小さな北の魔道具やさん
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今日もほっぺたがすーすーする。
「はんにんは、兄さまにちがいない……」
目を開ける前から確信している私である。
「私は寝ているだけなのに……。リアがひどいんです、お父様」
私はパッと目を開いたが、グレイソンにお父様がいるわけがない。
隣を見ると、鼻息がかかる距離で、兄さまがすやすやと眠っていた。
「ねごとかあ」
兄さまもお疲れのようだ。
私はと言えば、実験がはかどりそう、というか、実験がはかどっていて、とても楽しい。
と言うのも、あの後すぐ、タイラーから、携帯用の小さい道具袋が届いたのである。
もう、ニコは大喜びだった。
刃をつぶした軽い子ども用の剣以外、刃物など扱ったことのないニコだったから、護衛はそれはもう、使うのを反対した。
「だったら、せめてやすりだけでもかけたい。おまえがノミで正確にわってくれ」
「ええと……。わかりました。やすりだけですよ」
やる気のないほうのニコの護衛は、やっぱりやる気がなさそうにしぶしぶ了承したが、手元に余計なローダライトなどない。
結局、たくさんあった火事で割れたローダライトを、長さをきちんと測って、ニコの望むサイズに整えてくれた。
「お前、意外な才能だな」
いつもなら、ニコから目を離すべきではないと叱るハンスからも褒められ、私からは、
「さいしょからニコのごえいにたのめばよかった」
と称賛され、
「勘弁してくださいよ」
と言いつつもまんざらでもなさそうな護衛であった。
褒められて調子に乗った護衛は、エルドレッドからきたマールライトの端材もノミで切り出してくれて、それをニコがやすりで熱心に整え、いつの間にか、あったかラグ竜クズ魔石版の実験に必要な素材がそろってしまったのである。
となれば、マールライトを変質させるのは、私の役割だ。
そして、その横であったかラグ竜クズ魔石版の小さい袋を縫うのはナタリーで、執務室の端っこは、なんだか内職部屋の様相を呈したのであった。
製作したあったかラグ竜クズ魔石版は、全部で一〇個にもなり、ニコの護衛二人分二個、ニコが二個、ハンスが二個、ナタリーが二個、私が二個と部屋に持って帰ってどのくらいもつか検証中なのである。
ちなみに、明かり用のローダライトとマールライトで作った、あったかラグ竜四角版は、だいたい丸一日持つことがわかったから、私の予想では、あったかラグ竜クズ魔石版は二日ほどもつ。
「あ、わたしのあったかラグりゅうクズませきばんは!」
昨日お布団の中に入れておいたはずなのに、なくなっている。
私はお布団の中をごそごそ探った。
「あった! もう、はんにんは、ほんとうに兄さまだったよ」
兄さまが体の下に敷いて寝ていた。
それは寝心地がよくて起きないわけである。
兄さまの下から、あったかラグ竜クズ魔石版を引き抜くと、その衝撃で兄さまの目が覚めてしまったようだ。
だが、反省などしない。
だって、もう起きる時間だからね。
「ふわあ、聞きましたよ」
「なにを?」
誰から何を聞いたのだろう。
「クズ魔石で、あったかラグ竜を作ったそうですね」
「そのなも、あったかラグりゅうクズませきばん、です」
「長い長い」
兄さまはくすくすと笑っている。
朝から楽しいと、脳から幸せ物質が出るらしい。
「あとで、マークと兄さまに、あったかラグりゅうクズませきばんのつくりかたを、グレイソンにも、トレントフォースにもつたえていいですかって、きこうとおもってたの」
タイラーにもブレンデルにも、変質のやり方を教えた時点で、既にもう手遅れのような気もするが、やってしまったものは仕方がない。
「いいんじゃないですか。たとえばね、リア」
兄さまはあっさりと許可を出してくれた。
「ブレンデルとタイラーは、教えれば結界箱は作れそうですか?」
私は腕を組んで考えてみる。
「ブレンデルは、まりょくりょうがすくないから、ねつのまどうぐまで。タイラーは、キングダムでしゅぎょうすれば、けっかいばこまでできるかもしれない」
「では、タイラーほどの魔力量のある人は、グレイソンにいますか?」
私は首を横に振った。
「いないとおもう。すくなくとも、みたことない」
「結界箱を真似されなければ、オールバンスの商売は揺るぎませんし、熱の魔道具もあったかラグ竜とは役割が違うから、競合しないと思いますよ」
「そうなんだ」
兄さまは、そういうところをちゃんと考えていたらしい。
「そう言えば、リコシェは?」
兄さまは途端にクスクスと笑い出した。
「目を白黒させて頑張っていますよ。カルロスが民の間に交じって作業をしていたことに驚いてもいたし、さらに大きい結界箱により、夜に働く民にも戸惑っていたし、さらに虚族を狩りに行くカルロスを止めようとして大慌てだったし」
「兄さまたちは一日じゅうがんばってるんだね。えらい!」
私は兄さまにあったかラグ竜クズ魔石版を二個とも持たせてあげた。
「フフっ。ありがとうございます。でも、リコシェを見て初めて思ったんです」
兄さまは優しい顔をしている。
