道具として
ここから数話、重い話になります。
もう大丈夫そうになったら前書きで出しますので、
重い感じが苦手であれば、
数話後にまとめてどうぞ!
数日後、お父様が暗い顔をして帰って来た。その日は大人たちが用事があるということで、ニコのところにもいかず、アリスターたちとも会わず、兄さまとお屋敷で静かに過ごしていた。
皆で夕食を済ませると、お父様の執務室に呼ばれた。いつもお仕事の時は執務室に強制的に連行されるから、私にとっては遊ぶ部屋のようなものなので、きちんと呼び出されるのは不思議な感じがした。
私は兄さまと手をつないで、お父様の執務室のドアをノックした。
「入れ」
お父様の声に、私と兄さまは顔を見合わせて頷き、ドアを開けた。お父様は机の向こうに座っていた。私たちはまるで叱られる子どものように心もとない気分になって、手をギュッと握り合った。
「リア、ルーク、とても言いにくいことだが」
「あい」
「はい」
「二歳の子に理解はできまい、という考えがリアには当てはまらないことはわかっているが、しかし」
「おとうしゃま、りあ、ちらないほうが、ちゅらい」
私はお父様をさえぎり、一言一言、ゆっくりと話した。きっとよくない話なのだろう。クリスの顔が頭に浮かんだが、私は話を静かに待った。
「レミントンの処遇が決まった」
やはりその話だったか。お父様はあえて静かに話しているようだ。
「現当主レミントン夫妻は生涯幽閉。レミントンは四侯から格下げ。家名は残し、フェリシアが跡を継ぐ。フェリシアを含め三代、何も問題を起こさなければ四侯へ戻す」
私と兄さまは、詰めていた息を大きく吐いた。この処罰がどのようなものか、重いか軽いかもわからないが、とりあえずフェリシアは無事なのだ。ということは、おそらくクリスも今まで通りに暮らすことになる。
もちろん、一生両親には会えないし、生きているとはいえ、幸せとは言えない状況に両親がいることはクリスやフェリシアにとってはつらいことだろう。
だが、今回のイースターの襲撃では、王族や四侯こそ傷つけられはしなかったが、城を守る兵には死傷者も出たという。
もし、結界を張らせないという作戦が成功していたら、どれだけの人が虚族に襲われて亡くなったか見当もつかない。国家に大きな損失を与えた罪は大きいのだ。
「フェリシアやクリスには申し訳ないと思いますが、でも、事態の大きさからいって、それでは罪が軽すぎるという声は出なかったのですか」
兄さまが、私の頭に浮かんで表には出てこなかった疑問を口に出してくれた。が、兄さまはハッとして私の手を離して、ドアのほうにそっと体を回そうとした。
「クリスやフェリシアのことがわかればリアには十分でしょう。リアはここから先は外に出ましょうか」
「でない!」
私は抵抗した。お父様だって、ちゃんと話を聞かせてくれるためにこうしてここに私を呼んだのだ。
「リア、聞き分けのないことを言わないで」
「りあ、ききわけない! おとうしゃま!」
私はお父様のほうを必死で見た。お父様はため息をついた。
「ルーク、仕方がない。リアがつらい思いをしたら、私たちが支えればいい」
「……わかりました」
兄さまは引き下がったが、机の前ではなく、ソファへと私を連れて行き、二人で並んで腰かけると、私の背中に手を回して引き寄せた。
お父様も机の後ろから出てきて、私たちの前に膝をついた。最初からそうすればいいのに、よほど言いにくいことだったのだろう。
「前にランバート殿下が、レミントンを煉獄島に行かせるという話もあったと言っていただろう」
私たちは頷いた。
「だが、そうしてレミントンの一人を失わせるのと、どこかに閉じ込めて魔石に魔力を注がせ続けるのと、どちらがキングダムに利があるかという判断なのだよ」
結界を維持するということを第一に考えるのなら、もちろん魔力を優先する。
「正直なところ、国家が転覆しかねなかった。これが他の貴族がやったことなら、死罪の上家の取りつぶしだ。だが、それほど四侯の力は大きい。そして、なにより、民に、四侯が容易に裁ける存在だと思わせないことのほうが大切なんだ」
要するに、四侯を軽く見られないようにということなのだろう。
「幸い、民の関心はイースターを併合したことに向いていて、レミントンの裏切りにはそれほど向いていない。王家と四侯、いや、これからしばらくは三侯になるのか、は粛々として魔石に魔力を注ぎ、結界を維持し続ける。そういうことだ」
「よんこう、どうぐ、みたい」
「その通りだリア。その通りなんだよ」
お父様は膝をついたまま、私と兄さまの腰に手を回した。
「我らはただの道具に過ぎない。若い頃からずっとそう思って来た。結界に魔力を注ぎ、キングダムに縛られるだけのただの道具だと。生きていることに何の意味があるのだと」
お父様の血を吐くような告白だった。
「そんな心持ちでいたから、ルークの母親のダイアナを幸せにすることもできなかったのだと今ならわかる」
おや、少し話が飛んでしまった。
「だが、民を見れば、仕事に縛られずに済むものがどれだけいるというのだ。自由にウェスターを動き回るあのハンターの若者たちでさえ、生活するために虚族を狩り、昼間の生業に余念がない。貴族を見ればどうだ。領地の管理だけではない。うちと同じで商売をしている者もいるし、家を維持し大きくしようと必死だ」
お父様は顔を上げて、私たちを交互に見た。
「その誰が、国の外に出られないからと言って嘆いている? おそらく、大半の者がキングダムの外に出たいなどと思ったことはないだろうし、思ったとしても金銭的にも難しい。有り余る富と特権を湯水のように使い、最大10日しか王都を離れられぬと騒ぐ愚か者、それが私だ」
「お父様……」
「おとうしゃま」
お父様はそんなふうに言っているが、毎日毎日城に通い、時には残業もして国のために頑張って働いている姿を家族である私たちは知っている。そんな中で息苦しく、自由になりたいと思うことの何が悪いのだ。
「おとうしゃま、ちゃんとおちごと、ちてる」
「そうです。いくら心に不満を抱えていても、国のために四侯のすべき仕事は欠かさずやっているではないですか。その何が悪いというのです」
お父様は私たちの膝に顔を埋めた。
「いつか私も、アンジェのようになりかねなかったと思うと」
私はそっとお父様の頭をなでた。兄さまもおそるおそるお父様の頭をなでている。
「だいじょうぶ。りあとにいしゃまがいりゅ」
「そうですよ。私たちがいるではありませんか」
「アンジェは、キングダムなどどうなってもかまわないと言った。少数の犠牲の上に成り立っている平穏など意味はないと……。だが、その平穏の中に家族を置くことこそが大切なのではないのか」
ものを考えない人に富と権力を与えるとろくなことはない。私は大きなため息をついた。
「けっかい、いりゃないなら、かえればよかった」
「リア?」
「ぎしぇい、なりたくないのなら、きんぐだむ、かえるべき」
イースターに逃げたところまでは理解できなくもない。だが、自分が犠牲になりたくないのなら、他の人も犠牲にしていいわけがないのだ。キングダムに縛られるのが嫌なら、時間がかかっても、国のあり方を変えていくしかないのだから。私はきりっと前を向いた。
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また、
「転生少女はまず一歩からはじめたい」2巻2月25日発売します!
こちらは「転生幼女」とコラボしていて、「兄さまにハッピーバレンタイン」という、リアのssが入っています!
もう少し詳しくは活動報告をご覧ください。




