口喧嘩か、祖父母が孫を叱りつけている様にも見える。
「大体、あんた、何でまた俺の前にいんだよっ?」
「……離脱症状を起こしたのじゃ」
得意の真顔ですっとぼける。
「なんだよ、それっ? 薬物中毒か?」
「珠理じゃ」
唐突に。
「あ?」
不意を突かれて。雅人は一瞬何のことだか分からず、口をポカンと開けた。
「わしの名は珠理じゃ。ジュリーと呼んでおくれ」
にっこり笑顔でお茶目に地蔵は言ってのけた。
雅人は目の前がぐらぐらと回りそうになるのを、必死に手で額を押さえた。
「……あぁ、もう。知るかよっ! 勝手にしやがれっ!」
どうやら勝利は地蔵にあったようだ。
「……宮地宮地?」
「──っ!」
気が付いたら玄関に村田の姿があった。小池君も一緒に。
あの後、やはり雅人のことが心配になり様子を見に来た二人だった。
「村田! 小池! こいつ、こいつだっ! 俺んちに住み着いてる地蔵だ! 小池っ、お前なら見えるよなっ? なっ?」
村田は眉を寄せて目を細め、雅人の指差す方向をジッと見つめる。小池君も雅人が何を言っているのかさっぱり分からなかったが、村田先パイにならって目に力をグッと入れて同じ方向を見る。
地蔵は明後日の方向を向き、知らん顔で口笛なんぞを吹く真似をする。無論、その姿は村田たちには見えないようになっており、雅人がいくら訴えても見えないものは見えないのだった。
「宮地先パイ……」
「宮地、お前……」
村田と小池君は同時に言い放った。
「キモいっス」
「やっぱ病院行け」
これにて完全完結です。
最後にもう一度、
どうもありがとうございました!