いーよー
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いいたします。
朝からバートと並んでラグ竜に乗ることにワクワクしていた私だが、バートのしたいことは、単に竜に乗ることではないようだ。兄さまも予想もしなかったのか大きい声を上げそうになり、慌てて声を小さくしていた。
「はあ、結界? 竜に乗りながらですか?」
バートが私にしてほしかったことはこれらしい。
昨日の夜はすまなかったと、朝一番にバートが謝りに来てわかったことだ。
「ルークとリアには、以前一度頼んでおいただろ。リアの作った魔道具を使わせてほしいって」
「ええ、バートもそういえば『夜の訪問者』でしたね」
「なんだよそれ」
旅に出てからあまりにも夕食後訪ねてくる人が多いので、それが私と兄さまの合言葉のようになっていた。それと私は正確さを大切にする子どもなので、きちんと訂正を入れておく。
「リアのまどうぐじゃない。リアとニコのまどうぐ」
「そうか。ニコ殿下も呼んだほうがいいか」
「そうですね。もちろん、ギルもです」
バートが、ギルとニコを連れてくるまでの間、私は兄さまに確認してみた。
「にいさま、はなし、きくの?」
「ええ。聞くだけは聞くつもりです」
兄さまは私が大事だし、ニコが守るべき王族だということはわかっているから、なるべく無茶をさせないようにと気を配っている。だから、普段ならたとえ相手がバートとはいえこんな胡散臭い話は頭から断っているはずだ。
「リア、私はリアもニコラス殿下も守りたいと思っています。でも、今私たちは、キングダムから解き放たれて自由です。護衛隊が付いてきているとはいえ、私たちが本当にやろうとしてることはなにかなど、しょせんあいつらにわかりはしません。キングダムでは確実に大人に止められることでも、今ならできます」
「だから、きのう、いろいろやらせてくれた?」
「ええ。普段ならもちろん、止めることですけどね」
兄さまはくすりと笑った。
「昨日のリアとニコ殿下を見て、バートも何かを試してみたい気持ちがうずいているのかもしれませんね」
兄さまのほうが、バートの考えていることがよくわかっているようだ。
「ですが、それも内容次第です」
そんな話をしていると、ニコとギルもやってきた。
「じゃあ、出発まで時間がないから、急いで話すな」
ニコが何のことだという顔をしているが、時間がないということで口を開くのを我慢したらしい。偉すぎる。
「前にリアとニコ殿下の魔道具を試しに使ってみたいと言ったが、それよりもう一段階面倒なことを頼みたいんだ」
試しに使うことだって一度は断ったというのに、それより面倒なこととは何だろうか。
「結局、俺が今、一番欲しい魔道具は、今あるものより有効範囲が狭い結界箱なんだ」
だからバートは、私たちの作った範囲の狭い結界箱にあれほど興味を示したのかと納得した。
「ほら、俺たちヒューの親衛隊みたいなことやってるだろ。ヒューと一緒に、あるいはヒューの依頼で出歩くことも多いんだが、基本的には夜は行動できないんだ。当たり前だけどな」
「バート、ハンターなのに」
ハンターだからこそ、トレントフォースでも夜、狩りに出ていたはずだ。
「うん。ハンターだから夜、家の外に出ることへの抵抗は少ない。竜に乗っていれば虚族は振り切れるしな。だけど、ハンターと、調査や移動を主にする親衛隊の仕事では、虚族に向ける注意が全然違うんだよ。つまりさ」
バートの事情は、思ったよりずっと複雑だった。
「ハンターを主にしていた時より、今のほうがずっと結界箱がほしいと思うんだ」
ケアリーの町長に、息子を助けた報酬として結界箱をもらった時も、別に必要ないから売ってしまうと言っていた。
「確かリアを助けた報酬として、結界箱はお渡ししたはずです」
兄さまが、結界箱は既に持っているだろうと念を押す。
「ああ。もらっている。アリスターのより、小型で使い勝手のいいものをな」
バートは、それは感謝していると伝えてくれた。
「だが、やはり魔石が大きすぎて魔力を補充するのが大変なんだ。だから、ここぞという時しか使っていない」
アリスターに入れてもらえば、と言おうとして口を閉じた。バートたちが、アリスターにそんなことを頼むわけがない。お金を払えばいいという問題でもない。アリスターの魔力を利用するということ自体、しないはずだ。
