友だちになる
転生幼女11巻の発売に向けて、更新頻度を増やします。
また、活動報告を投稿しました。
書影があります!
家族での話はあっという間に終わり、お父様はてきぱきと指示を出して様々なことを取り決め、昼前には出発してしまった。
突発的な出来事のせいで、たくさんお話しできたのはよかったが、やはり離れると寂しいものだ。
急に予定が変わったので、新人の護衛もいきなりファーランドへ行くことになってしまった。
要するに、ハロルドである。
「いや、俺も行くんですか。護衛としてでもまだお試し期間なくらいなのに、いきなりファーランドとか無理です」
とハンスに泣きついていたが、そんな素直にわがままを言う護衛など初めて見た。
「妻や子がいるならともかく、お前は独り身だろう。なあに、危険な旅に出るわけではない。しかも、仕事もわかりやすい。ルーク様をお守りして、ファーランドの王族のところまで無事送り届け、その後キングダムに帰ってくるだけだ」
「ちょっとそこまで買い物に行くみたいに言わないでくださいよ。王族のところまでって、ファーランドの領都カスターまでってことですよね。ゆっくり行ったらここからでも二週間くらいかかるじゃないですか」
ハロルドの泣き言が耳に入った兄さまのこめかみに青筋が立ちそうだったが、何も言わずにその場を立ち去ったのはさすがである。
泣き言をいう護衛が面白かったので、私は椅子に座って楽しく眺めていたのだが、兄さまが戻るときに一緒に連れ去られてしまったせいで、続きが見られなかったのは残念だった。
去っていったお父様に、泣き言を言う護衛。
戻ってきたカルロス王子に、やってくるニコとマーク。
突然のファーランドへの旅。
「あれ? もしかして、とてもたいへんかも」
「大変ですよ」
兄さまがそう断言したうえ、普段泣き言ひとつ言わないナタリーが、ほうっと一つため息をつくくらいには、大変な状況になってしまったようだ。
お昼ごはんにはカルロス王子と話せるのかと思ったら、疲れてお休みだそうだ。
申し訳ないが詳しいことは明日にお願いすると伝言だけが届いた。
「カルロス殿下でも、頑張ることはあるんですね」
「ルークは殿下に厳しいなあ」
ダレンおじさまが苦笑しているが、確かに兄さまはカルロス王子に厳しいし、私もかなり厳しくしてきたつもりだ。
思えば、初めて会った時から、チャラついた奴だなと、あまりいい印象を持てなかったし、その後の行動もそれを払拭するものではなかった。
それまで私が知っていた王族と言えば、ウェスターのヒューバート王子やキングダムのニコだった。王族とは若くても、自らを厳しく律するものだという印象だったから、甘やかされた金持ちのお坊ちゃんにしか見えなかったカルロス王子の評価は自然と低くなる。
兄さまは自分が努力の人だから、その評価はもっと低かった。
でも、ウェスターの旅の中で、少しずつだが、私のカルロス王子への評価は変わっていったように思う。
今でも面倒くさい人だなあとは思うが、それはいうなれば、護衛のハロルドと同じ程度だ。
力はあるのに出し惜しみして怠けようとする。
頭がいいのに深く物事を考えようとしない。
けれど、ウェスターのヒュー王子は、なぜだかカルロス王子のことが好きなようだった。
ずっと見ているとわかる。
一見豊かで自由な王族も四侯も、長い歴史の中でそれぞれの役割に捕らわれ、逃げたくても逃げ出せない。
それはキングダムだけでなく、ウェスターでも、おそらくファーランドでも同じだ。
だから、せめて自分たちの代では何なにか違う成果を出そうとして、ウェスターの現王子二人は町ごと結界で覆うという対策を打ち出し、努力した。
だが、その努力は、民のために自分を縛るのと同じことだ。
やりがいはあっても、重く息苦しい。
そんな中で、カルロス王子は軽やかで自由だ。
やりたいことをやりたいと口に出し、行動することにためらいがない。
そのためらいのなさは、だいたいは周りの人にとても迷惑なのだが、その迷惑のおかげで、ヒューは数か月の自由を得てファーランドにも行くことができたし、私や兄さま、それにニコまで得難い体験をすることができたのだ。
真面目な人が多い中で、カルロス王子は近くにいるとさわやかな風が吹く、そんな感じの人なのである。
