秋、物思うリア(小さい子編)
6月14日「転生幼女はあきらめない」コミックス2巻発売記念に、今日と明日短編を投稿します。
本編の続きとなります。
私は竜車の座席に座って、足をぶらぶらさせている。
「ふんふん、ふーん」
「キーエ!」
ラグ竜も元気だ。
「ご機嫌ですね、リア」
「あい!」
そして兄さまもにこやかに私の向かいに座っている。
ここにお父様がいれば、私の隣に座るか私を膝に乗せているかなので、今日の私は自由である。
「ぎるのおうち、まだかな」
今日はギルのおうちに行く。実は私はこれが初めての訪問だ。
「王城の近くですからね。いつもお城に行くのと同じくらいかかりますよ」
オールバンスはラグ竜の牧場を併設している関係でキングダムの中心からは少し離れたところに敷地があるが、リスバーンは城の側の貴族の多い地区にドーンと屋敷を構えているらしい。
「それにしても、こんなに親しいのに初めての訪問なんて、私もびっくりしました」
「りあもでしゅよ」
びっくりしたとか言っているが、何かと屋敷から外に出さず、行けるのは王城だけという体制を作ったのはお父様と兄さまではないか。
それだけではなく、幼児だというのに旅に出されたり襲撃されたりと、忙しくて遊んでいる暇もない。しかしそんな愚痴は一言も言わないよい子、それが私だ。
だから今日はギルの家に行ってクリスと会うのがとても楽しみなのである。
「でも、まさかニコ殿下が来るとは思いませんでしたね」
「ほんとに」
これは本当にびっくりした。
キングダムの王子であるランおじさまと、四侯の一人であるハロルドおじさまは夏が終わるとイースターに行ってしまった。戦後処理のためだ。
だから余計にニコのことを心配し、城から出さないのではないかと思っていたが、違ったようだ。警護する人数を増やし、その分城から出てもかまわないということになったのだそうだ。
「ごえい……。ちんぱいでしゅ」
「何人増やしたところで無能は無能ですからね」
兄さまが手厳しい。が、私も兄さまに賛成である。今までに数々の失敗を重ねていたことは記憶に新しい。
「ですが、リアの言う通り、第三王子がわざわざニコ殿下を狙う理由はもうありません。イースターも同じです。ということは、通常の危険からニコ殿下を守れればいいわけで、それならなんとか……」
兄さまの顔がどんどん不安になっていくが、私も不安である。だが、このままではニコのことが心配で城に閉じ込めていたランおじさまと同じ思考になってしまう。
「にこがちんぱいでも、しょとにだちたほうがいい」
「そうですね。私はリアしか守らないので、護衛の優秀さを祈りましょう」
「実はルーク様が一番怖え」
御者席から聞こえてきたハンスの声は、主に対して不敬だと思うが、慣れているので私も兄さまもさらりと無視した。
「着きましたぜ。これから門を開けてもらうんで、そこんとこリア様も見たくないですか?」
ハンスが御者席から声をかけてくれたので、私は竜車の窓から外を見せてもらった。大きな通りに面した屋敷らしきところはずっと塀で囲われており、鉄柵の大きな門が静かに開こうとしていた。屋敷ははるか向こうに見える。
「うちよりちいしゃいっていってたのに」
「半分もありませんよ」
それでも立派なお屋敷である。竜車は門からそのまま屋敷に向かった。歩いたら五分以上かかるのではないだろうか。お屋敷の前にはニコとクリス、そして当然ギルとフェリシアとジュリアおばさまがいた。
まるで自分の家のような顔で自然に微笑んでいるフェリシアにまずほっとしたが、どこにいても自分の家のようにくつろいでいるニコに少しだけイラっとしたのは内緒である。
「いらっしゃい、ルーク、リア」
歓迎してくれたのはまずジュリアおばさまである。私は遠慮なく手を伸ばして抱っこしてもらった。
「リアは甘えんぼさんね」
「あい」
にっこりしておばさまの肩越しに屋敷を眺めると、大きな扉のところに執事らしき人が控えていた。
「え? すたんおじしゃま?」
「まあ、ふふふ」
