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悪役令嬢は、婚約破棄されてしまったのでスローライフをする予定だった。

 初めてあいつと出会ったのは、俺が五歳の時だった。

 色とりどりの花が咲き乱れる花畑。

 城の中にあるあの季節で一番綺麗なあの場所にあいつはいた。

 さらさらと風に揺れる銀色の花と紫色の瞳。

 初めて出会った時に、こんな美しい生き物がいるのかと思った。

 もしかして、王子である俺を惑わして攫おうとする妖精か何かかとも思った。

 だが話してみてこの少女は、ただひたすら綺麗なだけで中身がその……残念というか天然ボケというか……でもそこも可愛いというか……とりあえず別な意味でも俺は気になりはした。

 そしてその時俺は、この少女がこの世界でもまれにいると聞く、異界の知識を持った人物だと知る。

 しかも、もしかしたなら俺は別の“少女”と結ばれるかもしれないと知る。

 それは絶対に嫌だった。

 だから俺は、この少女から話を聞きだす。

 ちなみに次に会った時は、俺にその話をしたのを全部忘れていそうなあたりが、彼女らしい。

 ただ、別の出来事があったから俺に話したことなど忘れてしまったのかもしれない。

 なんでも、もしかしたら俺と結ばれるかもしれない少女に彼女は出会ったのだそうだ。

あの時彼女はやけに嬉しそうだったから、俺に話したことなどどうでもよかったのかもしれない。

 しかも彼女は笑顔で俺にこう言うのだ。

「ヒロインちゃん、とっても可愛いんだよ? 大好きな一番のお友達」

 この時点で俺の彼女になるかもしれない女はライバルになりかけ、そして俺はあの手この手を使い、俺にも利益があったとはいえ……あのヒロイナ嬢の“希望通り”事を運んだ。

 だが、ヒロイナ嬢が恋人を作ったのに俺の大好きなあの公爵家のアホ娘は、俺の気持ちなど全く気づいておらず俺は……ある“罠”を仕掛けることにしたのだった。






 私、レテは、公爵家の令嬢である。

 ちなみに生まれた時から前世と言っていいのか分からないが、乙女ゲームなる物の記憶が私にはある。

 この世界にはまれに、異世界のそういった知識を持ったまま生まれる人間がいるらしい。

 とはいうものの、その知識の大半は役に立たないものであるらしいが。

 そんな中で私は、結構、有用な情報を持っていたのかもしれない。

 これまでに起こることの多くを私は知っていたのだから。

 その話は置いておくとして、その乙女ゲームなる異界の知識、それに出てくる悪役の女性が私であるらしい。

 その乙女ゲームに出てくる王子ジュリオは、ルート? というゲームブック? のように幾つもの物語が、ある地点の選択で決まるらしい。

 ふらぐ? と異界の人たちが呼んでいるそれだが、そのふらぐ? の影響でヒロインのとある少女と王子ジュリオは結ばれることになるわけだが、それが許せない婚約者である私が様々な嫌がらせをするらしい。

