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転生幼女はあきらめない  作者: カヤ
キングダム編
179/392

雪割草

 次の日のお見合いは昼過ぎからだった。実は午前中はへとへとになるまで遊び、すでにお昼寝は済ませてある。


「にいしゃま、はやく!」

「わかっていますよ。兄さまもあの子たちはちょっと面倒だなあ」

「りあはもっとめんどうでちた」


 兄さまは何を言っているのだ。そもそも12歳でも面倒な子供の相手を2歳児に押し付けるとは何事か。


 まあいい。私はあきれた気持ちを抑えて、兄さまにお願いした。兄さまの協力と言っても、たいしたことではない。私とニコが見つからないように、ロークとジェフをとどめておいてくれればいいのである。


 そのすきに私とニコはお互いの護衛に連れられて、お見合い会場に忍び込む手はずになっているのだ。


「大丈夫ですよ。今日はあの子たちの兄さまたちにも協力を求めてありますからね。たぶん部屋の中にとどめておいてくれているはずで」

「リーアー、ニーコーでーんーかー」


 廊下の向こうからロークの声が聞こえる。


「にいしゃま……」

「ちっ。役立たずか」

「にいしゃま……」


 私のあきれた気持ちが伝わっているだろうか。


「リア様、いったん戻って、あちらの階段から遠回りしましょう、非常時ですから。はい」


 ハンスは本来護衛なので、私の抱っこはしない。両手がふさがってしまっては守れないからだ。しかし、私の優雅なゆったりした歩みでは、ロークに追いつかれてしまうかもしれない。仕方ない。


「あい」


 私はハンスに手を伸ばし、抱き上げてもらった。


「作戦を変更しましょう。ハンスがロークを引き留め、私がリアを温室に運ぶのではどうでしょう」

「にいしゃま……」


 駄目です。護衛に他国の貴族の行動を止める権利はありませんよ。


「はんす、いきましゅ」

「わかりました。ではルーク様」

「仕方ない。頼みます」


 こうして私は隠密行動に出たのだった。


 ニコとは温室の前で待ち合わせだ。玄関ではなく、途中の部屋のバルコニーから外に出て、外から温室に回り込むのだ。


「しゃむいでしゅね」

「冬だからな、リア様」

「かぜがつよいでしゅ」

「外だからな、リア様」


 ハンスと和やかな会話をしながら温室にたどり着いた。


「ふう、たいへんでちた」

「俺がな」


 かわいい幼児を運んできただけなのに、これである。


「けっこう重くなりましたよね」

「しょれをおおきくなったといいましゅ」


 まるで太ったみたいな言い方は失礼である。成長したというべきではないか。しかし、温室にはすでにニコが来て待っていた。


「リア、おそかったではないか」

「しょれが……」


 ロークに見つかりそうになったことを伝えると、ニコが気の毒そうな顔をした。


「まあいい。それではいくぞ!」

「いくじょ!」


 こうしてお見合い偵察ミッションは始まり、そして完了したのだった。




 ★  ★ お見合い後(念のため、お見合い偵察ミッションは170話~172話にあります)★  ★




「お見合い見に行くんなら、俺にも声をかけろよ。水くさいぞ」

「うー」

「とりあえず、リアをおろすのだ」


 私を抱えてのっしのっしと歩くロークは6歳児にしてはなかなか力強いが、抱かれ心地は最悪である。ジェフは気にせずに口笛など吹いている。君は友達を注意しようという気持ちはないのか。落ち着いているように見えて、一番周りの人のことを気にしないのがジェフかもしれない。


 ニコに言われてやっと私は地面に下ろされた。ふう。


「じゃあさ、このままあそびに行こうぜ」

「おー」


 ローク、ジェフ。二人は一緒にしたら駄目な生き物かもしれない。


「どこにいくのだ?」


 目をきらめかせているニコも駄目かもしれない。男子だけで行くのはどうだろう。


「テッサでんかがさ、今日は一日ラグりゅうを見に行ってるんだって。俺たちも行こうぜ」

「行こうー」

「いこう」

「いかない」


 最後の意見は無視されました。


「ラグ竜の牧場まで行くなら、竜車にしませんと、日が暮れてしまいますよ」


 普段は黙っているニコの護衛がそう教えてくれた。


「いいんだ。ちょっとよるところがあるから」


 ロークは勝手にそれを断った。


 そうして、牧場のほうではなく、屋敷の裏手のほうに回り込んだ。幼児と護衛の奇妙な集団は、私がいるせいで正直移動スピードは遅い。だが、この数日一緒に遊んで、ロークもジェフも、私に「急げ」とか「早く」と言わなくなった。


 ジェフは口笛を吹きながらのんびり歩いているが、時々私のほうに目をやりペースを確認しているし、ロークとニコは何かの枝を拾って振り回しているが、常に私に当たらないように気を付けてくれている。


 それにしても、ラグ竜を見に行くのではなかっただろうか。結構歩いたところで、ロークが止まった。けっこう大きな丘の中腹だ。木立もある。


「ここだ」


 ラグ竜はいない。でも、そこには別のものがあった。


 冬の終わり、春の気配がほんのりとする季節、ロークが指さした先には、一面の真っ白な花畑が広がっていた。


「ゆきわりそうというのだそうだ」


 ニコが声も出せない私にそう教えてくれた。


「お前、いつもひるねしてるからさ。そのあいだに三人であちこちたんけんしてたら、見つけたんだ」

「ろーく」

「これ、リアのお母さまがもってた花だろ。絵じゃないぞ。ほんものだぞ」

「じぇふ」


 三人はにこにこしている。このお花を見せたくて、ここに連れてきてくれたに違いない。


 しゃがみこんで一つだけ摘んだ雪割草は、ほとんど何の香りもせず、ただ春の土のにおいがした。


 春が待ち遠しかっただろうお母さまの愛した花だ。


「花たばにしようか。絵のお母さまのようにさ」

「ううん。いい。おはな、このままで」


 摘んだら死んでしまうだろう。


「ろーく、じぇふ、にこ、ありがと」


 いいんだ、と言ってみんなニコッと笑った。


「さ、まだあるんだ。リア、立って」

「え、うん」


 私は立ち上がった。その時、屋敷のほうからこちらに呼びかける大きな声が聞こえたが、何を言っているかわからなかった。護衛がそっちに振り向いた時、私はロークに手を引かれた。


「こっちに、大きな穴があいているんだ。いくぞ」


 それは絶対に行ってはいけないところだと思う。


「まって」


 とは言えなかった。木立の向こうまで行ったところで、私たちは落ちた。真下に、すとーんと。



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― 新着の感想 ―
[一言] すとーん、と着地したと。 数m積もった雪……ではなくて地面でしょうけど、大人なら大怪我でも幼児の体重・体格だと大怪我しにくいんですよね。 そして、そこは超古代文明の遺跡でリアが侵入したことで…
[一言] えっ!?すとーん!! すとーんと落ちてそのまま異世界へ...「おぎゃあおぎゃあ」...振り出しに戻る。違~う(;´Д`)
[良い点] リアとハンスの掛け合いが楽しいです。 そして、最後のすとーんが可笑しい。
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