ジュリアおばさまがおかしそうに笑いながら私を降ろしてくれたので、私はその人に駆け寄った。ちょっと困ったように膝をついて私に顔を見せてくれたその人は、スタンおじさまよりは若く、黒髪に茶色の目をしていたが、とてもよく似ていた。
「フィルマンは執事の仕事をしてくれてるけど、俺にとっては叔父上に当たるのさ」
「叔父上などと。身分はきちんとわきまえてくださいといつも口を酸っぱくして言っているではありませんか」
フィルマンと呼ばれた執事は厳しい顔をしてギルを叱った。それはやはり執事というよりは、身内の温かい叱り方のような気がした。
「おじうえ。ありしゅたといっしょ」
「なんと賢いことか。これがオールバンスのお嬢様」
フィルマンは感嘆したようにつぶやくと、きちんと自己紹介してくれた。母が平民で自分をリスバーン家に託してどこかに行ってしまったこと、ここで執事として働いていることなどだ。
「平民の身分からしたら、四侯の執事としてお仕えできていることはとても幸せなことなのです。ご当主と顔が似ているのでよく聞かれますが、私は仕事ができてありがたいのであまり気にしないでくださいね」
とも。
私はギルを見上げた。
「そう。成人して進路を考えた時にさ、さすがに叔母に当たる人たちにはよい縁談を探して出て行ってもらってるけど、それ以外は働き先をあっせんしてる。城で文官や武官をやっている人もいるし、こうして屋敷に残って働いている人もいるよ」
スタンおじさまには10人以上の母親違いの兄弟がいるという。それをこうして大きくさせたのはスタンおじさまとジュリアおばさまなのだ。
「幼い頃はこちらに訪れたディーン様ともよく遊んだものです。リスバーン家には感謝しかありませんよ」
フィルマンはにこやかにお父様とのエピソードを話してくれた後、中へどうぞと大きなドアを開けた。
オールバンスは子どもの少ない家だからあまり感じたことはなかったけれど、貴族の家にもいろいろあるのだなと思った。
レミントンの屋敷は今閉鎖されているからしばらく行けそうもないし、マークの家もまだ行ったことがない。どこにもきっとオールバンスとは違うところがいっぱいあるのだろう。
わざわざイースターやウェスターに行かなくても、王都の中だけでも見るところはたくさんあるのだ。私はふんすと腕を組んだ。次はどこに行こうか。
「リア、うでなどくんでどうした」
「いろいろ、おもちろいところあるな、とおもって」
「そうだな」
「そうね」
クリスとニコがニヤニヤと頷きあっている。ニコはどうやら先に来て何かをしていたらしい。
「リスバーンのおやしきのお庭にはね」
クリスが私の耳にそっと口を寄せた。
「ブランコとか、小さなお山とか、あそびばが作ってあるのよ」
「ほんとでしゅか!」
「おもしろかったぞ」
「りあもいく!」
そんな私の右手をクリスが握って、ちょっと前をニコが行く。
「そういうとおもったぞ。さ、いくか」
「いきましょう」
「いきましゅ!」
せっかく入った屋敷から走り出た私たちである。
「どこに行っても自分の家みたいだな、ニコ殿下も、リアも」
ギルの声を後ろに聞きながら。
「クリスがあんなに元気なら、毎日でも来てほしいくらいだわ」
ジュリアおばさまの声にちょっと聴き耳をたてながら。
私は手をつないでいるクリスを見上げてみた。
遠慮して暮らしているのかと聞きたいが、きっとそんなことはないわと答えるだけだろう。
それならば、遠慮など忘れるくらいたくさん楽しい思い出を重ねていこう。
「にいしゃま、はんす、りあ、またきたい!」
兄さまが笑い出し、ハンスが微妙な顔をしている。
「リア様、まだ来たばかりですぜ」
「よやく! だいじ!」
ニコが先に遊び場について手を振っている。大きな木の枝にはブランコが一つ。上を見上げるとツリーハウスまである。
「りあがいちばん!」
「しかたがないわね」
「ちいさいからな」
三歳になる前の秋も、きっと楽しく暮らせる予感がする。
久しぶりに活動報告を書いています。いろいろお知らせがありますのでよかったらご覧ください。
主にコミカライズ2巻発売と、書籍6巻準備中のおしらせです。
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