 それで結局、その話が王子に伝わり婚約破棄になる、という展開だったはずなのだ。

 だが、こういった経緯を知っていたり、女の子のお友達として私がヒロインちゃんが大好きだったりしたために話が変わってしまった。

 また、元々ジュリオ王子と婚約していた私。

 そして今回このヒロインちゃんは王子ではなく別の相手を選ぶルートを選んだらしく、私はそういった意味でも利害関係が何もなくなって、ヒロインちゃんとは仲良くしていた。

 それにヒロインちゃんがあまりにも可愛いので仲良くなれるよう頑張っていた。

 だって私、ヒロインちゃんが大好きだし。

 そして今日もヒロインちゃんと会いながら私は、お話を楽しくしていたのだけれどそこで、ヒロインちゃんはどこか遠い目をしながら、

「……もう少しジュリオ王子の方を見て差し上げたらどうかしら」

「? ジュリオ王子は私とは“親友”だよ?」

 そう私が答えるとヒロインちゃんは深々と嘆息する。

 そういえば最近ヒロインちゃんはよく私に、もう少しジュリオ王子と~、といったような事を言っていた。

 でもこの前だって一緒に劇を見に行ったりしたし、そういえば最近他の友人を誘うと特に遠慮されるようになったな、なんでだろうなと私が考えているとヒロインちゃんが、

「ジュリオ王子はレテを“親友”と思っていないかもしれないでしょ」

「……え。わ、私、ジュリオに嫌われているの?」

 ヒロインちゃんの言葉に私は顔から血の気が引くような気持ちになる。

 だって私とジュリオ王子は“親友”なのだ、それも一番の。

 なのにどうして……と私が焦っているとそこでヒロインちゃんが、

「……貴方、ジュリオの婚約者でしょう」

「そうらしいけれど、今まで婚約者らしいことってあったかな。そのうち婚約破棄されるんじゃないかな?」

 そう答えた私にヒロインちゃんは深く嘆息した。

 でも私からすると実際にどの乙女ゲームのルートでも、婚約破棄されるはずなのだ。

 ただゲームの時の女性だった私は、王子と疎遠だった気がする。

 そういった理由から婚約破棄は当然の帰結でもあったのかもしれない。

 だが別な意味で、今はそこそこ仲がいいので結ばれる、といったものとは違う関係、そう、“親友”なので婚約破棄をされる気がするのだ。

 あまりにも近すぎるので恋人と思えない幼馴染。

 ジュリオ王子は時々意地悪であるが優しいし美形だし、それ故にモテる。

 私の自慢の“親友”なのだから。

 と、ヒロインちゃんに話すと、これ以上は何も言いたくない言うかのように沈黙されてしまった。

 私はそこまで変なことはいつていないはずなんだけれどなと思いながら、どうしてそんな反応をするのかヒロインちゃんに聞こうと私は思った。

 そこで私は、両親に呼ばれたのだった。








 両親に呼ばれたので、私は指定された部屋に向かう。

 執事の人に案内されながら、見慣れた屋敷の廊下を歩きながら私は少し憂鬱な気持ちになっていた。

 だって、久しぶりにヒロインちゃんと会えたのに、何でこんな風に邪魔が入るんだろうと私は悲しくなったから。

 早く戻ってヒロインちゃんとお話ししたいなと思いながら行くと、父と母が部屋の中で神妙な顔をしていた。

 どうしたのだろう?

 そう私が思っているとそこで、すっと何かの紙を私の方に差し出してきた。

 薄い水色の紙で、細かい装飾の綺麗な紙だが、

「婚約破棄書?」

「……ええ、今日、ジュリオ王子から渡されました」

「そうなのですか、待ってました」

 どうやらようやく婚約破棄になったらしい。

 やっぱり“親友”のような間柄なので婚約破棄は当然だろうと思った私。

 そこで父が渋い顔をして、

「待ってましたとは、どういうことだ? ジュリオ王子に何か粗相でもしたのか? レテ」

「い、いえ、ただ私とジュリオ王子は“親友”なので婚約というのも変な感じだと」

 そう答えた瞬間、ヒロインちゃんと同じように父と母に深々とため息をつかれてしまった。

 あ、あれ? 私、変な事を言ったかな?

