四侯らしい私
予約を忘れていたので、ちょっと遅れましたが直接投稿します!
「むすこ、あのとき、あし、おれてた」
腹が立っているから幼児言葉に戻らないようにするには努力がいる。
「はあ? 確かに息子はひどい怪我をしましたが、それがなにか?」
本気で言っているのだろうかと私は一瞬呆気にとられた。もしかして、息子を助けに行ったハンターの中に私とアリスターがいたのを忘れていた? しかし、あの時確かに私とアリスターの瞳を確認して驚いていたはずだ。私はケアリーの町長からすっと目をそらすと、バートを呼んだ。
「バート、ここにきて。ミルも」
なぜこの二人なのかというと、残りの二人とアリスターが見当たらないからである。そのうえでケアリーの町長に尋ねた。
「ケアリー。むすこをたすけたの、だれ?」
「誰と申しましても、旅のハンターとしか言えませぬが。あっ」
町長は何かを思い出したように目を見張った。
「この二人は、あの時の」
「そう。そしてあのとき、リアもいた。いっしょに、しまにわたった」
「島に……。まさか!」
はっと目を見開いたところを見ると、息子を助けるのにヒューに頼んでハンターを貸してもらったことは覚えていても、そのハンターたちが誰だったかは覚えていなかったらしい。
「そうか、あの時に夏青と淡紫を確認したのだった……」
この言葉に兄さまとギルの怒りがぶわっと沸き上がったのを背中に感じた。夏青も、淡紫も、四侯の通り名ではあるが、それを本人たちのいる前で言うのは礼儀知らずと言われても仕方がない。
しかも、私たちを見かけたという報告がケアリーからキングダムのオールバンス家に届くことはなかった。私を必死で探しているのを知ったうえでのことである。ヒューが連れていたからいずれは帰るだろうという問題ではないのである。
また、通り名についても、感嘆の言葉として言われるならともかく、ケアリーの言いようは四侯をもの扱いしているようでとても不愉快に感じた。
「リアも、バートやミルも、いのちのおんじん。むすこはちゃんとしってた。リアにおれいいった」
バートたちに言ったかどうかまでは知らないが、息子はさきほどしっかりと礼を言ってくれた。
「たすけるよう、リアたちにたのんだのは、ケアリー、おまえ」
私は背が低いながらも、上の段から胸を張ってケアリーを見下ろした。私がお前などときつい物言いをしたりすることはないからか、バートがびくっと体を震わせ、心配そうに私を見た。
「そしてあのときも、れいをいわず、たちさった。リア、おぼえてる」
「あの時は息子の命が心配でそれどころではありませんでした! それに礼金は過分なほど渡してあるはずです」
ここまで言っても感謝の言葉がない。お礼を言ったら死ぬ病にでもかかっているのだろうか。
「いま、このとき、むすこのいのち、しんぱいない」
息子の命が心配で礼が言えなかったのなら、息子の命が心配でない今ならどうなのか。
私はケアリーの町長をじっと見つめた。町長はたじろぎつつ、頭を働かせているようだが、何を求められているのかわかっていないように見えた。
「父さん! あの島で岩の隙間に落ちたとき、どうしたってもう助からないところを、危険を顧みず俺を背負って連れ出してくれたのがこの人たちなんだ。昼でも虚族のいるところだ。まさか礼をきちんとしていなかったなんて。俺のせいでこの人たちの命も危険にさらしたんだよ」
息子が慌てて父親を謝らせようとする。それを見てバートが肩をすくめた。
「あの時も言ったが、俺たちは別に結界箱目当てでも金目当てでもなかった。それこそハンターとして十分金は稼いでいるから、危険を冒す必要はないからな」
そう言って私の側にしゃがみ、肩をポンと叩いた。
「助けられるかもしれないハンターを見捨てるのかと、アリスターとリアがそう言った。だから、助けに行った。それだけだ」
私も肩をすくめた。
「いったのは、リアとアリスター。でもいのちをかけたのはバートたち」
礼をしないのを黙って見逃そうかと思ったが、態度が悪すぎる。
