民と国
「カルロス、それにニコ殿下、マークも。私たちも入って、まずは昼食をいただいてしっかり休みましょう」
残された私たちについては、兄さまがしっかりとしきって屋敷へと誘導した。
「申し訳ないが、私はジャスパーの目が覚めた時、そばに付いていたいと思う」
カルロス王子は深刻な顔をしてジャスパーのもとに行ってしまった。
「目が覚めるまでにすべきことは、他にあるだろうに」
思わず声を漏らしたのはマークだった。
「おっと、思わず口がすべってしまったけれど、本来ならルークが言いそうなことだよね」
「マークが私のことをどう思っているのかよくわかりました」
「ハハハ。冗談だよ」
笑いに変えてはいるが、私たちキングダム組には困惑が漂っていた。
事態は深刻で、カルロス王子の選択次第では、私たちの動き方も変わる。
私たちがここにいるのは、ランバート殿下の強引な押し付けかもしれないが、カルロス王子がそれを受けた以上、私たちは既に正式なキングダムの使者であり、ファーランドの客人なのだ。
つまり、優先すべきは私たちなのだが、完全に放置されている現状である。
「さてさて、さっきは冗談で紛らわせたけれど、困ったことになったね」
昼食後、キングダム組は応接室に集まった。
大切な話し合いになりそうだったので、本来ならお昼寝に引っ込む私も、眠くなるまでは頑張って話を聞いていようと思い、兄さまにくっついてきている。
「話を聞く限りでは、領都にいるわけでもない第一王子に、何かできるとも思えないが。ゆっくり行くから、先に領都へ急げとでも言ってやるくらいか、私たちにできるのは」
すぐに突っ走るオールバンスと違って、ゆったり構えるマークが頼もしく見える。
「だが、じゅうしゃは、キングダムとつながりがあるカルロスでんかなら、と言っていたではないか。たしかにわれらはカルロス王子としたしいといえる。なにかほかに、できることはあるのではないか」
さすが我らがニコである。
マークはその慈悲深さに胸に手を当てて一礼した。
「殿下の仰せとあれば、我らが動くこともやぶさかではありません。ですが、我らはファーランドへの使者でもあります。まずすべきことは、領都へ行って、大きな結界箱を手渡し、ファーランドもウェスターと同様に、キングダムが大事に思っている国であると示すことです」
「それはそうなのだが。あのきょぞくが、たいりょうにでているというではないか。わたしもなんどもみたが、おそろしいものだし、人のいのちをうばうものでもある」
ニコはミルス湖で一度、そしてウェスターでも一度、しっかりと虚族を近くで観察している。
その恐ろしさは肌で感じているのだろう。
「ちょうど手もとに、けっかいばこがあるではないか。けっかいばこがあれば、きょぞくをふうじこめるだけではなく、よるも自由にであるけるのだぞ」
「そうなれば、復興がだいぶ楽になるでしょうね。さすがはニコ殿下。私は思いつきもしませんでした」
マークとニコの会話は続く。
「ふむ、そうか、辺境の夜は外に出られない。虚族が存在するというのはそういうことか。確かに辺境を知らぬ者にとって、すべては他人事。なぜ私がと面倒に思ったが、学んで来いという、ランバートの計らいか」
今のは独り言のようなものだから、ニコはマークには答えず、兄さまと私のほうを向いた。
「ルーク、リア。どうした。いつもならあれこれとかんがえをはなしてくれるというのに。ねむいのか?」
最後の一言ひところは私向けだ。
「ねむくないもん」
いつもと違って本当に眠くない。眠くないったらないのだ。
「眠くなるまでは頑張りましょうね」
兄さまが私に優しい目を向けたあと、ニコに答えた。
「私は、カルロス王子を待とうと思うのです」
「まつ? ジャスパーの目がさめるまでか?」
兄さまは首を横に振った。
「ニコ殿下とマークが来るまでの間、私とリアは、少しでもカルロスと仲良くなれるように頑張ったのですよ。キングダムが彼を推すというのなら、大人になっても私たちの付き合いは続くでしょうから、今のうちにと」
「末恐ろしいね。オールバンスはそこまで考えるの?」
余計なことを言うマークには、私が説教だ。
「マークももっと、あたまをつかったほうがいいとおもう」
「それはひどくない?」
ひどくありません。
「なかよくなれたか?」
ニコの顔が輝いた。
こういう反応が欲しかったのである。
「少しだけ。少なくとも、私は前よりも、カルロス王子が好きになりましたよ」
「それはよかったな。リアはどうだ?」
「リアもすこしだけ」
「少しだけか」
ニコは残念そうである。
「いろいろなことをいっしょにやろうとしたけど、カルロスはいつもほんきじゃないから」
本当なら、なんでも簡単にできるほど優秀な人であるはずなのに、本気で取り組もうとしない。