 だって婚約破棄は、親友だし恋愛する相手には見えないわけで、当然だよね、と私は思った。

 そこで今度は母が何かを諦めたかのように、

「この婚約破棄という意味で大ごとであるから、しばらく貴方には田舎の別荘に行ってもらおうと思うの」

「田舎の別荘ですか?」

「ええ、スーザス地方の別荘、そこでしばらく“ゆっくり”なさい」

 どうやら世間体のために、私は田舎の別荘に行くらしい。

 そこにはジュリオ達王族の別荘もあるはずだけれど、仲たがいでの婚約破棄ではないのでいいのかもしれない。

「よし、実は私一度スローライフをやってみたかったんだよね」

「……」

 母が沈黙した。

 なんでだろうと私は思いつつすぐにジュリオ王子の事が頭に浮かんで、

「後で、ジュリオ王子にも別荘に行くって話しておこうかな」

「……事情が事情だから止めなさい」

 そう、何処か諦めたように私は母に言われてしまったのだった。








 こうして私は田舎の別荘に向かう事に。

 しばらくそこでゆっくりとするといった話になった。

 そして久しぶりに会ったヒロインちゃんはまだ私の屋敷に居たので、先程来た婚約破棄といった事情を話すと、私の方をまじまじと見てから、次に深くため息をついて、

「……押して駄目なら引いてみろ作戦は失敗だったようね」

「? 何が?」

「私、最近レテを見ていて思う事があるの」

「? 何?」

 ヒロインちゃんは死んだ魚のような目をしながら私を見て、いった。

「貴方、親友へのLiKeと、恋人へのLoveを間違えていないかしら」

「! そ、そんなことないよ、私、そこまで鈍感じゃないもの」

「……駄目だこの公爵家のアホ娘、全然気づいていない」

「! なんですかその公爵家のアホ娘って! こう見えても私、学校は二位の成績で卒業しましたよ! 一位はジュリオ王子だったけれど」

 私はアホ娘と言われて怒って言い返した。

 だって私、こう見えても勉強を凄く頑張っていたのだ。

 そんな私を見ていてヒロインちゃんは思い出したらしく、

「そうね、ジュリオがんばっていたものね。レテには絶対負けたくないと言っていたから」

「ジュリオ王子は負けず嫌いですからね~」

 私はそう言って以前の走る競争の時も私に負けじと頑張っていた時の事を思い出して、自然と笑みがこぼれる。

 私は結局二位ばかりだったけれど、それでも嬉しそうに私に『褒めろ!』と命令してきて、抱きついてきたジュリオ王子が思い出されて、それはそれでいいような気がした。

 だがそんな私を見てヒロインちゃんは更に死んだ魚のような目になり、

「……まあいいわ。いい加減、甘やかしすぎたってジュリオ王子も気づいた頃でしょう」

「甘やかしすぎた?」

「……戻ってきたらまた、別荘のお話聞かせてね」

 そう言ってそれ以上何も言わずヒロインちゃんは私の前から姿を消した。

 意味深なことを言っていたけれど私にはよく分からない。

 どういう意味だろうと思うもそれ以上私は深く考えずに、その日はいつものように家で過ごして別荘に行くじゅうんびをして眠る。

 そして次の日、別荘に向かった私。

 湖と森が広がる丘の上にで涼やかな風が吹き抜ける心地のいい場所に立った別荘に私はやって来たのだけれど、そこにはある人物が待ち構えていた。

「来ちゃった」

「な、何でジュリオ王子がここに!」

 私の別荘の前に、何故か婚約破棄を突き付けてきたはずのジュリオ王子がいたのだった。









 私の別荘の前にいたジュリオ王子。

 相変わらずの笑顔を見ながら私は、

「どうしてここに?」

「いや、婚約破棄を突き付けたレテの様子を見に。……全然平気そうだな」

「うん、だっていずれそうなると思っていたし?」

「……それは、どういう意味なのかな?」

 ほんの少し声音に変化があったような気がしたが、ジュリオ王子は相変わらず笑顔なので気のせいかなと私は思った。

 そしてどうしてそう私が思ったのかについて聞かれたので、

「だってジュリオ王子は私と“親友”だし。婚約とか結婚とかそんな相手じゃないような気がしたもの。だから婚約破棄は順当で、これから“親友”になれるのかなって」

「なるほど。それはそれは……なるほど」

 なるほどと繰り返すジュリオ王子。

 納得してくれたのだろうか? そう私は思いつつも、

「でもどうしてこんな別荘に来たのかな?」

「……レテがいるらしいから、ここに来たんだ」

「そうなんだ。でもお付きの人もいなくて危険じゃないかな?」

「……それはレテもそうじゃないか。使用人も護衛もここは少ないぞ」

「そうだね。その方が静かでいいかな」

 あまり仰々しいと何かあったのかと思われてしまうしと私が思っているとそこで、じっと真顔でジュリオ王子が私を見た。

「どうしたの?」

「……そうやって小首をかしげるレテは可愛いなと思っただけだ」

「そうなの?」

「そんなどうでもいい事より、レテとはちょっと話が聞きたいから、別荘に入っていいか?」

 そう私はジュリオ王子に言われたのだった。





 こうして私は別荘にジュリオ王子を招き入れた。

 今日は急だったので既製品のお菓子を用意する。

 そして差し出した菓子を口に入れたジュリオ王子が変な顔になった。

「これは……レテが作ったものじゃないな」

「正解です。まさかジュリオ王子が来るとは思わなかったからね」

「レテのお菓子の方がもっと、優しい甘さで美味しいんだよな」

「そう言ってもらえて嬉しいよ。今度作っておくよ、何が食べたい?」

「アップルパイ」

「分かった」

 こうして私は、次に来た時に何のお菓子を用意しておくことに決めた。

 でもそういえば、

「ジュリオ王子は、何時までここにいる予定なのかな?」

「……しばらくここにいる予定かな。目的もあるし」

「目的? 何かする事があるの?」

 その問いかけに、珍しくジュリオ王子の瞳が鋭くなる。

 まるで何かに狙いを定めるように私を見て、

「そろそろ“獲物”を収穫しようと思ってね」

「? 狩りにでも行くのかな?」

「うん、とても美味しそうな獲物で、どう料理しようか考えているんだ」

「そうなんだ。私にも味見させてほしいな」

「……そうだな、レテにも楽しんでもらわないとな」

 そう言ってジュリオ王子が唇の端を上げる。

 なんでだろうと私が体がぞわぞわするような変な感覚を覚えているとジュリオ王子が微笑み、

「それでレテはこれからどうするんだ?」

「畑を作ったりするんだ~。スローライフを楽しんでみたかったんだ」

 私が楽しみにしていることを話すと、ジュリオ王子は黙って少し考え事をしてから、

「……なるほど、またレテの触手プレイが見れるのか」

「! あ、あれはちょっと植物を育てるのに失敗しただけで……」

「その失敗を学生時代に何回やった?」

 相変わらずの笑顔で言うジュリオ王子に私は、

「意地悪だ」

 怒ってそう言い返す私。

 確かに私はジュリオ王子の言う通り何度も失敗したが、最後の方はうまくいっていたはずなのだ。

 それはジュリオ王子も知っているはずなのにと私が思っているとそこで、

