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転生幼女はあきらめない  作者: カヤ
キングダム編
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いつか思い出に

 ギルの父親であるスタンおじさまがファーランド方面に視察に行っているように、クリスの両親もイースター方面に行っているらしい。もっとも、いつもと違う取引が行われているのはファーランドであり、イースターに特段変わったことがあるわけではない。


「いつもは王都を離れられないお母様の代わりに、お父様が出かけるのだけれど、今回は『たまには私も行ってみたいわ。いざというときはフェリシアが役に立つだろうし』と言って出かけてしまったのよ」


 フェリシアが仕方ないのよと言うように肩をすくめた。


「フェリシアはまだけっかいのませきはあつかえぬのではないのか」


 ニコがまじめな顔をして問いかけた。


「ええ、まだよ。訓練はしているのだけれどね。だからお母さまも、四侯が王都を離れられる10日間というギリギリではなくて、七、八日くらいで帰ってくると思うわ」

「いざとなったら王家だけでも陛下の他にランバート殿下がいらっしゃるし、アルもいる。モールゼイだって父と私と二人だ。本当は四侯でも10日以上離れられないわけではないんだけどね。他の家の魔石は触らないという不文律があるから」


 フェリシアの説明にマークもいろいろ付け加えてくれる。今日は魔力訓練の日だから、兄さまもギルもマークもいるのだ。


 そういえば聞いたことがある。誘拐された私を助けるために、お父様はその10日間ぎりぎりを使ったと言っていた。それでも監理局から許可をもぎ取るのが大変だったと。


「かんりきょく」

「なんだ、リアは難しい言葉を知ってるなあ」


 マークが頭をなでてくれた。


「まあ、ギルのお父様もフェリシアのお母様も、ちゃんと監理局に許可を取って行っているはずだよ」

「おとうしゃま、たいへん、いってた」

「そのお父様のせいと言うか、おかげと言うか」


 マークはにやにやと笑っている。


「私も監理局のことは気になっていました。今度お父様もウェスター方面に、と言ってもケアリーの町にですが、視察に行くそうなのです。またお父様が監理局とやりあうのかと思うと心配で」


 兄さまがちょっと心配そうだ。


「うちだけだな、視察に出ないのは」

「モールゼイは担当が内政中心ですからね」


 マークのところは出かけないようだ。


「だが、ディーン殿が型破りにあちこち出かけるものだから、監理局も面倒になって視察の許可が下りやすくなったらしいよ。今四侯が気軽に視察に行けるのはリアとオールバンスのおかげだね」

「りあの?」


 私は急にそんな話が出てきて驚いた。


「リアを取り戻すために、オールバンスが頑張ったからさ。ギルのところ、リスバーンもだけれどね」


 ギルは先週末、よほど強くスタンおじさまに叱られたのか、今週は少し元気がない。そんなギルを話に加えるようにマークがギルに話を振った。


「そういえばファーランドにちょっとだけ出たんだよな、俺たち」

「そうでしたねえ。ハンターたちに裏切られて、さんざんでしたね」


 ギルは何か思い出したようで兄さまと笑いあっているが、なにその冒険に満ちあふれた話。


「りあ、きいてない」

「おや、北の領地に修業に行ったと話しましたよね」

「しゅぎょうちたのはちってる、けど」


 そのくらいしか聞いていいない。


「ルーク、きかせてくれないか」

「ほんとだよ。何そんな面白そうなことしてるの。私も視察に行くべきだろうか」

「こわいお話なの?」


 ニコもマークもクリスも目を輝かせている。フェリシアはちょっといかがなものかという顔をしていて面白い。


「そうですね、虚族が出てくるお話になりますが、クリスは大丈夫でしょうか」

「もちろんよ!」


 おそらく虚族と言うものをわかってはいないだろうけれど、クリスは大丈夫だと胸を張った。


 私? 私はもちろん大丈夫だ。


 帰って来たときの、腫れものを触るような扱いを思い出す。さらわれたことにも、さらわれていた間のことにも触れないようにと、お父様も兄さまも、屋敷の者も気を使って大変だった。


 それが、いつの間にかこうして単なる思い出となり、友だちを楽しませる自慢話になる日が来るなんて。


 私の大変な赤ちゃん時代は、もうこれで終わるのだと思えた春の一日だった。



 しかし、兄さまとギルの話は楽しませるというには少々怖すぎた。


「その時、結界から出てしまった仲間を助けようと、ハンターが結界箱を持って走り出したのです」

「なんということだ!」


 芝生に座っていた私たちだが、話のその部分でニコが思わずと言うように立ち上がった。


「ルークとギルがきょぞくにやられてしまう!」

「ニコ殿下、ほら、俺たちぴんぴんしてるだろ」

「おお、そうだな」


 ニコはほっとしたように座り込んだ。私はクリスとフェリシアに両側から張り付かれている。


「しかし、私たちはそれぞれ、密かに新開発の結界箱を携えていたのです」

「へえ、それは聞いたことないぞ」

「しんかいはつか」

「その時のハンターたちの驚いた顔を見せたかったなあ」


 男子はわいわいしている。無事に虚族を退治して話が終わった時、兄さまが何気ない顔で爆弾を落とした。


「そういえば、私たちは結界箱がなくても結界が作れるのですよ」


 それはマークやフェリシアの前で言ってもいいことなのか。私は焦ってマークとフェリシアのほうを見た。


 マークは目を細めて、ちょっと口元が不敵な感じだ。


「二週前の夜、だな」

「気が付いていましたか」

「強い何かが体を通過していった。何かがあったことはわかった。そして何かが起こると言えば」


 なぜそこで私を見るのだ。私は目をそらして庭のほうを見た。そう言えば、話が面白すぎて今日はお昼寝をしていないではないか。


「俺も作れる」

「わたしもれんしゅうちゅうだ」


 ギルだけでなく、ニコまで胸を張っている。


「りあだってできましゅ」

「ほらな」


 しまった。




「聖女二人の異世界ぶらり旅」コミックス3巻、4月1日発売予定です。

1、魔物に湖に落とされ、人魚に救われる

2、二人さらわれる(また)

3、ついに目的地のダンジョンへ。そして……

と盛りだくさんな内容です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] そうそう、リアはこのうっかりが愛おしい!小説は想像力の世界。ちょっとだけど、別世界に行けるこの作品に感謝。 [気になる点] お体大事にされてください!
[気になる点] 確か結界石は3つでしたよね? 4侯と王家で5人 自分の結界石以外は手を出さないとはこれいかに?
[一言] 四候が比較的自由に外に出られるようになったのも 自分で結界を張れるようになったのも 原因はリア リア「解せぬ!」
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