ストローもう一本
「ちょうど交代の護衛が来たようだし、それでは俺はリア様を連れてお屋敷に戻ります。ローク殿、ニコラス殿下、疲れたら無理せず戻ってきてください」
ニコの護衛に対するより、よほど丁寧な口調でロークにそう言うと、ハンスは私を領主館に連れ帰ってくれた。
「何か気になることができたんですね」
「うん。ローダライト、つかえないのかなっておもって」
「こんなに壊れてるんじゃ、効果はなくなってるんじゃないですかね」
「それでもしらべてみたいの」
できるだけ大きいものを拾ってきたからか、ポケットはパンパンに膨れている。
「リア様! おかえりなさいませ」
残って領主館の手伝いをしていたナタリーが、すぐに出てきてくれた。
「上着は、まだ遊ぶからこのままでいい、ですか? それならば、手とお顔だけは、軽く洗わせてもらいましょう。水も湯も潤沢に使えるのが不幸中の幸いです」
私を上から下までさっとチェックすると、てきぱきと身支度を手伝ってくれる。
「おみず、いっぱいつかえるの?」
「井戸には影響がなかったらしいんです。もともと川も近くにあって、水には困らないそうです。後片付けに水を節約する必要がなくて助かったと言っていましたよ。それにお湯については、ルーク様がいるから使い放題だそうです」
ここでも兄さまが役に立っている。
「よかった。ナタリー、これ」
私はポケットからローダライトのかけらを取り出した。
「これは……。ローダライト、でしょうか」
私と一緒に魔道具作りをしているナタリーだ。すぐにわかってくれた。
「そう。これをあらってきれいにしてほしいの」
「ふむ。これは洗剤とお湯を使わないと難しそうですね。早い方がいいですか?」
「うん。すぐつかいたい」
ナタリーは私がポケットから出したローダライトをハンカチにくるむと、私が自分で顔と手を洗っている間に、きれいに洗って持ってきてくれた。
「ナタリー、ありがとう」
「どういたしまして、リア様」
寒いけれど、せっかく日が差しているので、お屋敷の庭の隅っこに陣取って、枯れ草の上に直接座る。
オールバンスの幼子がなにをやっているのかと、通る人たちがのぞいては、口元に笑みを浮かべて通り過ぎていく。
ピンクの石のかけらを集めて、おままごとをしているように見えるのだろう。
あるいは、後ろに立っているハンスのせいかもしれない。
私は特に視線は気にせず、ハンカチの上に山盛りのローダライトを一つ、手に取ってみる。
ローダライトの特徴は、魔力を通すことだ。
ローダライトを魔石に触れさせることによって、魔石から魔力を引き出し、マールライトに伝える。
私は、ポケットから真新しいローダライトを取り出した。
明かりの魔道具のために、きちんとサイズが整えられたものだ。
さっき、お世話してもらったついでに、ナタリーから分けてもらったのだ。
「ローダライトそのものにきょうみをもったことはないけど、これは……」
今まで気にしたことがなかったから気がつかなかったが、ローダライトを持っている手のひらから、わずかに魔力が抜けていくのがわかる。
魔力操作にたけている私が、集中してやっとわかるくらいだから、魔力が少ない人が握っていても問題ない程度である。
「まりょくをとおす、っておもってたけど、それだけじゃない。まりょくをすいだすんだ」
私は深く反省した。
オリジナルの結界箱も作れるし、この旅の中で、普通の結界箱を作れるようになった私は、駆け出しではあるが魔道具師だと自任している。
それなのに、ローダライトがどんなものかを知ろうともしていなかったのだ。
「まりょくをすいだすから、ませきとふれあわせる。じゃあ、なぜきょぞくよけになるのか」
ローダライトが窓枠やドアの枠に使われているのは、虚族がいやがって近寄らないから。
虚族が嫌がるのは、ローダライトが虚族の魔力を吸い出してしまうから。
ローダライトの剣で虚族が倒せるのは、虚族の魔力を吸い出して、魔石に変えてしまうから。
自分の気づきにぞくぞくしながら、わたしは割れたローダライトのかけらを日にかざした。
「いろがちがう。それに、まりょくがとおらない」
明かりのローダライトは、魔力を吸い出すだけでなく、こちらから流した魔力も滞りなく通した。
だが、拾ったローダライトのかけらは、魔力を吸い出さないどころか、魔力を通そうとすると、詰まる感じがする。
「かじのねつで、へんしつしてしまったのかも。へんしつ?」
マールライトは、そのままでも使えるけれど、変質させると効果が増したり、特別な効果が付与されたりする。
その代表が結界の魔道具だ。
「ローダライトをへんしつしてみたらどうなる?」
ナタリーからもらったローダライトのイメージは、透明のパイプのようなもの。あるいは水やりのじょうろのように、細かい穴から魔力が抜け出ていく感じだ。
「へんしつはあわないかんじがする。どうしたらつまりがとれる?」
砂の詰まったじょうろなら、反対側から水を通したり、ブラシでこすったりする。
「はんたいってどっちだ?」
私はローダライトをくるくると回してみるが、そもそもローダライトに正しい方向なんてない。
「むう。なにかわかりやすいイメージは」
パイプに詰まるというとあまりいいものを想像できないけれど、なにか他のものをイメージできないだろうか。
「ストローに、タピオカ」
「リア様、なんです?」
「なんでもない」
ハンスに聞きとがめられて、ちょっと焦る私である。
タピオカ用の太いストローでも、詰まって吸い込めずいらいらする感覚、このローダライトにそっくりだ。
解決法はどうだったか。
私は思わず片手をあげて叫んだ。
「すみませーん。ストローもういっぽんください!」
「あらあら、なんのごっこ遊びをしているのかしら」
町の人が笑いながら通り過ぎて行った。
恥ずかしい。
そして、そんな解決法は、今はなんの役にも立たない。
「おもいっきりすいこむ。あるいは」
人がいない時、あるいは家で一人で飲んでいる時の裏技だ。
「おもいっきり、いきをふきこむ」
これをローダライトに応用するならば、こうだ。
手のひらに乗せるのではなく、指でつまむ。
指先から魔力を流すイメージだ。
「まりょくで、つまりをおしだす。ふん」
タピオカのイメージがよかったのかどうか。
少しずつ出力を上げて押し込んだ魔力が、ポンと抜けた。
「とおった。お、まりょくがすわれる」
普通のローダライトのように、手のひらから微量の魔力が吸われていく。
さっきと同じように日にかざすと、ローダライトの色が戻っている。
「おや、ルークの小さな妹さんは、なにをしているのかな?」
急に話しかけられた私は、驚いてローダライトを落としてしまった。