「これくらいは俺の繊細の心の傷に比べればたいしたことはないと思うんだ」

 小さく何かをジュリオ王子は呟いた気がしたが私には聞き取れなかった。

 けれどすぐににこりと笑ったジュリオ王子を見ていると、それ以上追求しなくていいかな、という気持ちになる。

 きっと大した事じゃないだろうから。

 そこでお茶を飲み終わったジュリオ王子が私に、

「今日の予定はどうなっているんだ?」

「特にないよ。今日はベッドでごろごろしようかなと」

「……本当に婚約破棄に関してまるでダメージを受けていないんだな」

「心配してくれてありがとう。でも“親友”だからそういった風になるかなって思っていたし。だからそこまで衝撃は受けなかったかな」

「……そうか」

 深々とジュリオ王子が嘆息した。

 彼なりに私を傷つけたかもしれないと悩んでいたのかもしれない。

 ジュリオ王子は優しいから。

 そう私が思っているとジュリオ王子は、

「それで今日暇なら、この近くの花畑に行かないか? “ロリアの花”が今は見ごろだそうだ」

「そうなんだ! 行く!」

「……よしいこう、今すぐに」

 ジュリオ王子が私を急かして、私の手を繋ぐ。

 もう子供じゃないから迷わないよと私がジュリオ王子に言い返すと、

「俺がこうしていたいんだ」

 というので私はジュリオ王子と手を繋いだまま、私達は花畑に向かったのだった。







 白い花畑にやって来た私達。

「わ~、綺麗だね」

「本当だな。レテに似合いそうだな」

 そう言われて悔しくなった私は座って、花を摘む。

 ジュリオ王子も私の隣に座って花を摘む。

 いつもジュリオ王子が摘んでくれた花も含めて、私が花輪を作るのが恒例になっていたから、今日もまた私の隣でジュリオ王子が花を摘んでいるのだろう。

 だがこれは好都合だった。

 私は一束ほど花を摘むと立ち上がり、ジュリオ王子の上から花をパラパラと落として、

「ジュリオ王子が花まみれだ。ぷぷ、花がよく似合ってる」

「……やったな。花だらけの服にしてやる」

「きゃ~」

 同じことをやり返されそうになった私はジュリオ王子から逃げる。

 いましたように私はジュリオ王子に花まみれにされてしまいそうだからだ。

 そしてジュリオ王子は初めは座っていたので、私は余裕で逃げられるかと思った、のだが。

「わぁっ」

 そこで私の手首が掴まれる。

 その時体のバランスを崩してそのまま私は花畑に倒れ込んでしまう。

 幸いにも、花がクッションの役割をして私はそれほど痛くなかったのだけれど、その時にジュリオ王子が私に覆いかぶされるように倒れてきた。

 倒れた私の両方の方の隣手をついているジュリオ王子。

 妙に真剣な顔をして私を見下ろすジュリオ王子を見ながら私は、

「何だか押し倒されているみたい」

「なるほど、じゃあこのままレテを押し倒してしまおうか」

「? 親友を押し倒すの? ……え」

 そこでジュリオ王子が抱きついてきた。

 私の耳の隣にジュリオ王子の顔が埋められる。

 私の耳にジュリオ王子の吐息が当たる。

 これは多分冗談で私にジュリオ王子がしているだけなのだ。

 なのに、胸が早鐘を打つように繰り返し音をたてている。

 落ち着け、落ち着こう、ジュリオ王子が私をからかってくるんだ。

 昔からそうだったじゃないか、そう私が思っているとそこで、ジュリオ王子が笑った。

「そうだな、流石に外はまずいよな」

「そ、そうだよ誰が見ているか分からないし」

「うんうん、さてと。こうして逃げられないレテをこれから俺が、たっぷりと花まみれにしてやろうな」

 そう言って私から体を放して笑ってジュリオ王子は、宣言通り花を摘み、私の頭や服に花を幾つも飾って私を涙目にさせる。

 こうして花まみれにされたという敗北を味わった私は、ジュリオ王子を憂鬱な気持ちで見上げていた。

 そういった行動をしながら、私はある事に気付く。

「またジュリオ王子が背が高くなった気がする」

「レテの背が低くなっただけなんじゃないのか?」

「! ひ、酷い、私、頑張って背の高いかっこいい美人になろうと牛乳飲んでいるのに!」

 私の今までの努力を否定するような一言。

 だがそれを聞いてジュリオ王子が鼻で笑い、

「十分背はあると思うぞ。そもそもあの令嬢、ヒロイナ・イントレド嬢と同じ背丈の癖に」

「ヒ、ヒロインちゃんとは……私の方が少し高かったはず。というか、ジュリオ王子はヒロインちゃんて呼ばないんだね。なんで?」

「……レテは、あのヒロイナ嬢が大好きだからな。しかも恋人がいるのに恋人の時間よりもレテが一緒にいる時間の方が長いんじゃないのか?し」

「そんな事ないよ。でもヒロインちゃんと一緒にいると楽しいし」

 私がそう答えるとジュリオ王子の機嫌が悪くなった。

 でも実際にあのヒロインちゃんは、よくある乙女ゲームの平凡主人公らしくとても可愛くて美人なのだ。

 ちょっと性格がきつい所もあるけれど、可愛いし話も色々知っていて楽しい。

 だから私はお友達でいる。

 そう私がひとり頷いているとそこでジュリオ王子が私に、

「それでレテは俺の事をどう思っているんだ?」

「? “親友”?」

「それ以外で」

 さらに不機嫌そうになってジュリオ王子に言われて、私は何か気に障ることを言ったかなと思ったが、ジュリオ王子が気にしているので私は考えた。

 ジュリオ王子のいい所、いい所……。

「優しい、かな」

「優しい?」

「うん、あと一緒に居ると楽しくて落ち着く。いつまでも一緒に居たような感じかな。だから“親友”かなって」

 私は思った事を口にしただけだれど、ジュリオ王子は一瞬驚いた顔をしてから、次に少し悲しげに笑い、

「……ヒロイナ嬢はどうだ?」

「見ていると楽しいし話しているのも面白いけど、いつも一緒に居たいとは思わないかな。だから“親友”とは違うのかな? あれ?」

「そうか……そうか」

 その答えを聞いたジュリオ王子は私の前で微笑み、すぐに深々と嘆息する。

 それを見て私は、何でそんな反応をするのだと思った。

 昨日のヒロインちゃんといい、私の両親といい、どうしてこいつは……といったようなため息をつかれてしまうのか。

 そう思っているとそんな私をじっと見つめてからジュリオ王子が、

「……公爵家のアホ娘が」

「! どうしてそんな酷い事を言うんだ! しかも昨日、ヒロインちゃんにも言われたし」

「そうなのか? 他に何か言っていなかったか?」

「死んだ魚のような目で、全く分かっていないとかなんとか」

「……なるほど。まあ、皆気づいていてレテだけが全く気付いていない状況だからな」

「? 皆で何を隠しているの?」

 どうやら皆で私の知らない何かを話しているらしい。

 私だけのけ者にするなんて酷いと私が言い返そうとするとジュリオ王子が、

「それで、次はどうする?」

 そう私に聞いてきたのだった。





 私達はジュリオ王子の別荘の一角にやってきた。

 先程話していた植物を育てる魔法を私が見せるためだ。

 私はすでに以前の私と違うと証明するために!