つまり、そう思うということは、私はけっこう、カルロス王子が好きなのだろう。
「にいさま、ニコはいつくるの?」
「いつとは書いてありませんでしたが、私たちを待たせているのですから、割とすぐだと思いますけどねえ。そういえば、使者を出せばいいだけなのに、なぜカルロス殿下本人が来たのでしょうね」
「ルークとリアが行くかどうかはともかく、ニコラス殿下が来るということは、キングダムは、はっきりと第一王子を支持すると示したということだぞ? これは本国でも大きいはずだが、カルロス殿下はどうお考えだろう」
それに答えるべき何かを、私は持ってはいない。
ただ ファーランドに行くからには、ちゃんとカルロス王子と向き合わなければいけない。
そんな予感があった。
お昼ご飯をお腹いっぱいに食べて、お昼寝したら兄さまに相談だ。
兄さまはどうやらハンスとこれからのことを相談していたようだ。隅っこにはハロルドもいる。
「これからファーランドに行くのなら、わざわざ護衛を訓練したのは無駄だったような気がします」
兄さまは頭が痛いというように椅子に寄りかかった。
「むだじゃないよ。くんれんがあったから、あんしんしてごえいをつれていけるんだから」
「そうですよね! あとは全部おまけです。できてもできなくてもよし!」
兄さまが言い聞かせているのは、誰にでもなく自分にだろう。
そもそも私たちはおじいさまのところに楽しく家族旅行に来たのであって、護衛の訓練も、新しい魔道具であるあったかポシェットのことも、カルロス王子のことも、ファーランドに行くことも、全部全部おまけでいいのである。
だが、そんな兄さまに申し訳ないのだが、これからの日程のことで、私は知りたいことがあった。
「にいさま、おまけのことなんだけど」
「はい。聞きましょう」
兄さまは椅子から背を起こしてしゃきっとした。
「ニコがくるまで、リアはまちにでるのをつづけたいの」
「魔石に魔力を入れるあれですね」
「うん。それでね、まちにはカルロスでんかもつれていく」
「え?」
兄さまが聞き取れなかったというように聞き返してきた。
「カルロスでんかを、つれていく」
丁寧に繰り返した私に、兄さまは首を横に振った。
「いえ、聞こえていましたけれど、頭に入ってこなくて。たぶん、来ませんよ? あの人、民の生活には興味がないと思います。少なくとも、ウェスターの旅ではそうでした」
兄さまも、苦手だと言いながらもカルロス王子をよく見ている。
「もちろん、生活に興味がないだけで、それは王族として国をきちんと維持する力とは別だと思っています。お父様も民の生活を知りませんでしたが、今までなん何の問題もなかったでしょう?」
「うん。たみにこころをかたむけすぎてもよくないって、リア、しってる」
高位貴族のやるべきことは、仕組みをきちんと作り、経済を回すことだと私は思う。
「リアがね、まえにいったこと、おぼえてる?」
「そう言われてもさすがにわかりませんね。いったいいつのことでしょう」
それは初めてカルロス王子と旅をした時のことだ
「リアもちゃんとはおぼえてないけど、いつかカルロスおうじはおうさまになって、にいさまやリアたちはおとなになる。そうなったとき、ちゃんとともだちでいたほうがいいって。んー、そこまでいってなかったかも」
記憶力はいいほうだが、何から何まで覚えているわけではない。
自分でも自信がないこともある。
「あのときは、そんなきがする、ってくらいだったけど、いまはちがくなった」
「違くなった、というのはどういうことでしょう」
兄さまがまっすぐ私を見つめた。
「キングダムは、カルロスおうじをおしたい。ということは、にいさまとわたしがおとなになったとき、カルロスおうじがおうさまになる」
「そう、なりますね」
その時はランバート殿下が王様で、ニコが王子様なんだろうなと想像して楽しくなってきた。
ニコは今でも立派な王子様だけれど、立場的には孫王子様だ。
「ちゃんとなかよくしたい。いいたいこと、ちゃんとつたえたい。さいしょからあきらめたくない」
「リア……」
ちょっとめんどうくさい人だから、適当にごまかして、付き合いを避けていた自分がいる。
「私は面倒だし、あんまり付き合いたくないし、正直に言うと、仲良くなる努力もしたくありません」
「ルーク様、言葉を選びましょうや」