「ニコ殿下は民のことを大事に思っていますよね」
「もちろんだ。そのために王も王子もいるのだからな」
「では、民の何を大事にしたいですか?」
「せいかつを」
ニコの答えには迷いはなかった。
「あさおきて、ひるはたらいて、よるかぞくとすごすせいかつを。つつがなくおくれるように、わたしはけっかいをまもり、ちせいをおこなおう」
兄さまは椅子から立ち上がり、ニコの前に片膝を付くと、胸に手を当てた。
「四侯たる私も、同じく」
私も椅子から滑り降りて、座っているニコの隣に座り直した。
「リアも、ニコといっしょに、たみのために」
「私だけ仲間外れはいけないね」
マークがやれやれと椅子から立ち上がり、兄さまの隣にひざまずいた。
「モールゼイも同じく、民のために」
ニコは私のほうを見て頷いた。
二人で椅子から滑り降り、手をつないで反対の手を胸に当てた。
「おうけとよんこうはたいとうである。共に民のためにあろう」
しばらく誰も何も声を出さず、なぜだか私は涙が出そうになった。
「うっ、ぐすっ」
涙声が聞こえたのは私からではない。護衛たちからである。
「アハハハ。君たちといると、飽きないねえ。来てよかったよ」
マークは感動の雰囲気をあえて壊すかのように立ち上がった。
「でもルーク、いきなりどうしたのさ」
「すみません、ちょっと、あまりにニコ殿下に感動してしまって」
兄さまも照れた顔だ。
「本題に戻りますね」
また皆、椅子に戻った。
私はニコの隣に座る。
「カルロス王子が優秀なのはわかります。でも、彼の目には民が見えていない」
それは私も感じていた。
「民が見えていないから、自分が守るべきものが見えない。したがってなぜ王になるべきなのかがわかっていないように見えるんです」
「目に見えるジャスパーは大事に思っても、ジャスパーが大事に思っている民は見えない、ということかな」
マークの指摘に、兄さまは頷いた。
「ばかな。くには民だぞ」
「自分がいてもいなくても。誰が王でも、民の生活は変わらないと、そう感じているようでしたよ」
ニコはうーんと考えるように腕を組んだ。
「王子としてうまれたからには、じぶんが王としてなにをやりたいかだけだとおもうが。わたしにはりかいできぬ」
ニコが自分の国の王子で本当によかったと思う。
「私たちがどうするかですが」
兄さまの一言に、皆の目が真剣になる。
「私たちは、ファーランドへの親善大使ではありません。カルロス王子を推す親善大使だと認識していますが、それで合っていますよね」
兄さまはマークに確認している。
そういえば、私たちは簡易な書状しかもらっておらず、詳しい事情は知らないままだ。
「合っているよ。そもそもキングダムに王子をよこすなら、世継ぎが正式に決まってからにしてほしかったよね。いまさら別の王子と言われてもね」
キングダムから見ると、もしカルロス王子ではない王子が世継ぎに決まってしまったら、カルロス王子に配慮していろいろもてなしたことが無駄になってしまうということでもあるらしい。
「それなら、迷う必要はありません。カルロス王子の行くところへ行き、カルロス王子がしてほしいことをしましょう」
「我らが領都へ先に行くのはなしだと?」
マークが片方の眉を上げた。なんだかかっこいい。
「なしです。行くのなら一緒にです」
反対意見は出ない。
「カルロスがジャスパーにどう答えるか。それを見定め、もしカルロスが本気を出すのなら、オールバンスは本気で援助を考えます。本気を出さないのなら、それまででしょう」
方針をは考えることはできても、キングダムの資産を好き勝手にはできない。兄さまの権限で決められるのは、オールバンスの資産をどう使うかだけである。
「わたしにはしきんを自由にするけんげんはないが、ファーランドにきぞうするまでは、けっかいばこはキングダムのもの。それをかしあたえてもよい。ませきにまりょくを入れるだけならむげんにできるしな」
「それだ!」
私はぴょこんと飛び上がった。
「ネヴィルでまいにちやってたみたいに、まちのひとのませきにまりょくをいれてあげられるよ! それならリアもやくにたつし」
「そうですね。リアと二人で、魔道具関係の援助もできますね」
「キングダムからどのくらい援助できるかは、私が判断できますよ、ニコ殿下。私の仕事は財務ですからね」
マークが頼もしい。
「それから、私たちが行くとなると、食料や何かも余分に必要ですね。おじいさまに頼んで、少し分けてもらいましょうか」
いずれにせよ、私たちは待つしかない。
大事な話し合いで目がさえた私は、ついにお昼寝を卒業かと思われたが、温かいお茶とおやつをもらったら、こてっと寝てしまったのが惜しいところだった。
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