円卓会議1(ディーン視点)
これから3、4話、お父様視点です。
円卓会議に参加するのは、王族、四侯、監理局。それに加えて、辺境と接する領地の五伯。そこから内側を領地とする四伯。
特に、辺境部からは連絡をしてキングダムに来るまでに6日はかかる。ウェスター側がトレントフォースにすでに使者を出しているとしても、往復で2月はかかる事を考えると、そこまで急ぐ話ではないという判断から、円卓会議は10日後と決まった。
「円卓会議など、今の王の治世で開かれたこともないだろう」
「スタン、何を言っている。我らがまだ学院に入ったばかりのころ、後継者問題で一度開かれたであろう」
「ええと、うん?」
私はわかっていないと思われるスタンのようすに思わずため息を漏らしそうになった。ルークはスタンは優秀だと言うが、この鳥頭のどこが優秀だというのだろう。
「レミントンだ」
「ああ、現当主の件か」
レミントンの色を継いだものは、当時一人。四侯では実は珍しいことではない。ただし、それが女性であるということが問題だったらしい。
しかし、キングダムの歴史の中でも、王が女性だったこともあるし、四侯の代表が女性だったこともある。それはそうだろう。王の役割も、四侯の役割も究極は同じ。結界を維持するための魔力を持っているかどうかに尽きる。男か女かと言うことが何が関係があるというのだ。
しかし、肝心のレミントンの当主が頷かなかったため、他の貴族からも反発が出て、結局くだらないことで円卓会議が招集されたということになる。
「お前、くだらなくはないだろう。レミントンが魔力を補充しなければ、結界は維持できないのだからな」
私は何も言っていないのにスタンがたしなめてくる。
「私は何も言っていない」
「いーや、目が言っていた。くだらないと」
言いがかりだ。ただ当時10歳を超えたばかりの私でさえ、馬鹿な話だと思った。それと同時に、これはチャンスなのではないかと思ったものだ。
今回、リアのことで多少の確執はあったが、レミントンとオールバンスは特に仲が悪いわけではない。私とスタンとが交流があるように、私の両親とレミントンの家とも交流はあった。そのため、時にはレミントンの夫妻が、あるいは私の両親がお互いを訪ね合う時があり、たまには子どもも連れて行ってもらえたという程度だが。だからこそセバスのように、使用人の行き来もあったのだ。
それでも、私より7つ年上のアンジェリークとは挨拶する程度には親しかった。淡い翡翠の瞳に、ミルクティーのような髪色。オールバンスやリスバーンのような鮮やかな色あいではないが、優しく、美しかった。
あと一年で成人し、成人したら当主と共に、結界を維持するために城に通い始めることになる。しかし当主は、アンジェにその仕事をさせるつもりはなかった。レミントンから魔力の強い男子を数人選び、数人がかりで魔石を維持させる。その中から一人をアンジェとめあわせ、生まれた男子に後を継がせるのだという噂は、学院にさえ届いていた。
「アンジェは、それでいいのですか?」
私はアンジェリークに直接聞いたことがある。私はレミントンの家に連れてこられ、社交の邪魔だからと庭に出されたところだった。美しく整えられているように見えるレミントンの庭は、奥の方は実は結構荒れていて、木に登ったり棒を振り回したりと、楽しく遊べる場所だった。そこで散歩しているアンジェに偶然出会ったのだった。アンジェは私が10歳だからと馬鹿にせず、そんなぶしつけな質問にも、
「まあ、おませさんね。でも仕方ないのよ。お父様に逆らうわけにはいかないもの」
とふんわり答えるだけだった。
「ねえ、アンジェ。後を継がなくていいなら、アンジェは自由ですね」
「え?」
「私たち四侯は、キングダムの結界のために自由になれない。では、結界に魔力を入れなくていいのなら、アンジェは自由にどこに行ってもいいのではないですか」
「それは」
アンジェは翡翠色の目を大きく見開いた。
「私なら喜んで仕事を譲って、まずキングダムの中を旅します。それから、いつか辺境にも行けたらいいなあ。知っていますか。ウェスターの南には海と言うものがあって、それはそう、アンジェのような翡翠色をしているんだって。アンジェが自由なら、いつか一緒に行ってもいいな」
「まあ、ディーン。行けたらいいわね。せめてディーンだけでも」
そうやって微笑むアンジェは何もかもあきらめているようだった。
「おい、ディーン」
アンジェは。
「ディーン!」
「なんだ」
「何をぼんやりしているんだ。会議に向かうぞ」
「あ、ああ」
結局、レミントンの当主の主張は通らなかった。当たり前だ。アンジェの魔力は、その目の色が表しているように、一族の誰より多い。かろうじて五人集めたレミントンの若者で、アンジェ一人分の働きになる。一人で済むものを、なぜ五人でやらねばならない?