ハンスの突っ込みは兄さまにも冴えわたるが、兄さまは私ほど寛容ではない。大丈夫だろうか。
「あいつのせいでファーランドに行くことになりましたが、別に今じゃなくても、来年にはオールバンスが契約したマールライト鉱山の視察に、自分で行こうと思っていたんです。どうせファーランドに行くのなら、自分の意思で行きたかった」
嘆いても仕方がないのである。
結局、カルロス王子は夕食にも出られなかったので、顔を合わせたのは次の日の朝食だった。
「君たちにはファーランドにも来てもらうというのに、詳しい話もできずに申し訳なかったね」
まだ疲れが残っているのか、いつもよりきらきらが弱い気がする。
「なんでこんなことになったのか私にもよくわからないんだ。ランバート殿下と話していたら、小さい結界箱には許可は出せないが、大きい結界箱ならあげられるよと言われてね。どうせならニコに持たせよう。ああ、ついでに四侯の跡継ぎも二人ばかり連れて行くといいよって」
「ランバート殿下らしいですね。そういうお方です」
兄さまは冷静に返事をしているが、私はその場面を想像して笑い出しそうだった。
おちゃめなランバート殿下と、困惑するカルロス殿下。
二人とも華やかな王子様イケメンだから、さぞかし見ごたえがあったことだろう。
「小さい結界袋だから欲しかったのに、いつの間にか、欲しいとも思っていなかった大きい結界箱を持たされることになった」
「領都を覆えるほどの結界ですから、貴重ですよ。ただし」
「必要な魔石も大きいんだよね?」
「そうです」
魔石がもったいなくて、常用するのは無理なのである。
だからウェスターは、キングダムに魔力の充填のための魔力もちを派遣するように頼んだのだ。
「ニコの話し相手として、リアも付けようっておまけのように言われたけれど、オールバンスはそれで本当にいいのかい?」
「いいもなにも、王命ですから、仕方がありません」
兄さまはにべもない。
「そもそも、キングダムの王族と四侯は国境の外に出てはいけないのでは? 既に君たちと一緒にウェスターを旅した私が言うことではないのかもしれないけれど」
話を聞いていると、カルロス王子はランバート殿下にすっかり煙に巻かれて帰ってきたらしい。
しかも、なんとか私たちが来ないよう、遠回しに断ろうという気配がプンプンする。
「ですが、リアの誘拐がきっかけとはいえ、キングダムとウェスターとのかかわりが深くなってきていることに、ファーランドは危機感を持っているのではないですか?」
兄さまはずばりと切り込んだ。
「それはそう、だが」
それはそうなんだ、と、私は意外に思った。
少なくとも、カルロス王子はそのことを知らないか、気にも留めていないかのどちらかだのだと思っていたからだ。
「この際ですから、キングダムはウェスターばかりをひいきにしているわけではありませんよ、ということを、ちゃんとわかってもらえばいいんじゃないでしょうか」
「それはそうなんだが。なぜ本国はそれをわかろうとしないのか、私はそっちが理解できないよ」
なぜファーランドの危機感をカルロス王子が理解できないのか、そっちがわからないよと兄さまは言いたいだろう。
「そういえば、こないだの旅で、ウェスターのヒューバート殿下をファーランドに招いていましたよね。私は先に旅から離脱したので、ファーランドでの様子はわかりませんが、どうでしたか?」
「それはもう、楽しかったよ!」
とたん途端に目をきらきらとさせるカルロス王子を見て、答えるべきことはそれじゃないと思ったのは私だけではないだろう。
ヒューがファーランドを見てどんな感想を持ったのかとか、お互い学んだことは何かとか、そうい言うことが兄さまは聞きたかったに違いない。
「リアには大変な事件だっただろうが、リアと別れた後、領都のカスターに行くまで、二人であちこち寄ってさ。名物はもちろんも食べたけれど、夜にやっている酒場にこっそり潜入したりしてね」
私はびっくりして口をぽかんと開けてしまった。
辺境では夜は基本的にはお店を開かない。開くとすれば、それはハンター向けのあれこれや、宿泊を前提とした、つまり、私のような幼児の知る必要のないお店だったりする。
そんなところに、カルロス王子が行くのをリコシェが許すとは思わなかったし、なによりヒューが一緒に行くとは思わなかったのだ。