さあ、ここまで言われてどうする。微妙な緊張が走るなか、ケアリーはしぶしぶと口を開いた。
「リーリア様。息子の救出、お口添えありがとうございました。そしてバートとやら、あの時息子を助けてくれたことに感謝する」
私は静かに頷いたのみである。バートはと言えば、にかっと爽やかに笑みを浮かべた。
「ああ、そっちの息子さんの元気な姿を見ただけで十分さ。よかったな、あんた」
「ありがとうございます」
また息子が深々と頭を下げた。
「見舞いに来てくれたハンターのクイニーが、あの時の状況を話してくれたんです。いつか直接礼を言わねばと思っていました。こんな非常時ですが、顔を合わせることができてよかったです。本当に、本当にありがとうございました」
「いいってことよ」
ミルが照れくさそうに鼻の頭をかいた。
「ふん、行くぞ」
礼は言ったものの、不本意であったという態度を隠さないまま、ケアリーの町長は息子と共にどしどしと歩き去った。
「いつ来ても不敬な態度よな」
どっしりと座っていた王様がぽつりと漏らしたので、この態度はいつものことなのだとわかる。
「王様よりも四侯よりも偉そうだよなあ、ハハハ」
ミルが笑い飛ばさなければ、いつまでも息苦しい雰囲気のままだっただろう。
「ケアリーは確かに魔石の集積地。ウェスターの中心にあり、人の流れも利益も大きい。だが、それはあくまでキングダムの結界に頼ったもの。それなのに、まるで自分だけの手柄であるかのように振る舞い、態度も大きいのだよ」
ギルバート王子が説明してくれた。
「ウェスターの王族にだけかと思っていたが、キングダムの王族にも四侯にも敬意を払わぬとは。困ったものだ。それにしても」
王子は私のほうを見てニコニコと顔を崩した。
「リーリア。幼いのに四侯らしい物言い、しかと耳に残ったぞ。なんとも痛快だった」
私も目立つのは嫌だったけれど、礼を言わせてすっきりした気持ちだった。
「リア、大きくなって……」
ヒューが目頭を押さえているが、近くの三歳児の成長に目を細めるより、まず自分が結婚して子どもを持ったらいいと思う。
私はちょっと照れくさかったので、あえて話題を変えることにした。
「アリスターと、キャロとクライドは?」
「ああ、あいつらは……」
バートが説明しようとしたとき、
「おーい!」
とアリスターの声がした。先ほど、ラグ竜が走っていったほうからだ。
「あいつらには、走っていった竜を追いかけてもらったんだ」
バートが言い直す。
そこで初めて、ヒューがはっとした顔をしてファーランドの一行のほうに目を向けた。
確かに、式典の最中にいきなりラグ竜の群れに襲われて、夜なのに一度結界がなくなり、また結界が発動しと、目まぐるしいことこの上なかった。しかも、他国の王族がいたのにもかかわらずである。危険にさらし、なおかつアフターケアもせずに放置していたのだから、ある意味大問題だ。
だが、カルロス王子は落ち着いて座り、ひな壇の高いところからゆったりと町の様子を眺めていた。リコシェとジャスパーは、そんなカルロス王子を気にかけつつも、こちらの話もしっかりと聞いていたようだ。視線に気づいたリコシェが、先に口を開いた。
「こちらにはお気遣いなく。ラグ竜の暴走には驚きましたが、被害も軽微で、結界も無事に張り直されたとのことですし。その後の話も、申し訳ありませんが興味深く拝聴していました。何があったかはわかりませんが、さすがリーリア殿と感服いたしました」
「変わった幼児だからな。もう竜は戻ってこないとは思うが、ファーランドの皆はいったん城に戻られるか」
ヒューの言葉に、リコシェはカルロス王子に振り返り、特に反応がないのを見て肩をすくめた。
「どうやら夜の町の様子を見るのに夢中なようです。よろしければしばらくこのままでいさせてください」
竜の群れの暴走に巻き込まれかけたのだが、案外平気そうだ。カルロス王子の神経が太いことだけは間違いない。
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