直球で聞く
「あっ! シエナだ!」
「どうやら、カルロスといっしょにローダライトをひろうようだな」
ニコは私の指を握っていたままの手をそっと離した。
「ニコはいいの?」
「リアこそ、いいのか? いっしょにローダライトをひろわなくて」
「うん、いいの。今のカルロスにひつようなのは、キングダムのともだちじゃないから」
「そうだな」
「フフッ」
並んで立つ私たちの後ろから、小さい笑い声が聞こえる。
「君たちは、最初にネヴィルで会った時から全然変わらないんだね」
くるりと振り返ると、兄さまの隣でジャスパーが微笑んでいた。
「ジャスパーだ。兄さまも」
兄さまとジャスパーとカルロスで狩りに出ているわけだから、カルロスが暇と言うことは、兄さまもジャスパーも暇と言うことか。
「私たちは別に暇ではありませんよ」
兄さまの察知力がすごい。
「みんなで今日の段取りを話し合っていたんですけど、なんだかカルロスが煮詰まっているようだったので、外に行ってこいと追い出したのです」
「もっと丁寧な言い方だったけどね」
兄さまとジャスパーは、だいぶ打ち解けているようだ。
「グレイソンに来るまで勢いだけで突っ走ってきたものの、落ち着いてみたら、自信がなくなってきたんでしょうね」
「殿下が来てくれただけで、グレイソンの皆がどんなに勇気づけられたことか。まっさきに虚族に立ち向かう姿に、憧れるものも多い。中立だったグレイソンですが、一気に第一王子派に傾き始めています」
兄さまの的確な分析はともかく、ジャスパーの話を聞いて、私は慌てて左右を見渡した。
そんな重大なことを他の人に聞かれては大問題だ。
「そもそも、グレイソンは中立というより、あえて第一王子を外す意味が分からないという立場です。率直に言って、失策を犯したわけでもなければ、問題を起こしたわけではない。ただ、少し自由奔放だというだけではないですか」
「我が国の王子はまったく自由奔放ではありませんよ」
いちおう、兄さまが王子というものについて指摘を入れている。
「理由もなく、順序を揺るがす方が問題です。明確に支持を示す段階でもないので、グレイソンは黙っていただけで、あえて言うなら、順番通りに継げばいいだろう派です」
「スティングラーもそんな印象ですね」
スティングラーとは、ウェスターとの境目の領地だ。
カルロス王子の見守りに出てきたはずの二人に、なぜか面倒な話を聞くことになってしまったが、これはこれで面白い。
本人たちが気にしないのなら、周りに聞かれても大丈夫なのだろう。
「ハルフォードは?」
「シエナのところは、直接キングダムに接している領ですから、キングダムの覚えがいいカルロス殿下でいいではないか、なぜ平地に波瀾を起こす必要があるという考えですね」
各地方の考えは、ネヴィルでカルロス王子に聞いていたが、現地の人に直接聞くことで理解が深まった気がする。
瓦礫の向こうには、子どもたちだけでなく、片づけをしている町の人に囲まれ始めたカルロス王子とシエナが見えた。
「みんな、おうじさまがちかくにいてうれしそう。シエナがうまいこと、まちの人とつなげてるみたい」
「そうだな。ロークが、子どもはじゃまにならないでいるだけで、りっぱにやくに立っていると言っていたが」
「ローク、そんなことを言っていたのか。また成長したな」
嬉しそうなジャスパーは、なぜだか私のほうを向いた。
「あいつ、いたずらだしやんちゃだけど、責任感は強いし、面倒見はいいし、リーダーシップもあるんだ。ネヴィルで会った時から、すごく成長したんだよ」
「しってる。さいしょの日も、きのうもきょうも、よくしてくれたし、みんなのめんどうもちゃんとみてるもん」
「そうか、リアがわかっててくれて、嬉しいよ」
「私もわかっているぞ」
ニコがずいと前に出てきた。
「リアより、ニコのほうがずっとロークといっしょだもんね」
「そうだ。ロークも、兄のようにたよりになるから、わたしはすごくらくだ」
「そうか、そうなんだね」
助けてほしいとネヴィルに駆け込んできてからずっと、思いつめたような顔をしていたジャスパーだったが、少しは楽になったのだろうか。
本当に嬉しそうに笑った。
私が兄さまを大好きなように、ジャスパーも弟が大好きなんだろう。
私がほっこりしていると、ニコの戸惑ったような声が響いた。
「ジャスパー、ルーク」
おや、私の名前がない。
「あれ、いいのか? カルロスでんかとシエナのすがたがきえたぞ」
「ああ! 人が集まりすぎた!」
「まずいですね!」
二人は大慌てで向こうに走って行ってしまった。
どうやら、普段は出てこない王子様を一目見ようと、町の人がぞろぞろと集まってきたようだ。
兄さまとジャスパーに救出されて戻ってきたカルロスは、髪はぼさぼさだし、服は引っ張られて裾がはみ出してはいたが、もう迷子のような顔はしていなかった。
シエナもレディにしてはちょっとぼさぼさだったが、それがシエナのいいところでもある。
「カルロスは、なんでグレイソンにきたか、わかった?」
私の追及は止まらない。
「友である、ジャスパーのためだ」
答えるカルロスにためらいはなかった。
「それだけ?」
ジャスパーがほんのり嬉しそうだが、今日の私は引き続き直球勝負だ。
「ジャスパーが大事にしている、民のためだ」
「ぎりぎりごうかく!」
カルロスが眉を下げ、シエナが笑い出した。
グレイソンの民は、ファーランドの民。
ジャスパーではなく、カルロス自身の民なんだと、そう思えるのが一番いい。
だが、ほんの一歩でも進めたのなら、それでもいいと思うのだ。




