思った通り
私はナタリーとハンスを見た。二人とも安心させるように頷いてくれた。
この二人がいれば、私は大丈夫だ。
「領都で再会しましょう、だってさ。かっこいいよね、ルークは」
マークがニヤリと笑った。
「ニコ殿下、リア、どう思う?」
ずっと黙って聞いていたニコが、おもむろに口を開いた。
「わたしは、今こそ、もってきたけっかいばこを、ファーランドの民のためにやくだてるときではないかとおもう」
「えっ」
私はびっくりしてニコを振り返った。
「もってきたけっかいばこは、一つのまちぜんたいがはいるものだ。もしわたしがファーランドの王ならば、われらからうけとってすぐに、これさいわいとグレイソンにかしあたえるであろう」
自分が王ならなんて、私なら絶対に考えない。
こういうところ、さすがニコだと感心する。
「ということはだ。けっきょくは、けっかいばこはグレイソンに行くのだから、さいしょからグレイソンにかしあたえるのでよいのではないかとおもうのだが」
「で、でも」
いつもなら思い切った言動をして、皆をあたふたさせるのが私のはずだ。
それなのに、なぜ私があたふたしているのだろうか。
「カルロスおうじのいくところにいこうって、さっききめたよね」
マークがニヤニヤと悪い顔をして私を見た。なんだかちょっと腹が立つ。
「おや、リア。リアはカルロス殿下が、領都に行くと思っているの?」
「いかないの?」
さっき、グレイソンに行かずに領都に行くと言っていたはずだ。
だからこそ兄さまも怒ったのだから。
「ルークにあれだけあおられて、そのまま領都に向かうとは思えないんだよねえ。見たかい? 王子様のあの悔しそうな顔をさ」
「たのしそうだな、マーク」
クックッと笑うマークに、ニコもあきれ顔だ。
「あそこまで言われて、それでも私たちを連れて領都に向かうって言うんだったら、それはそれで尊敬するけどね。そしたら、ファーランドもそこまでの国かな。誰が次の王になっても、別にこの先、そんなに交流しなくてもいいかなって思うだけのことさ」
私も先のことまで考えることがあるが、それはあくまで、自分にかかわる人についてだ。
国と国として、これからどう付き合っていくのかまで言われると、正直戸惑ってしまう自分がいる。
「では、マークは、カルロスどのがグレイソンに向かうにいっぴょうか」
「一票だね。さらに言うと、明日、ルークたちと一緒に出発するに一票だ。さっきのさわやかなルークと同じさ」
マークはまた楽しそうにニヤリと笑う。
「マーカス殿、ニコラス殿、そしてリア。先に領都へ向かってください。同行できず、申し訳ありません、ってとこかな。青春だねえ」
「リアたち、おいていかれちゃうの?」
展開の速さについていけない。あわあわする私の手を、ニコがぎゅっと握ってくれた。
「リア、おちつけ。おいていかれたから、どうだというのだ。われらはわれらのしたいようにできるということではないか」
「したいように、できる?」
したいようにできる。ニコのその言葉は、私の中にするんと入って来て、すとんと落ち着いた。
「したいようにして、いいんだ」
途端に私の頭がくるくると動き出す。
私は、本当なら兄さまと一緒に行って、ジャスパーの領の人たちをできるだけ助けてあげたい。
けれども、この小さい体は足手まといだ。
「なら、りょうとにはいかない。グレイソンにいく。リアのたいりょくにあわせて、ゆっくりとでいい」
ニコに握られた手が、嬉しそうにぶんぶんと振られた。
「わたしはリアにいっぴょうだ。グレイソンに行こう」
「いこう!」
私も一緒にぶんぶん手を振る。
「マークも行こう」
「いこう」
「やれやれ、遊びじゃないんだよ」
マークは肩をすくめたが、私たちの期待に満ちた目に耐えられなかったようだ。
「まあ、私も行くに一票だけどさ」
「やった!」
「やった!」
歓声を上げた私たちだが、マークが口に一本指をあてたのを見て、静かに椅子に座り直した。
ちゃんとした大人の言うことは、ちゃんと聞く。
「どうせルークもカルロス王子も、私たちがおとなしく領都に行くと思っているだろうから、言質を取らせず、こっそり行くよ」
私たちはこくこくと頷いた。
マークは座っている椅子の背に寄りかかると、ふうっと息を吐いて天を仰いだ。
「私はね、もともとファーランドのご機嫌伺いなんてこと、最初からごめんだったのさ。リアには悪かったけど、リアがさらわれて身柄が確保された時、そもそもウェスターからの要求だって、キングダムは最初は無視してたんだよ」
「しってる」
「しらなかった」
歴史だって最近のことは授業では扱わない。
ニコが知らなくて当然である。
「それをディーン殿が勝手に押し切ったんだ。結果的にリアが戻ってきたから、よかったはよかったけどさ。ウェスターの要求に対してあれほど渋ったんだから、ファーランドのご機嫌伺いなんてする必要はないんだよ。だって、ウェスターはリアを保護してくれたけど、ファーランドは何をしてくれた?」