「出発前なのに、話が長くなったな」
私はアリスターとバートたちについて思いを巡らせていたが、ニコは違ったようだ。
「それで、どのようなけっかいばこがほしいのだ」
ズバリと核心を突いてきた。
「まいったな」
「まいっているひまはない。はやくいうのだ」
ニコが珍しく腕を組んで厳しいことを言っている。確かに、もうすぐ出発の準備ができそうだ。
「じゃあ、言うぜ。欲しいのは、夜、竜に乗って移動できるくらいの結界が張れる結界箱だ」
つまり、走っているラグ竜を覆うくらいの結界ということだ。
「では、なぜリアをりゅうにのせたい」
ニコもちゃんと昨日の話を聞いていたのだなあと思った。
「いっしょに竜に乗って、どのくらいの大きさの結界が必要か体感してほしいんだ」
「それは、リアに竜に乗りながら結界を張ってみてほしいということですか」
兄さまが声を落とした。
「そうだ」
「そして、それを元に、小さめの結界箱を作ってほしいと。できれば、魔石が小さくて済むような」
「その通りだ」
私は面白そうな話に自然と目が輝き、思わず片手を上げていた。
「リア、やる!」
「待ちなさい、リア」
しかし兄さまに止められてしまった。その言い方はかなり厳しいものだった。
「にいさま……」
さすがの私も口をつぐむ。兄さまはそのままバートのほうを向いた。
「バート、これがとても大変なことだとわかっていますね」
「ああ」
バートは兄さまの確認にしっかりと頷く。しかし、次に兄さまの口から出たのは思いがけない言葉だった。
「では、いくら出しますか」
「いくらって……」
四侯という、お金を見たことも触ったこともなさそうなお坊ちゃまから出るとは思えない言葉に、バートは戸惑ったのだろう。言葉を返せなかった。
「あなたが望んでいる魔道具は、今まで誰も作ったことのないものです。それを依頼し、初めから作らせようとしているのに、無償ということはないですよね」
「あ……」
バートはそのまま私に視線を下げ、それからニコのほうを見た。最後に顔を上げて、竜の準備をしているアリスターに視線を移した。
「すまん。リアとラグ竜に乗る話、忘れてくれ。いったん出直す」
お金がないということではないような気がしたが、どうしてやめるのだろうか。面白そうなのに。
しかし、出直すと言ったバートの顔は曇っていた。
「リア、俺は大馬鹿野郎だ」
そしてそのまま、アリスターたちのほうに歩き去ってしまった。
「リアがりゅうにのるのなら、わたしものらせてもらおうとおもったのだが」
ニコがバートの背中を見送りながら残念そうな表情を浮かべた。ニコはバートを非難するつもりでいろいろ言ったのではない。自分が疑問に思ったことを、素直に聞いただけだから、なぜバートが去っていったのか理解できないようだ。
私もなぜバートが突然いなくなったのかわからず、なにが馬鹿野郎なんだろうと首を傾げた。
兄さまは私とニコを交互に見ると、安心させるようにニコッと笑った。
「心配しなくても、竜に乗せたいと言ってきたら、夜でなければ考えますよ。ですから、バートがまた何か言ってくるまで、待っていましょうね」
「はーい」
「わかった」
なぜ連れてこられたのかわからなかったニコは相変わらず消化不良の顔をしていたが、そもそも今日は楽しい旅なのだ。
「ニコ、ミニーのかごにのろう!」
「それがよい!」
兄さまたちも、竜車での勉強会は一時お休みするようなので、私たちも自由だ。
ミニーにかごを付けてもらうようにお願いに走った私たちである。
その日は竜車とかごに交互に乗り、お休みのたびに棒を振り回し、歌を歌い、草原に向かって大きな声で叫び、枯れ草をむしった。
お昼が終わっても走り回っていると、兄さまが大きく手を振って叫んだ。
「午後は竜車に乗りましょう! もう少ししたら戻ってきてください!」
形だけでも私の許可を求める気配だったので、私は頭の上で大きく丸を作った。
「いーよー」
「いーよー」
隣でニコも丸を作っている。
「くっ。なんだかわからないが、かわいさが過ぎる」
カルロス王子が鼻を抑えているが、知ったことではない。
「リア、あっちに白い花がさいていたぞ」
「ハルマチグサかも!」
幼児の一日は忙しいのである。私たちは草原をあちこち走り回るのであった。
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