謹慎は退屈
更新再開です。
〈前回までのあらすじ〉
第三王子の襲撃を乗り越えたリアだが、一緒にに頑張ったはずのニコは責任を感じて相変わらず元気がない。そんなニコを元気づけるために、マークの誘いにのり、視察という名の学院襲撃事件を起こす四侯の子ども組。リアとニコ、クリスは学院を散々かき回し、学院は警備体制を見直す結果となった。だが案の定謹慎を食らったリアは、ニコのことを心配しつつ、屋敷でまったり過ごしていたが……。
退屈だ。
退屈のあまり、私は温室に来ている。季節は秋で外はだんだん寒くなってきているが、オールバンスの温室にはお日様がさんさんと差し込んでおり、窓を開けて風を入れても十分に温かい。
温室は実用も兼ねていて、本来秋には採れない野菜や果物も栽培されているが、しょっちゅう見に来ているとそれも変化がなくてつまらない。
温室をうろうろとし、疲れてソファによじ登って座っていても、退屈は退屈だ。学院襲撃事件、いや、学院視察からもう二週間たつのに、まだ謹慎が解けない。物の道理のわからない幼児を二週間閉じ込めても反省などするわけもないのに、無駄なことをしていると思う。ニコはどうしているだろうか。
「ふう、ほんでもよみましゅかね」
やれやれとソファから身を起こすと、ハンスがくっと笑った。
「リア様、ばあさまみたいだな」
「しちゅれいな」
だがこんなぬるま湯のような生活に浸っていたら、本当にやる気がなくなってしまうような気がする。
「リア様、本日は昼食にはご当主様がお戻りの予定ではありませんか。あと一時間かそこらですよ」
「そうだった!」
ナタリーの言葉に私はソファからするりと滑り降りた。今日は午後からお家でお仕事があると言って、お父様がお城から早引けしてくるのだ。もっともお仕事の内容によっては締め出されてしまうので、やっぱり午後も退屈かもしれない。
「せめてクリス様が来られればいいんだが、あちらも謹慎だしな。まあ、俺もリア様たちは集まるとろくなことをしねえとは思うから、離して正解か。いや、まとまらなくてもろくなことをしねえな」
ハンスが何やらぶつぶつ言っているが、気にしないことにする。
そこから先は、階段を上ったり下りたりして時間をつぶし、ホールでお父様の帰りを待つ私であった。そのため、竜車の音が聞こえてきた時、おかしいなと思ったのもまず私だった。
「りゅうしゃのおと、いちゅもとちがう」
「ではお客様でしょうか。それならばリア様はお部屋に戻っていてください」
お父様のお帰りを一緒にホールで待っていた執事のジュードが私にそう言い聞かせた。いろいろな事件は無事収束したはずだが、私がさらわれるのを恐れて屋敷の者は未だに過保護である。
「もんのしゅえい、とおちたひとだから、だいじょうぶ」
私は知っているのだ。お屋敷に入る前に一度守衛にチェックされるから、そもそも怪しい人は屋敷までは来ない。ジュードもそれをわかっているのか、妥協案を出してきた。
「では階段の上からこっそりと見ていてもいいですよ。ハンス」
「わかってる。なにかあったらすぐに部屋に引っ込ませる」
こうしてこの家のお嬢様のはずなのに、私は客をこそこそと見る羽目になった。
驚いたことに、玄関の大きな扉から、おずおずと中に入ってきたのは知っている若者とお父様の竜車の御者だった。お父様は一人だとラグ竜に乗っていくことも多いが、だんだん寒くなって来たので竜車に乗ることもある。若者はなんだか緊張した様子で脱いだ帽子を握り締めていた。私は、階段の上のホールから私の背中を囲い込むようにして一緒に覗いているハンスにささやいた。
「りあ、あのひとちってる」
「あの弱っちそうな奴をか。いや、俺も記憶がある。あれは」
ハンスの物言いは厳しいが、確かになんとなくよれよれで情けない感じがする。
「おちろのけっかいばこの、ぎし」
ハンスは一瞬黙り込むと、その体にさっと緊張が走ったのを感じた。
「あの時、結界箱から魔石を外した技師、ということだな、リア様」
「あい」
「リア様とニコ殿下と一緒にいたのに、何の役にも立たなかったあいつか」