 というわけでやってきた私達。

 ジュリオ王子の別荘の一角には、これから花を植えるための場所があった。

 そこをちょっとした実験も兼ねて、野菜を育てようとした。

 だが温泉をかけるとよく育つらしいので、事前に温泉の水を撒いてから、丁度、ラディッシュの種をまいた。ラディッシュは小さくすぐ成長する植物で、それに魔法をかけるとすぐに成長するのだ。

 というわけでまたも触手生物になってたまるかと思った私は、魔法を使って成長させたのだが、

「う、うわぁああああああ」

「ああ、やっぱり」

「ジュリオ王子は見てないで助けて! ふ、太ももに絡まって、ずるずると……や、ヤダ、何で服の中に、そこは、胸はっ……」

「しかもレテの育てる触手は、大抵ご主人様であるレテを襲おうとするんだよな。どういう育て方をしているんだろうな」

「冷静に言っていないで助けてぇぇぇぇ」

 触手に襲われかかった私は、お尻のあたりをさわさわされて、悲鳴を上げた所でようやくジュリオ王子に助けられたのだった。







 あわや触手プレイの餌食にされそうになった私はジュリオ王子に助けられた。

「く、また触手プレイの餌食にされそうだなんて」

「だからいい加減育てるのは止めたらどうだ? 大抵、レテが育てると触手生物になるし」

「で、でも味は良いし! ……この私の頭くらいのおおきさになっているラディッシュも、美味しいと思うんだ!」

「確かに美味しかったよな。トマトも、キュウリも。でもなぜか巨大化触手生物になって、レテを襲うんだよな」

「そ、それは……何でだろう、私、普通に魔法は使えるのに」

 学業ではジュリオ王子と首席を争っただけあり魔法は使えるのだが、こと、この植物の生長を促す魔法は大きくなってしまう。

 なんとか卒業までには普通のラディッシュが育てるまでにはなったはずなのに、今日もまたこんな事に……。

 そこで私は気づいた。

「し、失敗するのは何時もジュリオ王子がいた時ばかりだった!」

「俺が? 大方凄い所を見せようとして魔力調節を失敗していたのでは? でも確かに俺の前では触手生物になっていたな……それなら試しに、レテの魔力を俺が背後で調整してやろうか?」