反発は一族の中からだけではなかった。
そのやり方を通すなら、四侯である必要はないと声を上げたのが内陸の四伯になる。キングダムを取り囲む形で分けられた四つの領地を治める四伯爵だ。正確にはそのうちの二伯爵が声を上げた。
「レミントン家が結界を維持する自信がなく、複数が魔石を維持していいというなら、それが伯爵家であっていけない理由はないだろう」
という主張だ。私は面白くなってきたと思った。いいではないか。この役割を他の誰かが代わってくれると言うなら、代わってもらおうではないか。当時の10歳の自分にとって、それは今でもだが、四侯の権利や利益など何の意味もなかったからだ。わざわざ縛られに来る伯爵たちの気が知れないと思った。
レミントンは引かない。伯爵たちの突き上げは大きくなる。このままでは収まりがつかないとみて、監理局の調整で円卓会議が開かれることになった。国の非常事態とは恐れ入る、と10歳にすら思わせたくだらない円卓会議の開催だった。単なる利権の取り合いではないか、と。
会議では醜い争いがあったようだが、結果として王の
「やってみるがいい」
と言う一言で、実際に魔力の充填を体験してみろと言うことになった。嬉々として魔力の強い身内を集めた伯爵家だったが、四侯の魔力を甘く見ていたことが分かっただけに終わった。伯爵家の選りすぐりの魔力の強いものを10人集めても魔石に魔力を満たすことはできず、たった一人で平然と魔力を充填する四侯を見て、四伯の野望は潰えたらしい。
残りはレミントンだ。王家も、監理局も、他の三侯も考えることは同じだ。アンジェリークに後を継がせろと。その力があるのにやらせないからこんな面倒なことが起こるのだと。結果として、
「本人に選ばせる」
と言うことになり、レミントンは穏やかで従順な娘に選択肢が回ったことを単純に喜んだ。しかしアンジェリークの答えは、
「引き受けます」
だった。私はなぜ自ら面倒を引き込むのかその時は理解できなかった。レミントンも同じだったようで、しばらくもめたらしい。
その時のアンジェの気持ちを教えてくれたのは、皮肉にもダイアナだった。
「望まぬ婚姻と、自ら進んでつらい責務を果たすことと、どちらがより女性にとって大変かわからないの?」
と。
「だからあなたは女心がわからない朴念仁なのよ。そう言うところも大嫌いよ」
余計なことまで思い出してしまった。レミントンの娘に向ける愛情は間違っていたということなのだろう。
しかし、このことがレミントンの身内だけで終わっていればよかったのだが、一見収まったかに見える伯爵家の者たちの野望に火をつけたことも間違いはなかった。取って代われるなら代わればいいと、あまり気にもしていなかったのだが。
「さ、入るぞ」
「ああ」
私の参加する初めての円卓会議が始まる。
次の更新は木曜日です。
ぶらり旅は水曜日。もう3巻発売されているところもあるようです!
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