なりたかった子ども
「転生幼女はあきらめない」書籍9巻は12月15日、
コミックス7巻は同じく12月14日に発売予定です。
また、「転生幼女」9巻は通常版と、リアのアクキーがついた特装版と二種類発売決定です。
特装版は一二三書房のページから予約のみで購入できます。アクキーの分お高いですが、確実に手に入ります。
それからすぐに外に出ていたヒューが戻ってきて、今後の話し合いが行われた。
「レイとエイミーのことは本当に申し訳なかった」
ヒューが町長に謝罪しているが、ギルと兄さまも同じように謝罪してから会議が始まった。今は、誘拐犯からの連絡待ちということになる。
ナタリーが倒れたのは、ラグ竜から私をかばったためで、肩と腰に打撲があるが、命には別条がないということでほっとした。私をかばって人が死ぬのはもうたくさんだ。
ちなみに話し合いには、私たちも当事者として参加している。
まず発言したのがブレンデルだ。
「まず、魔道具屋に寄ったのがサイラス本人かという確認が先で、あまり重要視していなかったことだが、サイラスが求めたのは、一番大きい魔石だったことを思い出してな」
「大きい魔石、というと」
ヒューが詳しい説明を求めた。
「つまり、結界箱に使えるレベルの魔石だな。金のある商人が旅をしている場合、たまに買い求めることがある。だが、基本的に大きい魔石はケアリーに出しているから、うちには売れる魔石はなかったんだ」
サイラスが行動する時は、常に結界箱をたくさん持っていた。だが、二人旅でたくさんの結界箱や魔石を持ち歩くだろうか。
ケアリーを追われた時に、そうたくさんの荷物を持ち出せたとも思えないし、夜に旅をつづけた日もあったはずである。そうなると考えられるのは、結界箱に使える魔石が足りなくなってきたということではないか。
「それでは、狙いは私たち四侯ですね。リアに言ったことはただの嫌がらせでしょう」
兄さまの冷静な声がする。
「レイとエイミーと引き換えに、私たちに魔石の魔力を充填させる。それが目的である気がします」
「だが、そんなことをしてもとても逃げきれまい。トレントフォースのこちら側の街道は既に封鎖しているし、ファーランド側もカルロス王子が人数を増やして封鎖してくれているはずだ。むしろこちらにとってはやっとサイラスを捕らえられる好機であり、向こうにとっては絶体絶命ではないか」
サイラスがまさかトレントフォースにいるとはという驚きから数日、ヒューたちは確実に包囲網を狭めていたという事実に私たちは驚いた。だからこそ、サイラスは最後の賭けに出たのかもしれないが。
兄さまが、私の方をちらりと見た。
それから、一度口を開きかけて口を閉じ、もう一度開いた。
「サイラスはキングダムを転覆させかけた重罪人です。多少の犠牲を払っても、確実に捕らえたい。捕らえられなかったとしても、せめて死体は確認しておきたい」
そう言うと一旦目を閉じた。
「サイラスからの連絡を待ち、こちらに出来得る限りの譲歩をして、レイとエイミーを解放させる。そこからは全力でファーランド方面に追い込む。最後は挟みうちだ。逃がすくらいなら、生死は問わない」
そこからじりじりするような時間が流れたような気がしたが、実際は簡単な夕食のすぐ後のことだったから、それほどでもなかっただろう。
ガシャガシャと落ち着かない音を立てて帰ってきたのはバートたちだった。屋敷からすぐにサイラスを追ったハンスたちも一緒だという。
サイラスからの連絡はまだなく、せめて捜索してきた人たちの報告を聞きたくて、すぐにナタリーと一緒に食堂に向かった。
「バート!」
暗い顔をしてうつむいているバートに、私は声を掛けた。
部屋にいたハンスは、私を認めるとすぐに私の斜め後ろの定位置に戻った。
「リア……」
帰ってすぐに食事をとりながら話を聞いているはずだから、普段なら私のことを心配して飛んできてくれるはずだ。だが、バートも他の皆も、こぶしをギュッと握りしめて私と目を合わせようとはしなかった。
なにかおかしい。
私は左右を見渡したが、先に来て話をしていたはずの人たちは誰も私と目を合わせようとはしない。
「私が行きます」
兄さまが静かに立ち上がった。
「レイもエイミーも怖い思いをしていることでしょう。向こうもできるだけ早くと言っているのだから、すぐ向かいます」
「だが!」
ヒューが兄さまを行かせまいとするかのように立ちふさがった。
「サイラスが求めたのは、予想した通り、結界箱の魔石を複数充填すること。それなら、力は私のほうがあります。私でいいはずです」
私は、他の人の表情やしぐさをじっと観察しながら、兄さまの話していることを注意深く聞き、考えた。
兄さまが行く。でも引き留められている。それはなぜか。
魔石に魔力を充填する者が指定されているからだ。
そして兄さまが代わりに行くと強硬に主張するということは、求められているのは兄さまではない。
それは誰か。
おそらく、私だろう。
それならばやることは決まっている。
「リアがいく」
「許しません」
兄さまが私を見ない。
「リアがこいっていわれてるんでしょ」
「……違います」
兄さまが違いますと言おうとして、一瞬詰まったのを私は聞き逃さなかった。
「リアがいってませきをじゅうてんすれば、レイとエイミーはかえす。リアはこっきょうをこえて、サイラスがあんぜんなところににげたらかえす」
私は鼻をふすふすと鳴らした。そして難しいことを間違えずに言えたとしても、その中身が悲しければちっとも嬉しくないことに気づいてしまった。
ギュッと手を握り私から顔を背ける兄さまを見れば正解は明らかだ。
「なぜ!」
ヒューががたんと椅子から立ち上がると、私の目の前にしゃがみこんで目を合わせた。
「なぜお前はそんなに賢いんだ。なぜそうしてつらいことも当たり前のように飲み込んでしまうんだ。たった一言、言ってくれればいい。リアは知らない、と。リアは怖いから行きたくない、と」
そうして私の肩をつかむと、まるで抱きしめているみたいにそっと揺すった。
「リアがどう言おうと行かせません」
「にいさま」
「行かせません」
「にいさま、リアをみて」
兄さまはゆるゆると体をこちらに向けた。その目は泣くのを我慢しているかのように真っ赤だ。
「リアは、ぜったいにもどってくるから」
「リア!」
兄さまも私の前にひざをついて、ぎゅっと抱きしめた。
「どうしてあいつは、いつもいつもリアを……」
「きっとね」
サイラスがどうしてああなのかはわからない。だが、愛のない赤ちゃん時代を思い出すと、私がサイラスになったかもしれない未来もあるような気がするのだ。
「リアが、サイラスのなりたかった、しあわせなこどもだから」
それならば、愛がなかった赤ちゃんのサイラスが、選びたくても選べなかった未来が私なのだと思う。
筆者の別作品、「転生少女まず一歩」書籍7巻は11月25日、
コミックス4巻は同じく11月14日に発売予定です。
最近のもろもろは活動報告にまとめてありますので、よかったらご覧ください。




