再会
転生幼女はあきらめない7巻、6月15日発売です。
同じくコミックス4巻、6月14日発売です。
それから数日もしないうちに、タッカー伯の領地に入った。タッカー伯の領地はラグ竜の産地だ。北部のおじいさまの領地と同じように、野生のラグ竜がたくさんいる。休憩中に野生の竜に取り囲まれていると、人の乗ったラグ竜が数頭、私たちが向かうほうから走って来た。その後から遅れてラグ竜や竜車やらがたくさんやってくるのも見える。
「ニコラス殿下! ご無事ですか!」
先頭のラグ竜からひらりと飛び降りたのは懐かしいタッカー伯だ。降りた途端にニコに駆け寄ってしゃがみこみ両肩に手をかけた。目がせわしなくニコの全身を行き来していて、無事を確かめるとほっと息を吐き、肩から手を下ろした。よほど心配だったようだが、それはそうだろう。王族が辺境に接するこの地まで来たのはおそらく初めてなのだろうから。
「うむ、もんだいない。しんぱいをかけたようだが、やせいのラグりゅうはなにやらまんぞくしてさっていったぞ」
「朝から草原に竜が集まっていると報告を受けて、もしやリ、いやオールバンスとリスバーンが来ているのかと」
ここでやっとニコの隣で微笑んでいる私を確認するとフッと笑みを浮かべた。私の名前を言いかけてやめたのはわかっている。
「とすれば、そろそろ殿下が到着かと警戒しつつ心待ちにしていたのですが、いやはや、迎えが間に合わず申し訳ありませんでした」
「かまわぬ」
ニコは鷹揚に頷いた。
タッカー伯をはじめ各領地の領主たちも、イースターへの出兵の際には本人や代理人を寄こしたうえで、各地から兵やラグ竜を供出した。その際王都に来た者は当然ニコにも会っており、ニコに会った者はすべからくその聡明さに感銘を受けたという。これはお父様から聞いた話であり、儀礼だけでない歓待ぶりはこれが理由であろう。
「タッカー伯、お久しぶりです」
「ええ、王都以来ですな」
兄さまとギルも挨拶を済ませ、すぐにギルがファーランド一行を手のひらで指し示した。
「こちらがファーランドの第一王子、カルロス・ファーランド殿下。秘書官のリコシェ・エルドレッドに、従者のジャスパー・グレイソンです」
「これはこれは。我が国の殿下だけでなく、ファーランドの殿下もわが屋敷にお招きできるとは光栄です」
うやうやしいはずの出迎えの言葉だが、表情がそれを微妙に裏切っているのはなぜだろう。ほのかに迷惑と感じているような雰囲気がある。その後うつむいて何かを言ったような気がしたが、よく聞こえなかった私である。
タッカー伯とは前回の旅路で親しくなった。特に兄さまとギルは親戚の叔父さんに会ったかのような親密さである。そんななか、なぜラグ竜が集まって来たのかと言う疑問はうやむやになったままでよかったと思う。
「このまま竜に乗って参りますかな。お姿が見えたほうが領民が喜びましょう」
こうしてたどり着いた最寄りの町の人々は、にこやかに胸を張るニコを見て大歓迎だったし、手を振る私たちに大喜びで手を振り返してくれた。お父様なら面倒くさがって無表情だっただろうなと思うとおかしくなるが、私と兄さま、それにギルはこの容姿や愛想の一つくらいで得られるものがあるのなら、使うことは惜しまない主義である。
直前に情報提供があったらしく、明らかに華やかな服装をしたファーランド一行も歓迎されていた。ジャスパーは従者らしくまっすぐ前を向いていたが、カルロス殿下はあちこちに手を振っては黄色い声をあげられていた。
「華やかな美丈夫ですからね。竜に乗ると映えますね」
兄さまの声が聞こえてきて笑い出しそうになる。「見かけは」という言葉が見え隠れしたからだ。
そうしてたどり着いたタッカー伯の領主館の前には、よく知った顔が待っていた。
「アリスター! それにヒュー!」
もちろんそれだけではない。バートにミル、キャロにクライドがニコニコしながら待ち構えていた。兄さまがひらりと竜から飛び降りると、すぐに私のかごのベルトを外して竜から降ろしてくれた。
「リア! 大きくなったなあ」
走り寄る私をアリスターがさっと受け止め、ギュッと抱きしめておでこをくっつけると、そのままヒューに手渡した。
「ヒュー!」
「なんとリア。走っているではないか」
「まえからはしってたもん」
「……もう片言ではないのか……」
なぜ残念そうなのか。
そのままバートたちに手渡され、一度も地面に降りずにいる間に大人たちの挨拶が始まっていた。
「カルロス・ファーランド殿とお見受けするが」
「いかにも。そちらはヒューバート・ウェスター殿か」
「そしてわたしが、ニコラス・マンフレッド・キングダムだ」
ちゃっかり二人の間に入っているニコがすごい。
どうやら初めて会った王族二人の間に走った緊張はそれで一瞬和らいだようだ。
「おうじさま、いっぱいだ」
「いっぱいだな。王子率高いなあ、リア」
「うん」
ミルが私を抱っこしながら心底感心したという声を出した。私は力強く頷いた。なにしろ四国のうち三国の王子がいるのだから。もっとも、もう一国の王子には永遠に会いたくないものだ。
「王子率とか相変わらず変な言葉作んなよ、ミル」
バートがミルの背中をドンと叩いているのもいつも通りだ。
「もともとキングダムの王族と四侯を迎えにって話だったが、急にファーランドの王族まで来るとあって大騒ぎだったんだよ」
こそっとミルが教えてくれたが、ちっともこそっとではなかったし、そもそも私はヒューのそばにいた。ということは三人の王子がいるすぐそばにミルもいるということで、今の言葉はカルロス王子にはしっかりと聞こえていたことだろう。ヒューの眉間のしわも深くなったような気がする。
事情をばらすなと言うことなのか、本当は迷惑だったということなのか。
それにしても、辺境の王族同士なのに初見のようだ。国と国の間にキングダムを間に挟むから、当然と言えば当然なのかもしれない。
次は発売日15日に更新です。
書影は活動報告にありますのでどうぞ!