「カルロスは、本当に変わったんだなって。リコシェが何より驚いていたのが、カルロスが民と親しく交わって、明らかに民に慕われていることでしたから。毎日一緒にいると、変化に気づきにくいものなんですね」
「そうなんだ」
私とニコが、ローダライトポンをし、クズ魔石に魔力補充し、あったかラグ竜クズ魔石版の工夫をしている間に、カルロスはしっかり成長していたようだ。
「私たちは外回りの復興を頑張っていますから、リアとニコ殿下は思う通りに行動していいですよ」
「やった!」
「あ、やっぱりほどほどにしましょうか」
「さて、ニコのところにいこうっと」
私は兄さまに止められないうちに、急いでベッドから滑り降りた。
私とニコが温めていた、あったかラグ竜クズ魔石版のアイデアは、ローラライトとマールライトの到着と、タイラーとブレンデルの二人の魔道具師の参入により、一気に動き出した。
「昼間の大広間を、作業所にしましょう」
意外なことに、このプロジェクトの指揮を執ったのは、領主夫人だった。
その理由は、機構を入れる袋にある。
今まではナタリーが工夫して、仕事の合間に作ってくれていたが、正直なところ睡眠時間も削っていたし、裁縫は趣味のレベルで、完成度も低かった。
「もともと町の婦人を集めてお裁縫を教えていたりしたのよ。わずかでも手当てを出せば、町の人も助かるでしょうから」
と、袋の政策をたちまちお仕事にしてしまった。
「リアとニコ殿下しか、マールライトの変質ができないのは困るし、クズ魔石の充填も、できる人が増えたほうがいい」
ブレンデルの提案で、トレントフォース式、魔力を増やす訓練も並行して行うことになった。
復興に人手がかかるのは事実なので、力仕事のできない人や、成人してはいないが年かさの子どもで、魔力量の多い人を判定して、その人たちに魔力訓練を施すのだ。
「はーい、ならんでくださーい」
「こちらもどうぞー」
そういうわけで、大広間の片隅に机を置き、その後ろに座っている私たちの前には、魔力を判定してほしい人の列ができている。
「はい、あくしゅ。うん、まりょくあり。くんれんへどうぞー」
「うむ。ざんねんながら、まりょくはあまりない。ふっこうに力をつくしてくれ」
私とニコに魔力判定してもらった人たちは、今度はブレンデルの魔力訓練講座に移動する。
ブレンデルの前には、クズ魔石の色の薄い奴がたくさん用意され、訓練をしながらでも、うまいこと魔石に魔力が入れられた人には、少ないながらも報酬が支払われる。
その向こう側では、ご婦人たちが集まり、あったかラグ竜クズ魔石版の袋の製作に忙しい。
魔力が少ないと判定された人の中で、希望者がいれば、男女問わず、ローダライトとマールライトの加工の作業に回される。
復興はどうしても力仕事が多かっただけに、自分もなんとか協力したい、だが力が足りないと思っていた人たちにも、仕事を回すことができているというわけだ。
私はニコニコと大満足で大広間を見渡した。
領主夫人が仕切ってくれているとはいえ、私とニコが頑張って工夫した結果がここにある。
材料から人手までそろった、いわば、私とニコの、魔道具工場というわけである。
「やっとまりょくはんていきぼうの人がいなくなったな。さて」
ニコはいそいそと道具袋とローダライトを取り出した。
ローダライト削りをするつもりなのだろう。
「じゃあ、つぎにきた人はリアがたいおうするから」
私が大広間の入り口を期待を込めて見つめていると、見知らぬ人が数人、入り口で立ち止まったのが見えた。
「はーい、まりょくはんていのきぼうしゃは、こちらでーす!」
私は片手を挙げると、大きな声で案内をした。
その声で、入り口のほうを見た領主夫人が、ガタリと音を立てて椅子から立ち上がった。
「レ、レオナルド殿下……」
「ん?」
レオナルドとは、たしか第二王子ではなかったか。
確かに、よく見ると、お金のかかった服装をしていることがわかるし、ついでに顔を見ると、カルロス王子を真面目にしてちょっと若くしたらこうなるという感じである。
周りにいる人は、お付きの人たちだろうか。
その人たちの顔が、驚愕をたたえて私のほうを見ている。
幼児が声をかけたからだろうか。
「その瞳、キングダムの四侯のお血筋ではないか! いったいここで何をしておられるのか!」
さすが兄弟、声まで似ている。
「ええと……」
四侯のお血筋と言われても、私はただの娘で、かわいい以外何のとりえもないのだが。
「うん?」
ニコが夢中になってやっていたやすりがけから目を上げた。
「そちらは、金の瞳……。まさか、あなたがニコラス殿下か! なんと、王族まで……」
一瞬ふらついたが大丈夫だろうか。
なにをしておられるのかと問うのならば、答えましょう。
「グレイソンで、まどうぐやさん、かいてんしてます」
私はにっこりと微笑んだ。
足音から、カルロス王子が駆け込んでくるまで、あと数秒といったところ。
成長したカルロス王子が、どう対処するか、温かく見守りたい私である。
次に続く形で終わりです。
また書き溜めたら、更新を再開しますので、
しばらくお待ちくださいませ。