私はぽかんと口を開けた。
「お気楽な第一王子を送ってよこして、キングダムで勝手に遊びまわった挙句、うちの王家と四侯の子どもたちを巻き込んでウェスターで大騒ぎ。ここのどこにファーランドにいい顔をする必要があるのさ」
当事者である私は、巻き込まれたとしてもおかげで楽しい時を過ごせたから問題ないと思っていたが、周りからはそう見えるんだと冷や水を浴びせられたような気がした。
「ランバートには行ってこいって言われたから来たけどね。ファーランドの思惑通りに動かなければならない理由などない。しかも、ファーランドが本来やるべき援助をしてあげようとしているんだからね、こっちは」
これはマークの言うことが正しいような気がする。
「それに、ニコには悪いけど、領都に行って結界箱を寄贈しても、王家はグレイソンに送ることを考えつかないんじゃないかって気がするんだよねえ。宝物庫にしまっておしまいじゃないかな」
「つかってこそのけっかいばこだろう」
「そんなふうに考えられない人もいるんだよ。だって、結界箱を使ったら魔石の補充をしなくちゃいけないんだよ。大事に大事にとっておきたいだろう?」
私とニコはそろって首を横に振った。
道具は使うものだ。理解できない。
「君たちがいたら、キングダムは安泰だね」
どういう意味か問う前に、明日どうするかの相談に入ってしまった。
「一日、準備のために留まったら、行く先々で物資を集めながら、グレイソンに向かったらどうかと思うんだが、ニコ、どう思う?」
「それがよい。わたしからは、ハルフォードにたちよることをていあんする」
「なるほど。キングダム一行がグレイソンに強い関心を寄せているということを示して、援助を引き出すわけだね」
「そうだ。もともとハルフォードはカルロス王子をおしているときく。カルロス王子が向かったときけば、えんじょを少し早めるくらいはするだろう」
二人が大きなところを相談しているが、私にできることもある。
「リアは、けっかいばこ、もうすこしよういできないか、まどうぐしにきいてみる」
「結界箱は王都の魔道具師でないと作れないんじゃなかったかい?」
「そう。でも、はことしくみさえあれば、リアがつくれるから」
「ええと、うん」
マークは目を白黒させて、私が結界箱を作れるということを呑み込もうとしている。
「そうだ、リアはそもそも自分で結界を張れるし、今回のカルロス王子の件だって、リアの作る小さい結界箱を分けてほしいというお願いだった。そりゃあ普通の結界箱くらい作れるか。じゃあ、明日、三人が出発したら、作戦開始だね」
マークが話を締めくくろうとした。
「あ、まって」
私にはまだ気になることがある。
「もし、カルロスがりょうとにいくっていったら?」
「私は無駄なことは考えない主義でね」
マークがたまにはかっこいい。
「臨機応変、なんだろう?」
そういうことになった。
「マーカス殿、ニコラス殿、そしてリア。先に領都へ向かってください。同行できず、申し訳ありません。詳細はこの書状に」
ハンスが笑いをこらえてとても変な顔になっているが、真面目な雰囲気に、さすがに噴き出すのは我慢している。
結局、マークの言ったことは正しかった。
つんとする兄さまと心配そうなジャスパーと一緒に、カルロス王子はグレイソンへと旅立っていった。
「なんとも慌ただしい。これでよかったのだろうか」
おじいさまが心配しているのは、たぶん兄さまのことだ。
「巻き込まれて一番大変なのはネヴィルの皆さんです。ランバート殿下に代わって、私が謝罪とお礼を申し上げます」
「ほんとうにめいわくをかける」
マークとニコが、ネヴィルの皆に頭を下げている。
「そして、これからもっと迷惑をかけることになります」
マークが申し訳なさそうな顔を継続している。
「客の滞在には慣れておりますよ。出発までゆっくりと休んで行ってください」
これはダレンおじさまだ。気の毒に。
「いえ、そうではなく」
マークはにこりと笑みを浮かべた。
「われわれも遅れてグレイソンに向かうので、その準備をお手伝い願いたい」
「は、はあ?」
ダレンおじさまのぽかんとした顔と、やると思ったというおじいさまのあきれ顔に、申し訳ないと思うと同時に、ちょっとだけ笑えると思った私である。
とはいえ、事情を説明すると、おじい様たちはすぐに諸々の手配を始めてくれた。
「資金はこれで」
さすが財務にかかわっていると言っただけのことはある。マークはちゃんとお金を用意してくれていた。
「助かります。些少ではありますが、ネヴィルからも物資と人手を出しましょう」
ラグ竜はかなりの重さの荷物を運べる。
ネヴィルからも、非常用の食料や毛布などを竜車いっぱいに集めてくれるという。
その手配の間に、私はショーンとラビの魔道具店をニコと一緒に訪れていた。
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