「う、あ、あれは何だか喘ぎ声が出たりして、皆の視線が……ジュリオ王子があの時も“親友”はこういうことをやつていいんだぞって言ってやったかも?」

「……ああ、授業中にそう言えばさんざんやったよな。確かに周り皆が唾を飲み込んでみていたが……ここには皆はいないから大丈夫だぞ」

 そうジュリオ王子に言われて、今ここで挑戦すべきかと思う。

 これからスローライフするにはきっと作物を育てる能力は必要だろうから。

 そう考えて私はジュリオ王子に、

「その、お願いしていいかな?」

「やる気になったか。いいだろう、手伝ってやろう」

 教える立場なのか何となく偉そうだ。

 そして私はジュリオ王子に後ろから抱きしめられるようにされる。

 魔力を感じるにはこうして密着して手を繋ぎ魔力をそそぎこんだりするのがいいと一般的に言われている。

 また、魔力の相性が良かったり、恋人同士であったりすると、その魔力を注ぎ込まれた時、快楽のようなものを感じてしまうらしい。

 注ぎ込まれるたびに体が震えてしまったり喘いでしまったり、欲情したり、そういった状態になるそうだ。

 ちなみにこの現象はよくジュリオ王子された時になっていて、私はひどい目におあわされたが逆は無理だった。

 ただ、それをやった後ジュリオ王子がやけに私に抱きついて来ていたような気がする。

 そのあたりの事を思い出すも、やはり親友として私がジュリオ王子を好きだからそのようなものが出てしまったのかもしれない。

 相性がいいなら両方にも出るらしいし。

 ちなみに恋人同士では大抵、魔力の相性がいいそうだ。

 などといった話を思い出してそこで私の中に魔力が注がれる、のだが。

「んんっ、ふぁあああっ」

「ほら、もっとちゃんと俺の注ぎ込んだものを感じないとだめだぞ~」

「で、でも、熱いよう……ぁああっ」

「確かにお子様なレテにはきついのかな? ほら、もっとしっかり立てよ。足が震えているじゃないか」

 私は必死になって耐えきれずにその場から逃げようとすると、片手でジュリオ王子に抱きしめられて逃げられない。

 体格だって力だって違うから、私はジュリオ王子の腕の中で体を震わせるもジュリオ王子は話してくれない。

 それ所が魔力を注ぎ込んだり操作をしたり、敏感になった状態なった私はさらに喘ぐはめになり、

「もうやらぁ……がくり」

「……あ、やりすぎた。おい、大丈夫か?」

 ジュリオ王子がそう私の名前を呼ぶのが聞こえて、私は意識を失ったのだった。








 体を揺さぶられて目を覚ますと、そこにはジュリオ王子が心配そうに私の方を覗き込んでいた。

「大丈夫か?」

「うん」

「……ちょうどお菓子とお茶を持ってきてもらっ所だから、少し食べるか?」

「うん!」

 お菓子と聞いて私が元気よく返事をするとジュリオ王子が苦笑して、

「色気より食い気、か」

「? なにが?」

「いや……なんでもない。ここで親友だからと言われたらそれはそれで俺も……」

 などとジュリオ王子は一人でブツブツ呟く。

 そうしたのだろうと私が思ってみているとジュリオ王子がため息を一度付いてから私の前にお茶とお菓子を持ってくる。

 お菓子は、包まれた紙から、果実の蒸留酒……の入ったチョコだと私は気づいた。

 “トナチェリー”という果実のお酒を蒸留したもので、とてもよい香りがする。

 だから私は、わ~い、とそのお菓子に手を伸ばすけれど、私がそれを手にする前にジュリオ王子に取り上げられた。

「な、何で取り上げるんだ」

「何でもないのも……はあ、俺、わざと頼まなかったのに気を利かせてもって来てくれたんだろうな」

「な、何で頼まないの?」

「だってレテ、こういった香り付けのお酒でも……酒癖が悪いじゃないか」

 呆れたように告げるジュリオ王子のその言葉に私は、

「た、確かにそうだけれど少しくらいならいいじゃないかな」

「……どうなっても知らないからな。俺が」

「わ~い。ん? 俺がじゃなくて俺は、じゃないのかな?」

「……」

「まあいいや。食べよう」

 こうして私はチョコを食べ、紅茶を飲む。

 ふわりと果実の香りが広がる。

 やっぱりいい香りだと思いながら、私の好物の焼き菓子に手を伸ばす。

 四角い形をしたケーキに、真っ白いクリームを塗る。

 たっぷりと塗って一口食べて、

「干した果実の入ったバターの風味が豊かなケーキ。美味しい」

「相変わらずこれが好きなんだな。いつだってこれをリクエストしてくるし」

「それぐらいここの焼き菓子が美味しいんだよ。全くもう」

「確かに美味しいがレテのお菓子の方が俺は好きだな」

「……そう言ってもらえると作り甲斐があるよ。明日こそはアップルパイを焼いて、ジュリオ王子に楽しんでもらいたいな」

「楽しみにしている」

「珍しく素直だね」

「素直でいけないか?」

「う~んと、素直なジュリオ王子は私、好きだよ」

「好き、ね」

 そうジュリオ王子は繰り返したが、それ以上特に何も私は言われなかった。

それからそのお酒の入った紅茶とお菓子を一緒に堪能した、のだが。

 しばらく話をしていた私は、頭の中がほわほわして心地がいいきがする。

 でもなんだか、

「う~、じゃあジュリオ王子に抱きついてやる」

「ちょ、待て、レテ」

 焦ったようなジュリオ王子だが私は冷たくて気持ちがいいので抱きつく。

「ジュリオ王子、冷たい。抱きつくと気持ちがいい、すりすり」

 そのまま顔をこすりつけているとジュリオ王子が小さく震えて、

「レテ、レテは俺の事はどう思っているんだ」

「“親友”?」

「……俺、そろそろ許されてもいい気がするが」

 などとジュリオ王子がわけの分からない事を言っていたが、そこで私はさらに強く抱きついた。