「もちろん、リコシェも一緒だよ。友だちみたいなものだからねえ。ヒューには不意打ちをして、つまり最初から知ってたら絶対に断るだろうから、ちょっとだまして連れて行ったというか」
「ちょっとどころではなく、だまして連れて行ったんですね」
兄さまの突っ込みが鋭い。
「それから、リアに聞かせていいこととそうでないことの区別はちゃんとつけてください」
「すまない」
カルロス殿下はぽかんと口を開けている私をちらりと見て、ちゃんと謝罪した。
が、そんな話、どうせ幼児にしてもわかるわけがないので、あまり気を使わなくてもよろしいと思う私である。
「ヒュー、おこらなかった?」
一応それだけ聞いてみる。
貴族らしくないことをするとずいぶん怒られた私からすると、ヒューがどうしたのかは割と気になる。
「怒っていたよ。でも、最後は許してくれた。まあ、何事も経験だからさ。私だって夜の酒場なんて初めてだったし」
なるほど、小さい子である私とニコがいなくなって、カルロス王子もヒューもはっちゃけたというところなのだろう。
でも、これで次に会った時に、からかう種ができた。
ニヤリと笑った私を見て、兄さまが天を仰いだ。
「だからリアに聞かせてはいけないと言ったのに。ヒューバート殿下、おかわいそうに」
「ちがうでしょ。しんぱいするのは、リアのじょうちょめんでしょ」
思わずハンスのように突っ込んでしまったではないか。
「でも、今度会った時にぜったいからかうつもりだったでしょう」
「それはそう。リア、ヒューにはいっぱいおこられてるから。おとながそんなことしていいの? っていうつもり」
少しくらい仕返ししてもいいと思うの。
「二人でさ、夜の草原を竜で走ってみたりもしたよ。結界箱があるとほんと、自由だよね」
騎竜用の結界箱はまだ商品化していないので、普通の結界箱を使ったのだろう。
散策用に使うとはさすが王族である。
「フフッ」
夜の世界を、バイクではなく、竜で走り出す。
どこの世界も、青少年はそんなものなのだろうか。
もっとも、とっくに成人している王子様たちだけれど。
「フフフッ」
笑顔のヒューが目に浮かんで、とても楽しい気持ちになる。
よかったね、ヒュー。
「ところで、カルロス」
「え、は、はい」
楽しく話していたカルロス王子が急にかしこまった様子になる。
「きょうはリアたち、まちにでて、ませきにまりょくをいれてくるの。カルロスもいくでしょ」
「ええと」
話の展開に付いてこられないうちに巻き込んでしまおう。
「なにかすることある?」
「ないです」
じゃあ、一緒に行くことは決まりだ。
「あの、ええと、今私のことを、カルロスと呼んだかい?」
よく気がつきましたと、心の中で褒めておこう。
「ごちそうさまでした」
私は食堂の椅子から下ろしてもらい、同時に席を立った兄さまと手をつないだ。
「じゃあカルロス。後で玄関ホールに集合ですよ。あ、寒いから、温かい格好で」
兄さまの言葉に驚いて、何も言えずにいるカルロス王子を置いて、私たちは食堂を出た。
「見ました? カルロスの驚いた顔」
「みたみた。でもにいさま、どうして?」
「よびすてですか?」
「うん」
兄さまは私がカルロス王子を呼び捨てしたのにすぐに気がついて、同じようにしてくれた。
今までかたくなに殿下呼びを止めなかったのは私も同じだが、兄さまは、殿下と付けることで、あえて距離を取っていたように思う。
「友だちになろうって、昨日リアが言っていたじゃないですか」
「それはそう、だけど」
「私はヒューバート殿下は尊敬できる人だと思います。そして自ら義務を背負い込む、真面目な人だと」
「リアもそうおもう」
ヒューに対する評価は、私も兄さまも同じだ。
「そのヒューに、自由を味わわせて、笑い飛ばせるのなら、お気楽な人柄も悪くないのかなと、そう思ったまでです。怠け者だけれど」
どうしても全面肯定できない気持ちはよくわかる。
「リアもおなじ。きっと、ヒューは、ファーランドでこえをだしてわらってたとおもう」
夜の草原で、自由だったお父様と兄さまのように。
「少なくとも、リアの言う通り、毛嫌いせずにちゃんと向き合ってみようという気になりました」
「リアはそこまでいってないよ」
毛嫌いしていたのねと、遠い目になる私である。