私は静かに頷いた。ハンスは警戒を強めたようだが、私はなだめるようにその手をポンポンと叩いた。あの時、この技師が魔石を外す手伝いをしたことは仕方がないことだったと思う。それに、助け出された時も一介の技師に何ができただろう。
お城の結界箱も、持ち歩きできる結界箱も造りに差はない。ただ大きさと豪華さが違うだけだ。だから魔石もごく簡単に交換できるようになっていたと思う。あの時技師が第三王子の言うことを聞かずに抵抗していたら、技師は殺され結界箱は破壊されていただろう。
「ふつうのひとよ。だいじょうぶ」
ハンスは少しためらったようだが、そのまま様子を見ることにしたらしい。
「ユベールではないか。拘束はとけたのか。それにいったいなぜここに」
ジュードは知り合いらしく、驚いたように声をかけているが、ユベールと呼ばれた技師はよれよれの上着の内側から、折りたたまれた紙をそっと差し出した。
「しばらくうちで預かることにした。ディーン。って、ご当主、これだけですか……」
ジュードがあきれたようにつぶやいたが、技師の隣にいた御者が説明を足してくれた。
「ご当主は忙しいので少し遅れるから、リーリア様には先に食事を済ませてくれとのことです」
お父様はお昼には来ない。私はそれを聞いてとてもがっかりした。
「それからこの方については、『うちで引き取るから先に屋敷に放り込んでおいてくれ。その後また迎えに来い』と」
「そうですか。ではお迎えに行く前に、台所で温かいものを食べていきなさい」
ジュードは突然の指示にも動じず、まず御者の食事の手配をてきぱきと済ませると、技師の若者と向かい合った。
「ユベール、城で拘束されていると聞いたが、罪状は決まったのか」
「はい。事情が事情ということで、おとがめはなしと決まったのはありがたかったのですが、城の結界技師としては解雇されてしまって。途方に暮れていたらディーン様がとりあえずオールバンスの屋敷に来いと」
「ふむ」
私も事情は理解した。つまり、あの技師は今日からうちの物、いや、者ということだ。それならここは私の出番だろう。
「しょれならまじゅ、ごはん!」
いきなり階段の上から大きな声がしたらそれはびっくりするだろう。スタスタと階段を下りてくる私を見て、技師の若者はうろたえた。
「あああ、お嬢様。あの時は本当に申し訳ありませんでした! 私のせいで、本当に」
私を覚えていたのか、床に頭を付かんばかりに頭を下げている。
「ちかたなかった! りあ、きにちてない」
私は手をピシッと突き出して、屋敷の者にも伝わるようにはっきりと宣言する。あの時、魔石を外さざるを得なかった若者はどうなったのかと、実は気にはしていたのだ。重い罪に問われなければいいが、と。どうやら解雇だけで済んだようだが、私なら辞めさせずに、結界箱の仕組みをもっと複雑にするようにさせるのだが。
お父様が拾ったのも親切心だけではなく、使えると判断したからなのだろうとは思うが、とにかく今はまずきちんと世話をしてやりたかった。
「じゅーど、まじゅ、ごはん。りあ、いっしょにたべりゅ」
「しかしユベールの身なりをまず整えませんと」
「みなりよりごはん。だいじ」
ユベールは見るからにお腹がすいている感じだ。押したら倒れてしまいそうなほどふらふらしている。
「わかりました。じゃあユベールはリア様にお任せします。ナタリー」
「はい。では皆様、こちらへ」
そばに控えていたナタリーが、ユベールと目を合わせて案内を始めた。ハンスにも背中をどやされておずおずと動き始めたユベールと一緒に、私も食堂に歩き始めた。
「リア様、目がキラキラしてるな」
「ちてないもん」
ただ、やっと退屈な日々が終わりそうな予感がしているだけである。
更新再開です。見切り発車でしばらく不定期かもしれませんが、更新は毎週月曜日の予定です。
それから「転生少女はまず一歩からはじめたい」も更新再開します。こちらは少しストックができたので、水・土曜の予定です。
それから知らせです。
転生幼女はあきらめないコミックス3巻
転生少女はまず一歩からはじめたい1巻
12月14日同時発売です!詳しくは活動報告にて。
いろいろお待たせしましたが、またよろしくお願いいたします!