 やっぱりこうしていると落ち着くな、と思っているとジュリオ王子が沈黙してから、

「レテはわかってやっているのか?」

 ジュリオ王子が苛立ったようにそう言う。

 なんでこんなに起こっているんだと私は困惑しながら、

「だって、“親友”だからこれくらいは……」

「それは本気で言っているのか? レテ」

 さらに苛立ったようにジュリオ王子が私に言って、私はなんだかよく分からなくて、否、考えたくなくて、私は……。

 そこでゆっくりとジュリオ王子の顔が私に近づいてきて、私の唇と自分の唇を重ねる。

 ふれるだけの軽いキスで、それはすぐに離れた。

 その時のジュリオ王子の顔はなんだか泣きそうに私には見えた。

 と、そこで声を振り絞る様にしてジュリオ王子が、

「しばらく俺の別荘に来るな」

 そうジュリオ王子に私は言われてしまったのだった。








 とぼとぼと家に帰った私は一人で部屋に閉じこもった。

 正確には、別荘の部屋、だが。

「……自分が別荘に来ないかって言ったのに。それはまあ、お酒を止められたけれど飲んだ私も悪かったけれど」

 そう私は呟きながら、自分の唇を私はなぞる。

 まさかキスしてくるとは思わなかった。

「“親友”はキスしないよね」

 声に出してみてから私はその意味についてようやく……今まで目をそらしていたそれを見つめる。

 つまり、ジュリオ王子は、私を恋愛感情で私を好きなのだ、と思う。

「好きじゃないとキスをしないよね。でも、好きじゃなくてもキスはする気もする」

 だからつい出来心でしたのかもしれない。

 私にそんな事、ジュリオ王子がするはずないし。

「うん、“親友”だから試しにやってみただけだよね。それに少し機嫌が悪かっただけ……」

「話は聞かせてもらったわ!」

 そこで、私が一人で呟いていたはずの部屋のドアが開かれる。そこには、

「わ~い、ヒロインちゃんだ~、うごっ」

 ヒロインちゃんが現れたので無防備に近づいた私は、頭をがしっとヒロインちゃんに掴まれた。

 ヒロインちゃんの握力は結構あるようで頭が痛い。

「な、なんでこんな」

「この公爵家のアホ娘もアホだけれど、あっちはあっちでヘタレって……別れましょうって言っているような物じゃないの」

「え? でも婚約破棄……」

「あれ、書類と成立しないようになっていたはずなのよ」

「……え? な、何で」

「何でも何もないわ。はじめからジュリオ王子は、公爵家のアホ娘である貴方しか眼中にないのよ!」

 面倒くさいというかのように、突如現れたヒロインちゃんがそう私に告げる。

ジュリオ王子が私一筋だと、ヒロインちゃんは言っていて。でも、

「婚約破棄書がそんな風だなんてどうしてヒロインちゃんが分かるんだ」

「あの王子がダメダメだから、この作戦を考えたのよ。貴方も貴方でいい子だけれどアホだし」

「あ、アホ……」

「そうよ、いつまでこんな事やっているつもりなの? ジュリオ王子が好きな癖に、言い訳に使われる私の身にもなりなさいよ」

「べ、別に言い訳では……私、ヒロインちゃんと遊ぶのは楽しいと思うし」

「じゃあ、キスしたい?」

「……抱きつきたい?」

「……で、ジュリオ王子とは?」

 そうヒロインちゃんが言った瞬間、頭の中で先ほどされたジュリオ王子とのキスが思い出されて、私の頬が熱くなる。

 しかも胸の鼓動が速くなって、

「もういい、分かったわ」

 ヒロインちゃんが死んだ魚のような目になって私に告げた。

 何が分かったのだろうと私が思っていると、私の顔を半眼でヒロインちゃんは見てから、

「貴方、ジュリオ王子が恋愛感情で好きね」

「え? べ、別に私は……」

「じゃあジュリオ王子に他の女に誘惑させるけれど、いいわね? 貴方にそっくりな、ね」

「! い、嫌だ、何でそんな……」

「どうして嫌なの? 好きでもないなら構わないでしょ」

「で、でも“親友”だし」

「どうしてそんな“親友”……待てよ? レテ、貴方前に“親友”だからジュリオ王子にされるんだとか言っていたことがあったわね」

 そこでヒロインちゃんが変な事に気付いたというかのような青い顔で私に聞いてきた。

 だから今までジュリオ王子が“親友”といってしてきたことを一通り告げると、ヒロインちゃんは小さく『あのヘタレ……』と呟いてから、

「……それは、ジュリオ王子の欲望であって、“親友”かどうかは関係ないから」

「え?」

「それぐらい貴方に触れたくて堪らなかったのね。それを我慢しているあの王子……私にまで聞いてくるあたり、追い詰められているわね」

「? 相談されたの?」

「そうよ、そして私がどんな気持ちを貴方にいだいているか探りに来たの」

「ヒ、ヒロインちゃんは私をどう思っているの?」

「ただの仲のいいお友達。本当の“親友”よ。どう? 嬉しい?」

 そう言われて私は、嬉しいと思ったので頷く。

 すると相変わらず素直ね、そこは貴方の美点だわとヒロインちゃんに私は言われた。そして、

「それで、レテ、貴方はジュリオ王子の事をどう思っているの?」

「私は……私は……」

 再度聞かれて、私は先ほどまでの会話を自分なりに、真摯に向き合うことにした。

 私自身があまり見つめたくなくて、それでいて心地のいいから私は見ないようにしていたのかもしれない。

 ジュリオ王子とのその距離感が私にとってい心地が良かったから。

 でもそれが、ジュリオ王子の負担になっていたのだろうか?

 でもだったら、

「どうして婚約破棄、したんだろう?」

「押して駄目なら引いてみろ作戦よ。まさかここまで、のほほんとするとは思わなかったもの」

「……ヒロインちゃんが婚約破棄の話について詳しすぎる気がする」

「発案者は私だからね」

 実は今回の婚約破棄の黒幕は、ヒロインちゃんだったのだ!

