その金色の目(お父様視点)
「ルークにもリアにも、第三王子には警戒しろと言われたが、さてな」
「さてなって、ディーン」
隣でスタンがあきれたように首を振っているが、正直なところ、私は判断を下しかねていた。もし第三王子がウェスターでリアをさらった犯人だとしても、最初からそういう目で見ては、その人となりに正しい判断はできない。
だからといって、もし本当にリアをさらった犯人だとしたら、その意図を暴き、裁きたい気持ちもある。しかし、イースターという国自体、キングダムに対しての外交は今までと全く変わらない中、なぜ第三王子だけがオールバンスを害そうとするのか、まったく推測ができない。リアの証言とルークの勘以外に、証拠などないのだから。私はもやもやした状況のまま、第三王子とまみえることになってしまった。
「まあ、正直なところ、お前には人を見る目がない。曇りない目で見ろと言っても、見えないものはしようがないものな」
スタンが私を見くだしたように言う。困ったやつだという気持ちが伝わってくる。
「それはさすがに言い過ぎではないか。社交においても商売においても、困ったことなどほとんどないぞ」
見る目があると思っているわけではないが、困ったこともない。一応反論はしておく。
「見る目があったらそもそも離婚などしていないだろう」
それを言われると若干つらい。
「それに、相手が悪人だろうと善人だろうと、自分に直接影響がない限り、あるいは多少あったとしても、他者にまったく興味がないから見る目が養われなかったんだぞ。自業自得だろう」
今日のスタンはやけに厳しい。しかし、他者に興味がなかったというのは事実なので、おとなしく口をつぐんでいる。
「いいか、ディーン。第三王子に先入観は抱かなくていい。だが、興味は持て。それほど会話をする機会があるとは思えないが、少ない機会を生かして、相手をなるべく読み取ろうとすることが大切なんだ」
興味を持つということそのものが私にとって難しいが、もし本当に第三王子がリアを害するものだった場合、しっかり見極めないとならない。私は覚悟を決めて、レミントン家のパーティに向かった。
「まあ、ディーン、スタン、ジュリア、来てくれて嬉しいわ」
「お招き感謝する。ブロード、久しいな」
相変わらず美しいアンジェが機嫌よく挨拶してくれた。たとえ王族が来たとしても、キングダムが招いたわけではないから、城で公式に歓待するわけにはいかない。レミントンが個人的に歓迎するという形でのパーティーになっているのはそういう訳である。
「仕事の関係で忙しかったからな。ディーンもスタンも元気そうで何よりだが、ルークにもギルにも会いたかったな」
娘をかわいがってはいるが、息子のいないブロードは、ルークのこともギルのことも気にかけてくれている。スタンの妻のジュリアがリアを気にかけているのと同じようにだ。だが最近は商売に熱心で、王都にいないことが多いので久しぶりの再会である。
「それで、どんな様子なんだ」
スタンがストレートに聞く。アンジェが眉を上げるが、アンジェに聞いているのではないので、ブロードが仕方なさそうに苦笑した。
「クリスのおてんばぶりから見合いは少し難しいと思ってはいたが、私が忙しくしている間に、随分人のことを思いやれる子に育っていてな。よほどニコラス殿下のところでよい勉強をしていたのだろう。まあ、相性はよさそうだが、まだ先の話だ。お互い候補の一人にいれるというくらいだ」
まだ先の相性を見る、そんなことのためにわざわざキングダムまで来るだろうか。リアを遠ざけることを中心に考えたから興味は薄かったが、この唐突な見合いについてはかすかな違和感がずっと付きまとっている。
「ともかくも、紹介にあずかりたいのだが」
「珍しいな、ディーン。たとえイースターの王族であっても、興味などもたないと思っていたよ。モールゼイのように来ないことさえ想定していたのに」
私はどれだけ人に興味がないと思われているのか。そしてモールゼイはやはり顔を見せなかったか。
「王族はともかく、クリスの相手はルークと年回りが同じ子たちだろう。一応顔合わせをしておいても損はなかろう」
第三王子目当てと思われないように、我ながら姑息な言い方である。
広いホールを見渡すと、レミントンの娘のフェリシアが、金色の髪の男のもとについているのが見える。その足元で跳ねているのがクリスだ。ミルクティー色の柔らかい髪色は私にとっては金よりも目立つ。来た客に挨拶をしている両親の代わりに、ゲストをもてなしているのだろう。まじめな子だ、と思う。
「ほら見ろ、フェリシアにでさえごく最近興味を持ったばかりで、さっぱりその性格などつかんでいなかっただろう」
スタンに小さな声で言われても、事実なので言い返せない。リアとクリスがかかわるようになり、その関係でやっとフェリシアにも目が向いたところだからだ。
しかし、私が今見るべきはイースターの第三王子である。金の髪、がっしりとした、貴族というよりは護衛のような体つき。そして。
近くに私たちが来るのを察したのか、こちらに振り向いたその目は、王族と同じ、金色だった。
「ほう、噂通りの王家の色か」
スタンが思わずと言ったようにつぶやいた。しかし私はその目つきのほうに引っかかった。金の目など、城に行けばゴロゴロしているではないか。
気になってこちらを振り向いたはずなのに、振り向いた先に価値を感じない目。それは確かにどこかで見たことがあった。
他者に興味のない目。自分のことですらどうでもいいと思っている目。鏡の中から、いつもこちらを見返している目。
私か。
思わず下を向き、苦笑した。確かにどこかで見たことがあるはずだ。
「ディーン?」
「ふ、なんでもない。なんでもないんだ」
さて、人を嫌わないリアが気を付けろと言う第三王子と対面だ。