思ったよりも大変に
お久しぶりです。
連載再開です!
春の日差しがうららかだ。草原には黄色や白の花が咲き乱れ、その花の蜜を求めているのか、耳元を虫たちがブーンと通り過ぎていく。
「平和とは、こういうことを言うんでしょうか」
珍しくとぼけたことを言っているのは、私の隣に座り込んで草をちぎっては捨てている兄さまだ。
「いや、まったく平和な状況ではないよね。ルークは何を言っているのかな」
こちらも珍しくまともな突っ込みを入れているのは、同じく私の隣で草原に大の字に寝転んでいるカルロス王子である。
「われらばかりのんびりしているが、ヒューはだいじょうぶだろうか」
そして一番まともなこと言っているのが、我らがキングダムの希望の星、ニコである。
少し離れたところにはハンスをはじめ、護衛が何人も立っているが、いつもより人数が多く、そしていつになく真面目な顔をしている。
「まさかあいつがキングダム側に逃げるとは思いもしなかったからな」
兄さまの隣に座りぼんやりと空を見上げているのはギルだ。
「プー」
私の吹いた草笛の音が、草原を寂しく流れていく。
「ふっ、くふふ」
「やめろよ、リア。もっと気が抜けるだろ」
「プー」
兄さまが笑い出し、ギルがひっくり返る。寂しさなどどこへやら、結局は和やかな私たちである。
「ニコも、はい」
「うむ。ありがたい」
経験上、草笛は取り上げられることが多い。したがって余分に作ることにしている私は、不公平にならないようニコにそれを手渡した。
「プー」
「プ、プー」
ここらへんで、いつもなら噴き出すか的確な突っ込みを入れるハンスだが、このところ相手をしてくれない。
それもこれも、ケアリーの下屋敷で遭遇したあいつのせいなのだった。
「なんで当たり前のように商売して暮らしてるかな。隠れ忍ぶものだろ、犯罪者なんだぞ。それも国家を揺るがすレベルの」
ギルがぶつぶつ言っているが、私もそう思う。
「今ごろはウェスターの西部へと旅立ち、果てしない草原を竜で駆けているはずだったのに、なぜこんなところで幼児と草原を眺めているのだろうな」
別に一緒にいてくれと頼んでいるわけではないと言おうとしたら、ニコに先を越された。
「カルロスどのは、やしきにもどっていてもかまわないのだぞ」
「いやだよ、あんな気まずいところ」
カルロス王子の意見には、全員無言で頷くしかない。
そもそも私たちは、キングダムからウェスターの領都シーベルに招かれ、町を覆う結界の成功を褒めたたえてそのまま帰るはずだった。しかしカルロス王子が、ウェスター西部経由で遠回りしてファーランドに帰りたいとわがままを言ったせいで、私たちまでケアリー経由で帰ることになった。
いわばお付き合いでここにいるのだが、そのことを責めるつもりはまったくない。
なぜかというと、それに便乗して、ケアリーに着くまでの道中を大いに楽しんだからである。
さらにケアリーに着いてからもしっかり楽しんだ私たちがお世話になっているのは町長の屋敷なのだが、今問題になっているイースターの第三王子、いや、元王子のサイラスがラグ竜の商人として出入りしていたのが、その町長の浮気相手がいる別宅だったのだ。
当然、いくらサイラスの正体を知らなかったと主張したところで、ケアリーの町長には何らかの責任が問われることになるだろう。
そのうえ、浮気しているということが奥さんのイルメリダには知られてしまうし、浮気相手は息子のカークのかつての恋人ときては、私たちが滞在している屋敷全体が沈鬱な空気に包まれていても不思議はない。
「それもこれも、リアとニコ殿下が余計なことをするからだしな」
ギルに指摘されても、これについてはその通りなので否定しようもない。
「うう、ごめんなさい」
「うむ。こればかりはいいわけできぬ」
私とニコはしおしおと謝罪した。わざとやったわけではないにしても、結果的には屋敷を抜け出して、浮気相手の家を暴くことになってしまったのは確かだからだ。だが、第三王子のサイラスがそこにいたのはほんの偶然に過ぎない。そこまでは責任は持てないと思うのだ。
そんなに居心地が悪いのなら、町長の屋敷を出ればいいではないかという意見もあるだろう。私たちはそもそもキングダムの貴族なのだから、キングダム側のケアリーの屋敷、あるいはケアリーのあるあたりを治めているブラックリー伯爵の屋敷に滞在すればよいと。
そこで問題になってくるのが、サイラスが逃げたのがキングダム側だということらしい。
逃げたのはサイラスとシーブスと名乗る二人連れだから、私は危険性はないと思うのだが、キングダム側に危険人物がいる以上、ウェスター側にとどまってくれと言われてしまったのだ。
誰にかって?
ブラックリー伯爵にである。
自分の領地を通って犯罪者が逃げたものだから、さすがに無視するというわけにはいかなかったのだろう。キングダム側のケアリーにやってきて、そこからあれこれ指示出しをしてくれているというわけだ。
逃亡を警戒しているわけではないが、ケアリーの町長は屋敷の一室に幽閉状態である。
私たちを引率しているヒューはウェスターの第二王子なのだが、領都シーベルにだけでなく、キングダム側のケアリーに働きかけて王都やブラックリー伯爵にも早竜を出し、今後の指示を仰いでいるところだ。
その返事が返ってくるまでにも、できうる限りの調査をしていて、私たちのようにのんびり草原で過ごす余裕などないのだった。
「なにか手伝えることがあるといいのですが」
「こういう時、成人前の身は歯がゆいよな」
使える人もお金もなければその権利もない私たちである。
もっとも、アリスターだけは、バートたちと共に町で調査に当たっているらしい。
そんな忙しい日々でありながらも、ヒューは毎晩食事は私たちと一緒に取り、その日の進捗を聞かせてくれるのだった。仲良くなったものだと思う。
それによると、サイラスがキングダムに入ったのは本当に確からしい。
「しかもケアリーの町中を抜けてだぞ。しかし、そのまま北上したという目撃情報はあっても、そこから先がまったくわからん」
ヒューがイライラしているのは捜査が進まないことだけではない。
「町を通らず草原を抜けて行けば行く先がわからないものを、わざわざケアリーの町中を抜けて目撃情報を残しているように見える。それが攪乱なのか、それとも我々を馬鹿にしているのかわからないから始末に負えない」
キングダム側に行っても、町を経由せずにウェスターに戻ってくることもできる。サイラスがどこへ行ったのかもう少しはっきりするまでは、私たちもカルロス王子も動くことはできないのだ。
狡猾で大胆に行動できる者であれば、伝達手段が早竜しかないこの世界はやりたい放題なのだなと、私は他人ごとのように思うのだった。
状況が膠着したまま、10日近く無為に過ごすことになった私たちは、今日も今日とて屋敷の裏手の草原に来ているというわけだ。
しばらくの間、月、木で更新予定です。
うっかりわすれたらごめんなさい。
それから、今日から新作を投稿しております。
異世界恋愛で、虐げられた少女が幸せをつかむお話です。
「竜使の花嫁~新緑の乙女は聖竜の守護者に愛される~」
活動報告に新作の経緯や近況も書いてありますので、
よかったらどうぞ。