 なんてことだと私は衝撃を受ける。

 だがそれも、ジュリオ王子の私が好きな気持ちがあったわけで、

「私、ジュリオ王子を怒らせちゃった。どうしよう」

「だったら謝りに行ったら。というか何をしたの? ……いえ、言わなくてもいいわ。いつもみたいにイチャイチャしていたんでしょう?」

「い、いつもみたいにって私は……そんなつもりは……まさか周りからはそう見えてというか私、無意識にそんな行動を……」

「だからジュリオ王子もたえきれなくなったのだと思うけれど」

「……」

「自分の気持ち、言ってみなさい」

 そう優しくヒロインちゃんに問いかけられて私は、

「私はジュリオ王子が好きで、だからその、謝りたい」

「よくできました。じゃあ早速行くわよ」

「え?」

「思い立ったが吉日よ、さあ、行きましょ!」

 そう言ってヒロインちゃんは、私の手を引いてジュリオ王子の別荘に向かったのだった。







 こうして私は、ヒロインちゃんに連れられてジュリオ王子の別荘へ。しかし、

「ジュリオ様はお会いにならないと言っています」

「そうですか……分かりました」

 現れた執事の人がそう言うのでヒロインちゃんは、すぐに引いた。かに見えた。

「行くわよ」

「ど、何処にですか!」

「……ジュリオ王子の部屋の窓の前かしら」

 どうやらそこに行って、お話をするらしい。

 そう私は解釈した。

 だが、友人で私の大好きなヒロインちゃんの性格を私は、この時、見誤っていた。

 それはジュリオ王子の部屋の前に私達が来た時の事。

 丁度部屋にいたジュリオ王子が私達に気付いて、さっとカーテンを閉めた。

 それに傷つきながらも私は、

「あ、あの、ジュリオ王子、私、話がしたくて」

「俺は話すことはない」

 そう言って取り付く島もない。

 どうしよう、そう思っているとヒロインちゃんがそこで、

「ジュリオ王子。手伝う代わりに、もしもまた“へたれ”たら、この私を巻き込んだことを後悔させるわよって言ったわよね?」

「……だからどうした」

「こうする」

 そこでヒロインちゃんが、そばにあった大き目の植木鉢を持ち上げる。私は慌てて、

「ま、待って、ジュリオ王子が怪我をするかも!」

「知らないわ。散々ねちねち嫌味を言われた私の気持ちになってみなさいよ! その分の仕返しはさせてもらうわ!」

 私はそう叫ぶヒロインちゃんを必死に抑えているとそこでカーテンが開いて、窓が開き、ジュリオ王子が顔を出した。

「俺の別荘が破壊されても困るからな。いいだろう、聞いてやる。手短にな」

 不機嫌そうな様子に私は、迷いながらもまっすぐにジュリオ王子を見て、

「私は、ジュリオ王子が好き」

「……どういう風の吹き回しだ? そこのヒロイナ嬢に何か唆されたのか?」

「……“親友”だっていて騙して私にセクハラをしていたのは誰だ」

 私が半眼で告げると、ジュリオ王子は沈黙した。

 それから言い訳するように、

「だってそれはレテが俺の事を、恋人としてみてくれないからだ」

「でもそういった事も含めて私にきちんと話してくれたら、私もすぐに気づけたように思うんだ」

「……それは悪かったな。ごめん」

「うん、謝ったから許す。それでその、ね、私、ジュリオ王子が好きだと思うんだ、けど、ジュリオ王子は私が、もう、嫌いかな? 答えは、聞いていいかな」

 言葉が途切れ途切れになるのは緊張するからだ。

 どんな答えが返ってくるだろう?

 そんな気持ちになりながら、私は答えを待つ。

 そこで深々と嘆息するジュリオ王子の声が聞こえた。

「俺が、レテを嫌いになるわけがないだろう。……俺もレテが好きだよ」

 そう、ジュリオ王子が私に返してきたのだった。







 こうしてよりを戻したというべきか、恋人同士になった私達。

 ヒロインちゃんには後でお礼をしなさいよ、“トレアの店”のチーズケーキがいいわ、とリクエストをされてしまった。

 後でお礼として持って行かないとと思う。

 そして婚約破棄書だが、その書類としての体裁をなしていないために無効となる。

 また、その事実に私の両親も気づいていながら、黙っていたらしい。

 なんでもいつまでも私が気付かなかったから、だそうだ。

 でも気づかないってどういう事だろうと私が思って、お礼のケーキを片手にヒロインちゃんの家を訪ねると、

「どこからどう見ても仲が良くてお互い両想いにしか見えなかったのよ。しかもレテ、貴方、ジュリオ王子の話をする時、ものすごく嬉しそうだったしね……」

 ヒロインちゃんは遠い目をして私にそう告げました。

 そして私自身が知らない私の様子を告げられてしまった私は、果たして私はどうすればいいのか、私、私……と考えて、考えていてもどうにもならないので考えるのを止めた。

「そういった事は、後で考えよう。今日はこれからデートだし。……折角だからジュリオ王子を驚かせてやろう」

 と私が新たないたずらを思いついて、待ち合わせの場所に行く。

 お忍びで遊びに行くから今日の私の恰好は地味だったりする。

 見るとジュリオ王子もそうだった。

 周りの人達が何も気づかずに去っていくのを見送りながら私はジュリオ王子に走っていく。

 ジュリオ王子も気づいたらしく微笑んだので、私はそのまま走って抱きついて、自分から唇を重ねてやる。

 視界いっぱいにジュリオ王子の驚いた顔が広がる。

 もっとも周りに人がいたので、すぐに私は離れたけれど。

 ちなみにここはデートスポットなのでこういった光景はよくある。と、

「レテ、よくもやったな」

「驚いた? 嬉しい?」

「驚いたし嬉しいな」

「そっか~、悪戯成功」

「そんな悪い子なレテはどうしてくれようか」

「きゃ~」

 抱きしめようとしたジュリオ王子から私は逃げ出した。

 それをジュリオ王子が追いかけてきて、結局捕まる。

 それからほのぼのデートに向かう私達。

 そして、そんな日々はこれからもずっと続くのでした。






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